第一の罰 ~崖~
「くっ……はぁっ」
今、どこにいるんだろう……。
かなり登ったはずだ。
風がビュウビュウと唸っている。私を落としてやろうとしているのか、風が吹き荒れる。
手と足もすでに限界をこえている。
機械のように手足を動かさないといけない。
「ぐっ……!?」
出っ張りを掴んだ左手が滑った。
パキン、と爪が割れた。割れ目から赤い血が滴った。
だが、手を止めず進む。上に上に。
あぁ、爪が割れるのはこれで百をこえた。でも、もう慣れた。なぜなら私の体は死ねない。何度でも再生できる。
すでに、三回この絶壁から落ちているのだ。
思い出すだけで背筋が凍る。
一度目はかなり始めのほうでだ。今思うと意外と低い場所だったから、両足の骨折だけですんだ。
骨の折れる音が聞こえ、激痛が走った。手首を切ったときとは比べものにならないぐらい。
足はおよそ二十分ぐらいで再生した。
驚いた。
二度目は一度目より低いところ、足がまだ完全に操れなくて落ちた。怪我も一度目よりましだった。ただ皮膚が裂けただけ。赤が飛び散っただけ。ただ、それだけ。
三度目は思い出したくもない。
とてもとても高いところ、今私が登っているところより少し低いぐらいの位置で手を滑らした。
落ちたときにこれまた運悪く、岩肌の鋭く尖ったところで腕を深く切り裂いた。そのままバランスが崩れ、体をやすりの様な岩肌で削った。
固い地面で体を強く打ちつけボキボキと体中の骨が砕ける音が響いた。
肺に骨が刺さり、血が流れ込んだのか呼吸をするたび、水で溺れているような音が出た。
内臓もいろんな骨が刺さり、突き破り、グチャグチャになった。
眼球の毛細血管も千切れ、視界が赤に染まった。
激痛で叫ぶが、少しでも体を動かそうとすれば、骨 が軋み皮膚が破れ血が噴き出た。
生温かい血が私を浸した。
それでも意識ははっきりとしている。死ぬこともできない。
苦痛に耐えながら、数時間たった。
体は再生した。そして、再生するときにも鋭い痛みが走ることにも気付いた。骨が、肉が、血が、元の位置に戻るたび、痛みで体が痙攣した。
それから、しばらくして動けるようになると私はまた登り始めた。
次は落ちないように、慎重に、慎重に……。
左手、右手、左足、右足をただ、動かして動かして動かして……。
そして、やっとここまで登った。
まだ上は見えない。
登る度にパキパキと爪が割れる。爪が剥がれる。腕 や脚の皮膚に赤色の線が走る。
そして、また塞がる。
これを繰り返し繰り返し繰り返し……。
狂ってしまいそう。
ーーーーー
何度も何度も同じ動きを繰り返してやっと見えてきた頂上。でも、豆粒のよう。まだ登らなくては……。