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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
23/60

第16話 暴食

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 何故か発動した【転移(てんい)】。

 見れば、そこは天界の女神像のある部屋だった。


 一人と一体の視線を感じる。


「……随分とお早いお戻りでしたね」


 女神像からそんな言葉が掛けられた。


「はぁ、まぁ、そうですね……」


 おざなりな返事をしつつ、俺は思考する。

【転移】が何故発動出来たのか。

 いや、そもそも何故発動出来なかったのかを。


 使えたのは樹海や、その上空で使用した場合。

 使えなかったのは村の中で使用した場合。


 つまりは、村、いや、【神樹(しんじゅ)】の影の内側が原因だろうか。

【神樹】の一定範囲内では【転移】が使えなかったという推論(すいろん)が浮かぶ。

 結果論的にその可能性が高そうに思われる。

 次回は気を付けなければなるまい。

 否、次に相見(あいまみ)える時が奴の最後になる筈だ。

 今は、その為の手段を探さねばならないのだが……。


 ふと、強い視線の圧力を感じて、思考を切り上げ、そちらへと視線を向けると。


「……………………」


 ジーっと、音でも聞こえそうな程、眼鏡越しにメイドさんが俺を見つめていた。

 凝視していた。

 怖い。


「……えぇっと、何か?」


 無言の圧力に耐えかね、思わずメイドさんにそう尋ねた。


「【嫉妬(しっと)】はどうなりましたか?」


「まだピンピンしてますね」


「……【嫉妬】をどうされるお()もりですか?」


 質問が若干変わった。


「ひとまず保留で」


 俺はそう答えておいた。

 現状では打倒し得る手段を持っていないし、見当すら付いていない。


 いや、そういえば、簡単に打倒出来そうな存在が目の前に居た。

憤怒(ふんど)魔神(まじん)】。

色欲(しきよく)の魔神】を圧倒せしめたその実力の程は、申し分ないだろう。

【神樹】が【眷属(けんぞく)】か【魔王(まおう)】か【魔神】かは判らないが、どれでもメイドさんにかかれば関係無いに違いない。


「メイドさんにご足労頂く訳には参りませんでしょうか?」


 なるべく丁寧に頼んでみた。


「【魔神】以外の事柄に、(わたし)が出向く事は出来かねます」


 にべも無かった。

 しかし、ということは【神樹】は【魔神】ではなく、【魔王】か【眷属】なのか。


 再び手詰まりになってしまった。


 手近なところで済ませられないなら、他を当たるしかない。

 俺に出来ない事は、他で補えば良い。

 俺が打倒出来ないなら、打倒出来る何かを探せば良い。

 目には目を。

 つまりは……。


「他の【大罪(たいざい)】の居る世界って分かりますか?」


「……他、ですか?」


「えぇ、さっきの以外で、出来ればもっとサイズの小さい奴が理想的です」


「……? 他ですと【強欲(ごうよく)】【暴食(ぼうしょく)】の存在を検知しています」

「どちらも【魔神】ではありません」


「その中で一番、サイズの大きいのは?」


「……【暴食】です。人を丸呑みに出来る大きさです」


「ではそれにします。【水晶球(すいしょうきゅう)】に映し出して下さい」


 そいつに【嫉妬】と戦って貰うとしよう。

美徳(びとく)】も【大罪】も持たない俺では戦うのも難しいが、それなら【執行者(しっこうしゃ)】か他の【大罪】保有者に戦って貰えばいいだろう。

 我ながら名案だ!


 そんな事を思っている間に、【水晶球】には荒野が映し出されていた。

 草木も無い、水も無い、生き物も居ない。

 黄土色に染まる世界。


 俺はその光景を目に焼き付ける。



≪転移≫



 そこは何もかもが乾いた世界だった。


 地面は見るからに水気が無く、乾燥して(ひび)割れており、見渡す限り、草も木も生えてはいない。

 風も吹いてはいないのか、視界に動くモノが何もなかった。

 空にも雲一つ浮いていない。

 この世界に水が無いなら、雲が発生する訳もないのだが。


聖衣(せいい)】の何処かにくっついていたのか、一枚の葉がひらりと落ちてゆくのが見えた。

 何とはなしにそれを目で追う。

 すると、体から離れたと思った瞬間、瑞々しい葉が風化し、跡形も無くなってしまった。

 思わず唖然(あぜん)としてしまう。

 ……この世界、乾き過ぎじゃね。

 これは【聖衣】を解除したら死ぬな。



 さて、(くだん)の【暴食】は何処に居るのか。

 この世界、というよりは、この惑星がどれ程の規模か分からないが、ヒントも無しに一体の生物を探し出すのは至難の業だろう。

 メイドさんの話では、結構大きい生き物のようだったが。

 予め、【暴食】自体を【水晶球】で映して貰えば良かったか。


 いっそ今から天界へ戻ろうかとも考えたが、メイドさんの眼鏡越しのジト目を思い出す。

 メイドさんの機嫌を損ねるのは良くない。

 何といっても、彼女は、俺を殺し得る存在なのだから。



 歩いて探すのは無謀なので、地表が視認出来る程度に、空から浮いて探すことにする。


 (しばら)くの間、そうして探してみるものの、変化の無い景色ばかりが広がる。

【暴食】は何処に居るのか。

 何度目とも分からぬ、思考が頭を()ぎる。


 この世界が荒廃しているのは、【暴食】の所為なのだろうか。

 そうだとするならば、動物も植物も水でさえも、全て食らい尽くしてしまったのか。

 後、残っていそうなのは地面ぐらいか。


 そこでふと思いついた。


【暴食】は腹を空かせているだろう、と。

 最早、この世界には食べられる物が地面ぐらいしかないようだ。

 であれば、今も地面を食べているのか、もしくは、他の食べ物を探している事だろう。


 つまり、俺が探しても見つけられないならば、向こうから見つけて貰えば良いのだ。

 大型だというからには、視覚以外の嗅覚や聴覚も、普通よりも優れていてもおかしくはあるまい。


 匂い、これはどうだろうか。

 嗅覚が優れているならば、もう遭遇していてもおかしくない。

 いや、この惑星の広さは知らないが。


 音、これはどうだろうか。

 今のところ、無音もいいところだ。

 音を出せば、辺りに響くとは思うが、結局、規模が問題だ。


 振動、これはどうだろうか。

 確か、地球に居た象は、足の裏から伝わる振動で、数キロから数十キロ先を感知出来た筈だ。

 匂いや音よりかは、遠くに伝わるだろう。


 ここは一つ、疲れない方法でいこう。


 俺は出来得る限り上空へと向かう。

 別に、成層圏だろうが宇宙だろうが、【聖衣】があれば大丈夫な筈だ。

 面倒なので、宇宙まで出てから地表へと【リング】で加重する。


 衝突、轟音。


 地表にクレーターを出現させていた。

 まぁ、これなら結構遠くまで響き渡ったことだろう。

 これでも駄目なら、場所を変えて、再チャレンジすることにしよう。


 再び上空へ移動しながら、眼下へと視線を向ける。

 動くモノは見つけられない。

 流石に一回で成功する訳もないか。




 何の前触れもなく、影が差した。




 雲一つない空だった筈。

 日の光を遮るものは思い当たらない。

 原因が分からず、何気なく上を見上げる。

 宙に浮く俺よりも、遥かに高いところから、灰色の何かが、俺を目掛けて落ちてきていた。


 すぐに至近という距離に近づく。


 狼だ。

 それも馬鹿でかい。

 人一人どころか、十人位丸呑みに出来そうな口を開け、こちらに落ちてくる。

 それと同時に不快感が襲ってくる。


 ――【暴食】。


 そんな言葉が頭にうか……んでる場合じゃない。

 反射的に【転移】する。


≪転移≫


 イメージを浮かべる暇も無かった為、直前まで居たクレーターに【転移】していた。

 つまり、さっきの位置から直下の場所だ。

 今も影が規模を増し、俺へと迫っている。

 すかさず、更に【転移】を行う。


≪転移≫


 今度は、狼の上空へと【転移】した。

 一体、何処から落ちて来たのか。

 空を飛べる訳では無いのなら、まさか、跳躍(ちょうやく)したというのだろうか。

 俺に気づかれない距離から跳躍し、俺の頭上まで跳んで来るなんて……。


 答えは眼下にて、実演という形で成される。


 クレーターの中に小さなクレーターを増やし、狼がこちらに向かって跳躍して来た。

 たまらず、俺は【転移】する。


≪転移≫


 宇宙に出た。

 流石に、ここまでは来れまい。


 想像以上の大きさだった。

 あれを連れて【転移】出来るだろうか……。


 捕らぬ狸の皮算用、そんな言葉が頭に浮かぶ。

 あれは狼だったが。


 だが、ある程度の大きさが無いと、【神樹】に対抗するのも難しいだろう。

【暴食】がどの程度【神樹】を食べる事が出来るかは分からないが、他の【大罪】よりかは相性が良いように思う。


 しかし、【聖衣】があるから怪我しないとはいえ、あのサイズに襲い掛かられると、反射的に逃げてしまう。


 ……いや、本当に怪我しないのだろうか。

 メイドさんは【魔神】では無いとしか言わなかった。

 もしからしたら【魔王】でも【聖衣】は突破出来るかもしれない。

 あの狼が【魔王】だと仮定した場合、安易に食べられたり、引っ掻かれたりするのは危険だ。

 特に、【暴食】というのだから、食べられるのはかなり危険だろう。


 まてよ、それなら【神樹】にも同じ懸念があった筈だ。

 あの枝の一突きで死んでいた可能性を今更ながらに思い至る。

 なまじ、【聖衣】の防御力と治癒力が優れている所為で、危機感が(おろそ)かになっている。

 この身は不死ではない。

 俺を殺せる存在は居るのだ。


 そうなると、俺が危害を加えられずに接触して【転移】を試みるしかない。


 上手くいくイメージが湧かない。

 あの大きさで、かなりの俊敏さを誇っていた。

 そして極めつけは、その力。

 跳躍力からも予想出来る足の力、そして体験したくもない顎の力。



 まずは相手を分析するべきか。

 跳躍では届かない距離を保ちながら、観察する事にしよう。


【転移】で先程の上空へと戻って来た。

 眼下には、ここからでも視認出来る程の灰色の巨躯(きょく)


 こちらに飛び掛かっては来ないが、その目が俺を捉えて離さない。

 口端からは(よだれ)が垂れ、目には飢餓感が宿っている。


【暴食】の狼に獲物として見られているのを感じつつも、不思議と【神樹】の時のような敵意や殺意を抱くことは無かった。

 一体、何が異なるというのか。


 狼は飢えている。

 飢えるという事は、生きる為に栄養を欲するという事。

 空腹を満たそうとする生存本能。

 つまりは、生きたいという欲求だ。


 対して【神樹】はどうか。

 あれは生きる為の所業ではなく、ただ、己が欲望を満たす為の行動だった。


 俺が生存を望むように、狼もまた生存を望んでいる。

 そこに、知らず知らずのうちに、共感のようなものを覚えているのかもしれなかった。



 俺から視線を外さない狼に対し、どう行動したものか。

 正面から落下していけば、一飲みにされるだろう。

 接近するには【転移】するしかあるまい。


 効果があるかは不明だが、一旦、視界の外に【転移】後、直接狼の傍に【転移】し接触、三度【転移】して【神樹】の元へと連れて行こう。


≪転移≫


 宇宙へと逃れる。


≪転移≫


 狼の至近、横っ腹の辺りに現れる。

 相手が動くよりも先に腹へと触れる。


≪転移≫


 眼下に樹海が見える。

 傍に狼が…………居ない!?


 触れるだけでは【転移】出来ないのか、それとも重量オーバーなのか。


 確か、メイドさんは俺に触れながら、二人共【転移】させていた筈だ。

 となれば、問題は重量なのか。

【リング】の重力制御で浮かせれば重量は問題無い筈だ。


 だが、重量ではなく、大きさが問題だった場合はどうしたものか。

 狼を縮める術は無い。

 かといって、俺が大きくなる事も出来ない。


 うーむ、何か解決方法はないものか。

 ひとまず、分かっている事を列挙してみるか。


 ・【リング】の装着者がイメージした場所へ【転移】する事が出来る。

 ・【リング】の装着者が接触した同程度の大きさの存在も同時に【転移】することが出来る。


 つまりはこういう事だろう。

 この二点からでは、解決方法が見いだせない。


 他に、【リング】の機能で何かないだろうか。


 ・言語の翻訳。

 ・重力制御。

 ・身体の保護。


 これらも、問題の解決には繋がらない。

 他に何かなかっただろうか。

【リング】を渡された時の事を思い出してみる。


 そうだ、確か【リング】は指輪や腕輪や首輪にも出来ると言っていた筈だ。

 つまりはサイズの変更が可能と言う事だ。


 と言う事は、俺のサイズではなく、狼のサイズに【リング】を変更すれば、狼の【転移】は可能となる筈だ。

 だが、それでは、【転移】先のイメージを狼がしなければならない。

 だから、【リング】で俺と狼を覆い、俺が【転移】先をイメージすればいいんじゃなかろうか。


 後は、【リング】がどこまで大きくなるかだな。

 狼の一番細い箇所に俺ごと覆ってくれればいいんだが。

 場所は尻尾の付け根とか、足首だろうか。

 一番細いといえば髭かもしれないが、流石にそれは自殺行為だな。


 ともあれ、プランは立った。

 後は仕上げをごろうじろ、だ。


 狼の上空へと【転移】する。


≪転移≫


 下を確認するやいなや、狼は跳躍してこちらに迫って来た。


 十二分な距離を取っていたので、その顎の餌食にはならなかった。

 先程、俺が触れた所為で、余計に気が立っているのかもしれない。


 さっきと同じ手順で狼へと迫る。


 二度【転移】を行い、狼の至近へと出現した。

 だが、学習したのか、狼が、今度は俺に反応してみせた。


 狼は軽くその場で跳躍を行い、体を横回転させる。

 続けざまに俺へと前足が振るわれた。


 俺は、空を切った手を差し出した状態だ。

 俺に前足がぶつかる。


「ガハッ!?」


 口から声と共に血が吐き出される。

 悪い予感が当たり、【聖衣】が破かれ、胸と伸ばしていた右腕を爪で薙ぎ払われた。


 追撃を食らう前に【転移】で上空へと逃げ延びる。


≪転移≫


 すぐに傷は癒されるものの、俺は戦慄(せんりつ)を覚えずにはいられなかった。

 一回の経験で順応してみせた身体能力と判断力の高さ。

 しかも、【聖衣】を上回る攻撃力。


 一回目に失敗してしまったのが悔やまれるが、最早嘆いてもしかたがない。


 それに、【聖衣】を破られたのは、俺にとって致命的だが、同時に【神樹】にとっても致命的だろう。


 今になって、よくよく考えてみれば、狼はこの世界の生き物を食べ尽くしていた。

【大罪】の【暴食】によって影響を受けた魂を、文字通り有りっ丈食べ尽くした訳だ。

【魔王】とはいえ、惑星一個分の魂を吸収したとすれば、【神樹】との体格差を補って余りある、筈だ。


 後は、【神樹】の元へ連れて行くだけ。

 そうすれば、勝手に殺し合いを始めるだろう。


 ……そういえば、その場合、高い確率で【森の民】に被害が出るな。


 んー、しまった。

 それを考えに入れてなかった。


 首尾よく戦わせられたとして、【神樹】の傍には【森の民】の村があるのだ。

 それはそれは、甚大な被害が予想される。


 逆に首尾よくいかなければ、狼が【森の民】を直接襲いかねない。

 もしくは、【暴食】の影響を受けるかもしれない。


 一応、【神樹】が【巫女】を守ろうとするかもしれないが、【巫女】以外は死ぬ公算が高い。



 上手い解決策が浮かばないまま、しかし、事態は動く。



 前足に付いた俺の血を舐め回していた狼だったが、それも無くなってしまったのか、再びこちらに狙いを定めて直したようだ。

 しかし、俺が届かぬ場所に居続ける事に、焦れた狼は思いもよらぬ行動を起こす。




 突如、白い光の柱が天地を貫き出現した。


 俺は、考えるのを強制的に中断させられた。

 その柱には見覚えがある。

 既視感に目が見開かれているのを自覚する。


 視線を狼へと向けると、そこに灰色の狼は存在しなかった。

 居るのは、白色の体に、白地に金の刺繍が施された羽衣のような物を纏った狼だった。


 あれは、俺と同じ……!?




救世(きゅうせい)




 聞こえる筈の無い声を聞いた気がした瞬間、白い光に包まれた。






想定よりも長くなり過ぎた……。


次回、決着なるか!?


22/06/19 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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