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Re verse  作者: さいう らく
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Novice & Fugitive 3 迎合


 あの一団を撒いた後は、特にこれといった追跡はなかった。そろそろ教団への大橋が見えてくるはずだ。


「……いやに順調ですね」

「多分あれを突破されるとは思ってなかったんだろ」

「いえ、その後ですよ」

「派手にやったからな、迂闊に刺激して街で暴れられても困ると判断したんじゃないか?」

「はあ……警察とか使えばいいのに」

「使えない事情があるんだろうよ、でなきゃお前はもっと早く捕まってたはずだ」

「……そうですね」


 とはいえ、目立った行動をしてしまったのは確かだ。


「そういえば……えーと」

「カールだ」

「え?」

「これから入団するのであればボルカノでもいい」

「そうです、元教団所属、って言ってましたよね?」

「ああ」

「であれば先輩、ということになるんですかね」

「ん?まあ……そうなるか」


 教団内部は割と階級制による序列が厳しいので先輩後輩はあまり関係ない。しっくりこないし。


「で、先輩……何で人が話そうとしてる時におもむろにイヤホンしようとしてるんですか」

「いや。お前と会話すんのめんどくさいし」

「えらく辛辣ですね……」

「そりゃお前のせいじゃないにせよ、お前が原因でえらい目に遭ったんだからそうなるだろ」

「それにしてはえらく楽しそうでしたが」

「今すぐ降ろしてもいいんだぜ?」

「そーすると先輩は職を失うことになるのでは?」


 あの糞野郎、そんな契約聞いてねえぞ。


「あー……めんど」

「で、ですね」

「……」

「イヤホンは外してください」

「へいへい」


次にどんな質問画くるかは大方予想がつく。だから会話したくねぇっつの。


「先輩……さっきのって、魔術……ですよね?」


 さっきの、つまりは標識を引っこ抜いたりマンホールをのしたりしたアレだな。あれ?なんかただの力技にしか聞こえくなっちまった。


「……知らん」

「え?」

「気がついたらできるようになってたんだ、魔術なんて自覚ねえよ」

「でもあの物質組成の変更は明らかに(くろがね)の属性ですよ」

「そうなのか」

「ホントに知らないみたいですね……」


 魔術の素養がないのはわかってるが今のはカチンときた。人を怒らすのが得意なタイプかこいつ……。


「さっきからしゃあしゃあと言ってるが、お前は魔術師としてはどんなもんなんだよ。相当だと聞いてるが」

「そんな!まだまだ見習いですよ、実践経験もないですし」

「ていうか色々聞きたいのはこっちだ 名前はかなり通るらしいが……っていうか、お前誰だよ」

「質問としては至極当然ですけど実際言われると結構凹みますねそれ」

「リアルで凹みたくなければさっさと答えろ」

「わ、わかりましたよ……正確にいうと、僕の姓が有名なだけなんですけどね」

「なんだ?家族が有名人とかか?」

「えーと、僕はユーグ、ユーグ=ヴィクトールといいます」

「……ヴィクトール」

「端的に言うと、クラム=ヴィクトール、魔術の実用化に成功した研究者の息子ですね」

「……はぁ?!」


 こいつはびっくり。魔術に興味のない俺でも聞いたことがある。教団発足当初に魔術研究を依頼され、そのまま全てを解明してそっくりそのまま教団に提供したという偉人。その後は教団と関わりたがらないと聞いていたが……。


「で、そのお偉いさんの御曹司が何で教団に」

「やめてください もう御曹司でもなんでもなくなるんですから」


 ……明確な拒絶。初めて強い言葉を聞いた。


「なんだ、親と仲でも悪いのか?」

「悪いなんてもんじゃないです。あんなもの(・・・・・)、父親でもなんでもない」


 これは深く突っ込まない方がよさそうだ。やめとこう。


「親父さんから離れたかったのか?」

「そうです 彼はここを毛嫌いしてるそうなので」

「彼、ね。まぁ何を思うかは勝手だが、親父さんは今お前がしてることをわかってるのか?」

「わかってませんね、そもそも連絡すらしばらくしてませんし。興味無いんじゃないですか?」

「頑なだな……せめて教団に入る、とかくらいら伝えてもいいもんだと思うが」

「普通はそうするんでしょうが、生憎普通じゃないので」


 段々苛ついてきている。こりゃ余程だな。


「不満があるならぶつけりゃいいのに」

「嫌ですよ どうせ聞きゃしません」

「そうやってると結局言わずじまいだぞ」

「何です?さっきからわかったような口を……」


 あ、怒った。


「わかんねえよ、親いねえし」

「……!」


 正確には消息不明、といったとこだが。


「……すいません、軽率なこと言って」

「言えるうちに言っとかないとそのうち対象がいなくなるぞ、ってこと俺が言いたいのはそんだけ」

「はい……」


 しばし沈黙。さて、会話も切れたことだしそろそろ……。


「……先輩は、両親を失ったんですか?」


 重々しそうに切り出された。ちくしょう。このテンションでまだ会話続ける気か。


「さぁ?」

「さぁ、って……」

「わかんねえ」

「何でですか?」


 何でかって?そりゃあ、まぁ、あれだよ。


「……俺、6年以上前の記憶ねえし」

「ええっ?!じゃあ先輩今何歳なんですか?」

「知らん、10代末期じゃねーの?外見的には」

「なんか……すいません」

「謝るくらいなら聞くなよ、ったく……」


 俺には6年以上前の記憶がない。俗に言わずもがな記憶喪失ってやつだ。気がついたら一本の剣を持って大陸東端で倒れていたらしい。その後の話は……思い出したくはない。


「お、そろそろだ」

「……」


 すっかりおとなしくなってやんの。

 そうこうしてる内に大きな門の前に着いた。普通はここから湖を横切る大橋を渡って本部に向かうところだが。

 陸に電話をかける。


「もしもし?」

「ボルカノだ、正門前に着いたがどうすればいい?」

「追手は撒けてるよな?」

「当たり前だ」

「なら、そのまま迂回して物資搬入口に向かってくれ、手筈は整ってる」

「了解」

「ユーグ君は無事かい?」

「メンタル的にはそうでもないな、ていうかお前」

「無事で何よりだ、よしよしではまた後d」

「何よりじゃねえよ逃げんな」

「……えー、何だよ」

「お前、これが失敗したら俺と手を切るそうだったじゃないか?あ?」

「あー、それね。お前のことだからさ、どうせ途中でめんどくさくなって放棄とかしそうだからさ、捨てられそうになったらそう言えって伝えといた」

「後で殴りに行ってもいいか?」

「待て待て、ここは法治国家だ、話し合いをしよう」

「殴り合いで」

「ちょ、マジでやめて、ごめん!ごめんなさい!」

「……何れにせよ、事情は聞かせてもらうからな」

「わ、わかってますよ〜」

「じゃあ後で行くからな 切るぞ」

「失礼しました〜」


 まったく調子のいい奴だ。


「陸さんと仲いいんですか?」

「腐れ縁だ」

「はぁ……」

「で、結局さっきの質問が流れてるが」

「はい?」

「お前は魔術師としては一流なんだろ?」

「いえいえ、知識だけですよ」

「じゃああれか、俺が使ってる()が何なのかわかったりするのか?」

「わからないということはないですけど……わかりませんね」

「何だ、パッとしねえな」

(くろがね)の属性を持つのは確かですけど、あんな魔術僕は知りませんし」

「そりゃ、知らない魔術くらいあるだろ」

「いえ、あそこまでのものを僕が知らないはずがない、どこかの手品ならいざ知らず」

「大した自信だな」


「だって全ての解明済み魔術は一通り使ったことがありますから あれほどのものは見たことがない」


「……ん?今何て言った?」

「あれほどのものは見たことがない……ですか」

「違う、その前」

「あぁ……自分で覚えた魔術は一通り使ってみるが魔術師として筋じゃないですか、そういうことですよ」

「いやいやいやいや、待て、さらにその前だ」

「えぇ?!魔術師って全ての魔術を使える人のことをいうんですよね?」

「そこ!違う!全然!」

「はい?」

「冗談じゃないよな、お前、8属性全ての魔術が使えるのか?」

「ええ、まぁ……それって当たり前じゃありません?」

「本部の奴らに聞かせてやりたいね お前、ボコボコにされること請負だぜ?」

「ど、どういうことですか!」

「普通の魔術師は自分の特化属性以外は使えないぞ?使えてもちょっとした手品程度が関の山だ」

「しょぼいですね」

「言ってやるなよ……10年以上かけてその属性をようやく極められるのが普通だってのに」

「へー……」


 陸がご執心になるわけだ。こいつ、本物というか化物だ。


「どうやったらそうなるんだか……」

「物心ついた頃から鍛えてればこうもなりますよ」

「なるか馬鹿」

「うーむ、じゃあこのことは教団内ではあまり大っぴろげにしない方がいいみたいですね」

「それがいい あそこで目立つとろくなことがない」

「知ってるような口ぶりですね」

「うるせえ」

「すいません」

「……じゃあ結局コイツ(・・・)は何なのか、わからずじまいか」


 左手に目をやりつつ溜息。希代の魔術師様にもわからんことがあるってか。


「コイツ……って、まるでモノ扱いですね」

「……あぁ、というか、物だ」

「え?力の話じゃ」

「ほれ」


俺は口で左手の手袋を咥え、するりと外した。


「……なっ!」

「こういうモノは知らないんだな」


 無機質。灰色。鈍い光沢。そして耳障りな駆動音。

 義手、というべき物。だがそれは俺の意のままに動くし、感覚もある。機械だ。


「先輩その手は……」

「肘まではこんな感じだ、わからなかったか?」

「そりゃ、手袋……してれば」

「ふむ、じゃあ案外自然に動かせてるんだな」

「戦闘中に切られた、とか……ですか?」

「わからん」

「えぇ?!」

「6年以上前からこうなってる(・・・・・・)みたいだし、ごく自然に動かせる」

「なってるって……まるで腕が勝手に変わったみたいな……というか動力とか神経とかどうなってるんですかそれ」

「さぁ?」

「うへぇ……よくそんな得体の知れないもの付けてられますね」

「元からついてたんだ、そんなに気にしたことはないさ」

「しかし……それだと今度は呪術の一環である可能性もありますね」

「呪術?」

「魔術の派生ですよ、まぁ元を正せば同じようなものです」

「どう違うんだ?」

「魔術が手書きなら、呪術は印刷物、ってとこでしょうか」

「わかりやすく言え」

「……そもそも先輩魔術の仕組みわかってます?」


 またもやカチンとくる発言。この野郎。


「わかってませんよーだ そろそろ着くぞ」

「はいはい……」


 湖畔の物資搬入口。搬入の時間は過ぎているので静かかつ厳戒だ。

 守衛のうちの一人がこちらに気づく。む。あの顔は見たことがあるな。


「……む、貴様何者……って、なんだあんたか」

「陸から聞いてるな?」

「まあな、貴重な逸材と聞いていたが……まだガキじゃないか 大変だな、あんたは」

「お前も陸に何らかの弱み握られてんだろ?あんたも、の間違いじゃないか?」

「確かにな ははは! とりあえずさっさと入れ、怪しまれたくないだろ?」

「お言葉に甘えて」


 あらかじめ半開きになっていたシャッターに入る。中に入ると、すぐにそれは閉じた。

 薄暗い中から人が現れる。


「いやー、ご苦労様」

「陸か 珍しいなここまで降りてくるのは」

「まー早く回収したかったのと、あまり人目につきたくはないからねえ」


「あ、初めまして ユーグです 今までありがとうございました」

「おう、礼には及ばないさ……陸だ、よろしく」

「これから……どうするんですか?」

「とりあえず面接からだな、ひとまず済まないがこの段ボールに入ってもらう」

「荷物扱い、ですか」

「ごめんな、こっちにも色々と都合があるんだ」


 そう言うと陸はユーグをげしげしと段ボールに詰める。人が梱包されるとこなんて初めて見た。案外すっぽり入るもんだな。


「で、だ」

「何だよ」

「彼の荷物、俺のオフィスに持ってきてくんね?」

「嫌だね」

「どうせ報酬渡さなきゃならんのだしさ」

「お前が持てばいいだろ」

「俺が持つと怪しまれちゃうの いいから持てって」

「はぁ……仕方ない」


 正直あまり本部へは足を踏み入れたくなかった。俺は正直奴らにはよく思われてはいないし、俺自身も奴らが嫌いだからだ。


「じゃ、そゆことでよろしく」


 陸と箱に入ったユーグは搬入用エレベーターに紛れ込んでそのまま登っていった。俺は普通に荷物を担いで一般出入口へ。


「ざっと……1年振りか」


 最後にここを訪れてからもう1年弱。俺はウィル・オブ・ジュディス……教団本部へと足を踏み入れた。

・ルア湖

 首都の北、山岳部から流れてきた水で構成される湖。湖畔には教団本部があり、縦に突っ切る大橋がかかっている。

 実質教団所有でありその管理され整った景観から観光地としても名高いが、武器を携帯し制服姿で警備する団員のせいでその価値を大きく損ねている。

・教団本部

 全国に支部を設ける教団の総本山。湖に張り出した巨大な教会のような形状。真っ白かつ荘厳な装飾が施された建物の中はそれに見合わない最新施設の塊。実践と装飾の噛み合わなさは一部の団員からは不評。

 また広大な敷地には寮をはじめとする各施設も完備され、北に城下町を擁する。そもそも「教団」というのはこれら全てを含めた言い方。

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