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Re verse  作者: さいう らく
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Chimera 4 落進

 


「せ、先輩!退いてくださいっ!」


 俺とヘレナが左右にパッと割れた直後、地面を抉る振動が奴に直撃した。

 全身をミンチにされながら、大きく吹っ飛んでいく。



「あ、あれは…あれ……っ」

「落ち着け」

「でででもっ!」

「ふんっ」

「痛い!」


 ジグを殴って黙らせる。動揺すんのは無理ないが、少しうるさい。


「ボルカノ、あれ」

「ん?」


 べちゃりとへたり込んだ奴が、あろうことか人間部分の腹部を自分でこじ開けたと思うと、そこに周囲の血肉臓腑を放り込んでいく。満足気に息を吐き出すと、全身が修復されていく。

 そしてこちらを睥睨し、廊下へとその身体に見合わぬ速さで駆けていった。


「行った……みたいですね」

「のようだな」

「よかったぁ……」

「馬鹿、何もよくねえ」

「え?」


「少なくとも戦力差を理解する脳はある、ってことでしょ?」

「あ……」

「しかも回復してから逃げた方が効率的と判断するレベルの高度なもの」

「そ、そんなことよりなんですかあれ!」


 まあ、それは俺も思う。人間に寄生する悪魔は数あれど、ああいう形で取り込むような奴は初めてだ。本来マリオネットの頭にあたる部分は退化して背中にぶら下がってるのも鑑みても、本体は人間部分と判断しても差し支えないだろう。


「一応マリオネット……なのかな、あれ」

「さあな 特徴的にはそれだが」

「もしかして、だけど。研究ってまさか……」

「もしかしなくてもアレだよな……」


 開発する技術が全て斜め上にぶっ飛んでるブルーローズのことだ、恐らくアレが今回の目標……のデータによる成果なのだろう。それが望まれていたのかは置いといて。


「で、マリオネット狩りに定評のある黒い女さんはどう見る?」

「定評ないしその呼び方恥ずかしいからやめて……」

「うい。で?」

「……多分、何かしら特殊な細工はされているとしてもマリオネットの成れの果て、だとは思う」

「これが果てならいいんだがな」

「普通マリオネットは宿主の体内で成長できる限界があって、それが来たら身体を内から突き破って出てくる。そうしないといくら血から霊子を得ても足りないからね」

「でも、その理屈でいくと宿主はそのままお陀仏だろ?」

「奇跡的に助かってしまったケースも見たことが」

「やめとけ……」


 隣でジグが完全に蒼白になっている。


「こほん。で、そういう方向じゃなくて、いつまでも宿主の体内で成長できたら……ってこと」

「ああ、なるほど。そのうち宿主より大きくなって……ってことだな」

「多分、マリオネットは魔造タイプだから予め成長限界が決められてると思う。事実宿主に余裕があっても時期が来たら飛び出すし」

「待て、タイプってなんだ」

「……あぁ、そっか。知らないか」

「また含みがありそうな言い方を」


 ふふっ、とまたコートの中から笑みがこぼれている。

 普段なら男女問わずぶん殴るところだが、不思議とこいつにはそうはならない。なぜだ。


「多分教団の分類だと、自然種と魔造種を分けてないんでしょ」

「聞いたことねえな」

「その辺は政府や企業が一歩リード、って感じか。悪魔の中にはさ、明らかに生命として異常な特徴を備えてるやつがいるよね?」

「……そうだな」


 マリオネットやゴーレム。どちらも自身の維持には限界がありかつ、人間に対する隠匿性と攻撃性が非常に高い悪魔だ。そしてマリオネットの陶器のような外皮、幾何学的なゴーレムのコア。自然に発生するとは考えにくい。


「まるで、人間の戦力を削ぐような。兵器のようだと思わない?」

「確かに」

「それに、彼らはある程度規則的な行動をする。しかも、生まれたその瞬間から仲間との連携だってこなす。明らかに仕組まれたもの……」

「造られた、と?」

「そ。だから魔造種。彼らには恐らく霊子的なプログラムが組まれてるといわれてる。多分それをいじくって成長限界を越えさせた上で、霊子と栄養を与え続けた結果が」

「アレ、と」

「っていうのが私の見解。どうかな、オペレーターさん?」



『おおまかにはそのような解釈でよろしいかと』

「なんだ、エイラ。知ってたのか?」

『いえ、過去にブルーローズの輸送車両襲撃時に似たようなものを見た、という報告があったので』

「じゃあそいつのデータを取ればいいんじゃないのか?」

『車両ごと吹き飛びました』

「手加減しろよ……」

『ヴィクティムの砲には定評がありますからね』

「宣伝かよ……」

『では、引き続き任務を。念の為言っておきますが、別にソレの相手をしなくても問題はないですからね。むしろ放置した方が有益です』

「と、いうと?」

『放っておけば後ほど来るブルーローズの掃討部隊に安くない損害を与えられるかと』

「ひっでえ」

『当然です』


「と、いうことだがどうする?」

「僕は反対ですよ!今の見る限り対処しきれないわけでもないでしょうし、潰しておきましょう!」

「私も一応味方陣営の人が死ぬのを放っておくのもねぇ……」

「じゃあ潰すとしよう。エイラ、間にできるだけその車輌襲撃に関しての情報を集めといてほしい」

『了解しました』


 さて。問題は奴がどこに行ったか、だ。人間の血肉を貪って回復していたのは明らかのようだし、死体が多そうな箇所……研究ブロックか共用エリアの休憩室とかその辺だろうか。


「して、恐らくあれが眼に反応し辛いのは」

「多分半分近くが人間だからじゃないかな?それにここの構造上、霊子は透過しにくいようだし」

「ある程度目視にリソースを割いておく必要があるというのと、ジグ」


「なんでしょう」

「音に気を配れ。ありゃ多分ほとんど目は見えてない」

「……すいません」

「何もここにいるのが奴1体のみという保証もない。急に襲われても大声出すなよ?」

「はい……ってうひゃあ!」


 ヘレナが背後から脇に手を突っ込んだようだ。


「はい、1アウト」

「今のは酷くないですかね?!というか……」

「というか、何?」

「何でもないです」


 なんだ、しおらしくなって。


「どちらにせよブルーローズの掃討部隊が来るまでのリミットは変わってない。周囲を警戒しつつ、目的地に向かう方針でいくぞ」

「……はい」


 さて。気になることがもう一つ。ヘレナも聞いたかどうかはわからないが、あのマリオネットもどきは確かに「食い物」のような単語を口にした。俺達を食糧と認識しての発言だとは思うが、だとするとアレを動かす本体(・・)は一体どちらなのだろうか。


「じゃあ、とりあえず地下への昇降機へ向かうんですね?」

「ああ、奇遇にも奴の向かった先とも合致する。また会ったら今度こそ吹き飛ばしてやれ」

「そういえば、やたら脆かったですよね」

「ああ、筋肉も無茶な動きに耐えきれず動くたんびに裂けてたしな。その先からすぐに治ってたが」

「ゾンビか何かですか……」

「ある意味その表現が一番近いかもな」

「冗談きついですよ」


「ところで、人間の方に自我はあるのかな?」

「……ありそうだが、お前はどう思う」

「同じく。気の毒なことに」


「二人ともやめてくださいよ……化け物ってことにしときましょうよ」

「なんだ、人殺しは嫌か?」

「嫌に決まってるじゃないですか」

「……?」

「いや何言ってんのコイツみたいな顔しないでくださいよ、ヘレナさんも人殺しは嫌ですよね?」


「私の中ではあれはもう人にカテゴライズされないかな。それにあんなになるくらいなら殺してあげた方が……」

「ここでマジレス……!」

「まじれす?」

「もういいです……」


 まあ、この問題は今議論しても仕方が無い。あと気になる点といえば、アレはどこから調達されたものなのか、というくらいか。


 さっき来た方向へ戻る形で、廊下に出る。奴の血痕は俺達の進行方向へと続いていた。

 逃げたとして、どこに向かう?戦略的に撤退したとすると、何かしら策があるはずだ。ただ敗走しただけならいいんだが、にしては血痕が直線的というか、迷いがない。まるで何かアテがあるかのようだ。


 そして、アレが目的のデータによる産物だとすると、国は何を考えている?悪魔研究……は各企業が行っているらしいことは、ヘレナの話からするとある。国が規制しているようなことでも奴らならしてのけそうだ。


「エイラ」

『何でしょうか』

「リクラスでも悪魔の研究はしているのか?」

『私達()していませんね』

「他ではやってるってことか」

『詳細は私も知り得ないことです。ましてや一介の傭兵に過ぎない』

「俺には到底無理、か」

『お言葉ですが、迂闊にそのような案件に首を突っ込むのは懸命ではないかと。知ることは大事ですが、知り過ぎると……』

「わかってる 黙って仕事してりゃいいんだろ」

『おっしゃる通りで』


 そうだ。深く考える必要はない。そもそも、そこまで知る必要はない。


 血塗れの廊下を練り歩き、保管ブロックへと戻ってきた。先ほどとは少し違う場所だが、スプラッタぶりは相変わらずだ。


「なんかここまで血の臭いが濃いとかえって気にならなくなりますね……はは」

「目が笑ってねえぞ」

「どうにかして掃除できませんかね?」

「掃除っつーか掃討だろ、それ」

「駄目ですか?」

「もう体をなしてないが、一応潜入任務なんだ。無駄な破壊は控えろ」

「はーい……」


「にしても、やっぱりあいつ一体でここまでの大虐殺はどうなんだろうね」

「確かに、あれくらいならここの警備が全滅するほどじゃないな」

「もっといる、という線もあるけど眼には反応ないし……」



 と、最後の曲がり角に踏み入れた瞬間。

 ヒュン、と飛び退いた俺の腹を刃がかする。

 迷彩色に包まれた腕。


「!」


 そのまま切り返して突いてきた短剣を左手で受け止めた。持ち主は、全身都市迷彩に身を包んだ男。



「……大体仕留めたと思ったが、今度はネズミか」

「何者だ」

「ブルーローズの研究所に、子飼の傭兵がいても何もおかしくはあるまい」

「ちっ……!」


 そのまま短剣を錬成しなおし奪い取る。そうとわかるとすぐに男は退く。


「新しい実験だかの失敗作を処分してたのはいいが、まさか他企業の差し金まで来るとは……運が悪い」

「素直に通してくれそうは……ないか」

「当然」


 まずったな……勝手に全滅していたと思っていたが、よりにもよって戦闘員が生き残って、独自に行動していたとは。


「と、なるとあの化け物は最初もっと大量にいたということか?」

「貴様の言う化け物が俺の追っている奴と合致するのであれば、そうなるな」


 少し間をおいて、男は答えた。


「ま、時間こそかからど全て屠らせてもらったが」

「へえ、そいつはすげえ」


(ボルカノ)

(なんだ?)


 ヘレナが耳元で声を潜ませる。


(彼、強いよ。片手間に相手はできないし、場所も悪い)

(わかってる 今考えてんだ)


 あの化け物を何匹いたかは知らんが屠ってきたというのと、俺相手に完全な不意打ちを決めてきたあたり相当な手練れだ。


「その特徴的な黒ずくめ……アトラスのヘレナか」

「あら、どこかで会ったかしら?」

「最近実戦派のアトラスで急激に株を上げている『黒い天使』……有名だぞ」

「またイタい通り名が……なんでこうなるかな」

「して、アトラスの貴様がなぜここにいる。そしてそこの二人は見たところ味方というわけではあるまい」

「さあね。上でそういう擦り合わせがあっただけでしょう」

「……そうだな、俺達傭兵は黙って」


「仕事をするだけッ!」

「!」


 ヘレナがいつの間にか開いた翼で急加速したかと思うと、男に飛び蹴りをくらわした。そのまま一緒に男を引きずりつつ飛び去っていく。


「ボルカノ!また一つ貸しね!」

「あ、おい!」

「こいつは私がなんとかしとくからぁぁ……」


 声を響かせつつ、突き当たりの壁を貫通し消えていった。


「……相変わらず滅茶苦茶な人ですね」

「珍しく同感だ」

「そして本人はあれを翼と言い張りますが」

「どう考えてもブースターか何かだろアレ……」


 翼というのは前方からの風で揚力を生んだり、羽ばたいて高度を調節したり、力加減で向きを変えたりする器官のことだろう。

 決して視界から消える速度で急加速したりするものではない。


「と、とりあえずここは任せて行きましょう 幸い目的の昇降機はすぐそこですし」

「へえ、お前道覚えてたんだ」

「死活問題ですからね……?」

「じゃあとりあえず電源が生きてるかどうか……って」


 目の前の昇降機は、電源の生死どころの状況ではなかった。扉はズタズタに飛散し、シャフトは傷だらけ。コンテナを支えるはずのワイヤーはだらしなく目前で切断され、ほつれている。


「……どうします?」

「見たところ、例の奴が大量にいて、ここから出てきたのは間違いないみたいだな」

「エレベーターが壊れてるなら階段ですかね」

「いや」

「え」



 がし、とジグと肩を組む。


「いや、さすがにこの高さは」

「ヘレナがせっかく時間稼いでくれたんだ、早く行くぞっ!」

「嫌ぁぁぁぁぁぁぁあ!」



 地下3階へと、奴らが湧き出てきたであろう地獄の縦穴へ俺達は飛び込んだ。


・薄蓮

 ハクレン。霊子鋳造されたボルカノ愛用の直刀。非常に薄く、その厚さは1cmにも満たず、重量も刀の常軌を逸するもの。その薄さと靱性、耐摩耗性を生かし対象を切断する。が、重さが無いので打ち合いには向かない。

 誰かの形見のようだが……。

・Afank-rank27

 アーヴァンク。ヘレナの使用する振動剣。地属性の術式を仕込んだ刀身を振動させ対象を削り、切断する。非常に高い破壊力を有するが、重量、振動、弧状の刀身など扱にくい要素が目立つ。

 プロトタイプゆえ、普通は数秒しか発振できない。普通は。

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