表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
南条翔は其の狐の如く  作者: つゆのあめ/梅野歩
【余章】其ノ妖、其ノ人
94/158

小噺:狐さんと素敵な恋日和

リクエストが多かったので、翔とギンコで素敵な休日話。



「本当に一人で大丈夫? 何ならお父さんに電話して早く帰って来てもらうように言っても」



「大丈夫だって。何かあればメールをするから、早く行ってきなよ。近所のママさん達と料理教室の後に飲み会なんだろう? 俺のことばっかり構っていても鬱になるだけだよ。いや、本当に大丈夫だって! 起きとく、母さんが帰ってくるまでどうせ眠れないんだ。そういう体質になってしまったことは母さんだって知っているじゃないか。起きとくよ。ん、じゃあ、いってらっしゃい」



 ばいばい。

 玄関先で手を振っていた翔は、後ろめたそうに自分を一瞥する母の背を見送ると大きく脱力。「や、やっと行ってくれた」疲れたと嘆息し、リビングへ向かうために踵返す。


 彼、南条翔が妖の器と呼ばれる半妖になって早三ヶ月。そして妖狐に成熟して早二ヶ月が経った。

 完全な妖となった翔は神主見習いとして、受験生として多忙な日々を過ごしているのだが、一方で家庭に配慮を設けなければならない。それは一ヶ月間、形代に自分の身代わりをさせてしまい、両親を心配させてしまったためだ。


 両親は一ヶ月間、最愛の一人息子が謎の意識障害を起こし、眠りに就いてしまったことを今も気にしており、過度に翔に構う。


 干渉的になったと言った方が良いだろうか。

 翔にとっては非常に心苦しく、肩身の狭い思いをする環境なのだが、両親を心配させたのだ。我慢するしかないと思っている。目覚めた振りをして人間界に戻って来た翔は父母の涙を目の前にしているのだ。煩わしいなど到底思える筈もなく、両親と過ごす時は従順となっている。

 思っているそばからメールが届く。父からだ。母が飲み会に行くことを知り、なるべく早めに仕事を切り上げるよう努力するとのこと。翔としては自分の時間を有意義に過ごすのでごゆっくりどうぞ、である。


 スマホをテーブルに置き、翔は深い溜息をついた。

 テーブルの上に並べれている夕飯にまた溜息。留守番をさせてしまう罪悪からなのか、高そうな寿司が取られている。これならばコンビニ弁当の方がマシだ。嗚呼、親の気遣いが重い。


「ちょっと前まで放任主義だった親が、これだもんな……はあ、自業自得とはいえ困ったな。この気遣い」


 大好物の稲荷寿司が入っている寿司桶を一瞥し、後で食べようと肩を落とす。

 しかしすぐさまかぶりを振り、「今日は休みだぞ」目いっぱい休日を楽しまないと! 翔は両手で拳を作った。

 そう、今日は学校もなければ神主修行もない。まったく予定のない一日なのである。体育祭の振替休日を設けられ、平日にもかかわらず学校は休み。本来ならば一日たりとも休めない神主修行も、先日の騒動でおばばが比良利に強制的な休みを設けるよう命じた。


 さて騒動という物の言い方も大袈裟だが、先日のそれについて少しばかり説明したい。


 翔は妖狐となってから昼夜逆転。朝昼は人の世界で受験生として学生生活を送り、夕夜は神主出仕として北の神主直々に修行をこなす。非常にハードなスケジュールをこなしている。自分で決めた道ゆえ、当然のようにこなしているのだが、無茶なスケジュールはどこかで歪みがくる。

 例えば高校の学期末テストと神主修行が重なってしまったとか。例えば学期末テストに集中し過ぎて、神主修行で然るべき課題をすっぽかし比良利にこっ酷く叱られてしまったとか。例えば罰として一晩中走り込みを強いられてしまったとか。例えばその翌日は朝からテスト一日目だったとか。例えば毎日のように徹夜でテスト勉強をしては自室で寝てしまっていたとか。


 それらが面白いように重なった時、本人の許容範囲が超えてしまうのである。


 先日、学期末テストと神主修行が重なり、見事に己の許容を超えた翔はテスト終日の夜に倒れた。

 その日は神主舞をする予定で、神職を携わる者達の前で日月の神主舞を披露することになっていた。


 しかし、披露する前のリハーサル中に翔は意識を失い喪心。高い熱を出して目を回してしまったのである。

 医者を呼んで診察した貰った結果“過労”だと診断を下され、事細かに最近の日程を聞かれた。正直な性格をしている翔は嘘がつけず、医者に有りの儘の日常を話す。

 すると医者から「何をどうしたらそのように体を酷使できるのですか!」こっ酷く叱られてしまった記憶は真新しい。

 また寝る間もなく勉強や修行をしていたことがばれてしまい、おばばのカミナリが落ちたことも鮮明に覚えている。対であり兄分の比良利でさえ血相を変え、「ぼん。何故わしに相談せぬ」頭を抱えられた。青葉に泣きそうな顔で怒られたこと、可愛いギンコに以下省略。


 皆から叱られてしまい、翔は身を小さくするしかなかった。

 ただでさえ妖に成熟して一年も満たない世間知らずの妖狐。神主として就任するには未熟すぎる。が、妖達は十代目就任を期待し四月に向けて準備を始めている。ならば皆の期待に応えるため、妖を先導するため時間は一分一秒惜しいのである。

 勿論、人の世界の生活をやめるつもりもないため、受験生としても頑張っていきたい。欲張った結果がこれである。

 つらいと言えば、人の世界やその生活を捨てろと言われかねなかったのだ。それだけは避けたかったので、弱音も吐かずにこなしてきたのだが裏目に出てしまった。


 一件により、やはりおばばや比良利に人の生活は諦めるべきではないかと促された。

 百年は人の世界に身を置き、そこに生きる妖達の生活を知りたい翔は嫌だと駄々を捏ねたが、『夜行性の妖狐に人の暮らしは合わないよ』おとなしく妖の世界に身を置きなさいとおばば、「ぼんは妖を統べる時期頭領ぞよ」妖の皆を心配させるような真似は好ましくないと比良利から説教をされてしまう。


『人は朝昼に行動を起こす生き物。わたし等とは生活が違うんだ。両立は難しいよ』


「ぼんの理想は分かる。じゃが、人の世界に暮らしを置かずとも、妖の世界から人の世界に身を置く妖達を見守ることはできる。主は神主としてやるべきことが多いのじゃ。本就任後は妖の世界で暮らすことを勧める』


 仕舞には青葉とギンコに来年の四月から“妖の社”で共に暮らそうと言われてしまい、翔は窮地に追いやられてしまう。嬉しい申し出だが、夢は捨てきれない。

 そこで翔は次に倒れたら申し出を受け入れると約束を結び、今回は見逃して欲しいと何度も頭を下げた。次回倒れたら、皆の言うことをちゃんと聞く。だから今回だけは!

 こうして翔の主張は皆に呑まれ、無茶なスケジュールを組む前に比良利と相談をする。次に倒れたらおとなしく妖の世界で暮らす約束を交わした。

 やれやれ、どうにか乗り切った。翔はホッと胸を撫で下ろし、事を幼馴染達に話すのだが、これまた彼等に無茶をした行為を咎められてしまうのは余談にしておく。



 これが騒動の全貌である。



 過労と診断された翔は今しばらく神主修行を休み、体をいたわることになった。

 おばばに勉学すら禁じられたため、翔は久しぶりに休日を家で過ごそうと思い立ち現状に至る。丁度、父母が不在となるため一人で有意義に家で時間を過ごすのも悪くないと思ったのだ。朝昼はゆっくりと睡眠をとり、正午過ぎからのそのそと起きて自分の時間を過ごす。なんて贅沢な!

 両親のことが気掛かりではあったが、翔は彼等の迷惑にならないようにすればいいと考え、今から何をしようかと思い悩む。


「神主舞は家じゃできないし、ここは薬草、いや術の……だめだめ。勉学禁止だろ! なんでそっちに頭を持っていくんだよ!」


 すっかり頭が神主修行となってしまっている。

 受験勉強でもするべきだろうか。そうは考えてみても勉学禁止には変わらず、翔は悶々と悩む。

 「まあ家には誰もいないし」テレビを観る気分でも、ゲームをする気分でもない。受験生として少しばかり勉強をしても罰は当たらないだろう。翔は周りに人がいないことをいいことに、早々におばばとの約束を破ることを決意。自室に入り、勉強机に着いて教科書に手を伸ばす。


「英語が弱いんだよな。センターは受けないけど、受験科目は国数英の三つ。どっちにしろ英語は必要だからな。えーっと電子辞書は何処にやったかな」


 通学鞄をひっくり返し、電子辞書を探しているとツンツンと右の脇腹を突かれる。

 そちらに目を向けると狐が電子辞書を銜えていた。「あ、これこれ」ありがとうと受け取る翔だが、目前の銀狐に石化。頓狂な悲鳴を上げてしまう。


「ぎ、ギンコ! おま、なんでこんなところに!」


 クオンと鳴く銀狐のことギンコは尾で窓をさす。

 あそこから入ってきたのだと得意げに鳴く銀狐だが、翔の住むマンションは七階である。おおかた、妖型で空を翔けてきたのだろう。

 自由奔放な性格をしている銀狐はお忍びで人の世界に遊びに来たらしい。きっと翔恋しさに来たのだろう。恋する狐は今日も休みなく恋慕を抱いているようで、ふふんと鼻を鳴らして翔を見上げている。


「ダメじゃないか。勝手に人の世界に来ちゃ」


 おばば達に見つかれば、また口やかましく叱られるというのに。

 嘆息を零していると銀狐が机上を一瞥。じっとりと翔の手元を見つめるギンコが意味深に一声鳴く。

 つられて自分の手元を見やった翔は顔を引き攣らせて、「こ、これは読書の一環で!」急いで教科書を仕舞い、電子辞書を引き出しに押し込む。可愛げに鳴くギンコが窓の方に向かおうとすると、大慌てで銀狐を腕に抱いた。


「ギンコ。今、家には誰もいないから、自由にできるぞ。俺と一緒に遊ぶか? な? お寿司もあるぞ。今日一日のお休みは俺と過ごそう。な?」


 だから今、見たことは秘密にしてくれ。人差し指を立てて相手に交渉を持ち掛ける。おばばのカミナリはこれ以上ご免である。

 じーっと自分を見つめていた銀狐が勝ち誇ったようにクオンと鳴き、翔の頬をぺろぺろと舐めた。見越した交渉だったらしい。

 なんと計算高い狐のだろうか。遠目を作る翔だが、ギンコが胸部に頭をこすりつけて甘えてくると、もはやどうでもよくなってしまった。いつものギンコ馬鹿が出た翔は可愛い、俺のギンコ超絶可愛いと目を輝かせ、銀狐をぎゅっと抱きしめる。

 気が緩んで三尾と耳がひょっこり出てしまったのだが、翔は気付くことなくギンコの頭を撫でた。


「リビングに行こうな。いつも過ごすのはこの部屋ばっかりだったから」


 好奇心旺盛な銀狐は嬉しそうに頷き、翔の腕を飛び出すと二足立ちし、カリカリと扉を爪でひっかく。

 扉を開けてやるとギンコは廊下に飛び出し、左右を確認。リビングとやらはどっちだと振り返ってきた。忙しなく尾を振るギンコを誘導するべく、爪先をリビングに向けて先を歩く。廊下を隔てている扉を開けてやれば、銀狐は嬉しそうに一室へ飛び込んだ。


 獣が真っ先に向かったのはソファーである。

 心地よい布団にでも見えたのだろうか。ごろんと寝転がって尾を振っている。

 次に興味を示したのはテレビだった。画面越しに難しそうな顔でニュースを伝える人間を目にし、ギンコは慌ててソファーの裏に隠れてしまう。見つかっては大変だと思ったのだろう。翔がチャンネルを替えるとギンコは耳を立て、さっきの人間は何処へ行ったのだと怖々テレビに歩み寄る。画面に映し出されているのは山岳で、映っていた人間はいない。


 うんっと首を傾げるギンコが面白くて仕方がない。

 再びチャンネルを替えると、巨乳アイドル達がキャッキャッとバラエティー番組に出ている。

 不快な顔を作る狐のためにチャンネルを替えてやると、美味しそうなマカロンが映し出された。これは何だろう? 匂いを嗅ごうとする銀狐の初々しい様子に翔は口角を持ち上げ、「コレクションしなきゃ」しっかりとスマホを構えて動画を撮る。


 よしよし。いいものが撮れたと綻び、翔はギンコを呼ぶ。

 姿勢を低くしてテレビに唸っていた銀狐が駆け寄ってくる。しゃがんで狐を腕におさめると、あそこに人はいないよ、と教えた。

 賢い狐はこの箱は人間の文明なのだろうと理解。機器を理解できずとも、目で見て楽しむものなのだと判断したようだ。折角なので少しばかり、銀狐とテレビを観て楽しむことにする。翔としてはテレビとはこういうものなのだと教える程度の行為だったのだが、思いの外、ギンコを夢中とさせてしまったらしい。すっかりテレビに釘付けである。


 山岳を紹介する番組から恋愛刑事ドラマに番組を替えると、まさに主人公が人質となっているヒロインを銃で助けるシーンが目に飛び込む。銃に怯える素振りを見せたギンコだが、男が女を助けて彼女を抱擁する光景を目にするとクン、と鳴いて翔にすり寄る。

 見下ろすと、ポッと照れたように視線を逸らし、持ち前の尾を翔の尾と重ねた。

 そこで翔は自分が妖狐に戻っているのだと気付き、人間に変化しなおさなければと思いなおすのだが、それ以上に困ってしまう。


(ギンコが期待している……ど、どうする。ギンコにはツネキという許嫁が!)


 ここは空気をぶち壊そう。心は痛むがギンコのためだ。


「ギンコが人質に取られたら、俺もああやってカッコ良く戦ってやるからな」


 親指を立て、白い歯を見せてやる。

 翔なりに甘い空気を壊す台詞を吐いたつもりなのだが、銀狐はきらきらきらきらと目を輝かせた。そして尾で顔を隠す。多分ギンコはこう思っているに違いない。“わたくしのために戦って下さるなんて凛々しいお方”と。

 これはこれで空気を作った感が……翔はすり寄ってくるギンコを腕に抱きながら途方に暮れる。ツネキに見られたら狐火は確定だろう。



 テレビもほどほどに、翔はギンコを抱いたままテーブルに着く。

 隣の椅子に獣を置くと寿司桶のラップを剥がして、早めの夕飯を開始。ギンコと仲良く寿司を半分こした。両者、妖狐であるため魚のネタより、稲荷寿司を頬張ってばかりだったが、魚は魚で美味しかったため満足である。


 食後は久しぶりにゲームを起動させ、ギンコと楽しむ。

 当然、狐に普通のゲームは無理であるため、翔はWiiのダンスダンスレボリューションを選択し、「勝負だギンコ!」レッツ音ゲータイム。


 足で上下左右の矢印を、リズムに合わせて踏むだけの単純なゲームだが、これがなかなか難しい。

 手本に翔がしてみせると、賢い狐はすぐにルールを覚え、画面に流れてくる矢印を両脚で押し始める。二足歩行の翔に対し、ギンコは四足歩行。矢印を踏むタイミングは獣の方が上手い。それとも獣の音感が良いのだろうか。初心者にしては翔に張り合ってくる。

 「やべぇ。ギンコ、上手いんだけど」ギンコは矢印を素早く踏む翔を目にしては、自分の番になると真似をする。時に尾も使うため、テクニシャンである。


 勝負なのだから、何か賭け事をした方が燃えるだろう。

 翔はギンコに賭けを持ち掛け、自分が勝ったら好きなだけギンコ動画を撮らせてくれるよう頼む。飽き性な銀狐は長時間動画を撮らせてくれないのだ。承諾したギンコは自分が勝てば、口づけだと尾で己の口を指した。

 これは負けるわけにはいかない。OKを出した翔は真剣一本勝負でギンコと得点を競い合う。その結果。


「に、二点差でギンコに負けるなんて! ゲーム歴十年の俺がギンコに負けるなんて!」


 翔は両膝をついて初心者に負けたことを嘆き、ギンコは誇らしげに尾を振って勝利に酔いしれた。

 ズーンと頭上に雨雲を作る翔に駆け寄り、銀狐がクオンと鳴いてくる。どうかツネキに殺されませんように。翔は許嫁に心中で詫びながら、見上げてくる銀狐の鼻先と口先に唇を落とす。性悪な銀狐はもっとだと言わんばかりに尾で己の口をさした。

 自分が勝ったのだから好きなだけ口づけをしてもいいでしょう? と、首を傾げてくるギンコ。獣のくせに大した小悪魔である。

 翔は両手で顔を覆い、「ツネキにばれたら潔く狐火を浴びよう」勝負を持ち掛けた己の愚案に嘆くと、負けたと諸手を挙げて甘えてくるギンコを抱き寄せた。ファーストキス以降、一貫してお相手はギンコなのだからお笑い草である。




 楽しいひと時を過ごした後、翔はギンコを連れて風呂場に向かう。

 白熱した勝負のせいで汗を掻いたのだ。勝者が一緒に入りたいと申し出たため、おとなしく従うことにする。そうでなくともギンコに弱い翔だ。我儘は通っただろう。

 わしゃわしゃと銀狐を石鹸で洗い、自分の体も洗ってシャワーで泡を流すと、狭い浴槽に入って極楽極楽。熱い湯に浸かって疲れを癒す。


「気持ちがいいなギンコ。体を動かした後だから余計に気持ちがいい」


 同意を求めるとギンコがうんうんと頷いて浴槽の縁に両前足を掛けた。

 狐がクオンと鳴く。獣語が分からずともニュアンスでなんとなく感じ取っている翔は、「え。またあのゲームをしたいって?」ギンコに聞き返す。大きく頷く銀狐はまた勝負をしたいと鼻高々に鳴いた。


「い、いいけど……今度は負けないんだからな。いいか、今日は調子が悪くてだな」


 ゲーム歴十年の翔にとって今日の敗北は大きく、ついつい初心者に向かってムキになってしまう。

 面白おかしそうに鳴く銀狐はまた勝負をして口づけをしてもらうのだと、期待を寄せて鳴き声を漏らす。蕩けそうに幸せそうな顔を作るギンコに翔は心中で溜息。キスのお相手が全部狐って……。


(こうなったら本当にギンコと結婚しちまおうかな。一応年齢的には青葉よりも、少しだけ年上のお姉さん……みたいだし)


 ということは少なくとも、お相手は齢150以上のおばあちゃんであることは確定である。

 想像するだけで三点リーダーが頭上に浮かぶが、愛くるしいギンコを見ていると、つい頬が崩れてしまう。敗者なのだから、勝者であるギンコの好むことをしようか。


 入浴後、自室で髪を乾かした翔は変化を解いて獣型となると、白狐としてベッドの上で寛ぐ銀狐に寄り添う。

 ギンコは大層驚いた様子だったが、気遣いに気付いたのか嬉しそうに白狐にすり寄って甘えたに鳴いた。やはり一番好む姿は狐のようで、白狐となった翔の体毛に顔を埋めてしまう。そんな銀狐の顔を舐めて、白狐は眼を和らげた。

 はしゃぎ疲れた銀狐が身を丸め始めると、その身を三尾で包んでやる。


『ギンコ、ありがとうな。おかげで楽しい休日を過ごせたよ。また家に来てくれよな』


 銀狐は一声鳴いてリラックスモードに入る。

 瞼を下ろしてしまうギンコに身を寄せ、翔は両親が帰ってくるまでこの姿でいることを決意。今は狐としてギンコの傍にいたいと切に思った。今日は久しぶりの休日なのだ。肩の力を抜いて誰かの傍にいてもいいじゃないか。



 (終)




正式なヒロインがギンコになりつつある今日この頃。頑張れギンコ、翔の心を射止める日も(多分)近い。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ