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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
22/60

第15話 神樹

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 案内された先に待っていたのは、三人のエルフだった。

 年老いたエルフと、妙齢(みょうれい)のエルフ、そして、その護衛と思われる壮年(そうねん)の男性だ。


 かがり火が()かれた室内、一段高くなった場所に椅子が二脚ある。

 そこに身なりの良い二人が座り、護衛が傍に控えて立って居る。


「失礼します。突然の訪問をお詫びいたします」


「……良い。それで?」


 俺を連れてきたエルフが頭を下げて告げる。

 それに答えを返したのは、年老いたエルフだった。

 見た目では性別が判らなかったが、声からして男性のようだった。


「はっ、身元不明の異邦人が村に来ておりまして、お二人にご判断を(あお)ぎたく、こちらに連れて参りました」


「わざわざ、此処(ここ)に連れて来たのですか?」


 若干、非難の色を含んだ言葉を返したのは、妙齢のエルフの方だった。


「はい、事前のお伺いも無く参った無礼、申し開きも御座いません」


「……勝手の判断を嫌った故の事じゃろうて。構わぬ」


 それを老エルフが取り成していた。

 妙齢のエルフは、当たりがキツそうだ。

 不躾(ぶしつけ)にならない程度に観察してみると、ツリ目がちの、気の強そうな顔立ちをしている。

 こちらに視線を向けられそうになり、慌てて視線を逸らす。


「それでは、失礼して。事の経緯としましては……」


 集落……さっき村と言っていたから、俺も村と言い習うべきか。

 村で起こった出来事を簡単に説明してくれた。

 無論、全裸は抜きで。


「……ふむ、確かに珍しい恰好じゃのう」


「それに、(わたくし)共【森の民】とは違う種族のようですわね」


 そこはエルフでは無いのか……。

 割と汎用的な名称の種族だった。


「……それでは、そこな異邦人のお方。お話を伺いましょうか」


「はい、俺は…………」


 老エルフ、もとい、【森の民】の老人に促され、俺の素性を話す。

 何より先に、自己紹介される前に、名前の件について話しておいた。

 名前をお互い呼び合わない、という俺の信条についてだ。

 次いで【救世主(きゅうせいしゅ)】の事、天界の事、女神から言われて此処に来た事、【嫉妬(しっと)】の木の事。

 やはりと言うべきか、最後の(くだり)で、妙齢の【森の民】に噛みつかれた。


「まぁ! 【神樹(しんじゅ)】に対して何と無礼な!」


「俺の信仰対象ではありませんので。とはいえ、他人の信仰にケチを付けたりもしません」

「それで、【嫉妬】の件に関して、お心当たりはありませんか?」


「「……………………」」


 二人は無言で互いを見やる。

 次いで口を開いたのは妙齢の【森の民】だった。


「確かに、【神樹】のご様子に変化が見受けられます」


「それはどういった?」


「私共【森の民】は、古の頃より【神樹】の御許で暮らしております」

「そして、【神樹】の庇護の元、外界の脅威から守られております」

「【森の民】は【神樹】から加護を(たまわ)っており、加護の無い者が森へと一歩でも踏み入れれば、(たちま)ち森の(かて)となるのです」

「そんな【神樹】に対し、私共は【森の民】の女性から【巫女(みこ)】を選び、その【巫女】のみが【神樹】へと感謝の祈りを捧げているのです」

「今代は私が【神樹】の【巫女】を務めさせて頂いておりますが、【巫女】の祈りに対し、【神樹】が応えて下さらなくなって久しいのです」


 木がどうやって応えるのかが不明瞭だが、スピリチュアルな内容だと面倒臭い。

 とりあえず、先を促す事にする。


「それは何時頃からか、判りますか?」


「そう、ですね……多分、私が婚姻を結んだ辺りからだった気がいたします」


【巫女】はそう言って、チラリと傍の護衛を見やった。


 ……え?

 それって、木が【巫女】に【嫉妬】してるんじゃない?

 いや、この場合は【巫女】のお相手に対して【嫉妬】してるのか?

 でもって、そのお相手は、そこの護衛さんですか!?


 ……護衛が護衛対象に手を出しちゃ駄目でしょ。


 しかし、女神の言っていた事は間違いではなかったのか……。

 てっきり【暴食(ぼうしょく)】の間違いだと思ったのだが。

 実際、木々に食われそうになったし。


「それで……貴方ならば【神樹】を正常に戻して頂けるのかしら?」


「いえ、無理ですね」


 即、否定しておいた。

 案の定、唖然(あぜん)とした顔をされた。


「……では、何をしにいらしたのですか?」


「先程も言いましたが、女神に言われて、ただ、この世界に来ただけです」

「特に何をしろとも言われていませんし、また、俺には【嫉妬】をどうする事も出来ません」


「…………っ!?」


「……ふむ、ひとまず、お話は分かりました。お蔭様で【神樹】のご様子に関して、理由の見当も付けられました」


 絶句してしまった【巫女】に代わり、老人が言葉を掛けてくる。


「……何とも難儀な時分にいらして、ご不便をかけましたな」

「……如何でしょう。本日はこの村にご滞在されては。場所はこちらで用意しますゆえ」


 お言葉に甘えたいのは山々だが、どうしたものか……。

 正直、これ以上、出来る事も目的も無い。

 そこに一宿一飯の恩を笠に着られて、頼られても困りものだ。


 下手に親しくなって、おやっさんの時みたくなっても、後味が悪いだけだ。

 何せ、俺に出来る事といったら、【救世(きゅうせい)】による世界の消滅ぐらいだからだ。

 おやっさんの時とは違い、【神樹】とやらを何処かに【転移】させる事も出来ないだろう。

 あの質量を【転移】させられたら凄い。


 それに、先の会話からも、【森の民】は【神樹】を(はい)したい訳ではないようだし、俺がもし仮に【転移】でこの世界から移動させられたとしても、俺が叱責を受けるだけだろう。

 それどころか、宗教絡みともなれば、より凄惨な事態になりかねない。


【神樹】の近くまで行った訳では無いが、わざわざ危険を冒すのは愚行というものだろう。

 女神からも指示を受けていないし、面倒事に巻き込まれる前に天界に戻るとしよう。



 ……それがフラグだったのかは分からない。

 だが、立ち去るのが一足遅かったのは事実のようだ。



【巫女】が突然、椅子の背後、神殿の奥へ体ごと振り向いた。

 俺を含めた周りの人も、皆一様に驚いた表情を浮かべている。

【巫女】はそのままの姿勢で動かない。


 (しばら)くすると、【巫女】が元の姿勢に戻って来た。

 だが、目では俺を捉えつつも、その顔には、何処か困惑しているような表情を浮かべていた。


「……今しがた【神樹】よりお言葉を(たまわ)りました」


「「!?」」


 俺以外がその言葉に反応し、驚きを示した。


「異邦人の方、あなたを【神樹】の御許(みもと)へ連れてくるように、とのお言葉です」


「……何と、【神樹】が【巫女】以外をお傍に招かれるとは」


 老人は一際驚いている様子だが、俺には別の意味で驚きがあった。

 木が俺を呼んでいるという。

 何ともファンタジーな展開じゃないか。


 だが、俺は(だま)されない。

 何せ、ついさっき、その【神樹】とやらに叩き落とされたばかりなのだ。

 もしも、第一声が謝罪であり、先の一件は誤解によるものだと言うのであれば、俺も一応は了解しただろう。

 しかもだ、俺からは用件はないのに、向こうには用件があるという。

 これは、明らかに、向こうにとって都合の良い話をされるに違いない。


 何より不愉快なのは、どうやってかは解らないが、【神樹】がこの場の状況を把握している事だ。

 木に目があるのかは知らないが、屋外ならば、睥睨(へいげい)でもしていれば分かるかもしれない。

 だが、ここは室内なのだ。


 盗撮ですか?

 盗聴ですか?


 いずれにせよ、地球であれば、事案ですよ。


 ……そういえば、【水晶球(すいしょうきゅう)】も似たような事をしている気がする。

 神の名を(かん)するモノには、プライバシーなんて通用しないという事か。



「えぇっと、聞いておられますか?」


 気が付けば、【巫女】に声を掛けられていた。

 俺は結論を告げる。


「俺は帰ります」


「…………は?」


「では、これで失礼します」


「ちょ、ちょっとお待ち下さい!!」


 俺の返答に慌てる巫女。

 隣の老人も流石に目を丸くしていた。


 俺は問答無用とばかりに天界へと【転移】を行う。




 ……筈だった。

 しかし、とういう訳か【転移】が発動しない。

聖衣(せいい)】の袖を(まく)り上げ、【リング】の様子を確かめてみる。

 見たところ、異常は無い。

 確かに、この村に来るまでの間に、【リング】を酷使(こくし)し過ぎたかもしれない。

 だが、【森の民】との会話は成立している。

 つまり、翻訳は機能していることになる。

 ならば、【転移】だけ異常が出ているということなのか……。

 少なくとも、村へと【転移】したのだから、村に着く直前までは使えていた事になる。


【転移】が機能しないのは初めての事だ。

 俺の持つ優位性は二つ、【聖衣】と【転移】。

 その内の一つが失われた訳だ。


色欲(しきよく)】の【魔神(まじん)】と遭遇した際を思い出す。

 あの時は【リング】自体を失ったが、今回は【リング】は健在だが原因が不明だ。


【転移】の使えないこの状態では、益々【神樹】の元へ(おもむ)くのは危険過ぎる。

 咄嗟(とっさ)に逃げの一手が打てないからだ。

 さて、どうしたものか……。


 俺がそのまま出ていくかと思いきや、その場で立ち止まってしまった事を(いぶか)しんだのか、【巫女】が声を掛けてくる。


「……思い留まっていただけたのかしら?」


「いや、そういう訳では無いんですがね……」


 俺が正直に答える事を避けていると、老人が言葉を投げかける。


「……ふむ、どうやら、お帰りにはなれない、ようですな?」


「…………」


 このジジイ、目敏(めざと)い。


「……【神樹】をお待たせするのは心苦しい。お連れして差し上げなさい」


 その言葉は俺では無く、護衛に掛けられたようだ。

 護衛の男が素早く動き、俺と部屋の入口との間にその身を滑りこませて来た。


 厄介な事になった。

【リング】の重力制御はまだ使えるかもしれないが、問題は場所だ。

 此処は【神樹】の枝葉の真下に出来た空間だ。

 飛んで逃げる前に、【神樹】に捕縛されるのは、先の遭遇の件から考えても間違いないだろう。


 恐らくは【神樹】は【巫女】を憎からず想っているのだろう。

 ならば、【巫女】を人質に脱出を図るか?

 万事上手く事が運んだとして、問題は逃亡先か。

 ここに来るまでに見た限りでは、木の生えていない箇所は無かった。

 最悪、この場所以外は全て木々に覆われている可能性すらある。

 更に言えば、さっきは樹上の移動に妨害は入らなかったが、木々に対し、【神樹】が何らかの支配権や命令権を持っているならば、今度は見逃されることは無いかもしれない。


 妙案が思い浮かばないまま、俺は椅子の奥にあった扉へと連れて来られていた。

 扉が開かれると、長い通路が現れた。

【神樹】の元まで一直線の造りとなっているのだろう。

 明かりの無い通路を、松明を手に持った護衛に押される形で、先へと促される。


 通路には、足音だけが響いている。

 俺達は言葉を交わす事無く、無言で通路を進む。


 暫く進むと、再び扉が眼前に現れた。

 恐らくは、この扉の先に【神樹】へ祈りを捧げるような場所があるのだろう。


「ここから先は、貴様一人で行け」


 初めて護衛の男の声を聞いた。

 中々渋い声をしているじゃないか。

 この声で【巫女】を口説き落としたのかと、他事に思考が逸れていると、背を護衛の男に小突かれた。

 早く行けと促しているようだ。


 俺は心の中で嘆息(たんそく)しつつ、仕方なしに扉に手を掛ける。

 左程の抵抗も無く、扉が開かれてゆく。






 目の前に広がる光景は、筆舌に尽くし難かった。


 扉の先は外だった。

 この場に日の光は届いていない。

 俺はこの【神樹】に良い印象を抱いていない。

 望んで赴いた訳では無く、無理矢理連れて来られただけだ。


 だが、眼前の光景は、思わず感嘆(かんたん)を覚える程に、神秘的で神々しかった。


 飛んでいる時は気が付かなかったが、【神樹】自体が淡く緑色の光を放っており、この場は影の中とは思えぬ程に明るかった。

 地面は土が見えない程に苔や草に覆われており、水場は見受けられないのに、空気はどこか水気を帯びているように感じられた。


 そして正面、【神樹】は視界の端から端まで埋め尽くしている。

 地面から露出した根と思われる巨大なそれは、通路から正面を避けるように生えている。


 長大なモノを前にした時、人は皆、委縮してしまうのではないだろうか。

 例えば建物、例えば滝、例えば海、例えば山、例えば空。

 視界全てを【神樹】に占められた俺もまた、委縮してしまっていた。



 だが、光景に見惚れただけで、【神樹】に対し神性を感じた訳では無い。

 視界に【神樹】を捉えた俺は、不快感を覚えていた。


 ――【嫉妬】。


 そんな言葉が頭に浮かぶ。

【大罪】を有するモノを前にすると、何故か不快感を覚えているような気がする。

 例外としては、メイドさんだろうか。

 彼女を目にしても、傍にいてもそんな事は思わない。

 もしかしたら、彼女は【大罪(たいざい)】を抑え込んでいるのかもしれない。



 すると、頭の中に言葉が響いてくる。


『――ミコ、ワレノ、モノ』

『――ミコ、ワタサ、ナイ』

『――ミコ、ウバウ、ユルサ、ナイ』

『――ミコ、ウバウ、モノ、ユルサ、ナイ』

『――ミコ、ウバウ、モノ、イラ、ナイ』

『――ミコ、ウバウ、モノ、コロセ』

『――ミコ、トリ、カエセ』

『――ミコ、ワレノ、モノ』

『――ミコ、ワレ、ダケノ、モノ』


「だあああぁぁぁーー!!! ミコミコ五月蠅(うるさ)いわ!!!」


 流石に怒鳴った。

 何だ此奴、喜色悪い。

 こんなのを信仰するとか、【森の民】は正気なのか?

 あぁー、マジで喜色悪い。


「俺に言うな。俺に話しかけるな。俺に構うな」

「キモイわ!!!」


 俺は宙へと撃ち上げられた。






 身構える暇も無く、地面が突然隆起し、俺を吹き飛ばしたのだ。

 考えるまでも無く、眼前の【神樹】がやったのだろう。

 俺の言葉に対してか、俺が従わない事に対してかは知らないが、交渉は見事決裂したようだ。


【リング】の重力制御により、中空で姿勢を保つ。

 ……その間も与えられずに、今度は幹から枝が伸び、尖った先端で俺を突いた。


 その衝撃で今度は【神樹】から離れるように吹き飛ばされる。

 今のは間違いなく俺を殺す気だったな。


 ――俺に殺意を向けたな。

 ――たかが木っ端如きが。


 ……アイツは殺す。

 ――アイツは殺す。


 俺の命をどう扱うかは俺次第、俺だけの権利だ。

 それを他人が、いや、草木風情がどうにかしようとするなんて言語道断だ。

 許せる所業では無い。


 最早、【森の民】の信仰がどうとかは関係ない。

 あれは俺の敵だ。

 情状(じょうじょう)酌量(しゃくりょう)の余地は微塵も無い。



 あっという間に、樹海の上まで飛ばされていた。


 とはいえ、今の俺にあんな巨大質量をどうする事も出来ないのも確かだ。

 如何に気炎を上げようと、不可能を可能には出来ない。

 現状では手詰まりだ。

 かといって、【救世】により消滅させるというのは、巻き添えが多過ぎる。

 多少【森の民】に対しても腹立たしい気持ちはあるが、そこまで極端に切り捨てる事も躊躇(ためら)われる。

 少なくとも、【森の民】全員が俺に敵意を、殺意を向けてくると言うのならば、俺も容赦はしないかもしれないが。


【森の民】の所に戻っても仕方がないし、かと言って、何処かに行く当ても無い。

 駄目もとで【転移】を試してみる。



≪転移≫



 俺は何故か天界へと戻っていた。






【神樹】が思った以上に残念なキャラに成り下がった感が否めない……。


ともあれ、打倒【神樹】は果たせるのか!?


21/06/29 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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