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救われない世界  作者: 日辻
1章 始まりのクィヘール
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【1日目-7】兄妹と私、質問者と回答者

 ギルドに到着すると、青年は2階へ上がらず食堂と思しき場所へ向かっていく。落ち着いて話を聞く事を考えれば無難な選択だと思う。私はエマの家で食べてきたから、飲み物で済ませるつもりだけど。

 席についた私たちはそれぞれ注文をする。ウェイトレスが下がったあと、青年が私に向き直り口を開いた。


「小腹が空いててな。君――そういえば、名前を聞いてなかったな」

「ティアナ」

「ティアナか。俺はクラウス、隣は妹のライラ。それでティアナ、経緯を聞かせてくれるか?」


 それに頷いた私は、ギルドに向かう途中で男達が話していた声が聞こえてきた事から話し始めた。もちろんどんな内容だったかも。

 その後、すぐに私を囲うように近づき声を掛けてきたこと。漂わせていた酒の匂いから、全員がだいぶ呑んでいただろうこと。女の一人歩きは危険だからって家まで送ると言ってたこと。自分達の腕を誇らしげに語っていたこと。

 正直なところ、普通にあしらっても男達の雰囲気から執拗そうだったから、てっとり早く片付けるようと思った。まぁ酔ってる事もあるし、不意打ち気味でやれば何とかなるでしょって感じで、その自慢の腕ってやつを見せてもらうとか言って襲ってみた。その結果、男達は全員倒れたあたりで二人が駆けつけた。

 だいたいそんな流れ――いっぱい話したから喉渇いたな。

 二人はと言うと、途中までは普通に聞いていたのに、私が男達を逆に襲ったと言ったあたりで何故か頭を押さえたりしてたけど。


「あとは二人も一緒にいたから、特に説明はいらないよね」

「まぁそうなんだが…まず言わせてくれ。君は馬鹿なのか?」


 まったくいきなり人のことを馬鹿とは失礼な。そんな私の気持ちが表れていたのか、クラウスは溜め息をつきながら話してくれた。


「普通に考えて、女性が男4人に立ち向かおうとするのは無謀だ。たとえ相手が酔っ払いでもな」

「そうは言うけど、私から見たらあれが口だけの奴等だと分かった上でやったわけだし」

「だからといって、実行するのか? 一つ間違えれば逆上した彼らに捕まって、酷い事をなるのは目に見えているだろ」

「勿論。でも、それってお互いの力量がつりあっていればでしょ?」


 そう言って、私は微笑む。そんな私にクラウスは何を言っても無駄だと悟ったのか開こうとしていた口を閉じた。代わりに隣のライラが尋ねてきた。


「ティアナ。一つ聞きたいのだけど、貴女がその鞘を作ったあの魔術は何?」

「何と聞かれてもね。あれの何が知りたいの?」


 そう問い返してみると、ライラは少し考える素振りを見せる。今のうちに飲み物を…。

 その間に聞くことが纏まったらしい。ライラは再度口を開いた。


「まずは詠唱。聞いた事ない言語だったんだけど、あれはどこの言語?」

「私の故郷のだね」


 元の世界を故郷と呼ぶならだけど。


「なるほどね。それじゃこれが本命なんだけど、鞘を作る魔術――ううん、液体から物を創造する魔術なんて見たことも聞いた事もない。言いたくないなら答えなくてもいいけど、できれば教えて」

「教えてもいいけど、錬金術って知ってる?」

「れんきんじゅつ?」

「知らないか。例えるなら、剣は鉄で出来てるでしょ? その鉄って鉄鉱石という鉱石から抽出するんだけど、それで入手できるのは不純物を含んだ鉄でね。そのままだと脆いから、そこから更に炭素と呼ばれる成分を抜いてあげることで、鋼と呼ばれる鉄よりも強度のある金属を作れる。分かりやすくいうと、鉄の剣は切れ味が悪くて折れやすくて、鋼の剣は切れ味が良くて折れにくいってわけ。つまり鉄一つとっても鉄を構成している要素をいじることで、強度をあげたり逆に脆くすることができるのが錬金術――なんだけど、どうしたの?」


 教えてっていうから、分かりやすい例を出して説明してみたのだけど、途中から二人の様子がおかしい。


「あぁ、そのなんだ…ティアナがいう錬金術?というのがすごいのはわかったのだが」

「鉄が脆いだとか、タンソと呼ばれるものが何なのか、どうやってそれを抜くのか…疑問がいっぱいで、ね」


 二人はどこか疲れたような、そんな雰囲気を出している。


「そう。とりあえずさっきの問いへの答えだけど、簡単に言えば錬金術を魔術で応用したのがあの魔術だね」

「なるほど…。正直なところ、よく分からない部分もあったけど、それは私達の知識不足もあるのかもね。ティアナは例まで出して説明してくれたのだから」

「そう言ってもらえると助かるね。それでまだ聞きたい事はある?」


 私は改めて二人に問いかける。


「俺からは特に――いや、そういえばギルドに向かう途中と聞いてたな。用件は急ぎじゃなかったのか?」

「あぁそのことね。正直に言うけど、ギルドに泊まるからその帰り道だったの」

「それは何か、宿屋に泊まれない事情でも…いや、不躾な質問だった。すまない」


 私は肩をすくめて気にしてないことを示す。


「それじゃもう聞きたい事がないなら、私は失礼するよ」

「あぁ、貴重な話をありがとな」

「またね」


 私は二人へ軽く手を振って、食堂を去る。

 その際に、ウェイトレスを呼んで食堂で私が注文した物の精算は、ギルドの宿泊費に追加しておくように頼んでおく。もしかするとクラウスが私の分も出してくれる可能性もあるけど、借りを作るのもなんだし。


 さて、後はエリカさんに案内された部屋に戻る前に、依頼を見てみよう。エマに言った通り街中で済むようなお手伝い系の依頼をメインに。今となっては剣も手に入ったから、討伐系でもいいのだけど登録して初の依頼がそれって…。いや、いきなり乱闘騒ぎ?起こしてる私が言えた事じゃないか。忘れよう。

 そんな事をつらつらと考えながら依頼を眺めていたら、気になる依頼が。


◇     ◇     ◇     ◇


内容:店舗の手伝い

必須技能:魔術、算術

依頼者:モニカ = クルティス

備考:依頼の詳細な内容・報酬は依頼者と要相談

   依頼者の所在地は地図に記載

   

◇     ◇     ◇     ◇


 この依頼、よくギルドに認められたと思う。認めたギルドもだけど。依頼者の身元がはっきりしてるから? それとも実は著名人で、ギルドからの信用が篤いのか。

 なんとなく面白そうだと思った私は、この依頼の紙ともう一つの依頼の紙を持って受付へ向かう。

 そして、何事もなく依頼の受注が認められた私は、他にやり忘れがないか今日を振り返りつつ、部屋を目指して階段を上り始めた。






2017/1/7 改稿

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