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救われない世界  作者: 日辻
1章 始まりのクィヘール
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【1日目-1】この出会いに

 滞在証なるもの――ブレスレットの形をしている――を受け取った私は、街の雑踏へと紛れることにした。


「これだけ? 普通、一日くらい軟禁してもいいんじゃない?」


 とは言え解放されたんだし、その緩さに感謝だね。さて、このブレスレットを付ける前にちょっと調べておこうか。


 ふむふむ? なるほど、そういうこと。

 マーカーの役割ってわけね。範囲は街より広いとか、何気にいいもの使ってるじゃん。

 そして、動力は着用者の魔力と。しかも、消費量は微々たるものだから、普通は気づかない。


 これ不審者用だね? やっぱりあの言い訳は通じないか。


「まぁいいや。どこに行こう? そういえば、何も食べてないからお腹すいたかも」


 無効化してもいいけど、本格的に追われる身になりそうだから却下。しばらくは大人しく付けて観光しよ。幸い、一度つけたら外せないって事はなさそうだし。


 あれ、待って。そういえば私お金持ってないよ? これじゃ食べ物一つ買えないじゃん。

 えぇ、まずはお金稼ぐところから? どこか仕事斡旋してくれる所ないの?



「おや、お嬢さん。こんな道端に一人立ってどうかしたのかい?」


 そんな事を考えていると、一人の男性が声を掛けてきた。


「あ、いえ…実はお金をどこかで落としてしまったようで、困っていたのです」


 お金落ちてないかな。 あ、落としてもらえばいいんじゃ?


「それは大変だ! 通った道は辿ってみたのかい?」

「えぇ勿論。ですが、見当たらないので、すでに誰かに拾われてしまったかもしれません」

「そうか…。可能性は低いが、庁舎に届いてるかもしれない。行ってみては?」


 庁舎? あぁ、さっきの役所っぽい建物の事かな。あそこに戻るのはいいけど、あまり関わりたくはないな。


「あぁ、その可能性がありましたか。まぁ期待は薄そうですね」

「そうだな。――おっと、そうだった…用事の途中だったんだよ。すまないがお嬢さん、これで失礼するよ」


 そう言って男性はすまなそうな表情を作るが、それは本心から? まぁいいや。


「いえ、お話を聞いて下さりありがとうございます」


 立ち去る男性。それを見送る私。



 ふむ、今の話を聞いて男性と共に動き出したのは数人か。そして、私の様子を時折見ているのが1人と。

 少なくとも、彼らに目をつけられたのはブレスレットを調べようと立ち止まった辺りからと考えていいね。じゃなきゃ話を聞いてすぐ立ち去ったりしないし。たぶん、どこかに落ちているだろうお金だか財布を探すんじゃない?


 そんなものないのに。笑っちゃう。


 美味しい思いをしようって魂胆見え見えで近づかれてもね。まぁ私を直接どうにかしようとしないだけマシな部類。それよりも、私のことを少し離れた所から見てる彼女も私に用があるのかな?

 あぁ、良い事考えた。彼女に、少しお金を援助してくれるようお願いしてみよう。ほら、私無一文だから。


 それじゃ落としたお金を探すフリをしながら、近くまで行ってみようか。そうすれば何かしら反応もあるかもしれないし。



◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



「うーん、どこいったんだろう。見当たらないな」


 だいぶ彼女との距離が縮まった。

 その間も彼女は近くの店頭に陳列されてる商品を眺めながら、横目で時折こちらの様子を窺っている。


 なんか私が近づいたことでさっきより落ち着きがなくなってるような?


 そんな事は表に出さず地面に視線を彷徨わせながら、表情は諦めと疲れを滲ませて。ちょうどいいところに座れそうな箱が。ちょっと休憩っと。



「ねぇ貴女、どうしたの?」


 へぇ? まさか彼女から声を掛けてくるなんて。


「え? あぁ、ちょっと疲れちゃって。休憩してるの」


 どうやって接触しようかなって考えてたところ。手間が省けて私嬉しいよ。休憩も嘘じゃないけど。


「そうなの? 実は声をかける少し前から、貴女が何か探しているように見えてね」

「あはは、見られてたの。 そうだ、お姉さん。良かったら少し私の話を聞いてくれる?」


 私に興味があるみたいだし、勿論受けるでしょ?


「いきなりね、でもいいわよ。それと貴女にお姉さんって言われるほど年違わないと思うから、良かったら名前で呼んでほしいな。私はエマ。貴女は?」


 名前、ね。なんて名乗ろうか? 名乗ったところで伝わるか謎だけど。


「エマね。私の名前は■■■■■」

「…えっと?」


 ほら、やっぱり伝わらない。なんとなくそんな気はしていたけど、これで確定。


「あぁ聞き取りづらかった? そうだね――ティアナって呼んで」


 そう言って私は笑ってみせる。


「わかったわ。ティアナはこの街初めて?」

「そうだけど?」

「だと思ったわ。ティアナみたいな子はこの辺で見ないもの。 あ、そうそう。話だったわね?」


 この辺どころか、この世界に本来いない人間だけど。


「うん。ただ休憩してても暇だし、そんなところにエマが話しかけてくれたのも何かの縁だと思うんだ」


 ついでにお願いも聞いてくれると、私は嬉しい。


「勿論よ。それで話って何?」

「ちょっと長くなるから、エマも座ったら? ほら、ここ空いてる」


 そう言って、エマが座れるスペースを空ける。


「ありがとう」


 隣に座ったエマがこちらを向いてから私は、記憶を探るように話し始めた。


「そうだね…どこから話そうか。あぁ、そもそもの始まりは私が街の外で――」



………。

……。

…。



「で、いい加減見つからなくて疲れたから、この箱に座ってたわけなの」

「そうだったのね。なんていうか…厄日なんじゃない?」


 エマは自分のことじゃないのに、少し声のトーンが下がってる。そんなエマに、私は口元に笑みを浮かべてこう続けた。


「そうかも。でも、こうしてエマに会えたし悪い事ばかりでもないなって思ってるところ」

「あら、嬉しい事言ってくれるわね」


 エマは私の言葉につられてか、穏やかな笑みを浮かべた。


「本当にそう思ったから。こうして話も聞いてくれたしね」

「誰かさんが聞いてって言うものだから」


 少し可笑しそうに言うエマ。仕方ないじゃん、考える前に話かけてきたのはエマなんだから。

 でも本当、よく最後まで嫌な素振りもしないで聞いてたよ。エマはお人好しなのかな?


「ありがとう。代わりと言ってはなんだけど、エマの事も教えて?」

「私の事? 大した事ないわよ?」

「いいの。私だって、今日みたいな事がなければ普通の女の子だから」


 普通の女の子って自分で言ってて違和感が。まぁ見た目は普通のはず。


「普通の子が道端で倒れてるかしら? それにお金を落としたり?あ、それは普通というよりおっちょこちょいね」

「ちょっと、エマ?」

「ふふ、ごめんなさい」

「それじゃ、エマの事を話をしてくれたら許してあげましょう」

「あら、それじゃ話してお許しをもらわないとね? えっと、何から話そうかな。そうね――」


 そうして、エマが何処か楽しそうに自分の事を話し始めた。

 私は時折相槌をうったり、気になった事を訊ねてみたり、驚いてみたり。それなりにいい聞き手だったんじゃないかと自画自賛。


 傍目には仲のいい女の子同士に見えてるのかもね? なんて頭の端で思いながらエマの話を聞いてるのだった。



………。

……。

…。



「それでね。今日は天気がいいから、好きなお店を巡って気に入った物を買ったりするんだ~って思ってたら、綺麗な子がいるから気になっちゃって目で追ってたの」

「そうなんだ? 綺麗な子って人目を惹くよね。だから目で追うのすごい分かる。んー私も見たかった」

「ふふ、その子は今私の隣にいるんだけどね?」

「うん?」


 この子は一体何を言っているんだろう?


「ティアナの髪って近くで見ると白いだけじゃなくて青みがかってるのかな? それなのに自然な色なんだもの! それに暗い緋色の瞳もすごい似合ってるし。ティアナってよく綺麗だねって言われない?」

「えぇ、言われた事ないかな」

「嘘でしょう?」


 嘘じゃない。それに私の髪色は黒かったから、たぶん“あれ”のせいだろう。魂を弄ったらしいから、その影響だと思う。

 いや、視界の端に白いものが見える時点で私も気づいてはいた。だけど、あえて見ないフリをしてきたのに。


 ちなみにエマの髪色はダークブロンド。瞳は明るい茶色で、こっちのほうが自然な色合いじゃない? まぁ世界が違うんだ。自然に感じる色の感覚が違ってもおかしくない。


「嘘じゃないよ。それに私からすれば、エマのブラウンの瞳とか落ち着いた色で好きだけどな」

「そんな事いっても誤魔化されないよ。それに、私のこの色はよく見る色だもの」


 たしかに行き交う人々の半分くらいは髪か瞳が茶色。つまり周囲に溶け込みやすいって事だね。


「それって安心感があるってことじゃない? 私の色はあまりにも余所者って感じで、見てて落ち着かないかも」

「う、うん。まぁそういう事にしておくわ」


――ティアナって自分の容姿が整ってる事に自覚ないのかな? もしかして、周囲が美男美女ばかりの環境で育ったとか? えっ、それじゃ実は貴族の令嬢だったり!? どうしよう、私変なことしてないよね?


 なんていうか、思ってる事を口に出しちゃってることに気づかない人っているんだなって。


「エマ?」

「え? あ、どうしたの?」


 少し慌てたようなエマに対して、苦笑いを浮かべる私。


「何でもないよ。それより、私おなか空いちゃって。悪いんだけど、何か食べされてくれると嬉しいな」


 少し申し訳なさそうに言う。特に他意はない。


「あぁそう言えばそうだったね。いいよ、そろそろお昼になるし何処かで一緒にご飯でも食べようか?」

「いいの? ごめんね、後で必ず払うから今回はご馳走になるよ」


 もう少しこのお人好しそうな彼女に付き合ってもらおう。さて、どこまで私のお願い聞いてくれるかな?






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