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Re verse  作者: さいう らく
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18/43

Novice & Fugitive 18 交渉

 

 …おい、待て。入団が認められないだ?



 再び会場がざわつく。

 そりゃそうだ。つまりは、今ここに部外者が存在するということ。教団の聖地である大聖堂に。

 そして、ヴィクトールという名前にも反響が上がる。なんせあのクラム=ヴィクトールと同じ名字なのだから。

 すぐさま第一部隊の中から手が挙がる。


「発言よろしいでしょうか、総帥」

「なんだ、ヴラド」

「入団が認められていない、とは?仮にそうだったとして、今ここにいさせるのはまずいのでは……」

「今は特例だ。然るべき罰を決めた後、処分する」


「処分、ってーと殺処分ってことでいいんだよな?ご老公」

「口を慎め。ボルカノ、立場がわかっているのか」

「わかってたことなんてあったかねぇ?」

「ふん……まあいい、貴様もそれなりの処分が待っているからな」


(先輩!殺処分ってなんですか!)

(読んで字の通り、ここまで知れてしまったら殺すしかないっしょ)

(なんで乗り気なんですか!)

(いや、だってお前擁護しても特に俺の状況変わんねえし)

(くっ……)


「で、それを知りながら止めなかった俺にも罰が来るわけね」

「そういうことだ 間違いはないだろう?」

「ふーん、なるほどね……」


 さてと。ここを乗り切るために何を使える?


 陸のことだ。俺が勝つ可能性も存在するから焦っていたのだろう。勝ち筋は残ってる。


(先輩!どーすんですか!)

(考えてんだ。邪魔すんな、死ね)

(相変わらず一言余計です!)


 第二部隊、輪をチラと見る。俺にはこの場を開くのが限界でした、とばかりに肩をすくめられた。


 確かに便宜は図ったがさすが中立の第二部隊ってとこか。傍観する気でいやがる。

 他の隊員達も隊長、ひいては総帥の判断ならやむなし、といった体だ。


(おい、お前第二部隊に気に入られたんじゃないのか)

(輪さんだけですよ)

(の、割にはよそよそしいな。奴ら)

(そりゃ逆らえないでしょう……最高権力には)


 状況を整理。向こうの持てる情報と、事実、そしてこちらの持つ情報を頭の中で整列させる。

 あー、まあ抜け道が一本あるな。あとあと面倒なことになりそうだが、今は結構な確率で乗り切れそうだ。



 ここは一つ、引っ掛けてみることとしよう。


 俺は大きく息を吸って、口を開いた。


「正確には異なるな」

「ほう。言ってみろ」


 自信満々、といったご老公とその愉快な仲間達。こういう場所では散々泡噴かせてきたからな。やっとコテンパンにできると思ってウキウキしてんだろう。


「確かに、このユーグ=ヴィクトールは教団の訓練生じゃない」

「だろう、だったら……」

「この訓練生の服も俺が何かのために持ってたのを貸したからな」

「……何だと」


(先輩?!)

(どーせ何もできないんだから黙ってろ)

(……はい)


「いやはや、陸から依頼された仕事に行ったら偶然(・・)こいつがいてさぁ、とりあえず教団としては放置するわけにもいかないじゃん?ということで俺の任務がてら連れていくことにしたわけよ。俺と一緒の方が安全だしね。そしたらどうだ?後方から人間に襲われた。まあ挟み撃ちにされたら、悪魔の方が対処が楽だから前進するよな。そのうち第二部隊も到着して、このユーグ君が発見されたわけなんだけど、いやはやまさか訓練生と勘違いするとはね。まあ服装的にもまぎらわしかったからしょうがないよね。そのままなし崩し的に連行されちゃっても仕方ない。なぁ、第二部隊の方々?」


 会場が静まり返る。何を言っているんだコイツは、という目線が痛い。だがここで引いたら終わりだ。


「発言よろしいか、総帥」

「構わん、輪」

「ボルカノ、どういうことだ?確かにそいつは訓練生だと」

「俺一回もそんなこと言ってないけど」

「だが、そのジグ君が自分で訓練生だと言っていたはずただ」

「再現しとこうか?なあ、ジグ」


「え、あ、はい」

「君は?」

「えっと、ジグといいます」

「本来訓練生は実戦に出てはならないのだが……事情は後で聞くとして、まあ仕方ない。それよりお前、なかなかいい腕をしていたな」

「は、はあ」

「訓練期間が終わったらウチに来ないか?最近は腕のいい魔術師が少なくて困ってるんだ」

「考えておきます、というか多分そうさせてもらいますよ」

「そうか!だが支所所属なんだろう?そう簡単に手放してはもらえんだろう」

「そーでもない…と思いますよ」

「ん?そういえば所属はどこだったかな」

「ギビング西……」



「ってとこで終了だったはずだ。誰か覚えてるよな」


 第二部隊からざわめきが起こるが、数人が手を挙げる。


『その通りだ』

『だが、それがどうしたというんだ?』

『何を考えている?』


 次々に抗議の声があがる。が、もうこの会話が正しいと認めた時点で俺の勝ちだ。


「この会話から、ユーグが訓練生である根拠は一切得られない」

「なんだと!」


 第二部隊のざわめきが、会場全体へと伝わる。ご老公の愉快な仲間達も少し焦りの色を見せ始めた。


「静かにしろ!……訓練が終わったら、第二部隊に所属したいと言ったのではないか?」

「ああ、こいつ第二部隊に憧れて入団を希望してるらしいからな そりゃあ、訓練を始める前からその意思は固いだろうよ」

「くっ……では、手放さないという質問にそうでもないと答えた。これは間接的に……」

「支所所属ってとこにそーでもないって答えたんだろうよ」

「そんなこじつけ、通じるとでも思っているのか!」

「だってさ、ユーグ お前どういうつもりで言った?」


「もちろん、支所所属ではないという意味で」


「そんなもの、後からいくらでもなんとかできるだろう!」

「その言葉、そっくりそのまま返す。この答えがどっちか判断できない以上、ここは判定基準になりえない」

「では、最後に所属を述べようとしただろう!そこは誤魔化しきれ……ッ!」


 自分で言っている途中で気がついたようだ。


「ユーグ、何と言う予定だったか、言ってやれ」




「ギビング西支所のボルカノって人のところがいいかなぁ、っていうか僕まだ訓練生じゃないですよ?……と」


 会場のざわめきが誰ともなく鎮まる。


 ガイラルは怒りを必死に隠し、役員共は狼狽。ヴラドは頭を抱え、輪は……うん、すまなかった。でも生き残るためにはこれしかなかったんだわ。


「と、いうことで。俺はただの魔法が得意な民間人であるところの彼を無事に守り通そうとしただけなんだけど……どうやら第二部隊の勘違いでここまで連行されちゃったようだ。こりゃ、言わなかった俺は多少悪いとしても、ユーグ君本人には何も罪はないよなぁ?え?」

「だが、貴様はそれを放棄して途中ミノタウロスと交戦していたではないか。その時点でそのガキを……」

「おっと、口調が素に戻ってますよご老公。いや俺だってまさか天下の第二部隊がそんな勘違い起こすわけないと思って安心、信頼して任せたんですがね?」


 第二部隊の方から「どの口がそれを言う……」と凄みの効いた声が聞こえてきたが無視無視。


「貴様……だが、いきさつなど関係ない。むしろ部外者であることの証明になったな。処分は変わら……」

「おっと、いいのかな?無実の人間を処刑なんかしちゃってさ」

「……なんのことだ」

「いやさ、俺の知らないところで支所は合併決まってるみたいだし、俺もここにいる意味って正直ないんだよ。だからこれを機に一生監視つきでもいいから抜けようかなーってさ」

「ふん、勝手にすればいい それがどうしたというのだ」

「2年前、俺の追っ手やってた奴ここにいる?」


 会場が何度目かわからない静寂を迎える。しばらくの後、震える手を挙げる第三部隊の男が一人。


「おう、お前か。久しぶり。確かあの時は見逃してやったっけ」

「あ、ああ。感謝している」


 心なしか声も震えているようだ。まぁ、そりゃなあ。


「で、さ。俺を監視したいと思う?つーか、できる?」

「とんでもない!無理に決まってる!」


「だ、そうだ。こりゃあ俺を野放しにしておくと、何しでかすかわからんなあ」

「何が言いたいかと聞いている!」



「いやさ、別に無実の少年が、教団の勘違いのとばっちりで処刑されましたってタレ込んでもいいんだぜ?」



 今度こそ、大聖堂全体が凍りつく。


「貴様、そんなことをすれば……」

「ああ、教団の威信は失墜、死に物狂いのあんたらに襲われるだろうな だが、その時点ではもう遅い」

「では、ここで始末するほかあるまいな」


 ガイラルがざわり、と殺気立つ。さすがに教団の頂点にいるだけある。凄まじい迫力だ。


「あー、そーなりますかー」

「いい加減貴様に悩まされるのも懲り懲りだ……ちょうどがいい、ここで」

「先日の襲撃の主犯の情報を親切に教えてあげようと思ったのになぁ?」



 凍りついた大聖堂が再び動き出す。


「……なに?」


 ゆっくりと口を開いたガイラルは、予想以上に落ち着いていた。


「いやなに、古い知り合いだったもんでね」

「ほう、それで?」

「俺の当分の標的はそいつだ あんたらの目的と符合する」

「……」

「それに、ユーグを処分する方向で話を決めつけている時点でおかしいだろ」

「何が言いたい」

「コイツの実力はホンモノだ。まだ未熟だが、ごく魔術に限れば即隊長になってもおかしくないレベル。だろ?輪」


 第一部隊の方から少し、含み笑いが聞こえた。そりゃ何も知らなきゃ滑稽な発言に聞こえるだろうな。


「……ああ、認めたくはないが、それは間違いない」

「今回の一件でも、結構世話になったもんなぁ?」

「……」


 含み笑いが一瞬で消える。隊長である輪が認めたのだから、それほどのものということだ。


「これほどの逸材、今のあんたは喉から手が出るほど欲しいはずだ」

「お前の息がかかってなければな」

「そこは問題なし。こいつやたらと反抗的だから」

「そういうところがだ」

「と、いうことでだ。将来的にあんたのとこに加わるのを確約する……としたら?」

「ほう、大きく出たな」


 全員が俺と輪とやり取りに注目していた。流れはこっちに来始めている。

 ガイラルは何か考え込んでいるのか黙り込んでいる。苛立ちは思いっきり顔に出てるけど。


「いいだろう」

「お?」

「ガイラル総帥」


「なんだ、輪」

「俺は、こいつら……ボルカノとユーグの処分には反対だ。いくらなんでもあからさまに排除しようとしすぎな上、教団側にメリットが少なすぎる」


 よし。うまくいった。


「ユーグとやらは確かに頷けるが……ボルカノまで擁護するいわれはないはずだが?」

「ユーグ君がこちらの陣営に加わることの条件として奴の支所の存在は必須……だろ?」


 輪がジグへと問いかける。どうやら輪はこっちの意思を汲み取ってくれたみたいだ。


「は、はい 先ぱ……ボルカノさんにはまだまだ教えてもらいたいことが山ほどあります」


 先輩、と言おうとしたジグを小突く。危ない危ない。


「と、いうことらしい。総帥、ユーグ君を処分しようならそこのボルカノが何をしでかすかわからないし、ボルカノを処分するならどちらにせよ教団は安くない代償を払う羽目になる。飼い殺しにするのが最適だと俺は思うのだが、どうだろう?」


 輪がその場にいる全員に呼びかけるように声を上げる。


『え?』

『そりゃ、それがベストなんだろうけど……』

『白い悪魔まで守る必要はないだろう』

『というか輪が他人の実力認めるって』

『面白い……』

『輪様の言う通りよ!』


 基本的に、第二部隊は輪を筆頭に教団の中では中立、中庸を貫く。魔術師は偏った考えに縛られてはならないという初代隊長の言葉らしい。


 少々過激な意見が多いのは第四部隊。俺を目の敵にしているのもあるが、それを抜きにしても刹那的な考えが目立つ。


 第一部隊は全ての隊員の模倣となるだけあって、規律重視だ。そもそもが厄介事を嫌い、どんな時もルールを遵守することを優先する。


 第三部隊は……まちまち。各々が勝手な考えを持っているからこれといった基準はない。総合的に言えば厄介事を好む傾向にあるが。


 なので、今のところ第二部隊、第三部隊はこちら側、第一部隊と第四部隊はあちら側といったところか。

 状況は五分五分。さあて、こっからどう動くか。


『静粛に!』


「んで、どうするよ?ご老公」

「貴様の主張をまとめるなら、そこの部外者の口を封じるよりこちらに引き入れた方がいい、そしてその条件には自分も含み入れろ、といったところか?」

「まぁ、そうなるな そして敵の情報っつーオマケつき」

「それを蹴った場合は」

「俺を生かそうが殺そうが、素直にやられるつもりはない。少なくとも戦力としての教団に大打撃を与える」

「この場で全員に殺せ、と命じることもできるのだが?」

「やってみろよ 言っておくが俺は悪魔しか殺せない甘ちゃんとは違ぇぞ」


 ガイラルを睨みつける。もしそうなりでもしたら、真っ先にあんたを殺してやるよ、と。





「……全く、貴様が絡むと事態がやたらと大きくなる」


 ふぅ、と溜息をつきつつ、教団総帥はその肩の力を抜いた。


「多数決をとる 貴様ら、どっちにつくか決めろ」


 諦観の言葉。折れたな。


「いいのですか、総帥」

「構わん、この男のことだ、やると言うからにはやるに違いない」

「しかし……」


 重役達が思惑が外れた、とばかりに抗議する。お前らどんだけ俺を消したいんだよ。


「そもそも、この男がここまで厄介になったのも元を正せば我らの責任だろう」

「……っ、確かに」


 ……!


 意外だな。自覚があったとは。少し見直したぜご老公。


『では、ユーグ=ヴィクトール及びボルカノの処分に賛成する者は挙手!』


 第一部隊から少々。第四部隊の大半が手を上げる。


「お前らその腕ごと斬り落としてもいいか?」


 サッと第一部隊の手が降りる。第四部隊の手も気持ち震え始めた。



 憎々しげに俺をちらちらと見ながら、役員が手を数える。もうパッと見でわかるってのに、見苦しいこったな。


 ヴラドは引き続き頭を抱えている。片手から両手になってるが。

 輪はこれでいいんだろ?とばかりにヤケクソ気味に足を組んで座っている。

 ガイラルは…まただ。苛立ちは収まっているが、また何か考え込んでいる。


 第一部隊からはしゃいでいるソオラとホッとした顔のソアラ。

 そして傍聴席の陸は。


(概ねOK!)


 とウインクする。


 無視した。




 若干の震え声で、役員が結果を読み上げる。


『全体の1/3に満たないため、賛成意見は却下となる!』



 こうして、1日遅れではあるが、ユーグ=ヴィクトールは正式に教団の訓練生となった。



今回はなんもありませーん。

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