【幕間】綻び
「皆様、聞いてくださいな。ようやく私の可愛らしい娘が一人前になりましたの」
彼女が虚空へと言葉を投げると、一人、二人と彼女の周囲に人影らしきものが次々と現れる。中には異形のものもいるが、多くは人型である。
「ほう。それはめでたいな」
「お前の娘というと…聖女の方だったか?」
「そうですわ」
「聖女ねぇ。あんたの事だから、甘やかして育てたんじゃない?」
「そんな事ありませんわ。あの子が立派に成長するよう幾多の試練を与えましたもの」
「そう?ならいいけど」
「まぁまぁ二人とも。それよりもユロ姉さん、僕の記憶が確かならもう一人いた気がしたんですけど?」
「あら、私の娘はあの子一人だけですわ」
「…そうでしたか、これは失礼を。それでいつ紹介してくれるのですか?以前その子を紹介してくれたと他の方から聞いてるんですよ」
「そうでしたわね。では、あの子が一人前になったお祝いも兼ねて改めて紹介致しましょうか」
「それは楽しみですね。一体どんな子なんでしょう――」
「あの娘っ子が一人前にのう。彼女によう似とるんで、最初は本当の娘かと思ったわい」
「確かに似ていたかもしれないが、今はどうだろうな。まぁ聖女として階段を上ったなら、凡その検討は付くが」
「そうじゃのう。それにしても、聖女とは如何にもじゃと思わんか?」
「ヨク爺、あんただって以前、賢者だったか?そいつを息子だと言ってただろ」
「…おぉ、そうじゃったそうじゃった。しかし、長く生きとると色々と忘れてしまって困るのう」
「あんたがボケるわけないだろ…っと、そう言えば――」
娘について彼女に聞く者、近隣同士で話す者、誰とも会話をせず佇む者。それぞれに違いはあるものの、この場に集まった者達は彼女――ユロミナと友好的な関係の者ばかり。逆に言えば、この空間に入れるのは彼女が許可したものだけ。
だから、部外者とも呼べる存在がこの場にいるとは誰も考えていなかった。