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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
20/60

第13話 魔神

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

「良くぞお戻りになられました」


 天界の何時もの部屋に戻ると同時に、女神様から声が掛けられる。


「……どうも、お待たせしました」


 少し頭を下げながらそう返答する。


「では改めて、お話を致しましょう。……よろしいですか?」


「はい、お願いします」


 何の話か見当がつかないが、聞いてみない事には、必要性も判断出来ない。

 ここは聞くしかないだろう。



「お話というのは、他でもありません。【世界の敵】について、少し詳しくお話させていただこうと思いましたので」


「【世界の敵】……」


 オウム返しをしてしまった。

 そういえば、おやっさんの世界に【転移(てんい)】する際、その名称が出ていた筈だ。


「【世界の敵】とは、【大罪(たいざい)】を保有するモノを指す言葉です」

「【大罪】とはすなわち……」


傲慢(ごうまん)

憤怒(ふんど)

嫉妬(しっと)

怠惰(たいだ)

強欲(ごうよく)

暴食(ぼうしょく)

色欲(しきよく)


「……これらの七つを指します」

「あなたに向かって頂いた世界には、【怠惰】の影響が見受けられました」

「そして……」


 そこでメイドさんが言葉を引き継いだ。


「先程まで、あなたが居た世界には、【大罪】の元凶の一体である【色欲の魔神(まじん)】と、【魔王(まおう)】が居ました」

「……(ちな)みに、少女の姿をしていた方が【魔神】でした」


「あぁ……」


 道理で出鱈目に強い訳だ。

 しかし、それならそれで、一つ疑問が浮かんでくる。


「あのぅ、メイドさんは、その【魔神】を相手に圧倒していたみたいですが、それは一体?」


「…………」


「……? あの、メイドさん?」


「??? それは、私の事でしょうか?」


「……そのつもりですが、何か問題でもありましたか?」


 次に告げられた言葉の意味を、俺は咄嗟に理解出来なかった。



「いえ、一つお聞きしたいのですが、その”めいどさん”とは何でしょうか?」



 そんな言葉をメイドさんは口にした。

 ……何だろうか、哲学か何かの話だろうか?


「えっと、詰まる所、”メイド”が何かご存じない、と?」


「えぇ、その通りです。初めて耳にしました。それで、その言葉の意味とは何でしょうか?」


 あんたその恰好で何言ってるの?

 とは思ったが、メイドさんは冗談を言っている雰囲気では無かった。


「あー、つまりですね……」


 俺は、自分の世界、地球に存在した、メイド、について解説した。

 とはいうものの、俺も詳しい事を知っている訳では無い。

 アニメなんかの知識を引っ張り出して、職業と服装について教えた。


 結局、【水晶球(すいしょうきゅう)】で地球の記録を確認してもらうことになった。

 その際、メイド服に大変関心を持たれていた。



 閑話休題(かんわきゅうだい)




「……大変、失礼いたしました。話を続けさせていただきます」


「……えぇ、お願いします」


 俺は初めて、メイドさんのテンションが高くなった姿を見る事になったのだが、当のメイドさんは自分の振る舞いが恥ずかしかったようだった。

 若干、微妙な空気が漂っているか、先程の話の続きをすることにしたようだ。


「私が【色欲の魔神】に対し、優勢だった理由でしたね」

「それは私も【魔神】の一体だからに他なりません」


 おぉっと、ジャブじゃなくストレートが飛んできた。

 確かに、それなら、強さという面では申し分ないのだろう。

 とはいえ、【世界の敵】は自分です、発言に等しい訳だが、その辺りどうなんだろうか。


「とりあえず、【魔神】と【魔王】の違いについて、お願いします」


 先にこちらを処理してから、詳しく話を聞いた方が良さそうだ。


「そうですか? では、【大罪】を有しているモノを【眷属(けんぞく)】と呼びます」

「【魔王】とは、【眷属】が【大罪】を覚醒させた存在の事です」

「そして【魔神】とは、【大罪】を他のモノに付与できる存在の事です」


「……【魔王】と【魔神】の違いがイマイチ解らないんですが」


「【魔王】は【眷属】の一部のモノが成り得る存在、【魔神】は【魔王】の内、一体のみが至れる存在です」


 ふーむ、つまり【眷属】⇒【魔王】⇒【魔神】の順でクラスチェンジする訳だ。

 その条件として、【魔王】へは【眷属】が【大罪】を覚醒させる必要があり、【魔神】へは【魔王】から一体しかなれない、と。

【魔神】を決める武闘大会みたいなのでもあるのだろうか。


「【大罪】の覚醒っていうのは、何ですか?」


「【大罪】への認識、理解、順応、そしてその先こそが覚醒となります」


「はぁ?」


 いや、分からん。

 段階的に馴染んでいく、みたいな事だろうか。

 ……(むし)ろ、悪い意味合いなら、汚染と表現するべきなのか?


「……成れば自ずと分かります」


 そりゃ、まぁ、そうでしょうね……。

 それを他人に理解出来るように説明願いたい訳だったんだが。


「じゃあ、【魔神】は全部で【大罪】の数存在して、【魔王】はその数倍、【眷属】はより沢山存在しているって事ですか?」


「【魔神】の上限は合っていますが、今は空席があります。【魔王】と【眷属】に関しては、その認識で間違いないです」


 ……さらっと言ったが、どうやら【魔神】の現状の数を把握しているらしい。

【魔神】同士だと、そういった事も分かったりするんだろうか。



「それで、メイドさんは【魔神】とのお話でしたが、それは?」


 これも聞かない訳にはいかない。

 実は、ラスボスでした、みたいなオチだったりしないよな。

 何せ、同じ【魔神】を相手に、一方的にボコってたし。


「私は【憤怒の魔神】です」


 ……何か、イメージに合わないチョイスだな。

 別に、俺の印象通りである必要はどこにもない訳だが、あまり見た目と結びつかないな。

 後、己の属性をそれ以上増やしてどうするというのか……。


「【色欲の魔神】が私に敵意を向けていたのも、私の力の影響に()るものです」


 あぁ、確かに、あの少女はやたらとメイドさんを敵視していた。

 と言う事は……。


「【魔神】は存在するだけで、周囲に影響を及ぼしたりするんですか?」


「【魔王】と【魔神】はそうですね。己の有する【大罪】に応じた影響を与えます」

「【眷属】では周囲に影響を及ぼしたりは出来ません」


 つまりは、そういう事の様だ。



「【執行者(しっこうしゃ)】よりも【魔王】の方が強い印象でしたが、【大罪】ってそんなに強力なものなんですか?」


【色欲の魔王】に対し、【執行者】は劣勢に見受けられた。

 その辺りの力関係はどうなのだろうか。


「一概に【魔王】が強いという事はありません。ただ、確かに【大罪】はより強力になる事が可能です」

「【大罪】によって影響を受けた魂を、その身に吸収する事で、その力を増します」

「そして、それこそが【世界の敵】たる所以(ゆえん)でもあります」

「世界が消滅と再誕を繰り返す中、その世界の魂は一定に保たれています」

「ですが、【大罪】により魂を吸収されてしまうと、その世界の魂の総量が減じてしまう事になります」

「その為、【執行者】により【世界の敵】として討滅対象とされているのです」


 それならば、あの【色欲の魔王】が強く見えたのは、【色欲】により影響を受けた魂を吸収していたせいで、【執行者】よりも強くなっていた訳か。



「【世界の敵】とは【大罪】保有者の事なんですよね? メイドさんが【魔神】ならば、【世界の敵】では無いんですか?」


 さて、これも聞いておかねばならないだろう。

 まぁ、【世界の敵】だったとしても、俺にどうする事も出来ないのだが……。


「……かつてはそうでした。ですが今は女神様の【使徒(しと)】として生きております」

「今は【大罪】を用いて魂を吸収する事を自らに禁じております」

「後は、他の【魔神】に対する抑止力となる為です。かつて食らってしまった魂達に少しでも報いる為にも、他の【魔神】の暴挙を少しでも抑える事にしたのです」


「……そう、ですか」


 それが良い事なのかは、俺には分からない。

 俺は【救世(きゅうせい)】により、俺の世界を消滅させてしまったが、その魂は再誕される世界でまた命として生まれ来るという話だ。

 だが、メイドさんの場合は、魂を吸収してしまった訳だから、最早、その魂が還る事は無いのだろう。

 俺に言える事は無い、か。




「【美徳(びとく)】と【大罪】の違いについても、お話しておきましょう」


 そこに、女神様から声が掛けられた。


「【美徳】は先天的に備わっている力、対して、【大罪】は後天的に獲得する力、となります」

「また、【美徳】は、力を行使しようとしなければ発現しませんが、【大罪】は、有しているだけで力を発現させています」

「そして、両方共に、付随した力を行使する事が可能です」


「付随した力、ですか?」


「はい、それに関しては……」


「以前、一度お見せした【清浄(せいじょう)】は私の持つ【美徳】、【純潔(じゅんけつ)】に付随した力です」


 今度はメイドさんの説明パートらしい。

 そして、またも、聞き捨てならない事を(おっしゃ)った。


「……【美徳】も持ってるんですか? 【大罪】だけじゃなく?」


「えぇ、その通りです」

「また、【色欲の魔神】が行使した【蠱惑(こわく)】【狂惑(きょうわく)】に関しても【色欲】に付随する力です」


 さらっと流されてしまった。

【美徳】と【大罪】って、両方持ってもいいんだ……。

 先天的に【美徳】を持っていて、後天的に【大罪】を獲得する。

 成程、出来ない話ではないのか。

 でも、例えば、【純潔】と【色欲】とかって、一緒に持てるんだろうか?

 意味合い的に、矛盾してそうだが。

 いや、別に出来なくはないか。

 要するに、童貞や処女がエロい事好きなだけかもしれない。


 ……話が逸れた。


 えぇっと、何だったか。

【美徳】と【大罪】ってのは、ゲーム的に例えるなら、【美徳】が任意で発動させるアクティブスキルで、【大罪】が自動発動するパッシブスキルって事だよな。

 それで、【美徳】と【大罪】には、それぞれ付随した力ってのがあって、それはアクティブスキルって事になるんだよな?


 ゲームみたいな現実、だと呆れるべきか、現実を再現していたゲームを作り出した想像力をこそ、褒めるべきか。

 余りに益体(やくたい)も無い思考か。


 そういえば、【美徳】は何で力を使おうとしないと発現出来ないのだろか。

 先天的ってことは、赤ん坊の頃から持ってるんだよな。

 俺の【救世】も同じか。

 ……つまりは、これも予防措置なのか?

 生まれながらに力を発現させていれば、周りは無事では済まないだろう。

 赤ん坊が駄々をこねれば、周囲は破壊され、乳を吸えば、もぎ取れるかもしれない。

 それは危険だな。

 主に乳が。


 ひとまず、自分の中で納得を得た。




「一通り、説明出来たでしょうか」

「何か質問はありますか?」


 女神様が改めて俺に聞いてくる。

 俺は考えてみる。

 質問、質問ねぇ……。


「そういえば、【美徳】は周囲に影響を及ぼさないんでしょうか?」


【大罪】は周囲に影響を与えるとの話を思い出したので、聞いてみた。


「周囲に影響は与えません。逆に周囲の状況に影響を受ける形ですね」

「【美徳】それぞれに(そく)した状況下では、その能力が向上するのです」

「例えば、【忍耐】であれば攻撃を受けている状況、でしょうか」


 ほー、状況に則した能力を使用する事で、通常よりも強い恩恵を受けられる、と。

 特殊効果発動!みたいな、いや、これは違うのか?

 でも、【美徳】って【大罪】と違ってイメージが湧き辛い。

 そもそも言葉の意味が解らないものもあった筈だ。

 ……俺には無くて良かった。




 そこでふと、疑問が一つ浮かんだ。

 それは、何故、【世界の敵】が影響を与えた世界を、俺の【転移】先に選んだのか、だ。

 これは説明されていないと思う。


「もう一つ質問が。何故俺の【転移】先に【大罪】の影響化にある世界を選んだんでしょうか?」


 今思い返してみても、あの【転移】直前の遣り取りは胡散臭かった。

 ……さぁ、どう返答してくるか。


「初めてお会いした時にお話しさせていただきましたが、あなたに【美徳】は備わっておりません」

「ですが、あなたはこの先も生きてゆかねばならない」

「それには、力が必要だろうと、老婆心ながらに思いました」

「そこで、【大罪】の元へと赴き、その影響によって【大罪】の獲得が出来れば、との意図でした」

「あなたへの説明も無く、また、同意も得ぬままに、申し訳ありませんでした」


 俺に【大罪】を獲得させたかった?

 さっきの話だと、【眷属】になるってやつか?


 ……いや、おかしい。

 それなら、そこのメイドさんの傍に居ればいい筈だ。

 何せ【魔神】らしいんだから。

 いっそ、俺を【眷属】化すれば済む話だ。


 あの時は巨神と【執行者】から逃げていたから、この場に留まってはいられなかった可能性はある。

 だが、これもさっき言っていたが、【眷属】は周囲に影響を与えない筈だ。

 にもかかわらず、【眷属】の居る世界へと【転移】させた。

 ……絶対、何か隠してるな。



 女神への不信感が上昇しました。

 そう、脳内アナウンスをかけておく。

 ついでに、女神様から女神へと呼称を降格させておいた。



 此処を拠点のように考えるのは、危険だな。

 いよいよラスボス感が見え隠れし始めた。

 別に、俺は勇者ではないが、相手がちょっかいをかけてくる状況では、諦観(ていかん)もしていられない。


 差し当たっては、拠点探しだな。

 異世界に良い場所はないものか。


 おやっさんの世界というのも、有りかもしれないが、如何(いかん)せん、女神からの紹介というのが気に掛かる。

 出来れば、他の世界、且つ、女神に知られていない場所が理想的だ。


 だが、そこで厄介なのが【水晶球】だろう。

 何でも、全ての世界を観測しているというのだから、何処に行こうと監視されている訳だ。

 これに関しては、【水晶球】を破壊でもしないと、解決する術がない。

 そして、それをしたら、メイドさんに殺されて、俺の人生は終わりを迎えるだろう事は、想像に難くない。

 あの【色欲の魔神】にすら、俺は【聖衣(せいい)】を破られていたのだ。

 それよりも強いメイドさん相手に、俺が抗える訳がない。


 ……つまり、天界に俺の安息の地は無くなった感じだな。

 女神も巨神も信用ならないのだから、困ったものだ。


 現状、打開策は浮かばない。

 安全な避難場所が無い以上、明確な敵対行為は危険だ。

 ひとまず、迎合(げいごう)するスタンスを装うべきだ。


 ……しまった。

 結構、長い事沈黙したまま思考に(ふけ)っていた。


「えぇっと、そういうことでしたら、気にしないで下さい」


 とりあえず言葉を返しておいた。


「そうですか。それでは、次の世界へと向かって頂きますね」


 そしたら、そんな言葉が返ってきた。




【水晶球】には、森が映し出されていた。

 一面、木々だらけ。

 所謂(いわゆる)、樹海とか大森林とかいうやつだろうか。


「この世界には、【大罪】の【嫉妬】の影響が見受けられます」


 女神から説明がなされる。


「近々、世界は木々によって滅びる事になると予測されています」


「……はぁ、木が世界を、ですか。それって宇宙もですか?」


「そのようですね。宇宙にすら根を枝葉を伸ばし、全ての命を吸いつくすようです」


「……それって【嫉妬】じゃなくて【暴食】とかじゃないんですか?」


「…………。確かに、言われてみれば、そうですね。予測が間違っているのかしら……」


 不安だ。

 不安しかない。


 そんな良く分からない世界へと俺を送ろうというのだから、やはり、女神恐るべし。


 だが、ここでごねても俺に益は無い。

 安全な拠点を確保するか、女神の目的が分かるまでは、従っておく他ない。


 俺は諦念(ていねん)を胸に秘めながら、【水晶球】に改めて目を向け、そこに映し出される光景を目に焼き付ける。




「……じゃあ、()ってきます」


 そんな捨て台詞を残し、異世界へと旅立った。






意外とこの話が長くなってしまったので、次回から、新しい異世界のお話となります。


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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