【1日目-4】ひと時
しばらくしてエマが戻ってきた。そして、私の姿を見つけると笑顔で駆け寄ってくる。なんで好感度高いの。
「ティアナ待った?」
「そんなに待ってない。とりあえず登録は問題なかったのとギルドに泊まりたいって伝えた。あとはエリカさん待ち」
「そうなんだ、良かったぁ。ってあれ? ブレスレット忘れてない?」
たしかに。エリカさんの所に行こう。
「本当だ。ちょっと行ってくるね」
受付に近づく。
「エリカさん、ちょっといいですか?」
「ええ、何かしら?」
ブレスレットを外した私を見て、エリカさんはどこか納得した雰囲気。
「それを返却するのね」
「はい。エマからギルドに登録すれば、その場で返却できるって聞いたので。さっきまで忘れてましたが」
エリカさんにブレスレットを渡しながら言う。エリカさんは苦笑いしながら受け取ってくれた。
「たしかにそうね。けれど、あまりこのブレスレットを返却する人――できる人はいないから。知ってる人も多くはないわ」
「だと思いました。その点、エマに出会えて良かったです」
薄く微笑みながら言う私。
「そうね。用件はそれだけかしら?」
「はい。それじゃ大人しくエマと一緒に待ってますね」
エリカさんに手を振って、エマのもとへ歩き始める。
「…大人しく、ね」
エリカさんの呟きが聞こえた。信用ないな、当然だけど。
エマの元に戻った。
「ただいま」
「おかえり。無事返却できたのね。あ、遅くなったけどギルド登録おめでとう!」
「ありがとう。これで依頼を受けられるんだよね?」
「そうね。依頼を受けるのは下の階だから、帰りに寄ってみましょ」
どんな依頼があるのか。だいたいは内容で分類に分けられてたりするのだろうけど。
「依頼ってどんなのがあるの?」
「例えば、納品と討伐、護衛と調査なんかがあるわね。納品は誰でも受けられるもので、討伐や護衛は魔物や人相手の戦闘経験を考慮される。調査は誰でも受けられるのだけど、対象によっては制限が設けられる事もあるわ。他にも分類はあったと思うけど、だいたいはこの4つだし分からない時は聞くのが一番よ」
今更ながら、すごい初歩的な事聞いちゃってる事に気付いた。エマは普通に答えてくれたけど。
「なるほど。それじゃ私は簡単そうなものからやろうかな」
「それがいいと思うわ。街中で済む依頼とかもあるから、そうやって少しずつ街に慣れていくのも有りね。逆に納品でも街の外にあるものってなると、魔物とかに襲われる可能性があるから腕に自信がないとね」
「そうは言っても、腕を上げるためには多少危険でも外に出ないとでしょ?」
「それはそうだけど…」
外で活動する事を仄めかすと、エマはあまりいい顔をしなかった。ふむ?
「安心して。危ない事はしないから」
私が危ないって思わない範囲でね。
「ほんとに?」
「もちろん」
その言葉に一応の安心を得たのか、その後は街中での依頼について話したりした。
エマはお手伝いのような依頼をよくこなしているみたい。道理で道行く人から声かけられてたわけか。本人の気質も合わさって地域密着型の人気者といったところ。
そんな話をしていたら、エリカさんの元へ女性の職員の人が来ているのが視界に入った。エリカさんは話ながら何か渡して、その職員の人と入れ替わるように控え室の方へ歩いて行った。
そろそろエリカさんが言ってた時間みたい。その後は入れ替わった職員さんが受付の対応してるし。
その後は、仕事が終わり私服へと着替えたエリカさんと一緒に今夜私が泊まる部屋へと案内された。ちなみに3階にある。この階にあるのは主にギルド職員の為の部屋らしい。ギルドマスターの執務室もこのフロアにあるとの事。
「職員も使ってる部屋だから、掃除はしてあるわ。普通の宿みたいに食事とか洗濯のサービスはないから、それは自分でなんとかしてね」
「わかりました。少しの間、お世話になります」
エリカさんの言葉に頷きながらも無事、泊まれるところを確保できて一安心していた。だからか次の瞬間、私のお腹は可愛い音で鳴いていた。
「ふふ。そろそろご飯の時間だしね。二人が良かったら私の家に来る? ご馳走するよ」
私からエリカさんへと視線を移しながらエマはそう言う。
「嬉しいけど、エマは一人暮らしでしょう? 三人分って材料大丈夫なの?」
「えへへ、こうなると予想してさっき買いに行ってたの!」
なるほど。
「まったくエマったら。これで私達が行かなかったら、その分をどうしていたのかしらね」
そう呆れつつもエリカさんはどこか嬉しそう。たぶん、いつもの事なんだろう。
なんとなくこういうところもエマが好かれる理由なのかもって思った。
「ねぇエマ。今日のお礼ってわけじゃないけど、作るの手伝うよ」
「ティアナいいの? 人手があると助かるからお願いしていい?」
私の申し出にエマは笑顔で答えてくれた。
「私から言ったんだよ。だからいいの」
「良かった。それじゃよろしくね!」
そう言って機嫌良さそうなエマが先導する形で先頭を歩く。エマは何を作ろうかなとか何が食べたいか私達に振り返りながら聞いてくる。それに答えながら私とエリカさんは並んで歩いていた。
しばらく歩いていると周囲は住宅に変わっていた。