【1日目-2】ギルド訪問
エマとの食事が終わった。
収穫としては、お金に困ってるならギルドに行くのが早いって。
何のギルドかそれとなく聞いてみたら、不思議そうな顔で「ギルドはギルドよ」と言われたけど、ギルドが一つだけ? だって、職業組合だよ? それって大まかな分類だけでも冒険者、商人、職人、猟師(漁師)etc. とあるはず。
あぁ、もしかして――。
「ティアナ? 聞いてる?」
「うん、聞いてなかった」
ため息をつくエマ。
「…はぁ。どこまで聞いてた?」
「ギルドに行って登録、何か簡単な依頼を受けるのと滞在証を返却してくる。あとお金ないからギルドで部屋を貸してもらう。この街に滞在するなら、また会おう。そんなところ?」
今度は、むすっとした表情になるエマ。面白い。
「何よ、ちゃんと聞いてるじゃない」
「聞くだけならね。それにしても、ギルドで滞在証返却できるんだ? 渡された時は、この街にいる間持ってろ。出て行く時にここに返しに来い。だよ?」
「必要最低限のことしか言わないからね、庁舎。でも、ティアナが身分証すら持ってないって聞いた時は驚いたわ」
それに対して肩をすくめる。
「色々あってね。まぁなんとかなるかなって」
「なんとかって…。私と出会えたから良かったものの、一歩間違えれば犯罪者と間違えられてもおかしくなかったんだよ?」
犯罪者は身元を明かせないから、失くしたって言い訳するんだろう。
「だから、エマには感謝してるよ?」
「もう調子がいいんだから。それで、これからギルドに行くのよね?」
「そうだよ。エマはどうするの?」
「そうね、登録が終わるまでは付き合うわ」
身元保証人じゃないけど、そういう事? 助かるけどね。
「ありがとう。それじゃ案内よろしく」
「何気に人使い荒いわね…」
そんな事ない。無理難題を突きつけてるわけじゃないし。
「信用してるってことだよー」
今日あったばかりの人にここまで付き合うお人好しなところをね。
◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆ ◇ ◆
「あ、あれがギルドよ。と言っても、大体ギルドの建物ってどこ似たようなものだから、言うほどでもないと思うけど」
エマが指差す先にあるのは、三階建ての大きな建物。あぁ、これは。
「そうだね。私がいたところも似たような建物だったよ」
違うとしたら、詰め込んだところだけど。
「やっぱりね。この街はそこまで大きくないからギルドは一つだけど、大きな街や王都に行くと、何ヶ所かあるみたいよ」
つまり、冒険者も商人だろうと職人であっても一つのギルドか。管理が大変そう。
「さて、入って登録しちゃいましょ」
それに頷いて、エマの後についていく。
中に入ってみると思ったより人が多い。
「登録の受付は、上の階になるわ」
それだけ言って、エマは階段の方へ向かっていく。見た感じ1階は、依頼の受注や達成の受付なんだろう。
あと厨房が併設されてるみたいで、階段とは反対側からお腹を刺激する匂いが。さっき食べたばかりなのに。
2階に上がってみれば、だいぶ静かな印象を受ける。イメージでいえば、1階が冒険者ギルドで2階が商人ギルドといった感じ。
「この階は、資料室や依頼者との応接室があるの。依頼する時は2階、受ける時は1階と覚えとくといいわ」
なるほど。エマはギルドの職員も向いているんじゃ?
「それで登録はここ」
エマが案内してくれた受付にいたのは、黒い髪に翡翠色の瞳をした女性。
「あら、エマじゃない。今日はどうしたの? 何か依頼?」
「違うわ、エリカ。この子の登録をしに来たの」
登録?と呟きながらエリカという人は、私の方へ視線を向けてくる。
「はじめまして、エリカさん。ティアナといいます」
「初めまして、エリカよ。登録と聞いたけれど、貴女身分証になるものはお持ちで?」
「いいえ。持っていませんが、ないとダメですか?」
一瞬だけエマに視線を向けるエリカさん。
「ダメという事はないのだけれど。そうね、受付だと時間かかってしまうから、ちょっと部屋を借りて行いましょう」
「はい、お願いします」
「少し待っててね。準備ができたら呼ぶから」
呼ばれるまで近くの椅子に座る。エマも私の隣に座ってくる。
「大丈夫そうね。でも、ここから先は一緒にいけないから頑張って」
どう頑張るのか分からないのだけど。まぁ今回登録する内容が、この世界での私の身分になるのだから変なものにならないようにはしたい。
「時間かかるみたいだし、待ってても大変だと思う。エマも何かあるなら、そっちを優先していいよ」
そう言うと何故か目を丸くしたエマ。すぐに目元を和らげたけど、一体?
「それじゃお言葉に甘えてちょっと行ってくるわ。でも、用事が終わったら一度戻ってくるから、ティアナが先に終わってたら待っててほしいな」
どうして? 普通に帰ればいいと思うんだけど。
「え、どうして?」
「どうしてって、せっかく仲良くなったのに下手するとこれっきりじゃない? せめて、どこに泊まるとか知っておきたいなって」
「ギルドに泊まれって言ったのはエマだよ。だから、そのつもり。心配しなくてもエリカさんに聞けば、私がどうしたか分かるでしょ?」
「そうだけど…」
ちょうどそのタイミングでエリカさんが、私を呼ぶ声が聞こえた。
私は椅子から立ち上がりながら、エマに向かって口を開く。
「呼んでるし行くね、エマ」
「…いってらっしゃい。私も出来るだけ早く戻ってくるわ」
とそこまで急がなくてもいいんだけど、何がエマをそうさせるのか。
「わかったよ。じゃまたね」
手を振って、エリカさんがいるところへ歩いていく。