第13話 魔神
この作品はフィクションです。
重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。
「良くぞお戻りになられました」
天界の何時もの部屋に戻ると同時に、女神様から声が掛けられる。
「……どうも、お待たせしました」
少し頭を下げながらそう返答する。
「では改めて、お話を致しましょう。……よろしいですか?」
「はい、お願いします」
何の話か見当がつかないが、聞いてみない事には、必要性も判断出来ない。
ここは聞くしかないだろう。
「お話というのは、他でもありません。【世界の敵】について、少し詳しくお話させていただこうと思いましたので」
「【世界の敵】……」
オウム返しをしてしまった。
そういえば、おやっさんの世界に【転移】する際、その名称が出ていた筈だ。
「【世界の敵】とは、【大罪】を保有するモノを指す言葉です」
「【大罪】とはすなわち……」
【傲慢】
【憤怒】
【嫉妬】
【怠惰】
【強欲】
【暴食】
【色欲】
「……これらの七つを指します」
「あなたに向かって頂いた世界には、【怠惰】の影響が見受けられました」
「そして……」
そこでメイドさんが言葉を引き継いだ。
「先程まで、あなたが居た世界には、【大罪】の元凶の一体である【色欲の魔神】と、【魔王】が居ました」
「……因みに、少女の姿をしていた方が【魔神】でした」
「あぁ……」
道理で出鱈目に強い訳だ。
しかし、それならそれで、一つ疑問が浮かんでくる。
「あのぅ、メイドさんは、その【魔神】を相手に圧倒していたみたいですが、それは一体?」
「…………」
「……? あの、メイドさん?」
「??? それは、私の事でしょうか?」
「……そのつもりですが、何か問題でもありましたか?」
次に告げられた言葉の意味を、俺は咄嗟に理解出来なかった。
「いえ、一つお聞きしたいのですが、その”めいどさん”とは何でしょうか?」
そんな言葉をメイドさんは口にした。
……何だろうか、哲学か何かの話だろうか?
「えっと、詰まる所、”メイド”が何かご存じない、と?」
「えぇ、その通りです。初めて耳にしました。それで、その言葉の意味とは何でしょうか?」
あんたその恰好で何言ってるの?
とは思ったが、メイドさんは冗談を言っている雰囲気では無かった。
「あー、つまりですね……」
俺は、自分の世界、地球に存在した、メイド、について解説した。
とはいうものの、俺も詳しい事を知っている訳では無い。
アニメなんかの知識を引っ張り出して、職業と服装について教えた。
結局、【水晶球】で地球の記録を確認してもらうことになった。
その際、メイド服に大変関心を持たれていた。
閑話休題。
「……大変、失礼いたしました。話を続けさせていただきます」
「……えぇ、お願いします」
俺は初めて、メイドさんのテンションが高くなった姿を見る事になったのだが、当のメイドさんは自分の振る舞いが恥ずかしかったようだった。
若干、微妙な空気が漂っているか、先程の話の続きをすることにしたようだ。
「私が【色欲の魔神】に対し、優勢だった理由でしたね」
「それは私も【魔神】の一体だからに他なりません」
おぉっと、ジャブじゃなくストレートが飛んできた。
確かに、それなら、強さという面では申し分ないのだろう。
とはいえ、【世界の敵】は自分です、発言に等しい訳だが、その辺りどうなんだろうか。
「とりあえず、【魔神】と【魔王】の違いについて、お願いします」
先にこちらを処理してから、詳しく話を聞いた方が良さそうだ。
「そうですか? では、【大罪】を有しているモノを【眷属】と呼びます」
「【魔王】とは、【眷属】が【大罪】を覚醒させた存在の事です」
「そして【魔神】とは、【大罪】を他のモノに付与できる存在の事です」
「……【魔王】と【魔神】の違いがイマイチ解らないんですが」
「【魔王】は【眷属】の一部のモノが成り得る存在、【魔神】は【魔王】の内、一体のみが至れる存在です」
ふーむ、つまり【眷属】⇒【魔王】⇒【魔神】の順でクラスチェンジする訳だ。
その条件として、【魔王】へは【眷属】が【大罪】を覚醒させる必要があり、【魔神】へは【魔王】から一体しかなれない、と。
【魔神】を決める武闘大会みたいなのでもあるのだろうか。
「【大罪】の覚醒っていうのは、何ですか?」
「【大罪】への認識、理解、順応、そしてその先こそが覚醒となります」
「はぁ?」
いや、分からん。
段階的に馴染んでいく、みたいな事だろうか。
……寧ろ、悪い意味合いなら、汚染と表現するべきなのか?
「……成れば自ずと分かります」
そりゃ、まぁ、そうでしょうね……。
それを他人に理解出来るように説明願いたい訳だったんだが。
「じゃあ、【魔神】は全部で【大罪】の数存在して、【魔王】はその数倍、【眷属】はより沢山存在しているって事ですか?」
「【魔神】の上限は合っていますが、今は空席があります。【魔王】と【眷属】に関しては、その認識で間違いないです」
……さらっと言ったが、どうやら【魔神】の現状の数を把握しているらしい。
【魔神】同士だと、そういった事も分かったりするんだろうか。
「それで、メイドさんは【魔神】とのお話でしたが、それは?」
これも聞かない訳にはいかない。
実は、ラスボスでした、みたいなオチだったりしないよな。
何せ、同じ【魔神】を相手に、一方的にボコってたし。
「私は【憤怒の魔神】です」
……何か、イメージに合わないチョイスだな。
別に、俺の印象通りである必要はどこにもない訳だが、あまり見た目と結びつかないな。
後、己の属性をそれ以上増やしてどうするというのか……。
「【色欲の魔神】が私に敵意を向けていたのも、私の力の影響に因るものです」
あぁ、確かに、あの少女はやたらとメイドさんを敵視していた。
と言う事は……。
「【魔神】は存在するだけで、周囲に影響を及ぼしたりするんですか?」
「【魔王】と【魔神】はそうですね。己の有する【大罪】に応じた影響を与えます」
「【眷属】では周囲に影響を及ぼしたりは出来ません」
つまりは、そういう事の様だ。
「【執行者】よりも【魔王】の方が強い印象でしたが、【大罪】ってそんなに強力なものなんですか?」
【色欲の魔王】に対し、【執行者】は劣勢に見受けられた。
その辺りの力関係はどうなのだろうか。
「一概に【魔王】が強いという事はありません。ただ、確かに【大罪】はより強力になる事が可能です」
「【大罪】によって影響を受けた魂を、その身に吸収する事で、その力を増します」
「そして、それこそが【世界の敵】たる所以でもあります」
「世界が消滅と再誕を繰り返す中、その世界の魂は一定に保たれています」
「ですが、【大罪】により魂を吸収されてしまうと、その世界の魂の総量が減じてしまう事になります」
「その為、【執行者】により【世界の敵】として討滅対象とされているのです」
それならば、あの【色欲の魔王】が強く見えたのは、【色欲】により影響を受けた魂を吸収していたせいで、【執行者】よりも強くなっていた訳か。
「【世界の敵】とは【大罪】保有者の事なんですよね? メイドさんが【魔神】ならば、【世界の敵】では無いんですか?」
さて、これも聞いておかねばならないだろう。
まぁ、【世界の敵】だったとしても、俺にどうする事も出来ないのだが……。
「……かつてはそうでした。ですが今は女神様の【使徒】として生きております」
「今は【大罪】を用いて魂を吸収する事を自らに禁じております」
「後は、他の【魔神】に対する抑止力となる為です。かつて食らってしまった魂達に少しでも報いる為にも、他の【魔神】の暴挙を少しでも抑える事にしたのです」
「……そう、ですか」
それが良い事なのかは、俺には分からない。
俺は【救世】により、俺の世界を消滅させてしまったが、その魂は再誕される世界でまた命として生まれ来るという話だ。
だが、メイドさんの場合は、魂を吸収してしまった訳だから、最早、その魂が還る事は無いのだろう。
俺に言える事は無い、か。
「【美徳】と【大罪】の違いについても、お話しておきましょう」
そこに、女神様から声が掛けられた。
「【美徳】は先天的に備わっている力、対して、【大罪】は後天的に獲得する力、となります」
「また、【美徳】は、力を行使しようとしなければ発現しませんが、【大罪】は、有しているだけで力を発現させています」
「そして、両方共に、付随した力を行使する事が可能です」
「付随した力、ですか?」
「はい、それに関しては……」
「以前、一度お見せした【清浄】は私の持つ【美徳】、【純潔】に付随した力です」
今度はメイドさんの説明パートらしい。
そして、またも、聞き捨てならない事を仰った。
「……【美徳】も持ってるんですか? 【大罪】だけじゃなく?」
「えぇ、その通りです」
「また、【色欲の魔神】が行使した【蠱惑】【狂惑】に関しても【色欲】に付随する力です」
さらっと流されてしまった。
【美徳】と【大罪】って、両方持ってもいいんだ……。
先天的に【美徳】を持っていて、後天的に【大罪】を獲得する。
成程、出来ない話ではないのか。
でも、例えば、【純潔】と【色欲】とかって、一緒に持てるんだろうか?
意味合い的に、矛盾してそうだが。
いや、別に出来なくはないか。
要するに、童貞や処女がエロい事好きなだけかもしれない。
……話が逸れた。
えぇっと、何だったか。
【美徳】と【大罪】ってのは、ゲーム的に例えるなら、【美徳】が任意で発動させるアクティブスキルで、【大罪】が自動発動するパッシブスキルって事だよな。
それで、【美徳】と【大罪】には、それぞれ付随した力ってのがあって、それはアクティブスキルって事になるんだよな?
ゲームみたいな現実、だと呆れるべきか、現実を再現していたゲームを作り出した想像力をこそ、褒めるべきか。
余りに益体も無い思考か。
そういえば、【美徳】は何で力を使おうとしないと発現出来ないのだろか。
先天的ってことは、赤ん坊の頃から持ってるんだよな。
俺の【救世】も同じか。
……つまりは、これも予防措置なのか?
生まれながらに力を発現させていれば、周りは無事では済まないだろう。
赤ん坊が駄々をこねれば、周囲は破壊され、乳を吸えば、もぎ取れるかもしれない。
それは危険だな。
主に乳が。
ひとまず、自分の中で納得を得た。
「一通り、説明出来たでしょうか」
「何か質問はありますか?」
女神様が改めて俺に聞いてくる。
俺は考えてみる。
質問、質問ねぇ……。
「そういえば、【美徳】は周囲に影響を及ぼさないんでしょうか?」
【大罪】は周囲に影響を与えるとの話を思い出したので、聞いてみた。
「周囲に影響は与えません。逆に周囲の状況に影響を受ける形ですね」
「【美徳】それぞれに則した状況下では、その能力が向上するのです」
「例えば、【忍耐】であれば攻撃を受けている状況、でしょうか」
ほー、状況に則した能力を使用する事で、通常よりも強い恩恵を受けられる、と。
特殊効果発動!みたいな、いや、これは違うのか?
でも、【美徳】って【大罪】と違ってイメージが湧き辛い。
そもそも言葉の意味が解らないものもあった筈だ。
……俺には無くて良かった。
そこでふと、疑問が一つ浮かんだ。
それは、何故、【世界の敵】が影響を与えた世界を、俺の【転移】先に選んだのか、だ。
これは説明されていないと思う。
「もう一つ質問が。何故俺の【転移】先に【大罪】の影響化にある世界を選んだんでしょうか?」
今思い返してみても、あの【転移】直前の遣り取りは胡散臭かった。
……さぁ、どう返答してくるか。
「初めてお会いした時にお話しさせていただきましたが、あなたに【美徳】は備わっておりません」
「ですが、あなたはこの先も生きてゆかねばならない」
「それには、力が必要だろうと、老婆心ながらに思いました」
「そこで、【大罪】の元へと赴き、その影響によって【大罪】の獲得が出来れば、との意図でした」
「あなたへの説明も無く、また、同意も得ぬままに、申し訳ありませんでした」
俺に【大罪】を獲得させたかった?
さっきの話だと、【眷属】になるってやつか?
……いや、おかしい。
それなら、そこのメイドさんの傍に居ればいい筈だ。
何せ【魔神】らしいんだから。
いっそ、俺を【眷属】化すれば済む話だ。
あの時は巨神と【執行者】から逃げていたから、この場に留まってはいられなかった可能性はある。
だが、これもさっき言っていたが、【眷属】は周囲に影響を与えない筈だ。
にもかかわらず、【眷属】の居る世界へと【転移】させた。
……絶対、何か隠してるな。
女神への不信感が上昇しました。
そう、脳内アナウンスをかけておく。
ついでに、女神様から女神へと呼称を降格させておいた。
此処を拠点のように考えるのは、危険だな。
いよいよラスボス感が見え隠れし始めた。
別に、俺は勇者ではないが、相手がちょっかいをかけてくる状況では、諦観もしていられない。
差し当たっては、拠点探しだな。
異世界に良い場所はないものか。
おやっさんの世界というのも、有りかもしれないが、如何せん、女神からの紹介というのが気に掛かる。
出来れば、他の世界、且つ、女神に知られていない場所が理想的だ。
だが、そこで厄介なのが【水晶球】だろう。
何でも、全ての世界を観測しているというのだから、何処に行こうと監視されている訳だ。
これに関しては、【水晶球】を破壊でもしないと、解決する術がない。
そして、それをしたら、メイドさんに殺されて、俺の人生は終わりを迎えるだろう事は、想像に難くない。
あの【色欲の魔神】にすら、俺は【聖衣】を破られていたのだ。
それよりも強いメイドさん相手に、俺が抗える訳がない。
……つまり、天界に俺の安息の地は無くなった感じだな。
女神も巨神も信用ならないのだから、困ったものだ。
現状、打開策は浮かばない。
安全な避難場所が無い以上、明確な敵対行為は危険だ。
ひとまず、迎合するスタンスを装うべきだ。
……しまった。
結構、長い事沈黙したまま思考に耽っていた。
「えぇっと、そういうことでしたら、気にしないで下さい」
とりあえず言葉を返しておいた。
「そうですか。それでは、次の世界へと向かって頂きますね」
そしたら、そんな言葉が返ってきた。
【水晶球】には、森が映し出されていた。
一面、木々だらけ。
所謂、樹海とか大森林とかいうやつだろうか。
「この世界には、【大罪】の【嫉妬】の影響が見受けられます」
女神から説明がなされる。
「近々、世界は木々によって滅びる事になると予測されています」
「……はぁ、木が世界を、ですか。それって宇宙もですか?」
「そのようですね。宇宙にすら根を枝葉を伸ばし、全ての命を吸いつくすようです」
「……それって【嫉妬】じゃなくて【暴食】とかじゃないんですか?」
「…………。確かに、言われてみれば、そうですね。予測が間違っているのかしら……」
不安だ。
不安しかない。
そんな良く分からない世界へと俺を送ろうというのだから、やはり、女神恐るべし。
だが、ここでごねても俺に益は無い。
安全な拠点を確保するか、女神の目的が分かるまでは、従っておく他ない。
俺は諦念を胸に秘めながら、【水晶球】に改めて目を向け、そこに映し出される光景を目に焼き付ける。
「……じゃあ、逝ってきます」
そんな捨て台詞を残し、異世界へと旅立った。
意外とこの話が長くなってしまったので、次回から、新しい異世界のお話となります。
ここまでお読みいただき、ありがとうございます。




