4.知られる日
あれからやりたい放題していたら、最早無限のクレジットカードからお金を引き出すまでもなくなってしまった。それほどまでに株式の配当収入が大きいのだ。
名だたる大企業の筆頭株主はその1割位は僕が筆頭株主。
他の投資家達の間では、いきなり台頭してきた僕の存在が噂されているようだった。
主には嫉妬の声ばかり聞こえてくるのだけれども。
まあそれはあれだけ株式で荒稼ぎした挙げ句に、それなりの企業を買収して相談役にもなってしまったのだからそれはそれは目立つことこの上ない。
近頃では僕に取り入って融通してもらおうとすり寄ってくる人たちもいてちょっと迷惑している。お金持ちになるのと同時にこういうことが非常に増えてきた。
本当にどこから情報を得ているのか分からないが、すぐに僕の情報が出回っているようだった。
「岡本さん。ちょっと優秀なボディガードを二人くらい雇ってほしいんだけど何とかなるかな?」
因みに岡本さんとは、僕が相談役になってから暫くした頃に、代表取締役の青木さんに紹介されて雇った僕の専属秘書で、スケジュール調整からお茶いれまでこなすスーパーエリートだ。
同時に美人でもある。
「勿論大丈夫です。本日中に解決いたしましょう」
「そっか、それじゃあよろしく頼んだよ」
「お任せください」
今日も僕は役員会議で会社の方に来ている。普段は家で投資家としての知識収集に勤しんだり、ショッピングを楽しんだりしているんだけどね。
「黒嶋相談役。お電話です」
「どこから?」
「それが、フォーブスとのことで······変わりますね」
「はい、もしもし、お電話変わりました僕が黒嶋ですが?そちらは?」
「突然お電話申し訳ございません。私、フォーブスジャパンの竹下と申します。本日は黒嶋様にお知らせに参りました」
フォーブスと言えば、最近学んだばかりだが、富豪の指標としての大台であるビリオネアと呼ばれる大富豪を格付け、世界にそれをランキングとして出版する組織のはず。
ということは僕の資産額が10億ドルを越えているということ。
「黒嶋様の総資産額が優に10億ドルを越えていますので、黒嶋様は名実ともにビリオネア入り。つまり大富豪の仲間入りということになります。つきましては、黒嶋様のことを取材するためにそちらに私どもの記者を向かわせたいのですが、お時間の方は······」
「少々お待ちを······岡本さん。直近で空いている時間は?」
「えーと、それでしたら明日の午後一時からになさいますか?そこでしたら前後ともに余裕のある時間配分が可能です」
「ありがとう······お待たせしました。それでは明日の午後一時から、場所は都内のカフェで─────という店で良いでしょうか?」
「勿論構いません。それでは、明日の午後一時からお待ちしております」
そういって切れてしまった。
「黒嶋相談役。ビリオネア入りおめでとうございます」
「ありがとう、岡本さん。それじゃあ僕はそろそろ帰るから車の方お願いね」
「分かりました。先に手配しておきます」
それから用意させた車で会社を出るとそのまま自宅の方に向かった。
運転手の人は会社で雇っている人だが、岡本さんは僕が直接雇っているのでいつも隣にぴったり居る。つまりまあ、秘書というか付き人のような感じだ。
本当に何から何まで完璧超人で、何が出来ないのかまるで分からない。
身の回りの世話を完璧にこなしてくれるお陰で、僕も全くといって差し支えないほどにストレスが溜まらない。
ちょうど自宅のマンションが広すぎて一人では寂しかったので、岡本さんが居てくれて少しは孤独感も和らいだ。
「それでは本日はありがとうございました」
「ええ、こちらこそ」
ようやく取材が終わった。
「あぁー疲れたー!」
「黒嶋様、少しはしたないですよ」
「おっと、ごめん岡本さん。取材が終わって気が抜けていたようだね」
岡本さんは社外では僕のことを黒嶋様と呼ぶ。
今回フォーブスの記者に取材されたのは主に僕のプロフィールについてとか仕事のことだったが、プロフィールについてはうまいことはぐらかせたと思う。その、僕の過去のエピソードはあまり良いものがないからね。その代わりに投資のことや会社のことはいっぱい語っておいた。
だからこそ記者の人も満足して帰ってくれたんだろうし。
それから数日。僕の名前は今度は広まってしまった。日本人のビリオネア入りとして一部のネットメディアやテレビ、新聞がニュースに取り上げたのだ。