壊れたノート
壊れたノートの上に
幾百匹の黒い虫がいた
並んで
流れて
白くも黒くもない紙面
誰かが
何処かが
そこにあったのだが
食われて
破れて
虫たちは逃げ惑う
あてもない動きに
ノートは揺れ
空っぽ
空っぽ
空っぽな紙の上
這いずり回った跡が
薄く刻まれた
ペンから飛び出すのは
羽の残骸と
糸屑のような足
どこに消えたのか
虫たちは
そこからここへと
鳴きもせず
羽ばたきもせず
ペン先にも
紙の裏にも
いやしない
おお そうだ
途方もなく大きな
それでいて
気まぐれな紙の底へ
食われたのだ
誰かが
何処かが
滑らかな紙面を
踊っていたのだが
今じゃ
壊れたノートが
机上にあるだけだよ