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救世主は救わない  作者: nauji
第二章
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第7話 就寝

この作品はフィクションです。


重要語句は【】、能力使用時は≪≫で記載しております。

 ふと、気になった事があったので、おやっさんに聞いてみる事にした。


「そういえば、おやっさん。この都市は浮いてるんですよね?」


「そうじゃよ。それがどうかしたかの?」


「この都市の動力って何ですか?」


「重力炉じゃよ」


「ん?」


 聞いた事の無い単語が出た。

 何かSFモノにでも出てきそうな感じがする単語だ。

 少なくとも地球には無かった。

 そもそも、地球では重力制御なんて、まだ出来ていなかった。


 何となく、重力と聞くと、黒色というイメージが湧く。

 ゲームなんかだと、重力魔法とかって黒っぽかったし。

 何故だろうか、重いとか、ブラックホールとかを連想するからなのだろうか。



「何じゃお前さん、宙に浮いとったんじゃろ? 重力制御出来とるんじゃないのか?」


「浮いていたのは天界で借りた【リング】のお蔭です。俺の世界には重力制御なんて技術はありませんよ」


「おぉ、そういえばそうじゃったか」

「重力炉とは、中性子という粒子の核が元になっておる。星の終焉に生成される星の中心核じゃ」


「星の終焉ですか?」


「放っておくと、超新星爆発が起きる。そして、その爆発後も核が重力収縮を続けるとブラックホールになると言われておる」


「……それ、安全なんですか?」


「安心せい、常に数人からなるグループが交代制で監視・管理しておる」


 流石に俺の学力では理解が及ばないが、きっと地球にあった原子力発電とは比べ物にならない程のエネルギーなのだろう。

 超新星爆発ってのがどれ程の爆発なのか分からないが、ブラックホールなんて発生したが最後、誰も助かりはしないだろう。

 俺の知ってる知識程度では、吸い込まれたら出られないって事ぐらいだが。



「それで、お前さんの世界じゃ、エネルギーに何を使っておったんじゃ?」


「んー、俺の知る限りでは、電気と石油ですかね」


「セキユ? 何じゃそれは?」


「俺も詳しくは知りませんけど、確か化石燃料だった筈です」


「ほぉ、化石を燃料にのぅ。それじゃあ化石を採り尽くしたら、どうするんじゃ?」


「電気で賄おうとしていた筈ですよ。火とか水を使って発電してたみたいです」


「ふむ。そうかそうか」


 今ので何か分かったのだろうか。

 俺からすると当たり前の事過ぎて、疑問にすら思わなかったが、俺の世界とは異なる発展を遂げたこの世界の人からしてみれば、物珍しかったり、不思議な事も多々あるのかもしれない。

 ひょっとすると、意外なところで常識に差異があり、認識の祖語が起きているかもしれない。

 色々と気を付けないとな。



「……っと、いかんいかん。もぅ日が暮れてしもうたのぅ。ついつい話し込んでしもうたわい」


 この世界の時計らしき物を見やり、そう口にした。


「この建物には、居住区画もあるんじゃ。今日はそこで泊まっていくと良い。儂から話は通しておく」

「良ければ明日も、いろいろ話を聞かせてくれ」


 そういえば、俺には寝泊まりする場所が無い事に今更ながら気が付いた。

 俺の居た世界は最早無い。

 かといって、天界に戻って何処かの部屋を間借りさせて貰うにしても、今は逃亡中の身だ。

 ほとぼりが冷めるのは何時になるか分からないが、暫くは天界には戻らない方がいいだろう。

 ここは提案に乗るとしよう。


「それじゃあ、お言葉に甘えさせていただきます」


「食べ物や飲み物も常備してある筈じゃ。遠慮せず使ってくれ」


 おぉ、それは大変助かる。

 結局、自宅を出てからどれぐらいの時間が経過したのか、定かではないが、体感では半日ぐらいは何の飲食もしていない。

 ありがたく頂戴するとしよう。


「それじゃあ、早速向かうとしようかのぅ」


 俺は、おやっさんに促され、部屋を後にした。




 ラボは地下にあり、居住区画は地上階らしかった。

 確かに、窓の外が地面では住み辛い事だろう。


 恐らくエレベーターらしき物、建物を縦に貫いているであろう、透明なチューブ状の空間に銀のプレートが浮かんでいる。

 おやっさんに続いて俺もプレートの上に乗る。

 すると、何か操作した訳でもなく、音も無く、加速度も感じさせないまま上へと移動する。

 まさしくあっという間に、目的地の階層へとたどり着いた様だった。



「さっきの、どうやって動いてたんですか?」


「おぉ、あれか。【UM(ユーム)】の重力制御で動かしておるんじゃよ」


「特に操作してなかったのは?」


「この都市の住人は【UM】操作用のデバイスを常時着用しとるし、その思考を読み取って動作しとるから、特に操作などはいらんのじゃよ」


「へぇー」


 思考を読み取るとか、凄いな。

 考えただけで動くってことか。

 ……いや、思考を読み取るってのは、他人のも可能なのか?


「それって、他人の思考を覗くことも出来るんですか?」


「ん?……成程、当然の疑問じゃな。操作用のデバイス同士に思考を読み取る機能は付いとらん。それに【UM】自体には単純な思考しか読み取る機能は付いておらん。どこに行きたいとかじゃな」


「それじゃあ、俺の思考はどうですか?」


「お前さんは、【UM】の操作デバイスを持っとらんから、そもそも対象外じゃな」


「……そうですか」


 んー、どうなんだろう。

 操作デバイスの装着者を対象として【UM】が思考をスキャンしている訳だよな。

 つまり、操作デバイス側じゃなく、【UM】側に思考をスキャンする機能がある訳だ。

 なら、【UM】の思考スキャンの対象指定を操作デバイスの有無ではなく、ただ人間に指定していたらどうだろうか。

 うーん、そもそも操作デバイスを付けていないと、思考を伝達出来ないのか?

 操作デバイスは送信機、【UM】は受信機みたいな関係なのか。

 それじゃあ、思考が読み取られるか否かは、受信機の精度次第って事かな。

 受信機の精度が高くなれば、結局思考を読むことは出来そうに思える。

 あー、だから敢えて意図的に精度を低くしているのかもな。

 結論としては、他人の思考を完全に読み取れる物は存在している可能性がある。

 まさかとは思うが、都市の住人全員の思考を監視してたりしないだろうな……。



「ほれ、ここが居住区画じゃ」


 言われ、思考から脱する。

 考えながらも、おやっさんの後について歩いていたらしく、気が付けば、到着していたようだ。


「儂は外に家を持っとるが、今日はお前さんの隣の部屋を使うから、何かあれば遠慮せず訪ねてくると良いぞ」


「わざわざすみません」


「良いんじゃよ。儂が話をせがんだんじゃしな」

「ともあれ、色々あって疲れたじゃろ。ゆっくり休んでおくことじゃ」


「はい、ありがとうございました」


「……まったく。一々礼なんかいらんのじゃぞ?」


「……ははは。そういう文化なんですよ」


 日本人気質ってやつなのかな。

 外人からしたら、日本人はやたら丁寧だったり礼儀正しい印象があるみたいな話を聞いた気がするな。


「それじゃあ、お休みなさい」


「うむ、お休み」


 そう言って別れた。



 案内された部屋の室内は、1LDKの風呂トイレ付だった。

 色も普通だ、銀色じゃない!

 一応、俺の世界と異なった、奇抜な作りはしていなかったので安心した。

 何かの映画で見た、トイレの紙の代わりに貝が置いてあった、みたいなのは御免だ。


 ともあれ、長い一日だった。

 正確には違うのかもしれないが、体感では、【救世】を使用した日が今終わりを迎えようとしている。

 一日に起きうる事としては内容が壮絶過ぎる。

 今はとにかく、何も考えず、休みたい。

 心も体も疲労が溜まっている。



聖衣(せいい)】を脱ぐのには安全面で抵抗があったが、風呂に入るには脱ぐしかない。

 一応、【リング】は外さずに入ろうとする。

 だが、やはりと言うべきか、普通の服のように脱ぐことが出来なかった。

 色々試行錯誤した結果、【聖衣】も能力の一つらしく、念じる事で消失した。

 後、解った事といえば、【聖衣】を解除すれば俺の毛の色が元通りの黒に戻るということだった。

 (ちな)みに、【聖衣】を解除したら、真っ裸になった。

 天界や人目のある場所で試さなくて本当に良かった。


 無事に風呂を済ませ、ベッドに倒れ伏す。

 何か食べたいが、もう動きたくない。


 あぁ、明日は今日より平穏だと良いな。


 そんな思考を最後に、俺は意識を手放した。

 こうして、世界消滅から続いた、長い長い一日が終わった。






22/06/11 誤字修正


ここまでお読みいただき、ありがとうございます。

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『勇者は転職して魔王になりました』
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