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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
25/60

第18話 降光

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。


ちなみに、サブタイは造語です。

神樹(しんじゅ)】が【嫉妬(しっと)】の力を行使していた。


 その身を赤く染め上げ、地面が鳴動している。

 赤い光は、周囲からも感じられた。

 見ると、樹海も赤く染まっている。


 今や世界全てを染め上げる勢いで、赤色が全てを浸蝕してゆく。


 空も、空気も、大地も、見る間に赤色へと染まってゆく。



 その様を、俺は茫然(ぼうぜん)と眺めていた。


 頭が状況を理解し始める。

 じわじわと実感が湧いてくる。

 この場に【巫女(みこ)】が居ない事の意味する所を。


 何故だ。

 何故こうも、俺は……。


 俺の元居た世界では、俺以外を救えなかった。

 次に、おやっさんの居る世界では、多くを救ってみせた。


 ……だが、それは俺一人で成し得た事ではなかった。

 俺の(あずか)り知らぬ事情により、その場に現れた【執行者(しっこうしゃ)】の協力によってこそ成されたのだ。


色欲(しきよく)】の居た世界では、俺に出来る事はなかった。

 ただ、メイドさんに助けて貰っただけだ。


 そして今回は……。

 俺の浅慮(せんりょ)が原因で、この事態を招いてしまったのだ。



 何故、俺は【神樹】を倒す事にあれ程固執してしまったのか。

 俺に出来ないならと、他の【大罪(たいざい)】まで引き連れて。

 俺は、俺の行動を自制出来ていないのか。


 挙句、人を死なせ。

 あわや、俺も死にかけて。


 一体、俺は何をやっているのか……。




 ふと気が付けば、間近に白狼(はくろう)が迫っていた。

 まだ食い足りないのか、口端からは涎が垂れている。


 まだ……。

 まだって、くそっ。


 白狼と目が合う。


 奴の目には飢えと喜悦(きえつ)が見て取れた。


 俺の目には、何が映り込んでいるだろか……。



 白狼の口がゆっくりと開かれる。


 俺が逃げないと確信しているのか、緩慢(かんまん)な動きでこちらへと迫ってくる。


 咄嗟(とっさ)に逃げなければと身構えるが、しかし、【リング】は俺の腕ごと奴の腹の中だと思い至る。


聖衣(せいい)】では防げず、逃げる為の【リング】は手元に無い。


 口が間近に迫る。


救世(きゅうせい)】では【神樹】はもしかしたら消滅させられるかもしれないが、白狼は【聖衣】により生き残ってしまう。


 最早、至近。


【救世】を使うべきか、使わざるべきか、決められない。


 真上から、俺の全身が口内へと覆われてゆく。


 俺に出来ることは、生きる事、生き続ける事、死なない事。


 口がゆっくりと閉じられてゆく。


【救世】では、俺は助からない。 


 外は最早、僅かも見えない。


 俺が生きる為に必要なモノが、足りていない。


 口が完全に閉じられた。




 人が十人は入れる程、広い口腔(こうくう)内。

 程なく、噛み砕かれ、肉片になるだろう。

 消化されるのは、どれぐらいかかるだろうか。


 体の姿勢が前へと傾いてゆく。

 白狼が顔を真下から水平へと戻しているのだろう。


 牙や舌が動き出す。

 俺を咀嚼(そしゃく)するつもりか。




 俺は覚悟を決める。




 迫る牙と舌を前に、俺は……。




 喉奥へと全力で走り出した。




 目指すは胃。


 俺の行動が予想外だったのか、白狼が慌てて俺を噛み砕こうと口内を動かしてくる。

 舌の上を避け、牙との間を走り抜ける。


 僅差(きんさ)で喉奥へと辿り着くが、白狼が顔を下へ向けたのか、俺を口内へと戻そうとする。

 それよりも早く、咽頭(いんとう)へ抱き着き、そのまま、喉奥へとダイブする。


 白狼が無理矢理にでも吐き出そうと嘔吐(えず)いたり、飛び跳ねることで俺を戻そうとしてくる。

 俺は近くの内壁にへばりつき、耐える。

 少しずつでも奥に、胃を目指して進む。


 (しばら)くすると、諦めたのか、無茶苦茶な動きはしなくなった。

 もしかしたら、【神樹】が何かを仕掛けてきたのかもしれない。


 遂に胃と思われる場所に着いた。

 思っていたよりも残っているモノは少ない。

 かなりの量の木を食らっていた筈だが。

 胃壁の底が見えない程度にしか、木は残ってはいなかった。


 あまり状況は(かんば)しくない。

 だが、まだ可能性はある筈だ。


 俺は膝丈程の位置にある木を退け、底を(さら)ってゆく。

 身を屈め、手探りする。


 すると、手に独特の感触が返って来た。

 それを掴み上げる。


【リング】だった。

 一緒にあった筈の腕は、既に消化されてしまったのだろうか。


【リング】を改めて左手首に着ける。


 目的の一つを果たし、だが、目的はもう一つある。

 引き続き、折り重なる木を退けてゆく。

 まだ、胃の中の半分程しか探せていない、後もう半分にある事を願いつつ探し続ける。






 焦燥(しょうそう)感が募り、嫌な予感に苛まれながらも探し続けた。


 そして、ようやく目的のモノを見つけ出した。

 見たところ、欠損は無い。

 確かに、可能性はあったのだ。

 何せ、痕跡(こんせき)が無かったのだから。


 俺は重い息を吐き出した。

 俺は、今度こそ、しっかりと抱きとめると、【転移(てんい)】を試す。


 が、しかし、【転移】は発動しない。

 体外、白狼は樹海の外に居るようだ。


 俺は【リング】の加重で、入って来た場所へと向けて全力で飛び出した。


 目標は咽頭。


 全力で体当たりをかます。


 すると、たまらず白狼が嘔吐いた。

 白狼の開かれた口から全速力で脱出を果たす。




 ようやく、外に出てこられた。

 止まることなく、現在進行形で、その場から遠ざかっている。



 何とか無事に、二人共、脱出する事が出来た。



 そう二人、【巫女】も無事に胃の中から回収してきたのだ。

 俺が半身を食われた際、彼女の痕跡は、その場に残されていなかった。

 つまりは、丸ごと食べられていたのだ。


 その後にどうなったか迄は賭けでしかなかったが、諦めずにいて正解だった。

 もう少し遅かったら、消化され尽くしていたかもしれない。

 その証拠に、今や衣服はボロボロになっている。

 肌の表面には焼け(ただ)れた跡も散見される。


 だが、生きている。

 五体満足と言っていいだろう。




 相変わらず、外の景色は赤色に染まっていた。


 だが、変化していたモノもあった。


【神樹】だ。

 赤く変色しただけでなく、形状が変わっている。

 枝葉を伸ばしていたと思われる樹上部分は、葉を全て落とし、まるで角の様だ。

 あれ程の太さを誇っていたのに、今では細長くなり、宙にとぐろを巻いている。

 地面から伸びるその様は、東洋の龍を彷彿とさせる。

 さしずめ、赤龍(せきりゅう)、といったところか。


 いよいよもって、怪獣大決戦の様相を呈してきた。

 龍虎、ならぬ、龍狼相打つ。


 そんな事を思い浮かべながらも、樹海上空まで退避する事が出来た。


 その樹海も様子が変わっていた。

 こちらも、葉を全て落とし、小さな赤龍へと変じている。


 辺りを埋め尽くすその様は、正直に言って気持ちが悪い。



 兎に角、【巫女】を村民に預けたいのだが、何処に避難したのかが分からない。

 依然として【巫女】の意識は戻ってはいない。

 まぁ、暴れられるよりかは、このままの方が運びやすいとは言えるのだが。


 仕方が無く、樹海の上を飛び回って探してみるが、村民は見当たらない。

 正直、妙齢(みょうれい)の女性を抱きかかえているのは、かなりの抵抗がある。

 理性を総動員して、意識しないようにしているが、色々と当たったりしてしまっている。

 誰か、迎えに来て下さい。

 早く。



 願いが通じたのかは分からないが、見覚えのある男性が、樹海の外に立っているのが見えた。

 すかさず、その男性の元へと降り立った。

 これまた都合のいい事に、護衛の男性、つまりは【巫女】の旦那さんだった。


 聞けば、戻りの遅い【巫女】を探し周っていたと言う。

【巫女】を旦那さんへと引き渡し、俺は宙へと戻る。

 やっと解放された。

 色々な意味で。




 赤龍と白狼は睨み合っていた。


 そういえば、白狼の体内に居た時から、動きが無いようだった。


 両者共に微動だにしない。

 先手を探り合っているのか、何か切っ掛けを待っているのか。

 異界とも言える程に、その景色を赤く染め上げる中、静寂が辺りを満たしている。


 あるいは、ここで物音を立てただけで、事態は動き出すのかもしれない。


 緊張感に包まれる中、俺は出来るだけ注意を引かぬよう、慎重にその場を離れてゆく。

 流石に巻き込まれると、今度こそ死にかねない。


 後の事を考えるのであれば、共倒れに終わって欲しいところだ。

 白狼には【救世】もあるのだ。

 余り白狼が追いつめられると、使用しないとも限らない。



 何が切っ掛けとなったのか、両者の激突は突然、そして、同時に起こった。


 赤龍は己の体を棘で覆い、白狼へと巻き付き、一方の白狼は、赤龍の体へと噛みついた。


 結果は対照的となった。

 赤龍は無傷なのに対し、白狼が傷を負っていた。


 赤龍は巨大樹からその身を細く変じた代わりに、その密度を高めているのだろう。

 硬さを増した体に、白狼は文字通り歯が立たなかったようだ。


 そして、赤龍は防御力だけでなく、攻撃力も増しているようだ。

 木の姿では、白狼の【聖衣】を突破出来なかったのを、今は傷を負わせて見せたのだ。


 ここにきて、赤龍が優位に立った訳だ。

 そして、白狼が【救世】を使用する可能性も上がってしまった訳でもある。



 赤龍はそのまま白狼を締め上げてゆく。

 白狼の身が、赤龍の棘により貫かれ、切り裂かれてゆく。


 白狼が吼える。


風食(ふうしょく)


 巨大杭を風化させた力を再び行使したのか、あの乾いた風が吹き荒れる。

 赤龍の表面が乾燥し、(ひび)割れてゆく。

 そして、破砕した。


 だが、赤龍は健在だった。

 どうやら、表皮のみを犠牲として、内部を守ったようだった。


 状況は変わらず、白狼は尚も締め上げられている。


飢餓(きが)


 白狼の目が血走り、口端から垂れる涎の量が増す。

 白狼が再び赤龍へと噛みついた。

 またも弾かれると思われたが、今度はその表面に歯を突き立てた。

 そのまま噛み千切ろうと力が加えられる。


 赤龍はその身を細くしている為、噛み千切られると、体が支えられなくなってしまう。

 すると、白狼が噛みついた箇所の下側から、赤龍の顔が生成されてゆく。

 元の顔どころか、白狼が噛みついた箇所よりも上が見る間に姿を縮めてゆく。

 赤龍は体の部位を自由に移動させる事が出来るようだった。


 白狼が赤龍の体を噛み千切って見せるも、その時には既に、赤龍の体は再構成されていた。


 見た目が龍へと変じた【神樹】だが、一応、木としての性質が残っているのか、今でも大地に根を這わしている。

 赤龍を倒すには、根本(ねもと)を叩く必要がありそうだった。


 俺の思考が伝わった訳ではなかろうが、白狼も同じ結論に至ったようだ。

 締め上げられる体を無理やり動かし、根本へと顔を近づけてゆく。

 赤龍の締め上げている体の隙間から、白狼の血が噴き出している。


 じわりじわりと、白狼の顔が根本へとにじり寄る。

 それをさせじと、赤龍も締め上げる力を強くしている。


 既に、白狼の体は、赤龍に締め上げられて元の大きさの半分程まで、圧縮されてしまっている。

【聖衣】の防御と治癒がなければ、既に死んでいる事は想像に(かた)くない。

 だが、白狼は今なお、生きている。

暴食(ぼうしょく)】の飢餓感に苛まれながら、相手を食らう一心なのだろう。


 遂に、白狼の牙が赤龍の根本へと届く。


≪風食≫


蟒蛇(うわばみ)


【暴食】の力を発現させたのか、乾いた風が根本へと殺到する。

 更に、牙を立てた箇所へと、赤龍の体が吸い寄せられてゆく。


 赤龍が苦痛に喘ぎ、白狼の拘束を解く。

 その機を逃すまいと、白狼は根元深くに食らいつく。


 赤龍がその身を()じり始めた。

 出来上がったのは、一本の螺旋状の長大な槍だ。

 赤い槍は回転しながら、白狼の体を下から襲う。


 一瞬の停滞もなく、一息に貫通する。

 今度は白狼が激痛で、根元から口を離す。


 だが、赤龍の攻撃はまだ終わらない。

 白狼を串刺しにしたまま、今度は、元の木のように周囲へと枝を広げてゆく。

 白狼の体内からは体外へと、体外からは体内へと。


 白狼の全身が見えぬ程、枝に埋め尽くされていた。

 今や、白狼は、赤龍自身といえる(まゆ)に取り込まれてしまっていた。



 ここら辺が限界に思える。

 流石に、白狼の分が悪過ぎる。

 いよいよ【救世】を使いかねない。


 だが、このまま白狼が死に、【神樹】が生き残ったとしても、世界は滅んでしまう筈だ。

 何故なら、そもそもが、【嫉妬】の巨大樹により、世界が滅ぶと予見された事が、俺がこの世界に来た原因だったからだ。


 つまり、どちらを助けても、世界は滅んでしまう。

 消滅か滅亡かの違いだ。




 しかし、何故、【神樹】はあれ程強くなったのか。

 白狼は【大罪(たいざい)】を有し【聖衣】を纏っている。

 しかも、元居た星の生命を魂ごと食らっていた筈だ。


 圧倒的に劣っていた筈の【神樹】が、如何(いか)な理由でここまで強くなったのか。


 その答えは周囲の光景にあった。


 小さな赤龍の群れと化した樹海が、その姿を消していた。

 代わりに見えるのは、辺り一帯に這わされた、巨大な根。

【神樹】もまた、樹海を食らう事で、力を増したのだ。

 小さな赤龍と化していたのは、【嫉妬】の影響を受けたが故の姿だったのだろう。


【神樹】が赤龍へと変じて、すぐに戦わなかったのは、根を辺りへと伸ばしていたが故だったのだ。




 疑問は解けても、状況は解決しない。

 俺に介入出来る程の力も無い。


 もしかしたら、【巫女】の生存を知らせることで、【神樹】を(いさ)める事が可能かもしれない。

 だが、それが出来たとしても、今度は白狼が脅威となるだけだろう。

 このまま、共に滅ぼす方法があればいいのだが。


 考えている間も、時間は過ぎてゆく。

 一体、あと如何程の時間が残されているのか。


 焦っても解決策は浮かばない。

 時間だけが浪費されてゆく。






 突然、赤い世界に、天上から光が差した。

 世界の色が裂かれる。


 一瞬、【救世】による白い光の柱を連想し、身を震わせる。

 だが、光は白狼から発している訳では無かった。


 すると、天上から光と共に何かが現れる。


 それも無数。

 黒い点のようなソレが、見る間に(おびただ)しい数となってゆく。


 一体、何が起こっているのか、分からない。


 俺の理解の事など余所に、事態は進行してゆく。

 最早、どれ程の数となったかも分からない、天からの何かは、遂に地上へと降りてくる。

 その速度は、まさに光だった。


 光の流星が降り注ぐ。

 その先は赤龍と白狼だ。


 光が当たる度、その箇所は消滅してゆく。

 見る間に繭は削り取られ、白狼の姿が見えた。


 その白狼もまた、光により削られてゆく。

 まるで、絵を消しゴムで消してゆくが如く、光の通過した後には、何も残っていない。



 光の流星群が、光の滝のようになった頃、赤龍も白狼もその姿を保ってはいなかった。



 終始、茫然とその光景を見続けていた。


 何が何やら分からない。

 俺の与り知らぬ所で、事態は収拾されていた。


 天から降り立ったのは何だったのか。

 好奇心に駆られ、俺は近づいてゆく。


 それは見覚えのある姿だった。

 白い体、背に生えた羽、そして頭部の代わりに鎮座する、正面を向いた天使の輪。


天使(てんし)】。


 俺が【救世】を使用した直後、天界に初めて行った際に見たきりだった。

 あの時は、巨神の所へと俺を案内したのが【天使】だった。


 あれ以来、見る事は無かったが、これ程の性能を誇っていたとは。

【世界の敵】と称される【大罪】保有者に対し、元【救世主(きゅうせいしゅ)】の【執行者(しっこうしゃ)】達が対処に当たっていると聞いたが、【天使】もまたその任を(にな)っているのだろうか。


 その姿を明確に捉えた辺りで、俺は接近するのを止めていた。

 俺は巨神の要請を断り、逃亡した身だ。

 もしかしたら、連れ戻されるかもしれない。

 ただ、最近は特に何の音沙汰も無く、【執行者】との接触も無い訳だが。


 ふと、頭上からの視線を感じた。

 仰ぎ見れば、天上からの光が広がりを見せ、赤色に染まった世界を、元の色へと戻しているところだった。

 そして、その光の中に、視線の主と思われる存在が居た。


 漆黒の鎧。

【執行者】だった。

 背に大太刀、腰に長刀を差している。


 鎧越しではあるが、どこか線の細さを感じさせる。

 女性だろうか。


 例によって、顔を覆う兜により、その表情は伺い知れない。

 だが、その兜の隙間から、こちらに視線を向けているのを感じる。

 訝しく思いつつも、何となく俺も見つめ返す。



 すると、背後から声が掛けられる。


「このような場所で貴殿に(まみ)える事になろうとは」


 女性の声だ。


 視線の先の【執行者】の姿が……無い!?

 振り向いた先に【執行者】が居た。


此度(こたび)は敵の討滅が主命。故に貴殿の捕縛は(うけたまわ)っておりません」

「貴殿が此処で何事を(はか)っていたかは知りませんが、(いず)れ必ずその身を主上の元へ連行します」


 こちらの返事を待たず、一方的に言い捨て、その姿が消える。

 同時に、【天使】達の姿も、天へと昇り、消えてゆく。


 気が付けば、天の光は消え、世界には夜が訪れていた。




 地表には、被害を免れた村の姿がある。

【神樹】が聳えていた箇所には、巨大な穴が口を覗かせている。

 周囲の樹海も無くなり、【神樹】の根が開けた穴だけが残っていた。


 事態の終息に気が付いたのか、【森の民】が村へと戻って来た。

 皆の表情は一様に暗い。

 理由は無論、【神樹】の消失に()るものだろう。


 無事意識を取り戻したらしい【巫女】は、【神樹】の消失を知り、その場に泣き崩れてしまった。

 いずれは、その【神樹】により滅ぼされていたであろう【森の民】は、そうとは知らずに、いや、そうとは知っても悲しみに暮れたのかもしれない。


 彼らはこれからどうするのだろうか。

 信仰の寄る辺を失い、自分達を守っていた樹海も消えてしまった。


 外界に彼らを脅かす存在が居るのかは分からないが、彼らの不安は俺の想像よりも遥かに大きいのだろう。



 これが俺の選択の結果。

 俺が招いた、その結末か。


 だが、彼らにとっては、これからも人生は続いてゆくのだ。

 この世界で、生きてゆくのだ。


 俺には出来る事も無ければ、掛ける言葉も無い。


 俺は終始、彼らには近づかず、その場を後にする。


 おやっさんの世界での目覚めから、この【嫉妬】の世界と【暴食】の世界とを行き来した、長い一日はこうして終わりを迎えた。






次回はインタールードとなります。


21/07/02 誤字修正


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『勇者は転職して魔王になりました』
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