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Re verse  作者: さいう らく
Verse/1 false charge
32/43

Degression 4

 


 最悪だ。


 何がって、この状況。


 別に危機的ってわけじゃない。むしろ、普段一人で戦うより遥かに安全だ。

 ヴラドも今回結構がんばって動き回ってくれたようだが、上の決定には逆らえなかったらしい。


「……はあ」


 ため息一つ、呟き一つ、身じろぎ一つする度に、銃口が、睥睨がこちらを向く現状は。


「心臓に悪い」






 話の発端は数時間前に遡る。朝。陸が任務を持って支所にやってきたところからだ。


「えっ」

「聞こえてるだろ?第四部隊と協働しての任務だ」

「えっ」

「対象は目撃証言から恐らくリザード種」

「えっ」

「地区はスーマ西」

「えっ」

「その分報酬も弾む、との話だ」

「えっ」

「……」

「……」



「いい加減にしろ!」


 怒られた。くそ。


「いや本当に聞こえない」

「嘘つけ!どんだけ嫌なんだよ!」

「俺やっぱ教団やめよっかなぁ……」

「早ぇよ!ついこの前折れてくれたんじゃなかったのかよ!」

「えっ」

「聞き飽きたよ!」


 さて、そろそろふざけるのもやめよう。現状、教団に逆らうメリットはない。第四部隊と協働というのも、できるだけ関わらないよう、というかむしろサボるくらいの勢いでいけば多分大事にはならずに済むだろう。奴らのお零しをちまちま狩るくらいで問題ないはずだ。


「して、何故だ?」

「今の第四部隊はお前のせいでだいぶ弱い。が、市街地付近をうろうろしてる悪魔を周辺に被害を出さずに駆除するのは第四部隊が適任なんだよ」


 前半は置いといて、後半はまあ合ってる。近接寄りオールラウンダーの第一部隊は近寄らなければならない都合上町への侵入を許す可能性があるし、精鋭魔術師の第二部隊は確実に周囲の自然環境ごと焦土にするし、魔術の発動は周りのあらぬ悪魔を呼び寄せる可能性もある。

 第三部隊だが、基本的に少数派遣や、侵攻中の悪魔を嵌めるなどの搦め手が得意なので既に前線に迫ってしまった悪魔の対処には向かない。

 そこで相手に悟られず、手痛い打撃を与えかつ霊子を用いない第四部隊が抜擢されるということだ。


 銃や爆発物などの近代兵器を用い、しかもそれを外部企業から供給するという教団のスタンスからは少し離れた部隊。軍部や傭兵仕込みの高い連携と、市街地戦に特化した戦術、そして白兵魔術ともに劣る団員が活躍できる銃という武器……どれも当時(・・)の教団には必要なもの、だった。


 だが、俺の存在がどうやらそれを大きく変えてしまったらしい。

 当初、俺は傭兵上がりということで第四部隊に入ると見られていた。

 だが、俺の変則二刀流メインにサブアームとして銃を持つスタイルを最も生かせるのは第一部隊だった。

 そこで俺の影響を勝手に受けた一部の奴らのせいで、補助兵装としての銃が教団内で流行。銃の価値を再確認されたことにより、銃特化の第四部隊の肩身は狭まってしまったということだ。


 正直知ったことじゃない。俺が発端とはいえ、俺が何かしたわけではないのだから。


「弱くなったのは俺のせいじゃないだろ」

「まだ言うのか、それ」

「別に銃の相対的価値が上がっただけで、奴らの個性が没しただけだろう。それならより練度を上げるだとか、他にも独自性を獲得するだとか、やり方はあったはずだ」

「……あー、お前。そっちね」

「は?」

「俺が言ってんのは、お前が〆ちゃった数人に関してだよ」

「……あれがどうかしたのか」


 ずずず、と陸が紅茶を飲む。


「あれ、ね。まず女にああいうことをした時点で、第四部隊の大半を占める女性から反感買ったよな」

「それが?」


 教団の女性比率としては、第一部隊は男がほとんど、第二部隊は女性3割、第三部隊は半々、第四部隊が6割女性、となっている。俺の記憶では。


 まあそれはもちろん入団希望者の女性のうち大半が適性を見出されずに第四部隊にぶっこまれるからであり、別にそういう集団というわけではない。


「で、お前あの時再起不能にした奴ら覚えてるよな?」

「……いいや。あの時の俺のことは、何を聞いても無駄だ」

「……そうかよ」


 2年前。とある事で激昂した俺は、記憶ぶっとばすくらいキレて暴れた。何をしたかは鮮明に覚えているのだが、何を言われたかとか誰にしたとかはあまり覚えていない。

 ただ、あの時の蛮行を今できるかと言われれば、多分無理だ。あの時の俺だからこそ、やらかしてしまえたのだから。


「で、誰だったんだ?」



「第四部隊の隊長殿、副隊長、エース級数人だよ」

「……そうか」


 初耳だった、というか、まあ1年間放蕩し、さらに1年間細々と教団の支部にいた俺は知る由もなく、また俺だって誰にやったかくらいは覚えてるだろうと誰も言ってこなかったのだ。


「ここまで言えばわかるだろ?」

「さらに行きたくなくなった……」

「主戦力を失い、頭目も後継させる暇なく失われた部隊がまともに機能するわけがない。お前がいなくなった影響はもちろん大きいが、お前自身がやらかしたことも相当重大な痛手をもたらしてるのさ」


 何か、今まで逃げてきたツケが回ってきた感じだな……。


「なるほど。必要以上に嫌われる理由はわかった」

「同時に許されないこともわかるだろ?」

「許されようだなんざ、思ってないさ。何に関しても」

「……ならいい」



 沈黙。


「えーと……で、結局なんで先輩が必要なんですかね」


 ジグがおずおずと口を開く。


「……」

「……」


「先輩?陸さん?」


「お前馬鹿か?」

「馬鹿じゃねえの?」


「酷いな!」


 陸がため息をつきつつ説明を始める。


「まあ、第四部隊とて銃専門だからってそれしかできないわけじゃない。少しくらい魔術を使える奴はいるし、最低限の白兵戦闘技術は教団の必須事項だ」

「はい」

「が、やはり銃という武器の都合上接近されると戦いにくい。以前の第四部隊なら、補助がなくても悪魔を寄せ付けないレベルの前線を組めたんだが……今はそれができない。つまりは、前衛が必要なわけさ」

「……なるほど」


「で、結局俺だけか?」

「いや、第一部隊が北に出払ってるから付近の支所から数人、って感じだ」

「じゃあ適当に手を抜くか……」

「背中から撃たれるぞ」

「わかってるさ」


 上が決めた以上、仕方のないことだ。まあ、まさか向こうも親の仇みたいな俺の目の前でみっともない様を見せる気もないだろうから、多分大丈夫か……?






「んなわけなかった」


 作戦開始前に合流地点に着いた時点で銃を突きつけられ、そしてそのまま隊員に睨まれながら連行され、全員から見える地点で待機命令。

 そして今に至る。


 他の支部の人員とやらは割と自由にしている。数人ギルモア西で見かけた奴もいる。

 ちなみに今回はジグはいない。本部で訓練中だ。この状況じゃマジで役立たずどころか邪魔だし。


 特にやることもないので周囲を観察する。

 見た顔は基本的にこちらを睨みつけているか、無表情だ。俺が抜けてからの新顔は話こそ聞いているようだが、目の当たりにしてない以上大悪人かどうかわかりかねる、とりあえず関わらないようにしようみたいな顔をしている。

 他の支所の奴らは完全に内輪で円を組んでる。


 結果、俺を囲う形で円ができていた。


「まだ接敵しないのか……」


 予定ならそろそろ陣営を組んで、俺は前線に放り込まれるはずなんだが。

 この包囲網じゃ迂闊に眼は使えない。奴らの索敵にたよることになる。

 そうして周囲を見渡すだけで警戒を受ける。そうされても仕方ないようなことはしたが、そういうのは終わった後とかにしてもらいたいもんだ……。

 終わってからも嫌だが。


「おい、あんた」

「……?」


 背後から声がした。俺の周囲に誰もいないことを鑑みて振り返る。


「ボルカノ……だろ?この嫌われようは」

「お前は?」


 男が一人、俺の背後に立っていた。服装からして……第三部隊か?


「俺はノア。あんたと入れ違いくらいの頃に第三部隊に入った。今はグリーニアの支部にいる」

「……で?」


 背は平均的。くすんだ金髪に水色の眼。第三部隊の制服に短剣らしきものをかなり大量に携えている。

 そのグリーニア支部の仲間らしき奴らは呆れた顔をしてのちらを見ている。


「……で、って。俺は新入りだからあんたのことを知らない。そんな状態で協働なんかできるかよ」

「他の奴らにでも聞けばいいだろ」

「こぞってあいつには関わるなと言われるばっかりでさ。埒が明かないから直接聞きに来た」

「……それで大体合ってる」

「そうかよ。でも装備を見る限りまあ、確かに近づかない方がいいのはわかった」


 ……ほう。というか、本当にコイツ新入りか?

 なんというか、眼が、違う。入れ違いということは実戦経験は2年しかないはずだが、いやまあ2年も戦ってればそれなりにはなるが……。


 そう。あの傭兵。先日遭遇したブルーローズの傭兵の眼つきに近い。


「どうした。だんまりか?」

「いいや、嘘をつくのが上手いんだな、お前」

「嘘は言ってない。ここ(・・)に来たのは確かに2年前だぜ、先輩」

「……そうか」

「ま、互いに近づかない方がいいのがわかったことだし」

「?」


 俺の向かいにどっかりとあぐらをかく男。

 第四部隊が怪訝そうに見る。


「なんだその顔。ここにいちゃまずいのか?」

「俺はまずくないが、お前はそうでもないだろ」

「あー、第四部隊の女の子?」


 周囲がビクッと反応する。やはりそういう言い方には敏感か。


「なに、お前は扱いさえ気をつけてればこんな厳重な警戒が必要な相手じゃないだろ」

「……わかったような口を」


 馴れ馴れしいな。気に食わない。


「しかし少し前で本部で見た時よりだいぶ荒れてんな。希代の魔術師見習い様を鍛えてた時は随分と楽しそうで、噂は嘘かと思ったが」

「楽しそうだ?」

「違うのか?」

「んなわけあるか。あんなモヤシ鍛えるなんざ互いに苦行でしかねえよ」

「だはは、同感だ」


 またやりにくい相手だ。第四部隊の眼差しもより一層厳しくなってるし。


「やっぱり噂通り、じゃないみたいだな」

「うるせえなさっきから噂噂と」

「白い悪魔とかいうが……全然じゃねえか」

「ああそうかい」

「おや、キレないのか?」

「その名にこだわりもなければ自分でつけた覚えもないからな」

「やっぱ実物は全然まともじゃねえか。今度あいつらに会ったら絞ってやる」

「あいつら?」

「第三部隊であんたのことを狂犬だの鬼だの悪魔だの言ってる奴がいたからな。俺は実際に確認しないと気が済まないタチでな」

「面倒な奴だな、お前」

「ひでえなぁ。あんただって不当な評価は嫌だろう?」

「いいや」


 不当。不都合。理不尽。そんなのは……。


「……慣れてる」



 周囲が少しざわつく。俺の言動がそこまで刺さったのだろうか?

 こちらを睨んでいた目線が少し逸れていく。


「なるほど、ま、今日はこんなもんにしとこう」

「今日、は?」

「なに、生きてりゃまた仕事(・・)で会うこともあるだろうよ」

「そいつは御免だな」

「つれないねぇ……」


 男が立ち上がろうとしたその時。




『敵、確認しました!数は6!全員配置!』


「お、ようやくお出ましか」

「のようだな」

「じゃ、互いに死なないようにな」

「お前は死んでていいんだぜ?」

「はっは、面白い奴だな、あんた!」


 そう言うとノアは跳ね起き、自分の仲間の元へと足を向ける。

 敵襲だというのに呑気な奴だ。


情報(・・)通りだ」

「……?」


 ノアが離れたことにより、また容赦無く突きつけられる銃口を掻き分け、俺は配置に向かった。






 結局、その日の戦闘は俺が悪魔の力を使わないよう気を遣ったのと、なんとなく気が乗らなかったせいでさほど稼げなかった。牽制やライン維持に貢献したくらいだ。


 第四部隊は一応仕事はしている俺を訝しみつつも、きっちり悪魔を片付けた。そのあたりの矜恃はあるらしい。


「ということだ」

「珍しいな。お前がクレームなしで帰ってくるなんて初めてだぞ」


 教団本部。今日は陸の都合で開発棟で報告。


「……ああ、そうなのか?」

「なんか腑抜けてんな。どうした?」

「いや、なんかな」


 あの、ノアとかいう男と話してからどうにも引っかかるものがある。何か、見落としているような。


「ま、いいか。ノアという男、最近頭角を現してる奴だが、案外面白そうだな」

「へえ、お前が気にかけるとなると、余程か」

「だろう?お前も誇っていいんだぜ?」

「余程の変人か」

「おい!違うよ!」

「ま、なんれにせよグリーニア支部なら関わりないだろうしこれっきりだろうな」

「案外わかんねえぞ?」

「そうでないことを祈る」


 開発棟は俺のいた時とは何も変わっていないようだ。工作機械のけたたましい音に混じって笑い声と怒声、意味のない叫びなどが飛び交う。


「ここは変わってねーのな」

「技術者はお前がどーなろうと知ったことじゃないからな」

「そうかよ」

「そういや、ジグもちょっと前に顔合わせしたんだよ」

「ほう、こっちにもか」


 あいつは戦う力をつけるのは元を正せば研究のためだ。いわば本職はこっちなわけだが、当分は戦闘部隊の方に付き合ってもらう。


「とりあえずあのクラムの息子ということは伏せてある。ここはその名前に取り分け敏感だしな」

「んで?第一印象は?」

「概ね合格かね。あいつ、本当に元学生か疑われてたよ」

「ここの変人どもが認めるってことは相当だな」

「変人言うな」


 喧騒の中だが、ここは落ち着く。全員が全員こちらを見ていないからだ。ここ以外だと、どうしても誰かが俺をよくない目で見ている。


 しかし、ジグは思いの外うまくやってるようだ。出だしは最悪だったが、考えてみれば俺も同じようなものではあった。


「……お前が気を揉まなくても、あいつはなんとかするさ」

「人の心を読むな」

「ということは図星か?らしくねえな」

「けっ」

「ま、俺は嬉しいけどね」

「何がだ」

「こんな会話、2年振りだろ」

「……」


 2年。その単語に俺は、もう一ヶ月前ほどには過敏に反応しなくなってきた。

 途端に罪悪感に駆られる。


「……帰る」

「おいおい拗ねるなよぉ」


『おいィ!陸!こっち来いッ!例のアレうまくいくかもしれねぇッ!』


 雑音に混じって嬉々とした野太い声があがる。


「マジか!今行く!」


 少し不満気だった陸の顔がパッと輝き、休憩スペースの鉄柵を邪魔そうに飛び越えていく。


「ボルカノ!報酬は振りこんどく!すまんな!」

「……ああ」


 あの調子者も、そういやこういう時だけ子供になるんだったなと思いつつ、俺は開発棟を後にした。


 本部に戻ってそこから地下鉄に乗る気は失せた。面倒だ。


「町……孤児院、行くか」


 気がつくとそんなセリフが出てきたことに急ぎ頭を振りつつ、俺は歩き出した。

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