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一期一会  作者: 綿花音和
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読書と、音楽と、学びとの邂逅

 私は、クラスでは底辺にいたのだろう。

 空気が読めないだけではなく、他人のコンプレックスを意図せず刺激してしまうような奴がいれば、大人になった私でも仲良く出来るかと言われれば疑問だ。

  振り返って気付くことができる。これは、幸運なことだと思っている。


  人生で初めて、曲がりなりにも友達が出来た私は刺激を友人から受け続けた。友人の気持ちがわからないとき、解答に繋がるとは思えないが母が買った本を頭を捻りながら必死で読みストーリーを追体験していた。


 当時の藤棚小学校には、かなり充実した書物が配本されていた。室生犀星むろうさいせいや、若山牧水、宮沢賢治、子供にも味わえるように丁寧な注釈が付いた詩集もあった。全部の意味を理解することは出来ないが、とても助けられた。わからなくとも共感できる部分がある、これが白か黒しか判断の基準が持ちにくい私には救いだった。


 美樹ちゃんと有紀ちゃんは、かなり私に困らないように配慮して付き合ってくれた。グループ学習で組む相手がおらず困っている私に、他に彼女らのグループに入りたい取り巻きさんがいるにもかかわらず、すぐに気付いて仲間に入れてくれた。

 初めの頃はいつもなんでこんなに親切に接してくれるのか不思議で堪らなかった。今思えば普通に接してくれることこそが特別だった。

 今でも正解はわからないけど、あの宝物のような時間を思うと感謝の気持ちが沸いてくる。

 この優しい美人姉妹さんにはとりまきがいて、どうしてゴミみたいな存在の私に付き合っているのか納得いかず、嫌がらせをしてくる女子もいた。

 私は、自分がおざなりに扱われるのはどこかで不当だとまだ思う心があったので、無駄に言い返したりして傷を深くしてしまっていた。

 一番納得いかない点は、美樹ちゃんと有紀ちゃんの前ではきれいな笑顔を浮かべて近寄ってくるとりまきが、私には

「馬鹿でブスの癖にいい気になっているんじゃないわよ」

 と憎々しいという様子で憎悪を向けてくることだった。いい気になるという意味が当時の私には分からなかった。

 この頃になると、読書の成果かたくさんの失敗に揉まれたおかげか以前よりは他人の感情をなぞることが出来るようになっていた。

 ただ、一緒にいて楽しいから遊んでもらっているのに。それが、素直な私の感想だった。優越感というのはある程度自我が育っていないと持ちえない感情だ。そんなもの当時はなかったのである。


 もう一人の友達の詩織ちゃんは、もう少し距離が近くて私の駄目なところを指摘してくれた。自分の言いたいことを最後まで、遮られても言おうとしてしまう私に対して、

「ゆめちゃん。ちゃんと会話にも順番があるんだよ!今度は私の番」

 とちょっとおしゃまな顔をして諭してくれた。やっぱり本や想像では悲しいかな限界があったのだ。傷ついても他者と触れ合わなければわからない事が私の場合はあったのだ。

 詩織ちゃんの家では手作りのお菓子やご飯をお母様にご馳走になった。とても歓迎してくれているのがわかってやっぱり有難かった。


 会話の呼吸というのは一朝一夕に身につくものではない。特に性格が絡んでいる場合、強制するのは難しく苦しい。

 それでも、私は徐々に詩織ちゃんと同じ景色が観たいと望むようになっていた。

  この難しいことをたくさん知っている素敵な友達と会話のキャッチボールがしたいと思うようになったのだ。


 私は、母が与えてくれた通信教育の教材を百パーセント活用して予習と復習をするようになった。自宅はテレビも見せてもらえないし、することがなく手持ち無沙汰だった。

 そのせいか勉強が面白くて興味深かったのだ。それから、勉強するために整理整頓をするようになった。自分のわかる所に物があるということの、便利さを知った。


 母は目に見えて変わった私の部屋のようすにかなり驚いたようだった。

「よく頑張ったね」

 と珍しく吹き出した。

 なんで吹き出しながら泣いてるのか、当時の私には知る由もなかった。それほど母の不安は深かったのかもしれない。


 勉強と読書と音楽、そして友達の優しさが私を絶望させないで前に向かわせてくれた。

 それは、父が働いて教育費を捻出し母が厳しく私に接し続けてくれたおかげかもしれない。















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