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10.会長としての日




僕の1日は、特別相談役であったときよりも遥かに多忙を極めた。

会長としての仕事も相談役とは大して変わりはないものの、いかんせん黒嶋グループの企業が多すぎて、勿論すべては回れないものの、一週間のうちに何社も行き来する。


各社の代表取締役から報告を受けて、僕は会社の運営に問題がないか、社内環境に不備がないか等の確認を兼ねた社内視察もするので、非常に時間がかかる。だから、夏希との恋人としての時間がなかなかとれなくて、この前一度、夏希にこっぴどく怒られた。

まあ、これに関しては仕事を減らせないので夏希には渋々ながら納得してもらった。夏希は相も変わらず仕事場と私的な時間とのギャップが凄まじい。


それと、僕の貞操の危機でもある。どうやら夏希もだいぶ溜まっているようで、最近は特にストレスが溜まっているようなので、そろそろ僕も腹を括る必要があるかもしれない。そんなことで体調を崩されたら夏希には申し訳が立たないからね。


そんなことで、今日は会長として黒嶋不動産株式会社に来ている。

僕の他に会議室には社長以下幹部役員のそうそうたる面子が集まっている。その中には僕と同じくらいの若さの幹部もちらほらと見受けられる。と、言うのも、黒嶋グループ系列の会社にはある一つのことを徹底させている。それは『完全実力主義』だ。

これにより、老若男女関係なく有能な人材がどんどん昇進する事ができ、会社の成長に大きく寄与している。だから、企業グループ内には女性社長も珍しくはない。

例えば黒嶋総合保険株式会社の社長は女性だ。


ともあれ、僕は社長の報告を聞いている。正直に言ってしまうと、基本的に僕は放任主義なので社長さんたちにお任せという体なのだ。

だが、体裁という面があるので、一応は僕が報告を聞いて大まかな経営方針を伝えるということをしているが、もうべつに必要ないと思ったので、近々廃止されるだろう。その代わり社内視察が増えると思う。


その事を月一度開かれる黒嶋グループ全体会議で言おうと思った。全体会議というのは黒嶋グループの会社の社長全員が一同に会する、グループ全体の方針を決める会議だ。

グループという手前、僕の独裁とするのは不味いので、あくまでも民主主義的に決めているのだ。


一部のメディアでは僕の独裁経営だと言われているしね。でも、僕に言わせてみれば大体どこのグループだって似たようなものだろう。必然的に会長に権力が集まるのだから。


僕がそんなことを考えている間にも報告は進む。これも月に2度しかないので、結構量が多い。どうせ聞いても覚えられないのだから、手元の資料を読んでいる。

それによると利益は尚も拡大中らしい。正直言って会社の経営には興味ない。でも資産家になると決めたし。もうなってるけどね。


「──────。以上で報告を終わります」


どうやら社長の報告が終わったらしい。会議室に小さく拍手が起こる。


「さて、ご苦労様。これからも経営方針に沿ってより一層の発展と繁栄を願うよ。僕はこのあと社内視察を行うけど皆は通常業務に戻ってほしい」


そう言うと各々から返事を貰ったので僕は夏希と共に会議室を後にしてオフィスに向かった。


「岡本さん、先程の報告に問題はなかったかな?」


「はい、特に不審な点はございませんでした」


「それなら良かったよ」


夏希がそう言うなら間違いはないだろう。なにせ、完璧主義なのだから。


「ここだな」


オフィスに着いたので僕は中に入る。すると僕に気が付いたのか、立って頭を下げようとするので、仕事中だからと座ったままで構わないと普段通りにさせた。

こういうときにも上の立場は面倒だ。


「君、社内の雰囲気はどうかな?」


僕は近くにいた女性社員に話し掛ける。


「と、特に問題はありません。グループの方針で労働環境も非常に良いですし、上司からのハラスメント等もなくて······とても働きやすいと思います。私、子供が居るんですけど、会社に預けられてとても助かってます」


と、そのように少し緊張しながらも話してくれた。


「それは良かった。これからも何かあれば僕か、この会社の上司に相談してほしい」


「はい、ありがとうございます」


そのあとも男性、女性と双方に改善点はないか聞いてみたものの、現状に一切の不満は無いらしい。ただ、社内が狭く感じるとの意見が多くあったので、近々改装を行うかもしれない。




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