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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
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第8話 異変

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 夢を見た。

 自宅で昼頃に起きて、ソシャゲを消化して、ゲームをやって、アニメを見て。

 いつもの自堕落な生活を送っていた。

 特筆すべき事は何もなく、ただの平凡な日常。

 俺は違和感を覚える事もなく、一日を過ごした。


 目が覚めるとすぐ、気分が沈む。

 これからも、かつての日常を夢に見るのだろうか。

 それを疑問にも思わず過ごし、目覚めると同時に最早帰らぬ日々だと知り絶望を味わう。

 何だか、寝る前よりも気分が悪くなった。


 気分に引きずられるように重くなった体を起こす。

 兎に角、何か腹に物を入れよう。

 俺のすべき事は、生きる事なのだから。


 おやっさんの言っていた、栄養食と思われる食品があった。

 一口大の白く四角い物が6つ。

 見た目は四角い切り餅っぽかった。

 傍には味付けの為と思われる、粉やディップがある。

 試しに、何も付けずに食べてみる。

 食パンとクッキーの中間のような食感だった。

 味は無味無臭。

 当然美味しくない。

 大人しく、粉やディップを使用して、完食した。


 何というか、人間の味覚ってのは、所詮しょせん感覚器官に過ぎないというのが良く分かった。

 粉やディップを付けるだけで、味があれ程変わって感じるとは。

 味覚にどんな刺激を与えればどんな味になるかを追及したのだろう。

 食べてる物は同じなのに、味が全く違って感じるというのは、凄く不思議な感覚だった。



 宇宙食を初めて食べたような心持になりながら、今日の予定を考える。

 とはいえ、おやっさんと話をするか、都市の観光ぐらいしか出来る事はなさそうだが。

 ……観光は許可されないかもしれないな。

 何せ来て早々捕まったし。

 この世界の常識も分からないしな、勝手をすれば、また捕まりそうだ。

 ひとまず、おやっさんに会うとするか。

聖衣(せいい)】を纏い、部屋を出る。



 隣の部屋のドアをノックする。

 さほど時間をおかず、ドアが開かれた。



「なんじゃ、やっと起きおったのか」


「おは……え?」



 挨拶しようとしたら、そんな言葉を掛けられた。



「もう昼過ぎじゃぞ。……まぁ、それだけ疲れておったのかもしれんが」


「あー、いや、すみません。いつもそれぐらいに起きる質でして」



 バツが悪く、そう答える。

 長年の習慣は、そう簡単には改善されないのだろう。

 体内時計は、世界が異なっても昼時を正確に計ってみせたようだった。



「まぁ良いわ。飯は食ったんか?」


「はい、中々興味深い食事でした」


「うん? ……そうかそうか、アレを食べるのは初めてじゃったな」



 決して不味い訳ではないが、旨い訳でもない。

 だが食べられない程でもない。

 他の物を食べた事が無ければ、不満は抱かないかもしれないが、地球の食べ物を知っている俺には満足とはいかないな。



「それで、気分はどうじゃ? 少しはマシになったかの……っと、その顔では、あまり良くは無さそうじゃな」


「……少し夢見が悪かっただけですから」



 一目見て判るほどに、俺は酷い顔をしていたのだろうか。

 まぁ、時間が経てば治るだろう。



「それで、これからどうしましょうか」


「そうじゃのぅ……。連日ラボに籠るのもなんじゃし、別の場所に行こうかの。何処か行きたい場所はあるか?」


「んー、何処かオススメはありますか?」


「ふむ、都市の外縁部じゃったら、良い景色じゃな」



 そういえば、この都市の外側がどうなっているかは知らないな。

水晶球(すいしょうきゅう)】で見た時も、都市しか見えなかったしな。



「そうですね。それじゃあ、外縁部に行きたいです」


「距離もあることじゃし、【UM(ユーム)】に乗って行くとするかの」



 ……俺を轢いたアレか。

 第一印象こそ最悪だったが、目新しい乗り物ってのは、否が応にもテンションが上がる。

 気分転換にもいいかもしれない。



「そうしましょう」



 同意の言葉を放ち、おやっさんと建物外へと向かう。


 てっきり1階へ向かうかと思いきや、階層すら移動しなかった。

 建物の端に開けた場所があり、車庫のような空間だった。

 すると何処からか、銀色の液体のようになった【UM】がおやっさんへと群がって行く。

 すぐさま形を変えてゆき、三角形のステルス戦闘機みたいな形状になっていった。



「ほれ、さっさと乗らんか」



 おやっさんは、三角形の中央の窪み、その前面に座っていた。

 空間的に、俺は後ろに乗ることになりそうだ。


 後ろ側に乗り込み着席すると、それを待っていたかのように、透明な膜のようなものが三角形の上部を覆った。

 これは、あのガチャのカプセルような見た目の乗り物の上部を覆っていた物と同じだ。



「じゃあ、出発するぞ」


「はい、お願いします」



 正面の壁が見る間に穴を開けてゆく。

 すぐに、この車庫の広さ分に広がった。

 すると戦闘機モドキが音も加速度も無く、宙を滑るように移動してゆく。


 思いの他、ゆっくりとした速度で都市の上空を飛んで行く。

 多分、街並みを見れるように、速度を緩めてくれているのだろう。

 他にも多くの乗り物が中空にあり、様々な形状をしていた。

 卵型、長方形を横倒しにしたような形、数人が乗っているのか複数の球体が連結したような形、正八面体の某敵キャラのような形など。

 こうやって見ると、地球の乗り物はみな似たような形ではあったが、今目の前にある無秩序な光景よりは洗練されていたようにさえ思える。

 形を自由に変化させられるとはいえ、指針がなければ幾何学的な形に成らざるを得ないのかもしれない。


 銀色に輝く街並みを眼下に収めながら、都市の外縁へと進む。

 都市の中心から遠ざかるにつれ、徐々に建物の高さが低くなってゆく。

 振り返り見れば、都市全体が巨大な銀色の山のようにも見える。


 しばらくして、都市の外縁部へと辿り着いた。




【UM】を降りて目にした光景は、視界一面の青だった。

 だがしかし、視界の上下で青の色味が異なる。

 上は空の蒼、下は海の藍。

 この都市は海上都市だった。



「どうじゃ、良い景色じゃろう」


「えぇ、本当に……」



 海岸から見る景色とは違い、視界一面の空と海の光景は圧巻だった。

 テレビ越しに見たものとも、ゲームのCGとも違う、リアル特有の迫力。


 家族旅行は勿論、友人とも海やスキーに行ったことは終ぞなかった。

 地元には海も雪山もなかったし。

 シーズンスポーツとは無縁の人生だった。

 ……これまでは。


 もっぱらインドア派だった俺が、異世界でこんな場所に来ているとは、不思議なものだ。

 とはいえ、海水浴に来た訳ではないし、俺は泳ぎだって得意ではない。

 ここは大人しく見るだけにしておこう。


 そういえば、この独特の生臭さみたいなのが、磯臭いってやつなのかな。

 結構、凄い臭いだが、海辺に住む人達は良く平気だな。

 やっぱり慣れなのか。

 人間が何処でも生きていける所以は、文明もさることながら、適応能力の高さだった筈だ。

 暑いのも、寒いのも、臭いのも、辛いのも、苦いのも、痛いのも、いずれ慣れるんだろう。

 ……何か、触覚と味覚が入り混じった気がするが、まぁどんな感覚にも慣れるのが人間ってことで。



「その様子じゃと、気に入ったみたいじゃな」


「俺、海って初めて見たんですよ。実際見ると凄いですね」


「そうかそうか。連れて来て良かったわい」

「じゃが、泳ぐのは無理じゃからな」


「泳ぎは得意じゃないので、それはいいですけど。泳ぐのが無理な理由でもあるんですか?」


「ここら辺は海竜の住処じゃからな。海に入ったら餌になるのが落ちじゃ」


「カイリュウ、ですか?」


「この世界で最大の生物じゃな。……ほれ、あそこで顔出しとるじゃろ」



 おやっさんが指さした先を見やると、海面から姿を現しているのは、首の長い恐竜のような生物だった。

 保護色というのだろうか、海の色に同化しそうな体色をしている。

 だが、言うほど大きな生き物には見えない。

 ここからだと距離があるせいだろうか。


 すると、件の生き物の隣にソレが海面から姿を現した。

 先の数十倍はある巨大なソレは、形状こそ似ているが体色が異なっていた。

 所謂、エメラルドグリーンというのだろうか、あんな色をした海をテレビで見たことがあった。

 首だけを覗かせる姿からは、その全容は窺えないが、少なくとも、首と同じぐらいの大きさはあるのだろう。

 最初に見えたのは、子供だったのか。

 親の威容は凄いの一言だ。

 確かに、最大の生物と言われるだけのことはある。


 もしかして、この世界の人口が少ない理由は、環境生物が地球とは比べ物にならない程、危険だからではなかろうか。

 それらを避けて生活圏を広げた結果、とか。

 この調子では、地上にも何が居るか分かったもんじゃない。



「子供の色が親と同じになる迄は、ああして傍に寄り添っておるんじゃよ」

「もし海に落ちたら、子供の狩りの練習台にされる事請け合いじゃて」



 そう言って、おやっさんは笑っていた。

 俺は全く笑えなかった。

 想像上の俺が、あのイヌザルに食われた如く、あの幼い海竜によって酷い有様になっている。

 ウミ、コワイ。

 カイリュウ、モットコワイ。

 思わず脳内ですら片言になる程の恐怖だった。



「まぁ、外縁部には障壁が張っておるから、海に落ちることはありゃせんよ」


「へぇ、そうなんですか?」



 言われ、外縁部の中空へと手を伸ばす。

 見た目では、そんな障壁があるようには見えない。

 余程の透明度なのだろうか。


 伸ばした手は、しかし、何にも当たることなく、宙を泳ぐ。



「……あれ? 障壁って、もっと外側にあるんですか?」


「っ!?」



 おやっさんに言葉を投げかけながら見やると、その顔は驚愕に染まっていた。



「いかん、早く淵から離れるんじゃ! 障壁が無くなっとる!」


「え?」



 その言葉の意味を理解するより早く、事態は進行した。




 世界が真っ赤に染まった。


 そう錯覚するほどに、都市部側から赤色の光が放たれた。

 銀色だった筈の都市群は、今やその姿を真っ赤に変じていた。


 次いで、地面が激震した。

 外縁部の淵に身を乗り出していた俺は、その衝撃により体が海側へと傾いてゆく。


 全てがゆっくりに見える。

 あぁ、これは駄目なやつだ。

 死ぬ間際というように、時間が間延びした感覚が俺を襲う。



「おい! 手を伸ばすんじゃ!」



 おやっさんは、衝撃に足を取られたのか、四つん這いになりながらも、俺に向けて手を伸ばしている。

 それを見つつ、しかし、俺は落ち着き払った声を返す。



「いや、大丈夫ですよ。俺、浮けますし」



 そう、【リング】のお蔭で落ちることはないのだ。

 余程焦っていたのか、おやっさんはその事を失念していたのだろう。



「おぉ!? ……そうじゃったな。寿命が大分縮んでしもうたわい」



 俺が無事だと理解出来たのか、おやっさんが安堵の表情を浮かべる。

 だが、すぐに表情を改め、険しくなる。

 その目は都市へと向けられていた。



「あの都市の色って……」



 俺がそう言葉を漏らすと、おやっさんが言った。



「都市で何か起こったようじゃな。……いや起こっていた、と言うべきかの」

「障壁が消えておった事が、この騒動の始まりじゃったのかもしれん」


「……ひとまず、都市に戻りますか?」


「そうじゃな、儂も部下達を纏めて、対応に当たらねばならんじゃろう」



 揺れは一度だけだったのか、今は収まっているようだ。

 とはいえ、ここは宙に浮いている都市なのだ。

 地震が発生する訳がない。

 障壁といい、揺れといい、都市に何かが起こっているのだろう。

 確か、おやっさんが、緊急時に建物の色が変わると言っていた筈だ。

 今なお、赤く彩られた都市が、異常事態であることを物語っていた。






21/06/05 誤字脱字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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