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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
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第9話 怠惰

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 急ぎ【UMユーム】で都市中央へと戻り、おやっさんと別れる。

 何かを手伝おうにも、技術面では足手まといにも程がある。

 おやっさんからも、昨日宿泊した部屋へ戻っているように言われていた。


 大人しく部屋へ戻るも、すぐに窓辺へと寄り、都市の様子を窺う。

 未だ、赤色のままの都市群は、否が応にも、嫌な想像を働かせる。

 不安が膨れ上がってくるのを感じる。

 この、何が起こるか分からない、不安だけがある感覚。

 覚えがある。

 何せ昨日の事だ。

 あのイヌザル共が現れる前にあった、あの感覚だ。

 この世界でも何か起こるというのだろうか。


 ……その時になって、漸く思い出す。

 この世界へと【転移(てんい)】する寸前、女神様とメイドさんが交わしていた会話、その中身を。

【世界の敵】や終末と言っていた。

 それはまさしく、俺の世界と同じ状況ということではないのだろうか。

 今の今まで忘れていたのが悔やまれる。

 もっと早く思い出し、おやっさんに話していれば、何かが変わっていたかもしれないのに。


 だが、逆に考えれば、これから世界が終わるような事象が発生するということでもある。

 都市に起きている何かにより、世界が終ってしまうなんて事が有り得るのだろうか。

 そんなとんでもないモノがこの都市にあっただろうか……。


 ……あった。


 重力炉。

 世界の終焉とか招きかねない、物騒な代物だった筈だ!


 おやっさんに知らせた方がいいだろうか。

 だが、俺には連絡手段がない。

 直接会いに行くしかないが、俺では【UM】を動作させられないから、エレベーターも動かせない。

 そもそも、おやっさんが何処に居るかも分からない。


 どうしたものか悩んでいると、事態は悪い方へと進んでしまった。

 視界の先にある街並みが低くなった。

 空を移動していた【UM】の乗り物が落下するような挙動を取っている。


 俺には何も感じられなかったが、重力が増したようだった。

 恐らく【聖衣せいい】により影響が防がれたのだろう。

 耳鳴りのような地響きが、止むことなく聞こえてくる。

 何もしなければ状況は悪化しかしない。


 外に飛び出して、一階へ向かおうかとも思ったが、それよりも手早い方法があることを思い出す。

 目を瞑り、イメージするのは、ラボの光景だ。



≪転移≫



 残念ながら、ラボは無人だった。

 室外へ出てみるも、やはり無人。


 セキュリティ面から考えて、重要施設は地下にまとめて管理すると推察したのだが、重力炉はもっと下の階層だろうか。

 流石に、重力炉から遠い場所に制御室があるとは考え辛い。

 ならば下へと向かうしかない。


 フロア内をくまなく探してみたが、階段は存在しなかった。

 階層移動はエレベーターしか使っていないようだ。

 エレベーターの【UM】製の板に乗ってみるも、やはり動かない。

 だがしかし、重力制御で動いていた筈だ。

 そして【リング】は重力制御で俺を浮かしたり出来ていた。

 ならば【リング】の重力制御で床板を下へと押しやれば移動出来るのではなかろうか。


 押すイメージ、重くなるイメージなど、試してみるが効果は無い。

 そもそも浮いている時でさえ、浮こうと思っている訳ではなかった。

 思っていたのは、そう、落ちたくない、という思いだ。

 ということは……。


 落ちるイメージ。

 床板が動き始めた。

 むしろ凄い勢いで落ちていく。

 下まで後どれくらいの距離あるのか知らないが、上から順に調べるより、一番下から上へと調べればいいだろう。

 どうせ最下部に激突したとしても、【聖衣】のお蔭で痛くはないだろう、……多分。



 何らかの安全装置が付いていたのか、激突する前に減速し、無事最下層へ到着した。

 数フロアをぶち抜いて造られたであろう、一目ではどれだけの広さがあるのか把握出来ない程に広大な空間だった。

 ふと、東京ドーム何個分、みたいな脳内ナレーションが思い浮かぶ。

 正確に言われたとしても広さは理解出来ないのだが。


 歩を進めると、空間の中央に長大な筒と、それを囲むように中央にあるものと比べると小さい筒が複数あるのが見えた。

 近づくにつれ、その巨大さが明らかになってくる。


 それは巨大な樹に似ていた。

 筒の天井部と地上部に太い配管が群がっている様は、大地に根を張り、枝葉を天へと伸ばす大樹のようだった。


 余りの迫力に、しばし茫然自失していると、俺を見つけた職員に詰め寄られた。

 視線を上に向けていたせいで気付くのが遅れたが、筒の周りには制御用と思わる機械が置かれていた。

 この世界に来て、初めて機械らしい機械を見た気がする。

 そして、その機械群の周りに幾人も居たようだ。



「君! どうやって此処に入ってきたんだ!? さっさと出て行きたまえ!!」



 とりあえず、目当ての人物ではなかったので無視することにした。

【聖衣】があれば、実力行使されようが、文字通り痛くも痒くもない。

 こちらを向いていないので、すぐにはおやっさんを見分けられない。

 此処に居ると良いのだが……。


 俺が指示に従わない事に業を煮やしたのか、先の職員が俺の肩に手を掛けた。



「おい! さっさと出て行けと言っているだろうが!!」


「邪魔」



 肩に置かれた手を軽く払う。

 尚も詰め寄ろうとする職員に、仕方なしに視線を向け、言い放つ。



「俺の邪魔をするな」



 職員はビクンと少し痙攣したかと思うと、その場に立ち尽くしてしまった。

 気味の悪い反応を返した職員を捨て置き、おやっさんを探す。


 すると、怒鳴る声が聞こえてきた。

 声色は違うが、おやっさんのようだ。

 声のする方へと足を向ける。



 おやっさんは、向き合っている数人の男性職員に対して、激怒しているようだった。

 そもそも、怒った姿を見た事が無かったので、別人のようなその様に些か衝撃を受けた。



「何故だ! こともあろうに全員が何もしとらんかったと言うのか!?」



 そんなおやっさんの言葉が聞こえてきた。



「この都市どころか、他の都市も含めた炉心管理要員全員が、仕事をしとらんかったとはどういうことじゃ!!!」

「何を考えとるんじゃ!! 一つでも暴走してしまえばこの星が消滅するだけでは済まんのじゃぞ!?」



 近づいた俺には気が付かないのだろう、おやっさんは怒鳴り続けている。

 聞こえてくる話の内容は、職務怠慢の見本のような所業のようだった。

 確かに正気の沙汰とは思えない。

 怒鳴られている奴らを見ていると、不快感が湧いてくる。

 しかし、先の言葉通りなら、この都市どころか、10都市全てでこの異常事態が発生しているということか。



「おやっさん!」



 怒り心頭といった様子のおやっさんに、俺は大声で呼びかける。

 すると、声に反応したおやっさんがこちらを向いた。



「……お前さん、此処で何をしとるんじゃ!?」



 怒っていたテンションのまま、俺に言いつのろうとしてくる。

 俺は静かに言い返す。



「このままじゃ、この世界も、俺の世界のように滅亡しますよ?」


「そんなことは、お前さんに言われんでも分かっとる!!」


「……本当ですか? おやっさんは今、世界を救おうと行動しているんですか?」


「っ!?」


「今すべき事は何ですか? 手遅れになる前に行動しないと、後悔すら出来ませんよ?」


「―――くぅっ!?」



 溢れ出る感情を、どうにか抑え込もうとしているのだろう。

 おやっさんが顔を歪めて、声を漏らす。



「……そうじゃな、お前さんの言う通りじゃ」

「怒鳴って済まんかったのぅ」


「そんなこと、気にしてませんよ」


「そうか、……そうか」



 己の失態を恥じ入るように、身を縮こませている。


 それにしても、先の怒られていた連中は、揃いも揃って、何もせずボーっと突っ立っている。

 何なんだこいつら。

 見ていると無性に不快感が増してくる。


 そう、こいつらを見ていると、不快なのだ。

 生理的嫌悪とでもいうのだろうか、その存在を受け入れられない。


 何もせず、何の反応も返さず、唯々生きるだけの、その様。


 ――【怠惰たいだ】。


 ふと、そんな言葉が頭に浮かんだ。

 確かに、言い得て妙だ。

 ストンと収まったような感じがした。


 ――その無様、度し難い。


 片手を伸ばし、首を掴む。

 何処にそんな力があったのか、大人の身体を持ち上げた。

 当然、首に自重が掛かり、程なく息を止めるだろう。



「こりゃ、お前さん、何をしとるんじゃ!? やめんか!!」



 おやっさんが俺の腕を掴み、解こうとしてくる。

 俺は我に返り、思わず手を放した。



「???」



 疑問符が頭の中を埋め尽くしたが、直前の自分の行動に理解が及ばない。

 はて、何であんなことをしたんだったか……。


 首を締め上げられた奴はというと、脱力したまま手足を投げ出していた。

 別に死んでいる訳ではないのは、呼吸やら瞬きやらで判るのだが、どうしてそこまで無気力なのか。


 視線を他に向けると、機械群に映し出された光景が目に入った。

 どうやら、他の都市の炉心を映したもののようだ。

 どれも異常動作を行っているのか、時折、映像が乱れている。

 余り、時間は残されていないように思われた。






21/06/05 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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