Raid 2 急行
「……ちっ」
顔を少しでも出すと銃弾が飛んでくる。
腕自体はそこまででもないが、連携が取れていて射線に隙がない。
それにこの地形は……。
「あまりにも、不利すぎるな」
さっきからしきりにリクラスに連絡を取ろうとしているが、うまくいかない。相当強力な妨害をかけられているようだ。
エイラの言葉を信じるなら、相手はスタインかレオン、もしかするとアトラスということになる。こちらの通信を妨害できる技術水準を持つのがそこしかないとのことだ。
だが、相手がスタインなら、俺は多分もう頭に5〜6発は食らってる。奴らには戦争の時に何度か出くわしたが、どれも生きた心地のしない戦いだった。というか、戦ってない。逃げるので精いっぱいだった。
陸の言葉を借りるならマジキチ練度って奴だ。この身体は脳が破壊されても再生するのか?という興味もあるが正直ここで試したくない。
まあレオンやアトラスから技術提供を受けたブルーローズやアルケという可能性も捨てきれないが、どちらも狙撃ってガラじゃない。というか、あいつらは多分自分から攻撃するタイプじゃない。
と、なると恐らく相手はレオンだ。
「なんか恨まれるよーなことしたかね……」
ギルモア北東部。4つの地域が交わる複雑な地形。問題が発生してもどこの管轄かで大揉めする厄介な場所だ。
だが、企業にはそんな管轄など関係ない。どこであろうと襲ってくるものは襲ってくる。しかも、妥協もない。
教団からこの厄介な地域の悪魔の処理を依頼され、達成した直後にこれだ。
恐らく標的が同じで、俺が教団の制服を着ずにリクラスの装備をしていたことが原因だろう。手柄を横取りされた相手に対する報復と、こちらの戦力を削ろうという一手だ。俺が1人というのも拍車をかけた。
「どうしたもんかなぁ……」
乗ってきたバイクとの間には奴らがいる。逃げ続ければそのうち諦めてくれそうだが今度はダールの領域に入る羽目になる。それはそれでというか、むしろそっちの方が面倒だ。
富裕層の巣窟に武装した人間が入ってきたら、奴らは問答無用で射殺するだろう。問題が起きても金で揉み消すような人種だ、関わらないに越したことはない。
「なら、真っ向から迎え撃つかぁ……」
手元の雷のコアを見つめる。これを使えば恐らく奴らお得意の連携を一時的に無効化できる。そうすりゃ各個撃破において問題はない。
だが、奴らの数も練度もまだ十分に把握できていない。
故に、待ちの一手を取るしかない。多少ボコスカ撃たれても今の身体なら平気な気はするが、まだ不確定な要素も多い。リクラスの技術者は人体実験がしたくてウズウズしてるらしいが付き合ってやる気はない。嫌だ。死ぬより絶対苦しい。
相手が刃物とかならそのまま食らってやってもいいが、銃弾の場合傷が塞がると体内に残留するのでは?という疑問が残る。まあ別に帰ってきてから教団の病院で摘出してもらえばいいんだが、それなら結局撃たれないに越したことはない。
「……」
それっぽい形をした枝と葉をサッと晒してみる。
乾いた音とともに吹き飛ばされた。
「だよな」
そういえばこの前やったようなレールガンもどきができるなら、ある程度の磁場の任意操作ができるかもしれないな。
そしたら銃弾を逸らすくらいはできるかもしれない。
展開。範囲、線。距離、1〜-1。方向、側方。形式、電流。
「む」
左手に構えたコアの前方に雷の霊子が規則正しく整列する。
試しに奴らが撃ち損じた銃弾を拾って上から落としてみる。
「おお!」
若干だが、逸れた。成功だ!早速試してみよう。
その左手をそのまま物陰から晒してみる。今まで通り、ワンテンポ置いた後に発砲音がして……!
「ぐっ」
左手から甲高い金属音と衝撃が発せられる。同時に磁場を乱された雷のコアからスパークが走った。
「いってぇ……」
駄目だったようだ。条件を維持できなくなった雷のコアは待機状態に戻っている。
「導体が高速だと逸らす前に当たるか……」
それに磁場の強度も多分足りてなかった。こりゃあ銃弾逸らしは諦めた方がよさそうだ。
「ようやくこいつの有効な使い方が、と思ったんだがなぁ……」
風のコアは非常に便利だ。空気の塊を自在に操れるということに助けられてきた場面も多い。銃弾逸らしも爆風レベルの風を起こせば可能だろう。
反面俺が目覚めた頃から持っていた雷のコアはどうにも使い勝手が悪い。電磁波を発しての通信妨害、直接放電によるスタン、単純な電撃による攻撃。どれも自分で攻撃目標を設定しづらいのでどうも優先順位が下がる。この前発見した電磁誘導も現状使い道がない。
あの投槍も屋内限定だ。外で使って外した日にはどこまで飛んでいくかわからん。回収が面倒すぎる。
「待って戦力把握、わかり次第各個撃破しかないか……」
手頃な枝と葉を集めて折ってちぎって突き刺して。
ひょいと今度は反対側から出す。
今度は葉にすら当たらず地面に弾痕をつくるだけだった。
いい感じに苛ついてきてるな、奴ら。
ここが山の麓、鬱蒼とした森で助かった。明るい環境下ならこんな子供騙し通用しないからな。
しかし一向に回り込んでこないのは気になるな。相手が籠城戦を仕掛けるなら普通は回り込んでくるものだが……。
そんなことを考えつつ、無意識に枝葉をまた出した。
「……?」
銃声がしない。少し調子に乗ってふりふりと揺らす。反応なし。
囮と看破されたか?それとも移動している?
移動されたなら包囲される前に後退する必要がある。俺はゆっくり中腰で次の遮蔽物へと……。
『……06番、06番。聞こえますか?』
耳元から聞こえる事務的な声。エイラだ。
「こちら06番、どうしたエイ……オペレータ07」
『ああ、ようやく繋がりましたか。ということは敵は片付けたということですか?』
「いや、急に妨害が薄くなった。というか、消えた」
『一人ぐらいは仕留めてますよね?』
「いいや、防戦一方だった」
『使えませんね。して、相手はレオンですか?』
「多分な」
『敵の素性すらわからないとは。どうせ死なないんですから正面突破すればいいではないですか』
「いや、さすがに失血で死ぬだろ……」
『それでも2〜3人は道連れにできるでしょう?』
「お前俺を何だと思ってんだよ」
『駒ですが、何か』
相変わらず身も蓋もない言いっぷりだ。俺一人で2〜3人とカウントしてるとこはまあいいのだが。
『まあ、今はそんなことはどうでもいいです』
「いいんだ」
『任務です、06番』
「任務?」
『外部委託。依頼主は……チェイスですね』
「あいつからか。とりあえず帰って装備整えてからでいいか?」
『緊急です。今彼女に代わりますね』
「あっ、おい!」
何だ?緊急?
『ボルカノ!今すぐ首都に来なさい!すぐよ!』
「怒鳴るな、耳に響く」
『知らないわよそんなこと。いいから早く来なさい』
「おいおい、事情くらい話してくれてもいいだろ」
『あなた、インカム使ってるんでしょ?』
「それが……」
『なら移動中に説明するわ。今は一刻を争うの』
いつになく真剣かつ焦りの見える声色。
「……わかったよ」
まだレオンらしき敵の脅威が消えたわけではないが、俺は後退をやめ走り始めた。
停めてあるバイクに乗れば首都まで1時間もかからないだろう。
『一応大まかな概要を説明するけど』
「ああ」
『首都に、悪魔が現れたわ。それも大量に』
「……何?」
俺はアクセルを派手に鳴らし、首都への道路を最高速度で走らせる。
あれから事情は大体説明された。といっても1時間前ほどにデーモン、ゴブリン、リザード、キールをメインにした悪魔が突如首都に出現、同時に複数の教団員が人間に襲撃されたとのことだ。現場は混乱を極めており、特に首都の直北に位置する教団がいながら悪魔の侵入を許したという事実が民間人をパニックに陥らせているらしい。
襲撃者のうち、悪魔はどこからともなく現れ無差別に蹂躙。人間の方は教団と団員が率先している民間人を優先して攻撃しているとのこと。
人間の方は前回ギルモアを襲った勢力と同一と思われており、民間人に紛れている。
ここぞ警察の仕事だが、こんな事態まるで想定していない上、銃を取り出すと教団から襲撃者に勘違いされる始末。
「まずいな……」
首都に攻撃を仕掛ければ、教団、警察、企業の傭兵が入り混じる戦場になる。
これが悪魔だけなら、教団に任せ残りは民間人の保護に当たればいい。人間だけなら、教団は知らんぷりで警察と企業の仕事。だが両方となると互いの仕事の領分が被る。
そもそも襲撃を可能にする戦力を各勢力に察知されずに首都に潜伏させることなど不可能に近い。誰も想定していないことだ。
「どうやったか……なんてのは後でいいとして、今は目の前の悪魔の掃討だな」
森を抜け、ギルモアの区間に入る。
そこで、ようやくというべきか、妨害が完全に消え去った瞬間に端末から呼び出し音が飛び出す。
ちなみにレオンの襲撃はない。一応向こうも本社は首都だから、防衛のために撤退したのだろう。
「陸か」
『ボルカノ!今まで何してやがった!いや別に今はそれはいいから首都に行け!』
「怒鳴るな、耳に響く」
『怒鳴らずにいられるか!何が起きてんのか知ってるのか!』
「知ってる」
『だろうな!全く少し目を離すと……って、え?』
「いや知ってる、首都に悪魔が出たんだろ。今向かってる」
『……お、おう。知ってるならいい。今まで何してたんだ?』
「任務対象の悪魔を倒したら俺も襲撃されてな。前回と同じように通信妨害されてた」
『……なるほど。ということは、そいつらを片付けてきたのか?』
「ああ。森の中で単騎だったから多少手こずったが」
『そういうことなら問題ない。……怒鳴って悪かった』
「あー別にいいから。今はそれどころじゃないだろ」
『……? いやに素直だな』
いや、素直じゃないです。嘘つきまくりです。よく考えたらいつまで教団に俺が悪魔なこと伏せてられるのだろうか。そろそろ真剣に考えないとやばそうだ。
「素直ってな……首都には俺んちもあるんだ、当然だろ」
『スラムにまで被害が及ぶか?』
「及ばなくても火事場泥棒は沸くだろ」
『確かに』
再び適当な嘘。火事場泥棒は沸くが俺の事務所にわざわざ盗みに入る命知らずはあの辺にはいない。
「何れにせよ、悪魔だけは先に排除して教団がずらかる必要があるんだろ」
『ああ、テロリストの狙いは何故かわからんがうちの団員だ。だが悪魔がいる以上退くに退けないからな』
「全く。人間と悪魔が共謀すると手に負えないことはしっかり報告を受けたはずなんだが」
『そうは言っても教団のスタンス的に出ないわけにもいかないからな。まあ幸いなことかわからんが、未確認の第三勢力も悪魔を攻撃しているという情報もある。統制された奴らだ』
……多分企業の傭兵だな。教団と企業の初接触、初めての協働作業ってわけだ。
『だがテロリストと誤解した瞬間苛烈な反撃を受けたという報告もある。味方というわけではなさそうだ』
「だろうな。しかもそいつら同士討ちとかもしてるんだろ?」
『……何故知ってる?』
「勘だよ」
危ねえ。つい言ってしまった。恐らくこんな状況下でも傭兵は他企業の戦力を削ろうとするだろう。
となると、現場の混戦っぷりは相当ヤバい。いつ誰に背中を撃たれ刺されるかわからない状況だ。
『ともかく、そいつらには攻撃しないで悪魔とテロリストだけを攻撃してくれ』
「無茶言うぜ 見分けなんてつかないだろ」
『……そいつらは集団で行動し、似た意匠の武器を装備しているということくらいしか』
まあ、装備を見れば大体わかるな。それにこういう事態に迎撃に出る企業は限られるだろうし。
『それにその無茶は、既に教団全体に強いられていることだからな』
「わかってる。とりあえずテロリストより悪魔を優先していく」
『そうしてくれ。民間人はパニックになっているが、第三勢力の誘導もあいまって案外スムーズに避難できている。テロリストも前回よりかは小規模のようだし、悪魔が片付き次第収束しそうだ』
「ギルモアの件の後処理もまだ終わってねえってのに、難儀なもんだ」
『全くだ。今回は通信妨害がないからいいものの』
「とりあえずもう少し速度を上げる。伝達事項はそんなもんか?」
『ああ。また新しい情報があれば逐一伝える』
「わかった、一旦切る」
『……頼むぞ』
状況を整理しよう。首都に悪魔、テロリスト。悪魔の攻撃対象は無差別。テロリストの攻撃対象は教団。教団の攻撃対象は悪魔とテロリストで、企業の攻撃対象も悪魔とテロリスト。だが、企業の方は教団と協力する気はない。政府は警察を出しているだろうが、多分もう機能してないだろう。
そういえば、リクラスの任務を受けたジグはどうしているのだろうか。通信がないということは戦闘中か、死んだか……。
まあそれはあまり心配しなくてもいい。短期間とはいえ、俺が直々に鍛えたからな。
……つまり、今の俺の立ち位置は、教団及びリクラスに攻撃されず、他企業の傭兵からはテロリスト扱いされかねないこと。警察は恐るに足らずだが、テロリストは俺を狙うこと。そして俺は悪魔を最優先で片付けること。
自分のするべきことを再確認すると、俺はさらにスピードを上げる。
前回が奴の言う「試金石」なら、今回はいわば本番だろう。こんな大惨事に、奴が関与していない理由がない。
「待ってろ……ボレロ」
「首都防衛」
形式:迎撃
依頼主:チェイス
報酬:未定、後払い
領域:ギビング全域
期限:-
概要:首都に現れた悪魔及び武装勢力の掃討
条件:敵全滅もしくは撤退
備考:報酬は言い値で払うわ。とにかく急いで!




