それでも私はやってない!
薄暗い、鉄格子に金網が張ってある部屋。鈴木は、ぼろいパイプ椅子に座らされていた。机の上には、スタンドライトが1つ。このライトには、LEDが使われていない。たしか、白熱電球という名称であっただろうか。未だに、こんな、メーカーが既に生産停止しているような黄色の光源を使っているような団体が他にあるだろうか。電球は旧態依然を照らしていた。
「何度も言っているだろう。私は、運転席で寝ていたんだ! 私は運転なんかしていない」
鈴木は、両手で、薄汚い机を両手で叩いた。
「鈴木さん、そろそろ本当のことを言ってくださいよ。あなたが運転していたんでしょ? 」と、50過ぎの鋭い目付きの警察が言った。
取り調べ担当のこの男が、アロハシャツでもを着て、繁華街を歩こうものなら、通行人はこの男をヤクザだと思い、道を空けるだろう。声も粘着的で、彼の声を聞いた後は、耳の中に水が入っていくような、そんな気持ち悪さが残る。
「だから、もう何度も言っただろう! 私は運転をしていなかったんだよ! 」
「いつまでそんなことを言い張るつもりですか? そろそろ、もう取り調べも5時間になります。私も、こう見えて忙しい身なんですよ。そうだ、鈴木さん、お腹が空いたでしょ? カツ丼でも注文しましょうか? 」
取り調べの男は、右唇を吊り上げて、下品に笑った。
空腹の時は何を食べても、やはり旨い、と鈴木は思った。品の悪い男が私の顔を見ながらニヤニヤしているのが目障りであろうとも。
『ねえ、鈴木さんは、ロボット三原則というのを知っていますか? 「第一条 ロボットは人間に危害を加えてはならない。また、その危険を看過することによって、人間に危害を及ぼしてはならない。」という、鉄の掟があるんですよ』
「それくらい私は知っている」と鈴木は答えた。
「そうですか。いやね、私が言いたいのはね、車の自動操縦も、この原則に基づいて動いてるってことです。分かりますか? 鈴木さんが運転していないのだとすると、自動操縦の車が人を撥ねたということになるんです。そんなことがありえると思いますか?」
「それが起こったということなんだよ。私は本当にあの時寝ていた。衝撃を感じて飛び起きたんだ」
「誰がそんなことを信じますかね? ロボットは人に危害を加えられないし、車の自動操縦で人が撥ねられるなんて、ありえないんですよ。安全神話って、壊れることがないから神話なんですよ。そろそろ、正直になりましょう。楽になりましょうよ」