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救われない世界  作者: 日辻
2章 クィヘール 西の森
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【8日目-5】今は眠る

精霊との会話の表記を変更しました。

 精霊の言葉を借りるならライラは「殻」を破ってしまったらしい。殻と聞くと、卵の殻がすぐに浮かぶがそういう事だろうか?


《孵化したってこと?》

《察しが良いの。其方もあの娘をよく見るといい。何か気づかないか?》


 そう言われライラを見てみるが見た目は変わってない。では、ライラの何が変わっただろう――うん? 魔力が集まってる?

 

《小さき者達が集まっておるのが分かるかの? あれは一つの祝福みたいなものじゃ。生まれた雛に対しての》


 今度は私が目を見開く事となった。


《待って……! それって、つまりライラは……》

《あの娘もまた宿命を背負いし者という事かの》


 祝福。その種類は様々なものがあるけれど共通するのは、上位の存在から恵みを賜る事。


《そんな片鱗は……どうかな。ライラは私から見ても、潜在能力は高そうに思えたけど》

《おそらくは、旧い系譜の末端なのかもしれぬな》

《旧い系譜?》

《なんと言ったものかの。そうじゃな……、今よりも英雄と呼ばれる者が多かった古き時代。当時においても特に力が強かった者達がいてな、その血を継ぐ者は力を継ぐかのように時代を経ても大きな力を持っておった。勿論、その血が薄まれば力も薄まるのは分かるの? 永き時代を経て普通の者達と変わらぬ程に薄れても血は流れておるということじゃな。旧いと言ったのは、そういう事じゃの》


 簡単に言えば、英雄の血が流れていると。ただ最近のものじゃない。でも、そうすると今の時代のどれだけの者にその血が流れ薄まり広まっているか。考えるだけ無駄な気もする。

 それよりも――。


「祝福は……悪い事じゃない。ただあの状態、目覚めた力に意識が追いついてないってことか」

《目覚めた原因については考えぬのか?》

《なんとなく予想は付くのよね。だから後で確認すればいいかなって。貴方には他に聞きたい事もあるし》


 そう言って、私はライラへと向かう。クラウスはどうしたらいいか分からないのか、私のほうに視線で助けを求めていたし。


「何言ってたか分かる?」

「よく分からない。ただ単語を羅列しているようで、何か繋がりがあるような気もする。それでどうするんだ? ライラは大丈夫なのか?」


 それが問題だから困る。下手に手を出すと、何が起こるか分からないんだよね。念のために少し離れた距離で近づくのやめたけど。

 少し考えていると精霊が近づいてきた。何かあるのだろうか。


《我が見たところ、外へ向けた力じゃないのう》


 それは見た感じ、周囲に何か影響がないからそうなのかなって思ってたけど、精霊が言うならそうなのだろう。


《そう。思ったのだけど、力の根本は一緒だよね?》

《何をするつもりか――もしや魔力を?》


 私はそれに頷く。多少、荒っぽいけど確実な方法がね。


「《ちょっと離れててね》」

「大丈夫なのか?」

「近くにいると巻き込むかもしれないってだけ。ちょっと眠ってもらうだけだから」


 クラウスは何をするか訝しながらも離れてくれた。ある程度は信用してくれてるって事かな?

 精霊はというと、さっきまで側にいたのに姿が見えない。


《其方がやろうとしている事が想像通りなら、我が近くにいるとまずかろう?》


 流石、と言っておこうか。意志を持つとはいえ、魔力で構成された存在だからね。今は声だけを届けているのだろう。近くにはいないと思う。

 それじゃ少し気合入れますかね。詠唱に魔力を込め、捧げる。イメージするのは喰らうモノ。


《力を喰らう蛇よ。■■■■■が求める。飲み込め(シュルークン)


 そして現れたのはライラ一人を丸呑みできるほどの大蛇の影。ソレは現れたと同時にライラを喰らわんと顎を開き、ライラへと襲いかかった。

 

「っつ!!」


 それを見たクラウスが思わず飛び出す。

 大丈夫って言ったんだけどなぁ。まぁぱっと見、妹が大蛇に喰われるようにしか見えないよね。ただクラウスにも倒れてもらいたくないから、今は止めるけど。


風よ(ヴィント)纏え(ゲクラィディット)


 蛇のほうが先だろうけど、それにクラウスが巻き込まれるのは防ぎたい。だから、私は駆ける。大蛇を追うように、けれども真っ直ぐクラウスに向かって。


「ティア、ぐっ!」


 私に気付いて口を開いたクラウスに、体当たりをかます。

 女の体当たり程度じゃ止まらない? そうだね。でも、風を纏った私は言わば人間大の風の塊だよ。まともに喰らえば立ち止まるところか吹き飛ばされるのがオチじゃない?

 というわけで、クラウスは強制的に止めた。転がっているうちに終わるだろうから、それでいい。私はライラへと目を向ける。


 ちょうど大蛇が立ったままのライラを頭から呑み込んでいるのが見えた。とはいえ、本当に呑み込んでいるわけじゃない。その証拠にライラは立ったままだし、大蛇も頭が地面についたかと思うとそのまま地面を潜るようにして別の所――私の横へと顔を出したかと思うと、そのまま私を中心にクラウスを巻き込んで蜷局(とぐろ)を巻き始める。それにクラウスは声も出ないようだった。さっきは立ち向かおうとしたのにね? それだけ必死だったのだろうけど。

 そうしてライラの身体を覆っていた大蛇の影が消えると同時に、ライラは倒れ大蛇の蜷局は完成する。


《美味しかった?》


 私は大蛇に向けて声をかける。


《なかなかの味。でもヒトの魔力じゃ腹は満たされない》

《ごめんね。次はちゃんと食べさせてあげるから》

《期待している》

《ふふ、じゃ大きな獲物を用意しなきゃね。それじゃまたよろしく》


 それを聞き届けるようにして、大蛇の影は溶けるように消えていく。

 さてと、倒れたライラを安全なところで休ませないとね。


「クラウス、起き上がれる? ライラを運びたいのだけど」

「あ、ああ。大丈夫だ…一人で立てる」


 差し出した手は行き場をなくしてしまったけど、まぁいいか。私とクラウスは倒れているライラの元へ。


「傷ついた様子はないな。何をした?」

「何って魔力を奪って気絶させただけ。ほら、ライラを運ぶよ。抱える? 背負う?」


 クラウスは少し悩んでようだけど、ライラの太ももの裏と腰に腕を回し持ち上げた。ふむ、私がいるから両手塞がってもいいと思ってるのかな。抱えるか聞いたの私だけど。


《この辺に安全な場所ってある?》


 いつの間にか姿を見せていた精霊に訊ねてみる。


《そうじゃのう。ついてまいれ》

「とりあえず、安全なところ探すからついてきて」


 精霊の後についていく事にした私は、ライラを抱えたクラウスについてくるよう声をかける。頷いたのを確認して精霊へと向き直る。


《我の事はまだ言わぬのか?》

《落ち着いてからじゃなきゃ受け入れるのも理解も出来ないでしょ。ましてやクラウスには見えない存在だもの》

《そして、この会話も聞こえぬと……》

《それは貴方が最初に言ったことじゃない》


 それに対して少し唸るような精霊に少し苦笑しつつ、私達は森の中を進んでいくのだった。






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