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救われない世界  作者: 日辻
1章 始まりのクィヘール
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【プロローグ】無邪気だからって無害じゃない

「僕は思うんだよね。どうして世界を救わなくちゃいけないのだろう? とね」


 目の前の“それ”はとても不思議そうに言う。


「世界が滅びそうだから、救って欲しい。いや、言いたい事はわかるし道理だよ。ましてや【管理者】たる彼らにとって世界とは自分の力の一端だ」


――だからこそ、毒に冒された自身を治してほしいと他者に願う。うん?自分で治せって?神が全て全能ならそもそも世界なんていらないんだよ。わかるかい?


 分からない。それに、答えになってない。

 そう伝えると“それ”は楽しそうに笑った。


「あはは、君は話を聞いてないようで聴いてるね? だから君を選んだのかもしれないなぁ」


 理由は知りたくもないし、知ったところで私はお前の掌の上なんでしょう? 早く用件を言って。


「おや、最近の人間はせっかちだね。それじゃ長生きできないよ? もう、そんな睨まなくてもいいじゃないか。僕は親切で言ってるんだよ――と、そういえば用件だったね!」



――君にはある世界を壊してきてほしいなって。やってくれるでしょ?


 なんで? そもそもお前がやればいいんじゃないの?


「至極まっとうな意見だねぇ。たしかに僕にとって世界を壊すのは、そこまで難しくはないよ。でも、僕が動くと面倒な奴も動く事になるからね。そいつの相手をするのが、なんと世界を相手にするより大変なんだよ!」


――なんて理由で納得するかい? え、他人に面倒を押し付けるな?いやぁ正論も正論すぎて、ぐうのねも出ないね!


 “それ”は巫山戯た調子を潜め、こう続けた。


「でも君も分かってるように拒否した場合、あそこに逆戻りだよ。まぁあそこにいたくなかったから、僕の呼びかけに応じたんだよね?」


――だからね、なんだかんだ言って君はやってくれると信じてるんだぁ。


 まったく。それで私にどう踊れって?


「ひどいなぁ。君が踊り狂ってる様を見るのは面白そうだけど、目的に向かって進む姿を見て笑い転げる趣味はないよ」


 そう言いつつも面白そうなネタを見つければ食いつくのでしょ?


「あは、分かる?」


 さぁね。それで、気が済んだならお前が壊したい世界について教えてくれない?


「おぉ!やっぱりやってくれるんだね! 僕は嬉しいよ!」


 嬉しそうにはしゃぐ“それ”。


「それじゃその世界について説明するよ。と言っても、基本的な世界観だけね! 詳しくは行ってから自分で体験するといいよ」


 そうだと思った。結局のところお前もそちら側ってわけ?


「おっと、そう敵意を向けないでよ。僕はこれでも親切なんだよ?それに体験に勝る経験はないからね! 教えるのは簡単さ、教わるのもね。でも君に課すものを考えると、それじゃあ不十分だ」


 はぁ、私も大人気なかったと思う。よければ説明を続けてくれない?


「いや、僕の不注意だったかな。先に言っておけば良かった。 よし、気を取り直して説明しようじゃないか」



………。

……。

…。



 つまり、私がいたところと対して変わらない、と?


「似てるってだけだね。世界として比べた時に、君がいた世界のほうが上だよ。そもそも、その世界は終わりに向かい始めてるから」


 それなら、そんな待たずに世界が終わるんじゃ?


「言い方が悪かったかな。全盛期を過ぎただけで、世界として後半戦に入ったばかり。つまり、あと億年単位か兆年単位かかることになるんだ」


――それに世界の終わりと世界が壊れるのは別だから。


 そんなものなんだ? あれ、そうなると壊すって終わらすより難易度高い?


「あはは、気づいちゃったか。でも、どちらも抑止力との戦いだからねぇ。人間からしたら、不可能レベルだよ」


 はいはい、そんな事分かってるから。なんとなく聞いただけだし。で、何か注意点ある?


「動じないねぇ。それだけでも、選んだ甲斐があったよ。っと注意点ね」


――抑止力についてでしょ。あとは【管理者】もだねぇ。他にも基本的に、上位の存在や概念には注意してね。


 と言った後に、少し考え込む素振りを見せた“それ”は、思い出したかのように言った。


――あぁそれと【リィラ(藤色の)トロプフェン()】に気をつけてね。


 藤色の滴? 


「ある系譜に連なる者達の総称かな。会えば分かるよ」


――系譜と言っても、血の繋がりは関係なくてね。どちらかと言うと、因子の繋がりかな。まぁ今は分からなくていいよ。


 そう? でも、お前が言うくらいだから私にとって脅威に成りうるのでしょ?


「そうだね。そう思ってくれていいよ。 うん、こんなところでいいかな?あっちでも基本的に元の世界と同様に力は使えるはずだから」


 それは助かるけど、普通世界が違えば理も違うし、元々の力は使えないはずじゃ?


「察しがいいねぇ。まぁ僕のお陰だと思っていいよ。詳しく教えてもいいけど、君怒らない?」


 さぁ。内容次第じゃない?


「えぇ、と思ったけど聞く前から分かるわけないか。 それじゃ言うけど、少し君の魂を弄りました。以上!」


 一発殴ってもいい? いや、十発くらい殴りたい。


「落ち着いて! いや、たしかに無断で弄ったのは謝るけど、そうでもしないと最悪君は世界に降り立った瞬間、死んでたかもしれないんだよ?」


――理が違うってことは、理から外れた“もの”は世界から弾かれるからね。それも抑止力の一つなんだよ。スタートラインで躓くわけにはいかないでしょ?


 はぁ、お前の質が悪いのはよく分かった。 今のうちに言わないと忘れそうだから言うけど、あっち行ってからお前への連絡手段ってないの?


「うん?それはどうして?」


 嘘はついてなさそうだけど、言ってない事いっぱいあるでしょ? だから。


「あぁ、そういうこと。ある事にはあるけど、すぐには使えないかな。けどまぁ、これ渡しておくよ」


 そう言って林檎のような果実を渡してくる。


「それは【イヴの果実】と言ってね、ってそんな苦虫を噛み潰したような顔してどうしたの?」


 これ、禁断の果実でしょ? いや、そうじゃなくて私に人間やめろって?


「あれ意外!これが何なのか知ってるんだ。 あの世界には記録は残ってなかったはずだけどなぁ」


――まぁ記録がなくても知る術はいくらでもあるから、おかしくはないけどね。


 それでこれを渡すってことは、そういう事でしょ?


「いや、君は人間のままさ。たしかにそれは【イヴの果実】だよ。ただし“本物”のね」


 私が知ってるのと違うってこと?


「んー、君の世界にあったのはレプリカなんだよ。僕が流したわけじゃないから経緯なんて知らないけどね。それで君が持ってるのは、正真正銘本物だよ。だって今僕が創造したからね」


 効果は?


「あ、うん。僕とのパスが出来るのと、潜在能力があがるよ。前者が連絡手段の代わりになるよ。ただパスが安定するまでは意識して使えないと思うけど。後者はおまけ!」


 そう。とりあえず、ありがと。


「いいってことさ。それじゃそれ食べたら送るね」


 今食べないとダメ? そう――意外に美味しい。


「うんうん! そう言ってもらえると僕も嬉しいね! どう?なんか変わった感じしない?」


 特には。 強いて言うなら、お前って本当に――■■■■なんだなって。


「面白い事いうね。最初にそう言ったのに。 それじゃそろそろいいかい?」


 どうぞ。


「じゃよろしくね!」


 はいはい。


 そして“それ”の姿が見えなくなり一瞬の暗転。






 目の前には草原、その先には街だろうか。外壁の門を馬車や人が出入りしている様子が遠目に見える。


 そして、後ろを振り返ってみれば、少し離れたところに森が広がり、私の立っているところまで道のようなものが続いている。そして、視線を前に戻せば道は街へと続いているのが分かった。


「たしかに似てるね」


 私の目の前に広がる風景は、頬を撫でる風も、空を飛ぶ鳥の囀りさえどこか馴染み深く。ここは本当に異世界なのか疑問に思う。


「でも、いいか。あの世界に似てるって事はそういう事と思っていいんだし」


 “あれ”は言っていた。世界は力の一端だと。


「とりあえず、街に行こう」


 私は街へと続く道を歩き始める。






――この日、一人の身元不明の少女が街を訪れた記録が残っている。


 本人曰く、記憶喪失で気づいたら街の近くで倒れていたと。若干怪しいところはあるものの、衛兵は相手が少女という事もあり、街の中心にある建物まで少女を案内。

 そこで少女は身体検査等を受け、職員からの質問に答え、ようやく危険な人物ではないと判断される。その後、発行された滞在証を受け取った少女は街中へと消えていった。






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