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Re verse  作者: さいう らく
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17/43

Novice & Fugitive 17 齟齬

 


 けたたましい音。


 なんだよ。こっちは死ぬほど疲れてるんだ。つうか一回死にかけたんだから少しは休ませろよ。


 音は止まず、その相手が恐らく陸であることも、そしてその内容が切羽詰まっている案件であることも多分合っているだろう。


「あー、だりい」


 重い身体を起こす。あの後家に帰ってすぐ寝たはいいが、かなりぐったりしている。貧血のような感じだ。


「なるほど、回復するのに血液中の霊子を使ったってやつかね」


 昨日言われたことを思い出す。憑き者。悪魔を宿した人間。

 試しに机の上のナイフで、指に浅く傷をつけてみる。


 一種ぷくりと血滴ができたが、すぐにスッと閉じる。引っ張ったり伸ばしたりしたが、傷が開く様子はない。


「はぁ……」


 昨日は状況が状況だったから、深くは考えなかったが、なかなかに気持ち悪いぞ、これ。

 悪魔と同じ条件ってことは、首をはねられても血液さえあればくっつくってことだ。


 そうなった自分を想像して、げんなりする。


「左手の時点で、ワケわかんねえってのに……」


 これ以上バケモノになってどうしろってんだよ。


 あれかね。人間は霊子汚染されきると悪魔になるとかいう都市伝説は本当だったのか?

 いやまあ実際は死ぬだけなんだけど。


「さて」


 大きく伸びをして、身体をほぐす。確か身体能力も向上してるって話だったな。


「ほい」


 足で反動を揺り起こし、飛び起きる。


「っておぉあ!」


 勢い余って転んだ。床に派手に頭をぶつける。

 鼻血が出たようだが、すぐに止まった。


「こりゃうかうかしてられんねえな……身体強くなったのにリハビリがいりそうだ」


 そういえばもうひとつ。眼があった。

 とりあえず、手近な霊子を含むものは……。


 雷のコアを手に取り、微弱な電波を解放する。


「これだけじゃ無理か」


 右目を閉じ、左眼で凝視する。


「…っ」


 視界が刷新される感覚。再読み込み、再起動のようなイメージ。


「おお?」


 左眼だけで見るとなかなかに異なる視界だ。霊子以外色がない。目の前の雷のコアは元気に黄色い粒子を発していて、部屋の中には低くない濃度の粒子が舞っている。


「モノクロの世界ねぇ。霊子だけを見やすくするってことか」


 閉じていた右目を開ける。視界に色が合成され、いつもの視界に霊子が存在する状態になる。


「そういや、見た目は変わってんのか?」


 ふと疑問に思い鏡を見る。


「……は?」


 黒い。白目が黒くなっていて、瞳には幾重にも赤いラインが走っている。


「うわぁ、キモい」


 率直な感想だ。なるほど。ヘレナはこれを見られたくなかったのもあったのか。

 左眼から意識を外すと、濁った水が抜けるかのように白目に戻り、赤いラインもスッと消える。


「こりゃ人前で使わないほうがいいな……というか、俺って悪魔になっちまった、ってことでいいんだよな」


 見た目こそ変わっていないが、性質的なそれはもう完全に悪魔だ。

 教団の討伐対象になんのか?いやでもヘレナみたいにバレなきゃ平気か。


「だが…これは便利だ」


 モノクロの視界の時は、霊子はある程度障害物を貫通して視認できた。うまく隠しながら使えば悪魔の位置を察知するのに使えそう……と、そううまくはいかないか。

 逆もまた然りだ。俺が霊子を持つということは向こうもそれを認識できるってことなんだから。


「なんとかして霊子を察知させない方法とかないのかねぇ」


 こんな感じで能天気にとらえられるのも、俺が実は悪魔に対してさほど嫌悪感を抱いていないおかげである、と言っておく。


 確かに悪魔は人間の敵ではあるが、俺個人の敵は現状悪魔となったボレロと、そのボレロが率いていた傭兵部隊を壊滅させた奴だけだ。

 それ以外だと同類……だった人間の方に敵が多いくらいだ。


「あれ?じゃあ俺もしかして悪魔に攻撃されない?」


 悪魔は容赦なく同類も襲うから可能性は低いが、ボレロみたいにリザードくらいなら率いることが……。


「いや、やめとこう」


 俺は人間だ。身体はバケモノでも。弱い、とても弱い人間だ。分をわきまえろ。


「で、だ」


 今後。どうするか。目標はコアの獲得、で変わらない。結果はどうあれ、俺がやらなきゃいけないことだ。そのコア探しでもこの力は役に立つ。


 とりあえずは、目先ボレロから炎のコアを強奪ってとこかな。正直一人であの牛状態に勝てるとは思えないが。

 あとは、現在陸によると人の手に渡っているとされる水のコア。

 地、闇、鉄は行方知れず。風と雷は今俺が持ってる。


 そして、教団が保有する光のコア。


 最終的にはこれも手に入れる必要がある。その場合教団を本気で敵に回す羽目になるが。


「先が長ぇなあ……ていうか、半分がほぼ行方知れずってのが痛い」


 とりあえずは所在がわかっているものから当たる。光は最後にしないとマズいが。


「よし、当分はボレロだな。となると」


 教団より、ぶっちゃけ昨日来たアイツの方が頼りになりそうな……。


「あとはあの女、か」


 ヘレナ。まだ顔を見てすらいないが、あいつの動向にも注意したいところだ。

 憑き者とやらが、他にもいるというのも気になる。何れにせよ、自分のことでも知る必要がある事項が増えた。めんどくさい。

 これほどの強化が、若干のビジュアル変化だけが代償なんてうまい話はない。

 何かしらのデメリット、リターンがあるはずだ。でないとおかし……


 雷のコアによって妨げられた電波が戻ったのか、再び端末からけたたましく呼び出し音が鳴る。


「んだよ、まったく……もしもし」

『おいィ!ボルカノぉ!』

「でかい声を出すな 耳が痛い」

『俺は胃が痛ぇわ!早く出ろよ!』

「へいへい、で、何か?」

『教団!来い!今すぐ!』

「やだ。なんでだよ?」

『てめぇ……ジグの件、忘れたとは言わせねえぞ』




 …… ……あ。



 あぁ、ああ。




「忘れてたわ」


『もう何も言わねえよ……早く来てくれ』

「何か問題でもあったか?」

『大アリだよ!まだ来ない気か!』

「えー」

『えーじゃねえ早く来い』

「朝飯食ったら行くわ」

『大学生か!』

「じゃ、そゆことで」

『あっ、おいとりあえず早く』


 さて、今日のメニューはどうしよう。できるだけのんびり食べていくとしようか。







「お前、ホントに飯食ってから来んのな……」

「我ながらうまかったぜ」

「聞いてねえよ」

「ま、間に合ってるんだし問題ないだろ」

「5分前だけどさ、一応状況説明とか色々あったのよ?」

「知らん」

「だろうな……」


 教団正面入り口にて。


 また注目を浴びる俺だったが、諮問会議出席者が多いからか突き刺さるタイプの視線は少ない。

 どちらかというと興味本位の方が多そうだ。


「で、諮問会議だろ?大聖堂でやんの?」

「ああ 早く行くぞ」

「あそこ地味に遠いんだよ」


 広大な領土を持つ教団は本部の建物もやたら滅多広い。おまけに医療、情報、開発以外の部署にはエレベーターすらない始末だ。自動ドアがよくてエレベーターが駄目な理由が理解できん。


「早くしないとジグがまずいことになる」

「俺が、じゃないのか?」

「かくかくしかじかはその場で説明する いいから行くぞっ」

「へいへい……」





『では、これより臨時の諮問議会を行う!先日の出撃の報告はその後とする!』


 厳粛な雰囲気。その場に集まった各部隊首脳、第二部隊がしん、と静まる。


 教団総帥である、ガイラルが壇上に立ち周囲を見渡す。その厳しい眼差しにあてられた者から順に背筋を伸ばすのがわかる。


(間に合ったな)

(お前は議論される側だろ、早く行け)

(へいへい)


 階段を降り、正面入り口へと向かう。


「よう、白い悪魔」

「マーウィール……」


 入り口にはいつぞやの空気を読まない男が立ち塞がっていた。ホント懲りない奴だ。


「聞いたぜ、また問題起こしたってな」

「嬉しいか?」

「あぁ、今度はどんな罰則かねえ」

「とりあえず今日もお前に構ってる暇はない どけ」

「へいへい……」


 案外素直にどいてくれた。なるほど。断頭台に登るのは邪魔しませんよってことか。


『ボルカノ先ー輩ッ!』



 身体が瞬時に反応する。この声は。


「ちょ、おま、またぐぼぁ……っ」

「待ってーッ!」


 間違いようがない、ソオラだ。


「よっと」

「あら」


 マーウィールを突き飛ばし壁にめり込ませながら、前回より高い高度で飛びかかってきたのを突っ伏して避ける。


「むむむ、やはり駄目か」

「いい加減諦めろ、というか」


『もう、ソオラ。僕達は傍聴席でしょ?』


 ワンテンポ遅れてソアラ。お前はもう少し早く来い。


「だってー、ボルカノ先輩に会えるとなれば、ね?」

「ねじゃないよ……ほら、行くよ」

「ぶー、わかったわよ」

「ボルカノさん、姉が失礼しました」

「今度も別に悪いことしてないんでしょ?」


「いや、今回は割と俺のせい……か?」

「えーっ!そんなのないって!間違いだよ!」

「いや、さすがに事実をねじ曲げるなよ」

「むー……じゃあ、見てる」

「じゃあってなんだじゃあって」


「ではボルカノさん、僕達はここで」

「またね!」


 騒がしい2人組が去っていく。


「おーい、マーウィール?」

「……」

「……ほう?」


一応、気を利かせて壁に刺さってる空気の読めない男のズボンは下ろしておいた。

 俺は控え室の扉を開けて中へ、裁かれに行く。もっとも、簡単にはそうされるつもりはないが。

 俺は場違いなほくそ笑みを浮かべて扉を閉めた。


「先輩!って何笑ってんですか!」

「いや?ちょっとおかしなことが……あっただけさ」

「笑い堪えてんじゃないですか」

「ま、そのうちわかるさ」

「で、今まで何してたんですか」

「あの牛と引き分けた後に帰って飯食って寝た」

「僕のことは?」

「牛と引き分ける前の時点で頭になかったな」

「酷ぇ……!」


「で、どうなってんの?」

「一応僕が訓練生でありながら現場にいたことと、その管理を放棄した先輩の罰を決める、らしいです」

「へえ あいつらのことだから先に判決だけ決めてそうなもんだけどな」

「輪さんが少しかけあってくれたみたいです」

「あいつが、ねぇ……」


「ボルカノ」


 奥から声がかかる。先ほどの総帥ほどじゃないが、十分通る、重みのある声。


「よう、隊長殿」

「その呼び方はよせ」

「わかりましたよ、ヴラド隊長」

「ふん……」


「え、えと」

「君がジグ君かな」

「は、はい!」

「私はヴラド。第一部隊隊長、つまりは実戦部隊総隊長だ」

「えぇ?!」

「驚くのも無理はないか」


「普通は入った当日から規則違反する奴なんていねーしな、総隊長ともなれば入隊してからまだ直接顔を合わせたことがない奴もいるんじゃね?」

「ボルカノ、初日から問題を立て続けに起こしたお前が言うな」

「へいへい」


「えーと、でその、総隊長さんが一体?」

「君とそこの阿呆はさほど実感してないかもしれないが、訓練生が現場に出る、ということはかなり重大な違反なんだ。命に関わるからな」

「……それは、身を以って知りましたよ」

「それならいい。今後気をつけてくれれば、な」


 そう言うとヴラドはこちらをちら、と見る。お前には言っても無駄だろうが、といったところか。


「だが、今回は状況が悪い」

「どういうことです?」

「そもそも、ギビング西支所はもう吸収が決まってるんだ」


 ……は?



「ちょっと待て、ヴラド」

「定例会に出ないお前が悪い」

「いつ決まった?」

「ついぞ先月、ってとこだ。だからそもそも支所に新しい人員を配すること自体おかしい」

「まさか……」

「まぁ、そろそろ始まる。事実はそこで全て聞くことだな」

「マジかよ」


 そこまで言うとヴラドは踵を返す。ついてこい、とこちらを見やる。


「先輩……大丈夫でしょうか?」

「知らん、どうやらまた俺の知らないところで話が大きくなってるらしい」


 支所合併が既に決まっていた?そんな重要なこと、陸が知らないわけがない。ましてや、そんな状態の支所に人員を新たに配するなんて、あいつの権限じゃどう考えても無理だ。

 あの野郎、何を企んでやがる……?


「とりあえずは、ここを乗り切れってことかよ」

「先輩?」

「ああ 行くぞ」

「え?もうですか?心の準備がぁああ……」


 俺はジグの首根っこ掴んで、聖堂中央へと向かう。




 ざわり、と会場が蠢く。久しぶりの感覚だ。


『静粛に』


 再びガイラルの声が響く。蠢きは凍りつくかのようにピタリと止む。


「久しいねぇ、ご老公」

「ふん、2年飛ばされたくらいで減らず口は治らんか」


 俺を見下ろすガイラルを見上げ、そしてその周囲にいる壮年の運営役員共を睨みつける。


「先輩、あの人は」

「ガイラル総帥……教団の事実上のトップだな」

「えぇ?!なんでそんな人まで出てくるんですか?」

「まぁ、そりゃ、俺がいるからじゃね?」

「ホント先輩何やらかしたんだ……」


「では、今回の罪状を」


 役員の一人が、書状を高らかに読み上げる。



『未だ入団が認められていない、つまりは訓練生ですらないユーグ=ヴィクトールの教団への関与、及びそれを黙認したギビング西支所のボルカノに主の裁きを!』


・運営

 組織の規律や維持、運営を管理する部署。月一で定例会を開き、各部署及び各支所の報告を集める。そのほか報酬による教団の財源管理、記録の管理、施設の増減や人事などを一手に担う。組織の維持を第一に考えるそしりがある。

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