表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re verse  作者: さいう らく
Verse/1 false charge
28/43

Chimera 6 焼雷

 

「……ちッ!」


 風のコアを瞬時に展開し、ジグに向かって突風……すら生易しいレベルの空気の塊を叩き込む。


「ぶっ……」


 大きく仰け反りながら弾き飛ばされるその瞬間、かなり歪になり大型化した刃が床へと突き刺さった。


『ギ……ぎァ』




 それは、さっき見たものよりも、さらに大きくそして醜くなっていた。


 蠢く肉は、常に破断と再生を続け、流動的に波打っている。

 細長く不均一だった手足は、もはや手足とは呼べない段階まで変形し、増えたか、増やしたか知らない不自然な関節を震わせる。

 寄生されていたはずの人間は、もはや頭を残して完全に取り込まれようとしていた。その顔に薄ら笑いというにはかなりぎこちない亀裂を浮かべ、こちらを凝視している。視えているかどうかはわからないが。

 そして、その体躯にもはや似つかわしくないほど歪み、捻れ、肥大化した手の刃はその巨大さに見合わない速さで振るわれた。


『ぎギぐが……っ!』


 そのままのたうち回るかの如く、全身を壊れたバネ仕掛けのように跳ねさせながら飛びかかってくる。


「っ……」


 横転して回避。が、遅れてきた足に蹴飛ばされた。


「おい、ジグ!」

「ううぅ……」

「ちっ」


 初撃を避けたはいいが、あの巨体にあの速さは危険だ。ジリ貧になるとやられる。

 ジグもまだ目を回している。幸い音を立ててないおかげで標的にはされなさそうだ。


 ずるずると身体を引きずり移動していた奴の足が止まる。


「……!」


 入口の真ん前を陣取られた!逃がさない気か。


『ぎシィし……』


 薄ら笑いを嘲笑に変え、少しずつ、俺と扉の対角線上を維持しながら接近してくる。


「まいったな……」


 この場合なら銃を使った遠距離戦に持ち込むのがベストだが、あの肉塊にハンドガン程度が意味を成すとは思えない。手榴弾もあるにはあるが、恐らく決定打には少し届かない上にここの倒壊を招く危険性がある。この状況で最も有効な、威力範囲共に調節可能な魔術も、使い手がのびていては話にならない。


『きジィャっ!』

「ふッ」


 斜め前方に全力で切り込む。憑き者として強化された足はそれに十全に応え、奴の突進の後ろを取……!


「マジかよッ?!」

『ギがっ』


 突進の途中で明らかに肉が弾け、骨が砕ける音を立ててバックステップをしてきた。読まれていた?


「くっ」


 肘鉄と足払いを身体を屈ませながら跳ね、回避しつつ抜刀。

 脇腹を大きく斬りつけた。


『きシィッ!』

「うおぉっ?!」


 斬った傷口から歯が生えたかと思うと、にゅっと突き出て噛み付いてきた。とっさに左手を噛ませ、その手に刀を叩きつける。


『ギぴゃァ!』


 口だけになった肉塊はしばらくガジガジと無駄に手を噛み続けていたが、すぐに力なくぶら下がった。


 そして、本体の方はというと、また体勢を立て直し、こちらとジグを交互に警戒しながら扉の方へと退いていく。


「まずいな」


 左手にひっついた肉塊を打ち捨て、相手を凝視する。


 恐らく毛が生えた程度とはいえ、通常の悪魔に比べたら高度な知能を有するのは明らかだ。しかも、さっきと違って先読みできる上に、反応速度も向上している。待っているところを見るに、消耗戦という概念を理解しているようでもある。


「なら……今度はこっちの番だな」


 風のコアを展開し、頭の中で強く指令する。

 ……展開。形式、切断。範囲、前方。距離、0以遠。


 強力な範囲切断魔術、の真似事だ。霊子充填にさすがに時間がかかる。


『ギ?』


 奴がこちらを見て首を傾げた。すぐにまた薄ら笑いを浮かべて……


「開放……っ?!」


 充填した霊子を開放、鎌鼬が奴に向かって放たれると同時に地面が隆起する。

 奴が床を掘り起こしたのだ。


「地面を盾に……」


 相殺はしきれなかったようだが、軽傷で収まっている。そしてその傷もすぐにぐちゃりと埋まる。


『ギしっ』


 笑みを浮かべ、そのまま砕け散った床を吹っ飛ばしてきた。


「ちっ」


 鞘で撃ち落とす。とんでもない野郎だ。こちらの魔術の発動まで読まれるとは。


「いでっ!」

「やっと目ぇ覚ましたかこの野郎」


 瓦礫が頭に当たったのか、ジグが目を覚ます。


「って、なんですかあれ!」

「さっきの悪魔だ それよか早く立て」

「わ、わかってます」


 改めて奴は薄ら笑いを消して、キッとこちらを見据えた。警戒レベルを引き上げたといったところか。


「でかくなって弱くなったとかは、ないですよね」

「そう思うなら突っ込んでこい」

「……ですよねー」


 ジグがげんなりしつつも術式を展開する。

 乾いた破裂音が立て続けに起こる。


「何したんだ」

「とりあえず、空気薄いんで空気中の水分から酸素取り出すのを発動しておきました。酸素濃度が上がればアレの劣化も早まるんじゃないですかね」

「知恵だけは回るな」

「どうも」


 さて、どうしたものか。間違いなくジグに白兵戦をさせるわけにはいかない。今度は確実に俺が奴との間に入る必要がありそうだ。


「弱点とかないんですか」

「ゲームじゃねえんだからそんな都合よくねえよ」

「じゃあいつも通り」

「ああ、とりあえずぶっ放せ」

「……15秒、稼いでください」


 そう言い捨てると、すぐに杖を構え術式を構成し始める。手慣れてきたな、こいつも。

 俺の方はというと、足元の鉄骨に触れ、投げナイフを大量に錬成する。


『ぎギ……っ』


 自らの周囲に霊子が集まってきたことに気づいたか、奴はじりじりとこちらに距離を詰めはじめる。


「浮いた駒は……狩る」


 すぐさま手に余るほど作り出した小さな刃を投擲し、雷のコアを展開する。

 避けるまでもないと判断したか、刃はその肉塊へと吸い込まれるように埋まって……。


「……!」


 ジグが俺の左手の中で形を変えていくものに目を見張る。


「お前は集中してろ」

「……」


 無言で頷くのを流し見る頃には、雷のコアはその形を完全に変えていた。

 2m弱の柄。三叉の刃。そしてその間に迸る電流。


「長物は更に趣味じゃないんだがなぁ」


 三叉槍、トライデントなどと呼ばれる槍を後ろ手に構え、前進しようとする悪魔へと突進する。


『グぎァっ!』


 即応。両手の刃を左右から振りかぶる。


「ほいっ」


 槍を地面に突き立て、その反動で飛び退いた。

 ガインッ、と歪な鋏が槍を挟む。


『……ぎ』


 武器を封じてやった、とばかりに口を割って笑みを浮かべた……が、その笑みはすぐに痙攣へと変わる。


「……放電」


 耳障りな破裂音。奴の全身を、埋まった刃を辿ってスパークが走り、肉塊を外から、内からも焼く。


「先輩!構成、完了です!」

「おう、まだ動けないだろうし、やっちまえ」


 小刻みに破裂音、沸騰音を立てつつ煙を上げる奴の周囲に、風が巻き起こる。


 これは……鎌鼬でも起こす気か?


「……いや」


 同時に、その範囲を示すように、赤い線が、悪魔を囲むように結ばれた、その時。




「……っ!」



 爆発。


 降り注ぐ熱線から身を守るため、すかさず物陰に隠れる。

 酸素濃度の上がった空気を集め、高火力で着火する力技か。

 衝撃が通り過ぎた後、のっそりと前方を見ると。


「うお」


 火だるまになった悪魔。その前に溶けかけの氷の壁を張り毅然として立つジグ。


「……へえ」


 いい顔だ。しかも、アレを食らってなお倒れない奴をまだ警戒している。


 ……だが、


「爆発させんなら早く言えっ!」

「痛ッ!」


 瓦礫をぶん投げた。


「頭に当たったらどうすんですか!」

「ちっ」

「狙ってたんですね?!」

「範囲が狭いからよかったが、俺に飛び火したらどうすんだよアレ」

「誰かさんに似たんじゃないですかね」

「この野郎……」


 だがまあ、これで流石に奴も……。



『ギぴィぃぁぃォ!!』

「!!」


 金切り声のような咆哮を上げながら、焼け落ちた肉片を振り撒きながら、ジグの方へと跳ね飛んで……。


「くっ……ぁ」


 とっさに杖を突き出して受けたが、もちろん踏ん張りが足りなく吹っ飛ばされる。


『ぎっ……シシ』


 床に叩きつけられたジグの元へ、のそりのそりと歩んでいく。燃えさかる身体は、再生を繰り返すことで内部へのダメージをなくしているようだった。


「せんぱ……い、やばいです 間に合」

「わかってるよ」


 わない、と続くのは知っていた。自身の回避が間に合わないということでもあり、俺もこの距離からでは間に入ることもできないということでもある。


 ……が、後者は不正解だ。間に合わないなら、間に合わせるまで。


「ちょいと久しぶりだが」


 俺がすかさず向かったのは地面に突き立てられた槍。やつの背後だ。


「先輩、何を……!」

『ぎシ?』


 ぎょろり、と埋まっていた顔を背後に回してくる。その薄く裂けたような口から、何度目か笑いが消えた。


 左手で槍を目線と同じ角度に構え、三叉の切っ先を一本に揃える。

 ピリッ、と前方に雷の霊子が配された。レールのように。一直線に。


 その軌道上に槍を添え、その向きはもちろん笑いが消え、焦りが見え始めた顔。


「吹き飛べ」




 槍がスパークを発する。その瞬間、もうその切っ先は奴の顔へと突き刺さり、突き抜けていた。


 歪んだ顔に風穴が空く。




 そして轟音とともに、その向こうの壁にひびを入れ、その形を歪ませた。


『ア……ぎ…ガぉ……』


 どちゃりと、ただの肉塊と化した悪魔が崩れ落ちる。


「……えーと」

「やっぱ頭を完全に破壊したらよかったみたいだな」

「先輩、そういう問題じゃ」

「ん?何か?」

「何かじゃないですよ!殺す気ですか!」


 槍の軌道はジグの頭少し上を取っていた。


「いや、別に当たってないしよくね」

「結果論でしょうそれ」

「いやしかし久しぶりだけどやっぱ爽快だなこれ」

「話聞いてます?!」


 肉塊を蹴っ飛ばし、腰を抜かしたジグの脇を抜け、槍を壁から引っこ抜く。


「それ……雷のコアですよね」

「そうだな」

「で、何したんですか、さっき」

「何がだ?」

「今のですよ!気がついたら高圧電流を放つ物体が頭上スレスレを通っていた方の身にもなってください!」

「ん、ああ……アレね」


 槍をくるくると手の平で回しつつ、コア状態に戻した。


「開発志望なんだし、大方予想ついてんじゃねえの」

「ついてますけど、認めたくないです」

「まぁ端的に言えば、霊子で強引に電磁誘導しただけだ」

「レールガンですか……」


 未だ火が消えない肉塊を足でつついてみる。先ほどまでの弾力やら流動性は失われ、早急に劣化しているようだ。


「その技術、武器に転用できますかね?」

「理論上は可能、ってやつだと思うぜ」


 あの時は完全にジグから見て死角だったので、存分に()を使わせてもらった。

 というか、正直今まで使ってた時は直感というか、完全に感覚で撃っていたので原理を理解したのはついさっきだったりする。


「またその奇っ怪な左手絡みですかね」


 そっちも絡んでる可能性もあるか。というか、脳で命令するだけで霊子がスッと動くなんて、殊更まるで。


「悪魔がやるみたいな感じか」

「あと、先輩って長物は嫌いじゃありませんでしたっけ」

「そうだな……嫌いってほどじゃないが」

「じゃあなんで」

「何かコアには最適、というかこの形でないと力を発揮できない、みたいな……あー、めんど」

「説明する気がないのはよくわかりましたよ」


 正直自分でもよくわかっていない。錬成は頭にサッとイメージを浮かべてやるのだが、コアの場合逆にこうしろ、みたいな形が流れ込んでくる。それに従うと結果として非常に強力な武器になるから今までそうしてきたが、そろそろ違うものを試してみてもいいのかもしれない。


「で、先輩」

「ん?」

「本来の目的、忘れてません?」






「……あ」


 周囲を見渡す。大破壊というか、もう惨憺たる有様だ。研究室としては。


「データ、残ってますかね」

「……」


 そもそも生きている端末があるかどうかすら怪しい。元々それなりに荒れていたとはいえ、その後の大暴れで滅茶苦茶になったのもまた事実。


「お前が爆発なんて起こすから」

「その前にだいぶ暴れてましたよね?それにさっきの電磁投射も結構派手に……」

「元からデータ回収は不可能だったってことには」

『なりませんね』




 会話に上から突き刺さる、冷たい声。


「あ、どこから聞いてた?」

『全て』

「……」

『まあ、戦闘の結果、ということなれば回収不可能の言い訳にはなりますね』

「お、そうなの?」

『無論報酬は出ませんが』

「任務対象以外のデータ分は?」

『我々が依頼した内容ではありませんゆえ』

「さすがにドライだな……」

『ということで、こちらからはそちらの現状、もとい惨状を伺い知ることはかないませんが、報酬が欲しいのであれば這いつくばって探すことですね。その欠片まで』

「ですよねー」


「エイラさん、もしかして結構怒ってます?」

『いえ、別に』

「(絶対キレてる)」

『最初から失敗続きの無能には怒りを通り越して呆れております』

「むの……!」

『呆れが無視に変わらないうちに成果を示すのが懸命かと』

「……わかりました」


 二人揃って顔を見合わせて。


「はぁ……」




「どーしちゃったのさ、二人して溜息ついて」


 相変わらず耳にスッと入ってくる。透明感のある声。


「なんか下の方で続いて爆音がしたから急いで来たんだけど……」


 振り返ると、照明が吹き飛び闇となっている通路から、黒いコートがヌッと出てくる所だった。


「ヘレナか」

「うへぇ、派手にやったね。滅茶苦茶じゃない」

「まぁ、お陰様でな……」

「どしたの?元気ないけど」

「いや、お前も困るんじゃないのか?この状況」

「あ、なるほど。全くその面影ないけどここがアレ(・・)の研究室だったわけか」


 自分達が初めて来た時には、一目でわかったはずの情報がもはや状況証拠しか残っていないことと、「だった」という言葉も刺さる。


「で、期せずして俺達身を呈してお前の任務を妨害したわけなんだが」

「おお、そうなるね」

「どうする」


 なんかまだ状況を掴み切れてない様子だ。自分の任務が続行不可能になったとわかった時、彼女はどうするのか。




「その心配は無用かな」

「……?」


 相変わらず顔は見えないが、またニヤリとしたような仕草をしつつコートの内へと手を突っ込み。


「だって、私の任務は既に終わってるし」


 彼女が取り出したのは、ストラップ形式の記録媒体だった。


 また間が空いてしまいました。本当に適当で申し訳ありません。

 残念ながら、あとがきなど存在しない

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ