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救われない世界  作者: 日辻
1章 始まりのクィヘール
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【2日目-1】古道具店

 朝、目が覚めた私はしばらくぼうっとしていた――あぁ、なんて生活感のない部屋。ここどこだっけ?と考えたあたりで、自分がギルドの一室に泊まってた事を思い出す。

 掃除が行き届いてるとはいえ、この部屋に置いてある家具は私が寝ていたベッドと窓際の小さな机と椅子。扉の近くに上着掛けが一つ。大して広くない部屋とはいえ、これじゃスペースが有り余るというもの。とはいえ、いつまでも部屋の観察をしてても仕方ない。

 私は脱いでいた靴や上着を手に取り、出かける支度を整える。まぁ支度っていうほどのものもないけど。ベッド脇に立掛けてあった黒い鞘の剣も装着する事で、私の支度は終わり。


 部屋を出た私は、階段を降り2階へ。

 ちらっと受付を見てみると、エリカさんの姿は見えない。まだ来ていないらしい。とりあえず更に階段を降りて1階へ。


 1階についてみれば、朝という時間にも関わらず人が多い。受付に並ぶ人、テーブルで談笑しているグループなどが見受けられる。受付に並ぶ人は、住人らしき人から如何にも荒事に慣れていそうな風貌の人まで様々。こんな光景もギルドが一つだからこそ? これはこれでトラブル多そうだけど。


「あ、ティアナ!」


 フロアを眺めていた私は、聞こえてきた声に顔を声の方へ向ける。そこには予想通り、エマの姿が。隣にはエリカさんがいるあたり二人一緒に来たのだろう。

 

「ティアナ、おはよう! 早いんだね。昨日はよく寝れた?」

「おはよう、エマ。うん、よく寝れたよ。エリカさんもおはようございます」

「ええ、おはよう。私はこれから仕事だから、失礼するわね。エマ、またね」


 エマは朝から元気そう。そして、エリカさんは今日も仕事なのか。さすがに昨日の今日で休みがもらえる程、ギルドの職員は暇じゃないのだろう。

 そして、エリカさんはすれ違い際に。


「…あとでに私の元へ来なさい」


 と私にだけ聞こえる声で呟いて、階段を上っていった。やっぱり見逃してはくれないらしい。



「ところで、エマはギルドに何か用? 住人さんのお手伝い?」

「ティアナに会いに来たの! お手伝いはこれから行くわ。まだ時間があるからね」

「それはありがとう。今日はどこにお手伝いに?」

「雑貨屋さん。えっと、昨日ティアナと出会ったあたりにあるわ。良かったら後で来てくれてもいいんだよ?」


 それに対して、私は少し肩をすくめながら答えた。


「近くを通ることがあればね。私は今日、依頼をこなしてお金を稼がないといけないから」

「そうだったね。気にしないで、そっちの方が重要なんだし」

「ありがとう。それじゃ私はもう行くね」


 そう言って、私はギルドの入口へ向かっていく。


「え、ちょっとティアナ! もう行くの?」


 立ち止まり、エマに振り返りつつ首を傾げてみる。


「慣れない街だからね。早めに出ないと遅れちゃうかもしれないでしょ?」

「それは、そうだけど…」


 悪いかなとは思いつつ、私はエマに手を振って再び入口へ向かった。今度は呼び止められる事はなかった。




◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆   ◇   ◆



 ギルドから出て、しばらく街を歩いた私はようやく依頼者のいるという建物にたどり着いた。地図には街のどの辺りにあるか記されているだけで、途中からは道行く人に聞きながらなんとかって感じ。大通りに近ければここまで大変じゃなかったと思う。


【魔術古道具店 クルティス】


 それが今回の依頼者がいるという店。大通りから離れた立地、古道具店ということもあり周囲に人気はない。こんな場所で商売してるあたり、店主は趣味でやってるんじゃないかという。むしろ、教えてくれた人よく知ってたな。


 閑話休題(それはさておき)


 とりあえず依頼者に会うためにも、私は入口らしき扉に手を伸ばす。すると、指先が触れようかという寸前で、扉が内側に開いた。


「…おや、君は?」


 そして現れた女性は、一瞬目を見張った後、誰か尋ねてきた。


「ティアナといいます。こちらにモニカ = クルティスさんがいらっしゃると聞いたのですが」

「モニカは私だけど――もしかして、依頼の件?」

「はい、そうです」


 そう答えるとモニカさんは、なるほどと頷いた後。


「それじゃ依頼について説明しよう。どうぞ中へ」

「失礼します」

「ふふ、そんな畏まらなくてもいいさ。むしろ依頼を出してるのは私の方なんだからね。君は堂々としてるといい」


 ふむ、それはそうかもしれない。まぁいつも通りでいけばいいだろう。



 そうして扉をくぐって店に入ってみれば、一見何の用途に使われるのか分からないものから、装飾品や道具だと分かるものまで多種多様な商品が棚や机、壁や床に並んでいた。


「趣味の古道具収集が行き過ぎてね。置く場所に困ったのと、貯蓄が尽きそうになったから売りに出すことにしたのさ。ここに並んでいるのは大したものじゃないから惜しくはないんだが、これがなかなか売れずにね」


 それは、そうだろう。理由は色々あるだろうけど、まず店の宣伝と地図が必要だと思う。商品は悪いものじゃないんだから。


「商品の状態とか悪くないですし、お店の存在をアピールしてはどうです?」

「これでも知人友人に周知したのだが、それでは足りないと?」

「勿論です。もっと色んな人に周知しないと」

「…ふむ」


 モニカさんの知人や友人っていうのが、どれくらいかは分からないけど、もっと不特定多数に対してやらないと売れるものも売れないと思う。もしかして、依頼ってそれだったり?


「ところで、依頼について聞きたいのですが?」

「そうだった、すまない。商品が売れないのもどうしたものかと思っていたところでね。それについては君が言うような方法を考えよう。

 それで依頼の話だが――家の方に案内しよう。ここだと落ち着いて話もできないだろう?」


 モニカさんの言うとおり、この雑然とした店内では今のような立ち話ならいいけど、今から話す内容には適してない。私は頷いて、店の奥へと進む彼女の後を追った。






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