第二十五話「青春に幸多かれ」
第二十五話「青春に幸多かれ」
団体戦トーナメントのベスト四までは危なげなく勝ち進んだアイ校チームだったが、ここで一チームが消えることになる。
「あららー」
「去年のデータ見ると、『運良く』決勝まで二チームとも残ったみたいだけど……」
「まあ、毎年と言わず、あるみたい」
『準決勝第一試合、レッドコーナー、国立特殊歩行重機操縦士訓練校Aチーム! ブルーコーナー、国立特殊歩行重機操縦士訓練校Bチーム!』
各チーム四機、見慣れたひなぎくには、コーナーカラーのチームゼッケンが前後に貼られている。
試合前から分かっていても、なんとなく残念そうな雰囲気が、観客席には漂っていた。
トーナメントでは勝ち進めばいずれ当たることになるわけだが、シード制が導入されていない場合、それこそ一回戦から自校チーム同士がぶつかることも、なくはない。
さて、これをもったいないと思うか、それとも神のみぞ知る公平な抽選の結果と見るかは、意見の分かれるところだろう。
無論、複数チームを出場させている学校は他にもあるので、うちだけが割を食っているわけじゃない。
基本的にアイ校は、出場チームや選手の数を自主的に制限している。
この春季大会であれば、二年三年から一チームづつだ。夏と秋は、一年生も加えた合計三チームとなっていた。
「どっちも頑張れ、としか言い様がないな……」
スペシャルパフェの件はともかく、それぞれ世話になっている『先輩方』である。
しかも腕前は、これ以上ないほど放課後の特訓で知っていた。
さあ、何を見せて貰えるのか……。
『……三、二、一、試合開始!!』
開始直後、両チームが二機ごとのコンビに分かれた。
正しくは、四天王が二機プラス二機に分かれた事を受け、即座に三年生が反応していたのだが、連携はチーム戦の基本ではあるものの、この分け方は変則的でもある。
校内で行われた戦力分析では、三年生チームはエースの麻生会長を中心とした超攻撃型、故に予想では、チームメイトの援護下で麻生会長が突撃、二年生の一機をまず確実に潰しに行くだろうとの意見が多かった。
一機潰せば戦力は二十五パーセント減、反撃は格段に難しくなる。現に、昨日の予選も今日のトーナメントも、同様の試合展開で圧勝を重ねていた。
それに対して、二年生チームは『四人で一機』――流れるような四機連携を評価されていた。『四人で一人前』と笑い話にされていたのも、四天王と呼ばれる実力があってのこと、同級生らの揶揄は期待と友情の裏返しだ。
しかし、連携こそ良いが、一年の差はそう簡単に埋まるものではない。三年生に比べれば、まだまだ小さくまとまりすぎていると、桜自身が口にしていた。
「お!?」
「うわっ」
その桜と斉藤先輩のコンビが、麻生会長を含むコンビに当たったようだ。
わずか数手で防戦一方に追い込まれ、連携を切り崩される。
二機連携は、死角を補うのにも、攻撃の転換点を作り出すのにも優れていた。一機では難しい状況を、二機によって作り出すのだ。
無論、それはお互い様だが、三年生チームは二対二から一対一の状況を作ろうとし、四天王がそれに抵抗している。
「すごい……」
「一対一なら麻生先輩、最強だもんね」
「桜先輩もよく凌いでるけど、ちょっと厳しいかも」
三年生チームの狙いは、とにかくエースの麻生会長を一対一の状況に持っていけるように尽力すること、それに尽きる。
必勝のパターンは、これまでと変わらないのだと気付いた。
「あ、分かった」
「七海!?」
土師がびしっと、競技場を指さした。
「四天王が二機連携の二つにしたのは、麻生会長を押しとどめるのに一機では足りないから、かな」
「そりゃ、麻生先輩はねえ」
「二機で足止め、残りのコンビの勝ちを優先して、あわよくば四対二か、可能なら麻生先輩対四機の状況に持ち込もうとしてるんじゃないかって思う。ほら、桜先輩と斉藤先輩、防御優先で攻撃はほとんど国見先輩に集中してる」
国見先輩は麻生会長の僚機で、俺が一度も勝ったことがない相手である。……現在試合中の全選手に勝ったことがない、とも言う。
「でも……」
「言いかけは気になるって!」
「七海!」
「……アイリーン先輩達の方を見ていれば、すぐに分かる」
「そっち!?」
だが、土師がそれを口にしてから三十秒とたたないうちに、アイリーン先輩と和倉先輩が大破、四対二の状況になった。
連携か、個人技か。
僅かに後者が上回ったようだ。
こうなってはもう、四天王に勝ちの目はない。
辛うじて国見先輩を大破に持ち込んだが、勝利は三年生チームが勝ち取った。
兵どもが夢の跡、表彰式を眺めつつ、今日見たもの感じたものを振り返る。
「流石に全競技全勝は無理……っていうか、専門課程はうちと同じぐらい環境の整ってる学校もありますから」
「受験の時迷った程度には、条件もいいですしねえ」
団体戦はそのままの勢いで決勝を制したアイ校三年生チームの優勝だったが、個人戦は他校の三年生が栄冠を手にしていた。
プロのライセンスを得る条件を十分に満たしていても、高特連の競技会を優先する為に、卒業までライセンス取得を先送りする生徒さえいるそうだ。
競技レベルの底上げにも一役買っており、上位層は俺の想像以上にレベルが高いようである。
上手い選手は皆、プロかその予備軍として活動しているのかと思っていたが……いや、それこそ麻生会長をはじめ、全員ってことでもないのか。
「もちろん、アイ校一強じゃないのは、私達みんな、知ってますよ」
「それに、先輩達が強くても、一年生のあたし達まで強いわけじゃありません」
「ふふ、これから、強くなっていくんですよ!」
そう笑うクラスメート達に、幸多かれ。
目指す先の壁は分厚く高いが、目標が高くて悪いはずがない。
桜達四天王も、しばらくは落ち込んでいたようだが、すぐに『夏はぜったい勝つから!』と、気炎を上げていた。
「後藤さんも、強くなるんですよね?」
「そりゃ、もちろん」
八重野宮に、悪戯っぽく笑いかけられる。
……俺も、負けてはいられない。
それこそ、本気で競い合う楽しさを味わうと同時に、『青春』してもいいのだ。
▽▽▽
「というわけで、届いたよ、後藤君期待の機体。……なんちゃって!」
会場の後片付け後に、行きよりも多い荷物を詰め込まれたファルケンでアイ校に戻れば、堀口主任が俺を待ち構えていた。
ぽんぽんと、堀口主任がダークブルーの機体――登録名『サフィールG』を叩く。
トーヨドSC-P二一八『サフィール』は、姉妹機のリュビとともに、プロフェッショナル事業部の小型競技用機の主力を為す機体である。
全高は二・六メートルとひなぎくより高いが、デザインはすっきりとしていてほぼ人間型、ライジンに近いシルエットだ。
コクピットはかなり狭く、フウジン同様に俺がぎりぎり収まるサイズである。
基本性能は中庸ながらスピード型、オプションも豊富だが、俺自身の経験値が低すぎて選手としての方向性さえ定まっておらず、色だけは以前支給されたEROスーツと同じ色をお願いしたが、Gリミッター関連の改造のみ施された素の機体を頼んでいた。
「無理に急がせたみたいで、すみません」
「え、Gリミッター仕込んだだけだし、大したことしてないわよ。プロ用って言っても、量産機は在庫もあるし。もう一つ上の『ディアマン』でもよかったんだけどね」
「いやいや……」
ディアマンはフラッグシップ製品であり、カタログスペックと本体価格と維持費用は、完璧にリュビ、サフィールを上回る。
絶対に使いこなせない、とまでは言わないが、ライジンやフウジンが本格的な稼働状態に入るまでの『繋ぎ』に、そんな高価な機体は気を遣いすぎるだろう。
……そうでなくても目立つ男性操縦士で、アイ校の生徒にしてプロチームの育成選手、将来はライジン専属が確定と、話題に事欠かない俺である。
デビュー早々から機体差で悪目立ちするのは、あまり嬉しくない。
「あ、明日の代休は、うちに付き合ってね。試合、選んでおいたから! 平谷コーチも来てくれるわ」
「はい、よろしくお願いします! もう動かせますか?」
「ええ、もちろん!」
練習場は使えないが、せめてクレードル上で、動作の確認ぐらいはしておきたい。
ほぼぶっつけ本番だが、ゴールデンウィーク中に機体が届けばこうなることぐらいは、予想していた。
だが、今日の競技会の熱気は、俺にも高揚をもたらしてくれたわけで……。
「サフィールG、起動します!」
せっかくの初戦。
勝ちたいと、本気で思った。




