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南条翔は其の狐の如く  作者: つゆのあめ/梅野歩
【余章】其ノ妖、其ノ人
79/158

<一>一尾の白狐として



「南条! おい南条ってば!」



 からっと乾いたある五月晴れの午前。


 廊下側にある自分の席でうたた寝をしていた翔は大きな揺さぶりによって意識が浮上する。

 小さな欠伸を噛み締めながら顔を上げると、クラスで一番仲の良い米倉聖司が眉根を寄せていた。険しい面持ちをぼんやり見つめ返していると、「この教室。女子更衣室になるぜ」変態になりたいなら置いていくぞ、と頭を叩かれる。

 言っている意味がよく分からなかったが、じわりじわりと思考回路が回り、翔は急いで体操着の入った通学鞄を持って立ち上がった。

 教室にぞろぞろと他クラスの女子が入ってくる中、翔はそそくさと米倉と共に退室。割り当てられた男子更衣室へ移動した。


 他クラスの教室に入ると窓辺に足先を向け、誰とも知らない机上に通学鞄を置いて、大欠伸を零す。


 「眠い」目尻に溜まる涙を親指で拭い、うんっと背伸びをしていると、「それ。まだ治らないのか?」学ランの上衣を脱ぎながら米倉が声を掛けてくる。心なしか表情が硬い。また冬眠するんじゃないだろうな、遠回し遠回し憂慮を向けてくる友人に翔は大慌てで大丈夫だと笑顔を作る。

 訝しげな眼を投げる米倉はまったく翔を信用していないようで、ねりわさびでも持って鼻に突っ込んでやるべきか? と、いたく真面目に呟く。

 冗談ではない。翔は健康そのものだと告げ、どうせモーニングコールしてくれるなら可愛い女の子を連れてきて欲しいと一笑。


 すると米倉の表情が緩和し、「はりきって裏声を使ってやるよ」おぞましい声で起こしてやるとウィンクした。


「まーじーかよ。お前が裏声を使って俺を起こしてくれるとか超萎える。夢がねぇ。うたた寝できなくなるだろ!」


 三年目となる古びた体操着に袖を通しながら、翔はあからさま嫌な顔を作る。

 米倉はケラケラと笑い、もう寝れなくなっただろう? 良かったじゃないかと大袈裟に諸手を挙げた。つられて翔も笑ってしまう。久しぶりに交わす友人との悪ふざけだった。



 最年少十代目南の神主に就任予定の少年のこと三尾の妖狐、白狐の南条翔は三日ほど前から学校に通うようになった。

 妖の世界を選択し、人の世界に背を向けた結果、生まれ育った世界で築き上げられた環境は激変。原因不明の昏睡状態に陥ったと医者に診断され、家族や人間の友人を多大に心配させてしまった。


 選択に悔いはないが、味が良いものでもない。

 鬼門の祠から漏出していた瘴気の件も落ち着いたため、翔は一時人の世界に帰宅し、後片付けをしている最中だった。

 何一つ事情を知らない担任や米倉といったクラスメートには睡眠を取る体質が逆転していると医者の診断書を持って説明している。現状を見る限り、もう昏睡状態にはならないだろう。医者にそれを仄めかす診断書を書いてもらい、なんとか学校に通えるようになった翔は複雑な念を抱いていた。

 本当は昼夜が逆転してしまっただけで(さっきの眠気も夜行性体質が災いしているだけなのだ)、自分は何一つ健康なのに。今も体操着は着たものの、医者の判断により今日は見学だ。


 仕方がないとはいえ、人々の心配になんともかんとも、である。



(体を動かしていた方がまだ眠気も飛ぶのに)



 柔軟体操をしている生徒達を遠巻きに眺めていた翔は、木陰の下で何度も欠伸を噛み締めていた。

 体をあたためるためにグランドを二週走り始める生徒達。その気だるそうに駄弁りながら走る姿は、体育教師を苛立たせるほかない。

 怒号が飛ぶだろうと予想した直後、教師の怒声がクランドに響き渡る。

 平和だねぇ、翔は人間達のかわり映えのない日常に微笑ましい気持ちを抱く。こんな時間も久しぶりだ。妖の世界ではやれ神主代行だの、やれ稽古だの、やれ領地だの忙しない生活を送っていた。それが当たり前になっていたため、今過ごす時間が懐かしく思える。


「でも、それもあとちょっとだな」


 もうすぐ宝珠の御魂を授かる儀式が行われる。

 再び宝珠を体内に宿したら、また忙しい毎日が始まるだろう。

 今だけは普通の妖狐であり、普通の男として振る舞える。甘えが許される子供でいられる。神主になれば甘えられる側なのだから。

 木の幹に寄りかかる。若葉の香り良いが心を癒した。同時に鎮守の森が恋しくなる。翔は自然を愛する妖狐の一人だ。人の世界は喧騒にまみれているため、数日過ごすだけでも疲労してしまう。理由の一つに人よりも耳が良いことが挙げられる。


「帰りたいな。妖の社に」


 人の世界は嫌いではないけれど、自分の肌には合わない。



 午前中の授業が終わると、翔は昼休みを中庭で過ごした。

 米倉やよく話す友人達から昼食の誘いを受けるものの、翔は担任から呼び出しを食らっていると嘘をつき、彼等の誘いを断った。

 どうしても自然に寄り添いたかったのだ。決して木々が多いとは言えないが、敷地の何処よりも緑が生い茂っているため、翔は迷うことなく中庭へと向かい、ひと時を微睡んで過ごす。


 そのせいで午後の授業に遅れてしまったが、自然と戯れることができたため翔は満足だった。


 放課後になると、自分を苦しめていた眠気が随分マシになり、いつものテンションが戻る。

 担任がいなくなったことをいいことに、スマホを取り出してメッセージが届いたと一報してくるLINEの確認。嬉しい人物からメッセージを貰ったため、笑顔を零しながら返事した。一気にハイテンションになっていると、「南条」前触れもなしに米倉の腕が首に絡まる。

 気持ち悪いほど甘えたな鼻声で名を呼んでくるため、大方予想はついている。


「合コンは来週の日曜にしようぜ米倉。時間があれば、ゆっくり準備もできるだろ? 幹事は俺がするから、人集めは手伝えよ」


 相手が物申す前に肯定のウインクをしてやった。

 さすがだと声を上げる米倉は大はしゃぎしながら、「愛しているぜ」お前なら乗ってくれると思ったと飛びついてくる。

 その喜ぶ顔に嬉を感じながら、今日は予定が入っているから今夜に連絡すると肘で小突く。OKだと元気に返事する米倉は、早速よく話す女子達に声を掛けていた。張り切っているようである。


 微笑ましい気持ちを抱きながら、米倉に声を掛けて教室を後にすると、



「へえ。合コンに行くの? ショウくん」



 冷ややかな眼を飛ばす幼馴染が腕を組んで仁王立ちしていた。

 どうやら自分のことを待っていたらしいのだが、可愛い眉がつりあがっている。


 不機嫌になっている飛鳥に苦笑いを零し、「仕方がないだろ」米倉が行きたがっているのだから、と翔は教室の方を流し目にした。

 嬉々している米倉が手を挙げてくるため、同じ行為を返し、「あいつとの仲だ」こうしてゆっくりできる時間が持てる間だけでも付き合ってやりたいのだと目尻を下げる。

 ぷうっと脹れ面を作っている飛鳥は女の子にちやほやされたいのではないかと毒づいた。


「阿呆か」


 翔は指で彼女の額を弾き、人間の女に手を出す真似はしないと肩を竦める。

 「私も?」こてんと顔を覗き込んで来る小悪魔の鼻を抓み、「ははっ。オモシレェ顔」可愛い面が台無しだとからかって鼻先をデコピンした。


 酷いと赤面して憤る飛鳥に、どっちが酷いんだかと翔は反論し、持っていたスマホを親指で弄りながらお前の王子様は何処だと質問する。

 鼻頭を擦る飛鳥は、まだ教室だとご機嫌ななめに返事した。翔に向ける不機嫌とは、また別の不機嫌である。


 曰く、クラスの女子生徒がノートを貸してもらおうと朔夜に話しかけているらしい。

 いかにも知的な女子生徒だったと口を曲げる飛鳥は、「どーせ馬鹿だもん!」と翔の背中を容赦なく叩く。


 自分は何も言っていないではないか。

 微苦笑を浮かべ、「頑張れって」まだまだ機会はあるだろう? と彼女に問い掛けた。誰よりも距離が近いのだから機会はあるだろう。

 反面、近過ぎるから、なかなか異性として見てもらえないかもしれないが、それも飛鳥の努力次第だ。


「とはいえ、あいつの腰は臼のように重いからな」


 どうやったら動いてくれるのか、付き合いの長い自分でも分からないと唸る。

 飛鳥の視線を感じたため、スマホから目を放して首を動かす。


「どうした?」


 物言いたげな表情を作ってくる飛鳥は、なんだか変な気分だと零す。


 ショウくんから助言を貰うなんて凄く変な気分だ、などと大変失礼なことを述べてくる幼馴染。言いたくなる気持ちも分かるが、これは翔の決めた道である。

 幼馴染として飛鳥の恋を応援すると決めているため、「関係は少しずつ変わるものだよ」自分達はそれに慣れていかないといけない。不変などこの世の中にはないのだから。だけど変わらないものもある。それは自分達が一番知っているではないか。唇を尖らせている彼女にこう助言した。

 自分に向けた不機嫌も、幼馴染の独占欲からきているものだと翔は察していたため、無理せず徐々に慣れればいいと一笑する。


 それだけ自分達の関係は濃かった。

 簡単に抜け出せないのは当然だ。

 二人に多大な執着心を向けていた翔だからこそ飛鳥に優しく言えた。


 此方を一瞥してくる飛鳥は、「大人になったね」びっくりするくらいショウくんは大人になった。自分が子供だと思えるくらいに、大人だと褒めを口にした。友人の米倉を気遣うところも、自分に助言してくれるところも、その振る舞いも大人だと彼女は肩を竦める。

 「俺なんてまだまだ子供だよ」もし大人に見えるのならば、それは周りがそうさせたのだ。早く本物の大人になりたいものだとおどけ、廊下の窓に足先を向ける。


「だけど大人になったらなったで子供に戻りたい、とか思っちまうんだろうな」


 全開になっている窓の枠に凭れ、昼下がりの生ぬるい風を頬で受け止める。


「やっぱり大人になったなぁ」


 右隣に立つ飛鳥は壁に凭れながら、ショウくんは本当に大人になったと心情を表に出す。


 誰よりも傍で見てきたのだ。その変化は一目瞭然だと飛鳥。

 三ヶ月前はあんなに子供っぽかったのに目標を見出した男の子の成長はとても著しい、そう感想を述べた後「ショウくんの気持ちは教えてくれないんだね」期待を篭めた眼を向けてくる。


 悪戯っぽく笑みを返し、教えてやらないと舌を出してやった。


「言っただろう? これは俺の、人間の時の大切な気持ち。宝物なんだ。察しているかもしれねぇけど、俺は俺の気持ちを誰にも渡したりはしねぇよ」


「それでも聞きたいと思う私って欲張りなんだろうな。朔夜くんが好きなくせにさ」


 しっかりと気持ちを教えてくれる飛鳥に、「それでいいんだよ」片恋相手の気持ちを得たいと願い、好意を寄せられていた相手の気持ちを直接聞きたいと思い、欲張りなことを口ずさむ。それが感情というものだ。

 誰だってあることだと翔は窓枠に頬杖をつき、その感情を大切にして生きていけばいいと笑みを向ける。

 「まだ普通の男の子でいられるんでしょう?」彼女の切な疑問に、「それも五月までだ」五月を過ぎれば、自分の身は一端の男ではなくなる。今が骨休みできる大切な時間なのだ。


 とはいえ、神に仕える身の代表達を思い浮かべると……我が儘守護獣に、泣き虫毛虫南の巫女、セクハラ神主に、女癖の悪い守護獣、やたら色気のある北の巫女。


 そう小難しく考えずともやっていけそうである。

 特にセクハラや女癖の悪さが普通に許されているのだから、変に気張らなくても大丈夫そうだ。

 「神様も寛大だな」色欲には厳しい天誅が下りそうなのだが。独り言をぼやくと、飛鳥が頭上に疑問符を浮かべた。言っている意味がよく分かっていないようである。



「飛鳥、待たせたね。ショウ、君も一緒に帰るんだろう?」



 女子生徒から解放された朔夜がようやく姿を現す。

 一光景を思い出した飛鳥が愛嬌ある脹れ面を作るので、「お前等。今から時間ある?」翔は笑いを堪えながら話の中心に立って話題を逸らす。

 きょとん顔を作る二人に眦を和らげ、時間があるなら自分に付き合ってくれないか、あどけない笑顔で幼馴染を誘った。それは三ヶ月ぶりの翔から二人への誘い。頻繁に幼馴染達を誘っていた頃が懐かしく思えるほど、翔には二人と過ごしていた時間に空白があり、溝があり、一線を引いていた。


 多忙ならまた今度誘う。白々しく相手を気遣うが、既に答えは分かっていた。


 生徒でざわめく昇降口で靴を履き替え、校舎を後にする。

 これから部活であろう下級生がテニスラケットの束を持って目の前を通り過ぎる。ぶつからないように歩調を遅めながら、二人を先導するように先を歩く。


 「何処へ行くの?」飛鳥が前に回って顔を覗き込んで来る。

 「Lッテ」翔は即答した。どうしても肉が食べたいのだと舌なめずりをし、何気ない気持ちで前方を見やる。正門の向こうに見える電線。その上に留まっている雀達を見つけ、翔はついつい目を輝かせて興奮した。

 整列している雀にクンと鳴き、早速狩りの体勢に入ろうとする、が、その前に二人から全力で止められた。

 隣に立っていた朔夜が前に回ると、「肉はハンバーガーにしておきなって」あれは腹を壊すと空笑い。「そうだよショウくん」だからその耳と尻尾は仕舞おう? 飛鳥に指摘され、翔はハッと我に返る。


 己の頭に手を置くと耳がひょっこり出ている。

 一般の人間に見えないとはいえ些少の変化は出るため、翔は急いで立っている耳を押さえつけるように擦り、嬉しそうに揺れている一尾を持って落ち着かせる。が、尾はなかなか消えてくれない。耳は消えてくれたものの、尾は未だにゆらゆらと揺れている。

 妖が長時間人の容を保つのは本当に大変なのだ。一人前の妖であろうとそれは変わらない。


「んー、しょうがねぇな。こうしておくか」


 正門を出たところで翔は足を止め、周囲を確認して学ランの上衣を捲り上げる。

 べろっと顔を出すカッターシャツの上から、尾を胴に巻きつけ、いそいそと上衣を下ろす。

 三尾なら無理だったろうが、今は一尾の妖狐。尾の一本くらい余裕で隠せる。これで良いだろう、満足げに笑っていると、「尻尾。減ったね」飛鳥が興味津々に胴を見つめてくる。


「宝珠の御魂が俺の中にないからだよ。お前等も知っていると思うけど、妖狐は尾に妖力を溜める。俺は宝珠の力で尾を増やしていたからな」


「じゃあ今の君の名前は一尾の白狐かい?」


 朔夜の問いに、うんっと頷き、正式名称を口にする。


「今の俺の名前は一尾の妖狐、白狐の南条翔。またの名を十代目神主出仕、だよ」


 「出仕?」首を傾げる飛鳥に見習いのことだと一笑。

 九代目神主代行から変わったのだと翔は彼女に教える。正式な就任式を終えるまでは十代目神主出仕として名が通る、そう言うと、飛鳥が疑問を重ねた。


「前から思っていたけれど、ショウくんの名前って長くない? 全部名前なんでしょう? いつからそんな名前になったの?」


 白狐の南条翔だけじゃ駄目なのかと飛鳥。

 答えられずにいる翔に、「それだけ名乗りが重要だってことだろう?」よく歴史で聞く話じゃないか、朔夜はある程度理解を示してくれた。



「昔の日本の戦は武将が味方や敵に向かって自分の姓名や身分、出身地などを主張していたんだ。そうすることが武士の作法だったらしい。きっと妖達の間にもそれが広がったんじゃないかな。名乗ることで素性を明かし相手に敬意を払っているんだと僕は思うけど」


『その通りだよ妖祓の坊や。物知りだねぇ。四尾の猫又、キジ三毛のコタマも驚きの素晴らしい回答だよ』



 ふと正門を伝う塀からしゃがれた猫の鳴き声が聞こえた。

 顔を上げると「にゃあ」、キジ三毛猫が微笑ましそうに此方を見下ろしている。祖母だ。


 「おばば!」翔は満面の笑顔で塀に駆け寄り、跳んでくるおばばの身を受け止めた。


 瘴気の一件で怪我を負った猫又だが、朔夜の家で介抱してもらい、こうして無事に自分達の下に戻っている。

 嬉しい反面、まだ怪我は完治していない。もう散歩しても良いのか、翔は憂慮を向けながら猫又に尋ねた。家でごろごろしてばかりだと体が鈍っちまう、おばばはおどけるように一声鳴いた。


 少しは散歩なり、体を動かすなり、外の空気を吸わないと気も滅入る。

 そう言うおばばは、『坊や。上手く生活に馴染めているかい?』一人前の妖になった手前、前以上に此方の生活に馴染めていないのでは? と翔の日常生活について尋ねてくる。どうやらこの老婆は散歩がてら自分の様子を見に来てくれたようだ。相変わらず心配性のお節介猫又である。

 大丈夫だと苦笑するものの、おばばの向ける眼は変わらない。


『坊やは夜行性だよ。この時間帯は睡眠を取って当たり前の時間なのだけれど、こうして起きている……坊や、いつ眠っているんだい? 食事は?』


「お、おばば。大丈夫だって。なんとかやっていけているから。あんまり子ども扱いしないでくれよ」


 恥ずかしいじゃないか、翔は唇を尖らせる。


『何を言うんだい、まだまだ坊やじゃないか。わたしは450年生きている猫ババアなんだ。坊やなんて子供も子供だよ』


 ケッケッケ、不気味に笑う猫又はすこぶる元気なようだ。

 腕の中にいるおばばの体を優しく撫でていると幼馴染達が歩んでくる。

 「コタマおばあちゃん、元気そうだね」飛鳥がおばばの頭を撫でた。元気も元気だと返事するおばばに、「家にいた時も食事には口煩かったしね」朔夜が軽く嫌味を吐いた。彼の家でも元気に過ごしていたのだと分かる台詞である。


『まあ、何はともあれ三人で仲良く過ごしているようで良かった。これから外出かい?』


「うん。ちょっと遊びに行って来る。おばばも行きたいなら、猫でもいけそうな場所に変えるけど」


『水を差すようなことはしないよ。おばばは散歩をしに来ただけだからねぇ。若いお前さん達で楽しんでおいで。今の内に沢山遊んでおかないと、またこれから大変になるだろうからねぇ。三人で何処に行くんだい?』


「あ、三人じゃなくて四人。もう一人、現地で合流することになっているんだ」


 その言葉に飛鳥と朔夜が驚きの声を上げる。

 「あれ、言ってなかったっけ?」二人に尋ねれば、Lッテに行きたい旨しか聞いていないと即答された。

 すっかり伝えたつもりでいた翔はごめんごめんと片手を出し、現地でもう一人合流するからと破顔。そいつは自分達の仲を誰よりも応援してくれた奴。妖の中で一番仲の良い友達の――。



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