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Re verse  作者: さいう らく
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34/43

Raid 1 とらぶるたいしつ

 


「くっ……殺せ!」

「いやそんな台詞吐かれても」


 この僕、ジグ、今はリクラスの17番だけど、首都の南端付近でKORYUの傭兵を捕縛している。


 与えられた任務はごく単純。リクラス支店に潜入、機密データを奪取した傭兵を見つけて取り返せ、とのこと。

 殺す必要どころか、うまくやれば戦闘せずに達成できる任務だ。


「にしても、この人あっさり捕まりすぎでしょう……」

「おのれ魔術師め、奇怪な術を使いおってからに」

「キャラが安定しないな……」


 恐らくエイラさんも厳選して僕にもできそうな仕事をチョイスした……と思う。多分。


「これが通れば俺も晴れて正規の傭兵だったものを」

「あれ、それは悪いことしたな」

「殺すなら早くしろ!」

「いや殺しませんて」


 ……なるほど。他の企業でも僕らの時のように試すことはあるわけだ。しかしこの人は明らかに向いてなさそうな。

 ううむ、リクラスはなんというか、実利主義というか現実的というか。身も蓋もないというのがしっくりくる集団なのだけどKORYUは違うのかな?結構剛毅なところだとは聞いてるけど。


「目的のものは返してもらいましたし、無益な殺生はしませんよ」

「ぬぬぬ……」


 ちなみに彼は先輩の()一部解析して編み出した、『錬成』の魔術で作ったワイヤーで捕縛している。

 先輩の使う錬成は自由度が高すぎて現時点では再現できない。そもそも、ボーキサイトからアルミを抽出するような、分解用途しかなかった鉄属性が何かを作れるようになっただけマシではある。

 先輩は基本的に錬成したものをポイ捨てしてるけど、剣だろうが壁だろうがなんだろうが、錬成したものは純度100%の貴重な物質だ。戦闘後僕がちょくちょく持ち帰るものを開発局の人達はそれはもう目の色変えて欲しがるもんだから僕も俄然興味が湧くわけだ。


 今は用意されたインゴットからイメージ通りのものを何度も何度も失敗して作るのが精一杯で、しかも僕レベルの霊子適性がないとうまくいかないからとてもじゃないが実戦にはまだ出せない。

 でも城下町にあるらしい鍛冶屋も珍しく興味を持ってるらしく、先行き明るい研究だと思う。

 先輩には悪いけど、教団内で僕が実績を得るためには十分な内容だ。


 と、それはいいとして。この人をどうするかだな。


「この武器も持ち帰るにしてはでかすぎるしなぁ」


 この傭兵が所持していた兵器、身長より一回り小さいくらいの巨大な砲……確か榴弾砲?だったかな?僕にはどうせ扱えないし隠しておいて後でリクラスに売り払うか……?

 まあいいや。先輩にも聞いてみよう。


「貴様……この砲の魅力をわかっていないな?」

「あなたは自分の立場をわかってませんよね」

「無骨な意匠!長大な砲身!超威力の砲弾!ド派手な大爆発!」

「その大爆発のせいでシロウトの僕にすら居場所割られてるじゃないですか」

「この砲のロマンがわからんというのか……!」


 ……んー、まあロマン砲的なものに魅力を感じるのはわかる。でも僕は魔術でいくらでもそれらしきものをぶっ放せるし。


「でもそれって当たれば、でしょう?」

「がはァッ!」

「あ、トドメさしちゃった」


『17番。目的は達成できたようですね』

「あ、エイラさん」

『……』

「……オペレータ06」

『はい、なんでしょう』

「とりあえず目的のものは入手しました。一応本社でスキャンかけてから提出します」

『とりあえず、というと?』

「相手のKORYUの傭兵がちょろくてですね、捕縛に成功したんですけどどうしましょう。あ、でも正規ではないらしいんでまともな情報は持ってなさそうです」

『また面倒なことを……』

「この場合、やっぱり……殺すんですかね?」


 いい加減、僕も甘ったれたことを言うつもりはない。人を、殺すことだって……。


『あら?そこまで気負わなくてもいいんですよ?』

「え」

『どうせ殺せないんでしょう?』

「なんてそこで煽るんですかね……まあおいそれとはできませんが」

『捕縛してるなら放置でいいでしょう。ただ武器だけは回収しておいてください』

「ですよねー」

『なんですか?』

「いえ、この砲めちゃくちゃ重くてですね」

『知りません男なら重いとか言わないでください』

「うへぁ……」

『では規定通りに。砲が目立つというのであればリクラスの支店に預けるのも手です』

「……了解、です」


 うむ。とりあえず何か布やら袋やらで隠してこの砲を担いでいくことから始めるとしよう。

 いくらで売れるかなぁ……。


「貴様、どこへ行く」

「いや普通に帰りますよ」

「いいのか始末しなくて」


 ここで僕はとっさに始末するほど脅威と自覚してんの?と言いそうになる。いかんいかん。先輩に毒されすぎだ。というか毒舌ならエイラさんだって相当なもんだし。


「別に個人的には何の恨みもありませんし。上が殺さなくていいってんならそれに越したことはないですよ」

「……そうか」


 ん?なんか妙に聞き分けがよくなったな。これは警戒した方がいいのか?


「感謝する。この恩、忘れはしない」

「恨まれこそすれ恩は違うと思うんですがね……」

「なに、命があるのだ。また挑めばいい」

「命無駄にする気ですか。僕の先輩なら容赦しませんよ?」

「ふふ、今そうでないのだから問題ない」

「……そーですか。ではご達者で」

「おう!」


 なんだかなぁ。この人、絶対向いてないよ。


 結局砲を担ぐのは体力的にきつそうだったので、紐で縛って引きずっていくことした。ゴリゴリと地面を削る音に混じってあの男の悲鳴が聞こえてたような気がするけど知らない知らない。


 あとはなるだけ一目につかないように支店に……。




『なんだあれ!』


「……?」


 大きな声がした。表通りの方だ。

 ビクッとして振り返るがどうやら僕のことじゃないらしい。


『本当だ!なんかいるぞ!』

『どこ?!』

『あのビルの上!』

『人かしら?自殺?』

『普通に修理とかじゃねえの?』


 砲を置き、そろーりと表通りを覗く。人だかり、というほどではないが屋上にいるらしき何かを見るために人が溜まっている。

 確かに遠目には人くらいのサイズの何かが、こちらを見下ろしているように見える。


「あれは……?」


 リクラスで支給された双眼鏡で、人々が指差す箇所を凝視する。


「えーと、ピントはこのくらいで……?!」


 焦点が合い、ソレ(・・)の姿を確認した僕は目を疑った。


「……嘘、だろ」






「陸さん、このデーモン種ってどんな悪魔なんですか?」

「デーモン?ああ鬼のことね」

「鬼?」

「通称だよ。ゴブリンは小鬼、デーモンは鬼、オーガは大鬼だ」

「なるほど」

「で、データベースを見れば大半のことはわかるはずだが、何の用だ?俺も休憩中とはいえあんま暇じゃない」

「奴ら、肉弾戦の他に魔術も使うらしいじゃないですか」

「そうだな」

「どういう姿形、能力、弱点や注意点とかは載ってるんですけど……魔術の形態とかって」

「あーはいはいはい。そゆことね」

「こちらの魔術が彼らの能力を模倣したものなら、近いと思うんですが」

「そんなこと知ってどうすんだよ」

抵抗(レジスト)できるのかなーと」

「ぶっ」


 陸さんはおもむろに吹き出す。


「ははは!確かにお前ならできるかもな!」

「僕なら?」

「抵抗なんて、自分の属性と同属性の魔術を相殺してかっ消すもんだからな。そもそも実戦じゃ自分と同じ属性の敵に突っ込む奴なんざいねえし」

「あ、そっか」

「属性持ちと当たる時は、有効な属性をぶつけるのが基本だからな。お前みたいに全属性抵抗できる奴なんて普通ありえない」

「なるほど……」

「ああ、で、何だっけ?デーモンか?」

「そうです」

「ぶっちゃけあれを今まで何十匹も屠ってきたお前の先輩に聞くのが早いんだが……あいつはそういうの気にしてなさそうだな」

「はい、撃たれる前に潰せで一蹴されましたよ」

「まあそうだな。奴ら、中型の悪魔にしちゃあ随分と格の高い魔術……のようなものを使う。だが発動に必要な霊子の集まりが遅いから、実際撃たれる前に潰すのがいい」

「溜めに時間がかかる、と」

「効率が悪いとも言うな。例えば炎属性だと発動前に火が漏れるし、雷なら漏電する。前兆はあるはずだ」

「ほうほう」

「でもまあ、どんな形式で出るかはわからんし、奴ら基本的に移動しながら攻撃してくるから抵抗は非現実的だと思うぞ?」

「まあそんなうまくいかないのは知ってますよ。でも選択肢として有効なのは確かです」


 魔術……人間側が使うものは、基本的に魔術刻印の組み合わせ、つまりは文字の組み合わせで単語を作るように、範囲や方向、大きさや持続時間などを組み合わせて使う。たまーに構成破棄したり、省略や条件付与とかもするけど「設定した後に」霊子を溜め、発動する。

 でも今の話からすると悪魔の方はどうや「設定する前に」霊子を溜め、それから状況に応じて任意の形で発動するようだ。

 つまりは向こうが後出し。全く同形式の魔術を消し去る抵抗はほぼほぼ使えないに等しい。

 だとすれば。


「じゃあ、発動前の霊子を奪い取ってしまえばいいわけですね?」

「奪い取るって……ああ、そういう。ソアラが得意としてる奴だな?」

「知ってるんですか?」

「霊子を魔術を使うためのリソースとして逆に利用したのはあいつが初めてだからな。それなりに有名だ」

「へぇ」


 彼は同じ相手には二度と使えない、しかも自分の魔術の霊子消費量じゃさほど大きな効果は期待できないと言っていたけど、そうでもないようだ。


「でも移動する相手が保有する霊子を……というか、そもそもそんな複雑な術式を実戦でポンと組めるのか?」

「頑張ればなんとか」

「なっちゃうのね……まぁ、いきなり実戦だとまずいから条件付与の追従及び設置を使える奴に頼んで練習してからの方がいいだろうな」

「心当たりあります?」

「あるが……そこまでは俺の範疇じゃねえな」

「というと?」

「自分で探して自分で頼め。さすがにもう二週間になるからな。話しかけられませんは理由にならんぞコミュ障くん」

「くっ……」

「じゃ、そろそろ行かせてもらうわ。がんばれよー」

「はい、ありがとうございます」






 そのデーモンだ。不気味な笑みをたたえてビル屋上、給水塔の上に座っている。


(どうする……!)


 手持ちの武装は、まともに当てる腕のないハンドガン一丁、先輩から非常時用に持たされた手榴弾一式、教団のメイス、そして使えるかはわからない戦利品の砲。


 そもそもここでぶっ放せば、教団、警察、他の企業の目に触れることになる。特に前者二つは厄介だ。

 デーモンは今のところ動く気はないようだ。まずなんでこんな所に堂々といるんだ?それに今すぐ暴れ出さない理由は?

 とりあえず、人を散らすのが優先か?いやでも混乱を招くだけになるかもだし……やはり直接叩くか?


 そうこうしてる内にも、集まった野次馬のうち数人はもうおかしいことに気づこうとしている。

 くそっ、先輩なら……いや、僕でないのなら誰でも、すぐに動けるはずなんだ。


 訓練生である僕の戦闘行為は禁じられている。教団の人に見つかるのはまずい。

 だが、警察はそういうルールを知らない以上魔術師である僕に早急に手出しはできない。

 そしてリクラスは……襲撃を受けたと言えばなんとかなるだろう。


 よし。とりあえずは相手の動向に気をつけつつ静観。何か動くようなら先制して叩いて、その前に教団が来れば見つからないよう撤退って感じでいこう。

 うまくいくかはやってみなきゃわからな


「!」




 轟音。その一拍子後に軽い振動。


 ……爆発だ。結構遠い。

 ちょうど、悪魔のいるビルの向こうから煙があがっているのが見える。


『なに?爆発?』

『おい……やばくね?』

『それにあの屋上の奴、やっぱおかしい』

『俺帰るぞ』

『私も』


 そして、まるでそれを合図にしていたかのように、悪魔が飛び上がった。


「!」


 そのまま足元の給水タンクを踏み潰す。大量の水が噴出した。

 野次馬と通行人は一瞬の間をおいて一斉に動き出した。悪魔とは逆の方向。都市の中心部へ。


『うわっ!あいつ!』

『なんか落ちてくるぞ!』

『逃げろ!』

『何なのよ!』


 僕は違和感を感じていた。粉砕された給水タンクから飛び散る水の落下速度が、やけに遅いのだ。ただ水が落ちて当たるだけなら痛ぇで済むだろうが、悪魔が何の意味もない行為をするとは思えない。

 そして僕が悪魔の周囲に白い霧が出ていることに気づいた時には。




 範囲、円錐。方向、上方。時間、h。形式、放電。


 残条件……破棄ッ!




 降り注ぐ氷針を、僕が放った雷が全て粉砕した。




・デーモン

 小規模ではあるが、属性を帯びた霊子を扱う悪魔。見た目としてはゴブリンをより大きく、スリムにしたものだが、単体での戦闘力は大幅に向上しており相手が肉弾戦を挑んできたとしても素人には危険な相手。

 同じ種の中で形態にかなりの差異があり、翼を持つ個体も確認されている。

 こちらの世界では霊子効率があまり良くなく、霊子を用いた攻撃にはタイムラグがある。

・榴弾砲

 炸薬及び爆薬を充てんした弾頭を発射する砲。対人においてはオーバーキルだが、車両や施設、そして悪魔に対して有効なため戦後の今でも用いられている。この呼称は携行兵器に対して有効。

・構成破棄、省略

 魔術の構成術式を一部省く行為。破棄した場合はその項目そのものが無くなり、省略した場合はプリセットされた初期値を採用する。

 省略を使う際の初期値は基本的には今まで使ってきた魔術の平均値から採用されるが、ジグは例外としてあらかじめ設定された値を用いる。

 例として方向を破棄すれば発動方向はランダムになり、形式を破棄すると不発になる。主にとっさの迎撃のために範囲と距離、時間が破棄されやすい。

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