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Re verse  作者: さいう らく
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7/43

Novice & Fugitive 7 異変

「スーマ・ギルモア間偵察及び威嚇」

形式:偵察任務

依頼主:WOJ

報酬:後払、歩合。費用込

領域:スーマ北部、ギルモア南部

期限:-

概要:スーマ及びギルモアに出現した悪魔の群れの内情偵察及び可能なら足止め

条件:本隊もしくは支所部隊の到着まで

備考:緊急を要する。お前の手柄を上げる分にも役に立つはずだ。が、お前は正規任務のブランクが長い。くれぐれも気をつけろよ。


 

バイクを最高速キープでぶっ飛ばして数十分。悪魔が出たということで、もぬけの殻の幹線道路を伝ってスーマ北部に到着した。


「長距離運転は肩が凝る…なぁ」

「伸びしてる場合じゃ……」

「わかってる とりあえず現状の把握からだ」


 辺りを見渡す。当然のごとく人は見当たらない。発生からかなり時間は経っている以上、住民はほとんど逃げたか殺されたかのどちらかだろうか。


「陸、発見は今から何時間前だ?」

『今からカウントすれば1時間37分前だ』

「ふむ」

「先輩……静かすぎやしません?」

「悪魔はスーマからギルモアに向かったはずだからここを通ったはずなんだが」


 被害、という被害も見て取れない。車が破壊されていたりガラスが割れていたり、などはあるがこれは悪魔の仕業ではないだろう。


「とりあえず生き残りを探しましょう」

「だな」


 俺とジグは不気味な静けさを抱えた街へと歩き出した。

 嫌な空気の正体はすぐにわかった。


「こりゃ、どういうことだ」


警官や民間人の死体はちらほらと見えるが、どれも原型を留めている。その上、主街道以外はこれといった被害が見て取れないのだ。

そして、生き残った人間がこぞって家の中に閉じこもっている。


「まるで戦時下みたいですね」

「……」


 確かにそうだ。今まで何回も見てきた光景だ。

 戦争。大陸同士のいさかい。恐らく俺が生まれるより前から続いていた、人間同士の争いだ。

 俺が、記憶を失った赤子のような状態で放り込まれた戦場で、同じ眼差しを見ている。


 ふっ、とある人間の顔が浮かぶ。今頃あいつは何をしているのだろうか。


「……先輩?」

「ん?あぁ 考えてた」

「何をですか?」

「この状況の理由」

「明らかに不自然です」

「まず、悪魔が、しかも群れで出現したとなると確実にそこの人間の7割方は逃げる。脇目も振らずに」

「はい」

「教団が到着するまでに相当な被害が出る。人は何十人も死ぬし、悪魔の種類にもよるが街そのものへの被害も出るはず」

「それが……ほとんどない」

「そもそも住民が残ってるのが異常だ。まるで、そうしなければならないかのように家の中に留まっている」

「僕にはさっぱりですね」

「あいにく俺もこんなのは初めてだな」


 と、街の中央広場らしき場所に出る。そこには、今までの街の様子からは想像できない光景が広がっていた。


「……うっ」

「ほう」


 ジグが思わず目を背けた。

 俺達の目の前には大きな四角錐のモニュメントがある。真っ赤な、真っ赤になった(・・・)それが。


「これって……どういう」

「まぁ、間違いなく」


 四角錐には数人分の身体が突き刺さっていた。身体だけ。四肢は強引に千切られ辺りに散らばっている。


「……人間の仕業だ」

「悪魔じゃないんですか?」

「悪魔は本能で動く。奴らの捕食行動にこんな前衛的なセンスは備わってないさ」

「……どういうことですか」

「悪魔が人間を襲う目的は捕食だ。殺害というのは過程であって目的じゃない」

「……なるほど」

「そもそもさっきから死体が五体全部残ってはいる時点でおかしい」


 まぁ、バラバラではあるんだが。


「でも……あのモニュメント、高さは軽く10mはありますよ?相当な手間がかかったはずです」

「人間がやったのだと仮定すれば、だが」

「仮定って、先輩は確定だと」

「人間が考えることだ、これは。だが、実行犯は人間とは限らない」

「……意味がわからないです」

「ま、何れにせよ情報はまだまだ足りない。どうやら一筋縄ではいかない事態になってるようだしな」

「どうするんですか……って先輩、何を?」


 死体に近寄る。切断面は意外と綺麗だ。さっきは千切られた、と思ったがどちらかというとこれは螺子切られたというのが正しいだろう。大きな力で。


「先輩……何してるんですか」

「何って、警察さんもどうやら黙ってるようだし現場検証をだな」

「よく触れますね……うぅ」


 ジグは青ざめている。初めて人間の死体を見たのだろうが、こんなんで怯んでたらこの先きついぞ……。


「とりあえず、手足を取られたのはここに串刺しにされる前、だな」


 手足は4つずつまとまって落ちていて、そこにある程度大きな血溜まりができている。串刺しにされた後ならこんな風にはならないだろう。


「先輩……そういえば、向こう側」

「ん?」


 ジグが指さした方向。俺達の前方、恐らくは悪魔が来た方向。


「……ふぅん」


 地面は抉られ、建物の外装はボロボロ、車は廃車に、そして点在する血痕。


「ここだけは明らかに悪魔の仕業だな」

「ですよね」

「ここまでは暴れながら来た、か」


 奇妙通り越しておかしい。この状況に即した説明ができそうもない。


「ひとまず誰か捕まえて話を聞いてみましょう」

「この分じゃ無理そうだがな……」


 とりあえず何にせよ悪魔に追いつく必要もある。元来た道を戻りながら俺はふと、弾痕が多いことに気づく。


「……この街の警察はやたら滅多にぶっ放す奴らなのか?」

「どういうことです?」

「いや、明らかに見当外れな方向に撃ったりしている」


 それこそ民家の窓やドア、壁面にボコボコ穴が空いている。


「無差別攻撃……テロでもあったか?」

「悪魔の襲撃に乗じて、ですか」

「考えにくいな……謎が深まるばかりだ」

「とりあえず悪魔をやっちゃってからの方がよくないですか?」

「やっちゃうとか簡単に言うな、一応ここは突破されてんだぞ……手段はどうあれ」

「そうですけど」

「ともかくここで時間を食い潰してる場合じゃなさそうだ、先を急ぐぞ」

「わかりました」


 ひとまず陸にこの不気味中な現状の報告をする。


『避難していない?』

「あぁ、見たところほとんどな」

『どう考えても異常だな……何れにせよ、実害はあるんだろ?』

「ああ、人が数人アートにされてた」

『さらに人間が暴れた形跡もある、と」

「もしそっちの方の勢力とぶつかった場合は?」

『手を出すなと、言いたいとこだが……そうもいかないだろうから最低限の被害で済ませろよ』

「了解、とりあえず北上して悪魔を追撃する」

『もしかすると』

「ん?」

『もしかすると、だが。悪魔と人間が協働してる……なんてこと』

「ないだろ 餌と協力する悪魔なんてさすがに知らないぞ」

『とりあえず気をつけろよ……嫌な感じだ』

「そういや教団の動きは?」

『今本部から第二部隊が派遣された……が、遅いな。スーマは管轄を外れそうだから干渉を停止、ギルモアは臨戦体制に入った。が、これも遅い。以前お前らが最前線だよ』

「討伐中に鉢合わせとかはごめんだぞ」

『そしたら連絡するさ、後はそいつらに任せちまえばいい』

「わかったよ」


 全く。ちょうど邪魔が入らないことだしこのジグ君とやらに現実を見せようと思ったのだが……。

 面倒なことになりそうだ。相手が悪魔ならまだいいんだが、人間を相手取った場合は非常にまずい。

 まー、陸もリスクは覚悟の上だろう。これで死んじまったら所謂それまでってヤツで、俺は晴れて本部に戻るか無職になるかしかないわけだから、自分が危なくない程度には死守する必要がある。


「先輩」

「なんだ」

「これ……」


 ジグが地面を指差す。商店のシャッターの隙間に挟まれた穀類の袋から穀物がばら撒かれていた。

 そこに、悪魔のものと思われる足跡がある。


「これは……中型のリザード種か?」

「それはいいんですけど、隣のこれは?」

「……!」


 数多のリザード種の足跡に混じって、人間の靴の跡がある。

 それも、ゆっくり歩いているくらいの歩幅だ。

 それ自体は何もおかしくはない。だが、問題なのは悪魔の足跡を上書きしていることだ。

 それはつまり、悪魔がここを蹂躙した後、ここを通った人間がいるということ。それもゆっくりと。

 町の状況を見る限り住民とは考えにくい。かといって悪魔を追撃しようとした誰かならこんなに悠長に歩いてはこないはずだ。

 と、なるとやはり悪魔の襲撃に乗じた犯罪……?


「いよいよわからなくなってきましたね」

「しかし、この足跡を見る限りこれの主は悪魔と同じ方向に向かったと見ていいだろうな、現状」

「何のためでしょうか……」

「何が起きてるのかわからないのに理由がわかるわけあるか」

「そうですけど」

「それに今回、下手すると人間と交戦する羽目になる」

「はい?!」

「そりゃそうだろ、得体の知れない連中だ」

「いや、でも教団は……」

「人間に危害を加えてはいけないルールは厳密にはない」

「詳しいですね」

「まー規律違反の常習犯だったしな」

「したり顔しないでくださいよ」


 もっとも、今この状態そのものが規律違反なのだが。


「とりあえず少しペースを上げる」

「なんでですか?」

「今さっきようやく本部が動いたようだ。全く、何のための支所だよ」

「それ先輩が言います……?」


 と、無駄口を叩いていると北から立て続けに発砲音。


「銃声……?」

「だな しかもかなりまとまった」


 しかしすぐにその音もまばらになり、止んでしまった。目を凝らすと煙があがっているのが見える。


「とりあえず急ぐぞ」

「はい」


 街を北上していくと、同じような状況は最後まで続いていた。そして、スーマとギルモアの境。


「はぁっ、はぁ」

「お前体力無さすぎるだろ……ホントに教団でやっていけると思ってんのか?」

「これから……ですよ」

「おうおう、そりゃ楽しみだな」

「ところで……あの辺一帯が……真っ黒」

「こりゃ……なんというか」


 死屍累々。装備を見たところ、警察の特殊部隊かなんかだろう。

 だがさっきの惨殺死体とは違う。全身が黒焦げだ。弱火でじっくり、というよりかは強火で一瞬、のような死に方。


「……何があったんですかね?」

「まだあちこちで焦げ臭い匂いがするあたり、ついさっきのようだな」

「これはさすがに悪魔にしか無理じゃないですか?」

「まぁ、そうなんだが……」


 これならまだ説明はつく。捕食するために殺そうと思って火を吐いたら思いの外脆く、黒焦げになって食べられなくなってしまった……というのもこじつけに過ぎないが。


「……こういうのは平気なのか?」

「もはや原型を留めてないんで、多分」


 と、言いつつもやはり顔色はよろしくない。初めて見るのがこんなものなら当たり前だろう。呼吸が荒いのも恐らく走ったせいだけじゃない。


「とりあえず先へ進むぞ、多分この辺からは要警戒だ」

「ですね……」


 この先からは街まで少し森を進む。大きく迂回すれば避けられるがそんな時間もないだろう。

 それに……さっきからどうも不穏な雰囲気がする。


「ジグ」

「なんです?」

「今なら戻れるぞ」

「なんですか急に」

「ここまででお前の様子を見る限り、いきなり実戦は厳しい」

「そりゃ百も承知ですよ」

「わかってない。俺はお前みたいな足手まといが死んでいくのを仰山見てるんだ」

「先輩だって足手まといだった時期がないとは言わせませんよ?」

「とりあえず、今回は事情が複雑すぎる……からなッ!」


 ジグの真後ろで動いた物体に向かって発砲する。外しはしたがいぶり出すことに成功した。


「わ、わわ……」

「やっぱ潜んでやがったか」


 リザード種。平均的な大きさ。外見に特徴なし。炎属性では……ないようだ。


「かぁふるるる……」


 唸り声を上げて威嚇している。ジグはともかく、俺を脅威認定したのだろう。


「ガぁッ!」


 そのままジグに飛びかかる。速い。

 すぐに間に入って、左腰にさした刀を左手で半分くらいまで引き抜き防御する。


「何ボサッとしてんだ、さっさとお得意の魔術を見せてくれよ」

「で、でも……」

「これだか……らッ!」


 そのまま鞘を傾けつつ抜刀。相手の腕を弾く。


「ちっ……面倒だな」


 素早く周囲を見渡す。焦げてはいるが……警察の装備からなんとかできそうだ。


 リザード種。その名の通り爬虫類の特徴を備えた悪魔。特殊な能力を備えない代わりに強力な身体能力と強靭な鱗を持ち、生半可な攻撃は通さない。最もメジャーであり、かつ集団行動が得意な悪魔でもある。


 俺はひとまず距離を詰めた。まずはジグが魔術を行使できる距離まで離れる必要がある。

 左手に逆手で持った刀を右の順手に持ち替える。


「……」


 大きく前進しながら横に凪ぐ。当然バックステップで避けられる。

 そのまま地面から跳ね返るように飛びかかってきた。


「ッ」


 俺は退かずに屈んでさらに前進。懐に潜り込む。

 そのままさっき横に凪いだ回転の勢いのまま、刀の柄で悪魔のどてっ腹を打ち上げた。

 ジグの方に放り投げる。


「ジグ」

「な、なにがっ」

「適当になんかぶっ放せ」

「え、ええと……!」


 ぶつぶつと何か呟きつつ杖を構える。すぐに周囲の空気が凝縮され、氷柱がせり上がった。


「へぇ……」


 さすがに感心。この速さで、この大きさを、この精密さで。やはり天才は伊達じゃない……が、


「不正解だな」


 大方の予想通り、悪魔は氷柱に突き刺さる。うむ、さっきの意趣返しとも言える。

 だがそんなので即死する奴らじゃない。すぐに暴れだし、氷柱を折ろうと試みている。


「ま、まだ生きて」

「詰めが甘いんだよ」


 黒焦げの死体の元に走る。煤けた銃器に触れ、短剣をイメージする。すぐに数本の短剣が左手に収まった。


「いくらやっても足りないってことはないんだ よッ!」


 暴れる悪魔に短剣を続けざまに投げる。刺さる度に悲鳴があがる。

 4本の短剣と氷柱に貫かれた悪魔は血を失いすぎたのかぐったりと首を垂れた。


「こんなもんか」

「えーと……もう、死にました?」

「そのうち死ぬだろうし、こんだけやればもう動けはしないだろ」


 魔術で構成された氷柱は効果時間が切れたのか融解し始めた。悪魔の身体がどさりと落ちる。

 俺はそれに近づき刀を振り上げた。


「先輩?何を」

「何って、とどめだ」

「いや、もう死ぬって……」

「確証はない 最後に足掻くかもしれない」

「でもそれは……ッ」


 ジグの言葉を遮るように刀を首に振り下ろす。少しの痙攣の後、悪魔は動かなくなった。


「そこまで、する必要があるんですか?」

「確実に殺す 微塵の被害も出さないためにな」

「労力の無駄ですよ……放っておけば死ぬのに」

「それはお前が手を下したくないだけだろ」

「……」

「ほら、さっさと行くぞ」

「……はい」


 俺達は森へと足を踏み入れた。だがこの時、俺は気づいていなかった。


 他に、息を潜めていた人間(・・)がいたことに。

・スーマ

 大陸中央南部地域。非常に乾燥した気候と点在する渓谷が特徴。

 主に谷ごとに区切られた町と、谷底及び壁中の集落に分かれている。北部のギルモアとの関係はあまり良好ではなく、ギルモアからの生活排水の垂れ流し、スーマからの流砂など、問題は絶えない。

・ギルモア

 大陸中央、ほぼど真ん中に位置する巨大計画都市。都市といっても首都のような機能集中型ではなく、住宅と商業施設が大半を占める。

 大陸の人口の半分以上はここに住んでおり、首都のベッドタウンとしての側面も持つ。そのため治安は特に良好に保たれており、非常に住みやすい街とされている。

 が、あくまでそれはそこに住んでいる者が享受できるのであって、周囲との格差や住民の無関心が反感を買っている。

・リザード

 爬虫類の特徴を備えた中型悪魔。高い身体能力及び強靭な鱗を持つ通常種のほかに各属性の変種がいるとされる。もっとも目撃が多い悪魔で、集団で行動する。1体でも非常に厄介で、こちらも高度な集団戦を要求される。

 生命力も非常に高く、生半可な攻撃では死なないため、失血を誘うのが有効とされている。


(2016/1/13改稿、不自然な描写を修正しました)

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