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家
僕が生まれたのは2030年。
これまでの17年間、特にこれといった苦労もなく、何不自由ない人生だった。
「ただいま」
「お帰り」
家に帰れば必ず母が返事をする。
3畳一間の僕の部屋。決して広いわけではないが、それでも僕はこれで満足だ。隣は弟の部屋。年子の弟は、僕が生まれた1年後に生まれたので、僕には1人っ子だった頃の記憶はない。
2人の部屋の前の廊下には、家族の写真が貼られている。僕が生まれる前の家族写真、お腹の大きい母親の写真に、僕が生まれて初めて母親に抱かれた時の写真、そして弟が生まれた時の写真。今までの人生の全てが、ここに年代順に並んでいる。これは僕の全てだ。この場所に来ると、僕がこの家の子であり、血の繋がった、家族という共同体の一員であることを自覚する。僕のアイデンティティはこの家に属している、そう思うことで、学校、習い事、他のどの場所で感じた嫌な思いをも和らげることができる。僕の精神が常に安定に保たれているのは、自分の居場所をここに感じているからだ。