3.就任へ
買ってしまった·······
何を?と言われれば───会社を───
そもそもの切っ掛けだけど、僕に一本の電話が鳴ったのが原因だった。
───数日前。
その日、僕は株式の事を学ぶために参考書を取り寄せてそれを読んでいた。といっても全てサイトのオート機能でやっているので僕の出番は無さそうだけど、投資家たるものそういう知識は知っておいて損はないと思ったのでそうした次第です。
その時です。僕のスマホが鳴動したのは。
何事かと思い画面を見ると非通知だったけど、取り敢えず出ることにした。
「もしもし────」
「あっ!黒嶋御崎様ですか!?」
なにやら相手側の焦ったような声が聞こえてくる。
「そうですが、あなたは?」
「私、────株式会社の春山と申します」
その春山と名乗った男の所属する会社は僕が数十億円の株式を保有している会社だった。
「それで春山さん、どうしたんですか?」
「大変申し上げにくいのですが、弊社は現在経営難に陥っておりまして······」
「だがら、どういうことですか?ありのまま詳しく説明していただきたい」
「······はい。実は───────────ということなんです」
「ふむ」
まさか、ですね。会社の不祥事がマスコミに露見して株価が急速に下落しているようです。
「ご連絡ありがとうございます。それでは僕から提案を一つ。会社を僕に買わせて頂けませんか」
「は?」
「ですから、僕が─────株式会社を買収すると言っているのですよ。僕ならばその程度の資金は簡単に用意できますからね。手続きも面倒ですからそちらにお任せします。勿論手数料も支払いましょう」
「少々お待ちください。上に掛け合ってみますので」
それから暫く待つと、取締役を名乗る男に変わった。
その男の話によれば僕が会社を買収することに問題は無いようだ。ただし、その場合僕の立場は特別相談役となるらしく、その役員報酬と株式の配当が収入となる。
立場的には会社のトップはこれまで通り代表取締役で、僕は会社の経営方針に口出しできる立場になってしまった。
そういうわけで、その会社の株式は僕が50%を保有している。
この会社はとりわけ規模がそこそこ大きかったので、一投資家の僕が買収するということで、ニュースなどで少々の話題になったが、僕の名前は伏せられていたので特に何もなかった。
で、新たに僕が会社の所有者になったので会社に挨拶にいくことになった。
取り敢えず自宅まで車で迎えに来てもらい、そのまま本社に直行で行った。
「黒嶋相談役、今日はありがとうございます。既に社員は集めておりますのでこちらにどうぞ」
相談役·····か。まさか僕がたったの数ヶ月でこんなことになるなんて、以前の僕だったら想像すらしていなかった。
やはり、金の力は凄すぎる。ここまで生活と人を変化させるのだから。
僕は案内してくれる代表取締役の後を着いていき、広めのオフィスに向かった。そこに入ると既にこの本社の社員であろう人が集まっており、僕と代表取締役が入るとこちらに向き直った。
「皆、初めまして。僕が新たに特別相談役に就任した黒嶋御崎だ。同時にこの会社の筆頭株主でもあるが······どうか堅くならずに接してほしい。また、今までと経営方針が変わることはないからそこは安心してほしい。僕は基本的に経営方針に口出しすることはないが、度々役員会議に参加するだろうからその時はよろしく頼む。それでは、皆、仕事に戻ってくれ。今日は仕事を中断させてしまって済まなかったな」
「本日は誠にありがとうございます、黒嶋相談役。あれから、黒嶋相談役の資金で順調に会社は建て直しておりますし、事業の拡大も行えそうです」
「それは良かった。それじゃあ青木さん。これからよろしく頼みますよ」
「こちらこそ、よろしくお願いいたします」