第6話〜思い出を洗い流せ!〜
馬車のお陰であっという間に街についた
アルバドの街、そう下水が整備されず汚くなってしまった場所
だが、川に流れている水は澄んでいた
「たった10年であそこまで酷くなるとはな」
「ゴミをポイ捨てするからだよ」
馬車を街の入り口に固定させ、街を見回る
自分達の居た時代と街はあまり変わらない
「あんまり良い思い出は無いんだよなー」
「イタズラされたしね」
「アリシアの場合一度ある事は何回でもあるさ」
ターリットは肩をポンと叩き、同情したような顔をする
アリシアは落胆しながら溜息をついた
「そんな思い出は、怒りに任せて忘れちゃいなよ」
「クエスト受けて魔物退治!怒りも吹っ飛ぶアル!」
酒場に赴き、クエストを見る
「ん?スライム?なんでい、こんな弱い奴誰でも倒せるだろう」
「何か書いてあるよ、『奇襲に気をつけろ』だって」
「場所は⋯⋯うぇ、あの下水道だよ」
リンは渋ったような顔をする
「でも、水は澄んでたしそこまで汚くはないと思うよ」
「これで決まりだな!スライムと忌々しい記憶を水と一緒に流してやる!」
ポチャン⋯⋯ポチャン⋯⋯
下水道の天井から湿気で溜まった水が零れ落ちてくる
足元も綺麗ではあるが水が溜まり足取りも悪い
バシャバシャと音を立てて、反響する下水道を歩いていく
「全く、スライムもこんな所に居座るなんてな」
「住人もスライムと舐めてかかったみたいね、みんな返り討ちにあって戻ってこなかったらしいわ」
「こ、怖いアル」
松明を点けているがいつ消えてしまうか分からない
一度消えれば湿気のせいで点け直すのは困難だ
ポヨン
「ん?」
「どうしたアル?アリシア」
「なんだか妙な音が」
ポヨンと弾むような音が木霊してくる
ポヨン⋯⋯ポヨン⋯⋯
その音は徐々に大きく近くなってくる
ポヨン⋯⋯ポヨン⋯⋯ボヨン⋯⋯
「来るぞ!」
アリシアは構える
剣を抜き、前方に注意する
⋯⋯⋯⋯⋯⋯。
先ほどの弾むような音が消え、下水道内は静寂に包まれる
聞こえてくるのは零れ落ちる水滴の音
「変だ、たしかにすぐそこまで近づいてきたのに」
ギルはその時、目の端で何かが動くのが見えた
その何かがこちらに飛びかかる
「ッ!アリシアさん、危ない!」
ギルは咄嗟の行動によりアリシアを自慢のカンチョーで吹っ飛ばす
「ぐはぁ!」
何かはアリシアが居た場所にダイブする
松明で照らされた何かは『スライム』だった
その体に落ちてきた水は蒸発する
かなりの高温なのだろう
「良かった、アリシアは無事みたいね」
「無事なわけあるか!また痛めてしまったではないか!」
「茶番は良いから、このスライムをナントカしないとアル!」
熱血スライム:スライムの中でかなり熱いスライム
その体は高温を発し常に赤く染まっている
実はどこかで、スライムを指導しているの
と言う噂の立つほどの熱血振りである
クエストの通り赤く染まった熱血スライムは水を蒸発させ、辺りを霧で覆う
「熱いし、何も見えねえ」
「とにかく冷やさなきゃ『メガアイス!』」
ターリットはメガアイスを唱えた!
氷により空気が冷え霧となっていた蒸気は水に戻る
そこには熱血スライムの姿も⋯⋯増えていた。
「なんか増えてる!」
「ターリット!まとめてやっちゃって!」
「ちょっと待ってよ!詠唱が短いとは言え、直ぐには無理よ!」
熱血スライムはアリシアの飛びかかる
ベチャッと音を立ててお尻に当たる
「あちゃちゃちゃ!」
尻から火を上げ近くの水溜まりで尻を冷やす
お尻は真っ赤だ
「アリシア囮になって助かるわ!もう一回『メガアイス』!」
ターリットは再度メガアイスを唱えた!
氷柱のように尖った氷がそれぞれの熱血スライムに降り注ぐ
突き刺さった氷がスライムの核にあたり、機能を失った
スライムはドロドロに溶け、水と一緒に流れていった
「クエスト完了っと!アリシア、思い出は流せた?」
「アンタのせいで余計な思い出が増えたわ!」
下水道を出たアリシア達はクエスト用紙を持っていき、報酬を貰う
宿屋に泊まるため、それぞれの部屋を借りる事にした
アリシアは尻を火傷したため風呂に入る際に苦痛の表情で入ったと言う