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Re verse  作者: さいう らく
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16/43

Novice & Fugitive 16 とりあえず、おわった。

 

「あのー……」

「何か?」

「なんで僕また捕まってるんですかね?」


 この僕、ジグは現在撤退を始めた第二部隊の車両に詰められて手錠をされ先ほどと違って足枷までつけられてます。僕そんな悪いことしてないのに。


「そりゃ、まあ規律違反者を野放しというわけにはいかないだろう」

「一応便宜ははかってくれる……んですよね?」

「便宜は図るが、不問にするとは言ってないぞ」


 周囲は輪さんをはじめとする、第二部隊の精鋭たち。正直肩身が狭いというか怖い。普通に。


「なるほど、状況はよくなってるけど解決はしてないわけですね」

「だから言動には気をつけることだな 実力は示したが、君はまだ認められたわけではない」

「あんなんで認められよーなんて思ってませんよ」

「言動には気をつけることだな」

「はい……」


 うう。先輩は今一体何をしているんだろう。結局あの赤いミノタウロスを追ったきり音沙汰がない。僕の装備一式はまた没収されてるし、そもそも向こうから通信してくるとは思えないし。


(まいったなぁ)


 ガチャリと、手錠をかけられた手を見る。鎖が小刻みに震えているところを見るに、まだ身体の震えが止まっていないのだろう。


 初めての実戦。にしては色々ありすぎた。人が死ぬのも見た。吐いた。悪魔も殺した。人が目の前で死んだ。僕のせいで。


 ……いや、僕のせいなんてのは自惚れもいいとこかな。あの人は自分がやらなきゃ、と思ったことをしたんだ。僕がとやかく言うことじゃない。


 それでも、あの時僕がいなかったら、とか考えてしまうのはまだまだ僕が弱いからだ。僕は強くなるために来たんじゃないか。ここに。


 とりあえずは、罰則の内容と今後について考えなきゃなぁ。輪さんはああ言うけど、まさかいきなり退団なんてことはない……よね?


「そろそろだな」

「速いですね」

「怪我人も多いしな それにみんな一刻も早く家に帰りたいだろう」

「家…ですか」


 帰りたい家、か。僕にはなかったものだ。今でこそ先輩の家の隣に仮住まいだけど、あそこに帰りたくなる日がいつかくるのかな。


「着いたようだな」

「今何時くらいですかね?」

「教えることはできん」

「それすら駄目なんですか……」

「時間ってのは策略において最も重要だからな」

「心配しなくても僕ごときがそんな大それた真似できませんて」

「ほう あれだけ派手にやっておいてよく言う」

「杖がなきゃただの背伸びした子供に過ぎませんよ」

「まぁ、一理あるが。生憎俺はボルカノという男を信頼しているわけではないのでな」

「へぇ、そういえばどういった関係で?」


 他の人と違って、輪さんは先輩を恐れている様子はなかった。むしろ対等以上の態度をとっていたくらいだ。


「あいつか?」


 教団の中、発着ドッグのなかをきょろきょろしつつ、僕は彼らについていく。


「あれは、まぁ、せいぜい同僚ってとこだな」

「今のところ先輩の周囲で一番マシな回答です」

「だろうな というか、先輩先輩言ってるが本当にあの支所なのか?」

「一応、あそこの事務所の存続のためだとかなんとか」

「ん?ギビング西はもう……いや、そういうことか」

「なんですか?」

「何でもない 陸の奴の仕業だな?」

「一応これ隠しといた方がいいんすかね」

「またあいつが何か企んでいたのは知ってた まさか君みたいな子供とは思わなかったがな」

「陸さんとは?」

「ボルカノとの話ではなかったか?」


 おおう、脱線してた。何れにせよ、知らないことが多すぎるから好奇心に従ってしまう。


「ま、あいつは昔からやらかす奴ではあったが、2年前と去年のが大分効いてるな 教団にとっては」

「2年前……先輩が本部から去った時、何があったんです?」

「あいつをあそこまで不貞腐れさせた原因だな」

「元からあんなじゃないんですか?」

「今回は割と元に近かった じゃなきゃ協力なんざしてない」

「で、何があったんです?」


 ドッグから教団内部に入る。瞬間、わっと歓声が上がる。


『第二部隊のお帰りだ!』

『よくやった!』

『ヒューゥッ!』

『輪様ぁー!』

『おかえり!』


「う、うわ」

「君はこっちにいろ」


 スッと輪さんは第二部隊の集団の中に僕を滑り込ませる。無用な注目はよくない、ということだろうか。


(話は後だな 今はこっちの対応をする)

(隊長ってのも大変ですね)

(だから嫌なんだ)


 そう言うと輪さんは人を掻き分けつつ、適当に応えつつ、奥へと進んでいく。

 慣れた動きだ。


 これだけの歓声を、期待を、人気を持っているのか。

 そして、どちらかというと有名人より、自慢の家族、のような喜び方だ。

 気のせいか第二部隊の強面の人達も、表情が緩んでいるようにも見える。




 ここが、教団か。

 悪魔を狩り、人を守り、そして、共に戦う仲間がいて、それはもう家族のようで。


 ぼーっと、歩を進めつつ、僕は想像していた教団との温度差を感じる。

 暖かい場所だ。ここは。

 そう思った。






「さて、ここが留置所だ」


 うってかわって冷ややかな場所。ほとんど誰もいない留置所だ。教団の広大な建物の地下にあたる。


「留置所、のわりには結構手がかかってますね」


 白い廊下や壁、そしてオートロックの見るからに厚そうな扉。


「粗雑な留置所は警備する側も粗雑になりがちだからな」


 なるほど。そりゃそうだ。理にかなってる。


「ま、ここが使われることなんてそうもないんだがな」


 そう言うと輪さんは自らの武器を扉の端末部にかざす。さっきから要警備の場所に入る度にやっていることだ。

 ピッという電子音の後に、扉がスーッと開く。


「それは噂の霊子ロックってやつですか」

「ほう、どこで漏れたかな」

「結構知れ渡ってますよ、世間的には」

「やはり完全な隠匿は無理か……」


 溜息をつく輪さん。


「教団の機密は絶対遵守、でしたよね」

「ああ、だが人間だからな どうしても、という時くらいあるさ」

「へぇ……ちなみに機密を漏らした人は?」

「厳罰だ ここを使うことにもなるだろうな」

「退団とかはないんですね」

「それこそ情報ダダ漏れだろう うちは入ったら絶対に抜けることを許さない 矯正させる」

「うわぁ……」


 これは教団が人を選ぶわけだ。相当しんどいぞ。


「さて、君も新入りとはいえこういう機密をたっぷり知ったわけだからな。勿論そのつもりだと思うが、もう戻れんぞ」

「でしょうね」

「いい心構えだ 座ってくれ」

「はい」


 輪さんが扉を閉める。完全な密室だ。


「さて、と。俺も報告を部下に押し付けたとはいえ暇じゃない。君の質問にはできるだけ答えるがこちらの質問を優先させてくれ」

「いえいえ滅相もない」

「で、まずボルカノに何があったか、だな」

「はい」

「とりあえず、俺はあいつと対等以上にやれる自信がある。だから恐れてはいない」

「ほう」

「だが、何があったかというのはあいつのデリケートな部分だからな、君に言うと君の身が危ない」

「あの人があっさり人を殺すところは目の当たりにしましたし……それはごめんですね」

「あっさりで済めばいいんだがな」

「え?」

「まぁ、何があったかは言えないがあいつが何をしたかなら大丈夫だ」

「なんだか、みなさんの反応を見る限り相当やらかしたみたいですけど」

「そりゃ当時の第四部隊隊長及びその腹心を再起不能までボコボコにしたからな」

「はい?」


 味方を……?なんで?


「ああ 全員が戦うことはおろか人間として生活できないレベルの重傷を負わされて廃人さ。数人はもう死んでる」

「うわぁ……」

「しかも全部あいつが義手持ちとはいえ素手で」

「素手で再起不能の重傷って、いえ、聞きたくないです」

「しかも第四部隊の特性上犠牲者の大半が女性だったしな」

「容赦ないですね」

「容赦とかそういう次元じゃなかったな、あれは。狂ってた」

「うへぇ……でも、あの人我を忘れてキレるタイプには思えないんですけど」


 短い付き合いだけどなんとなく先輩は、酷い人でそれなりに短気ではあるけどもそうやって自分を制御できないタイプの人じゃないはすだ。多分だけど。


「そうだな 現役時代も滅多なことでは本気で怒ることはなかった」

「やっぱり」

「むしろ、周囲を怒らせまくってヘラヘラしてるタイプだったな」

「……へえ」

「逆にいうとそんな奴が激昂するレベルの出来事だったんだ。あれで正気でいろって方が無理だ」

「で、その後は?」

「逃亡して行方をくらました。最終的には事務所に戻ったが、それまでに派遣した追撃部隊はもれなく未帰還か重傷。誰も行こうとしなくなったし、教団も半ば諦め気味だった」

「なんで戻ってきたんですかね」

「さあな。さすがにそこまで子供じゃなかったのと、陸によるものが大きいだろう」

「陸さん?」

「あいつがコアに関する情報を集めて、ボルカノをそそのかしたんだ。ちょうど金がなくなった時とあいまって、仕方なく戻ってきたということさ」

「あの人……」


 適当で楽観主義かと思ってたけど、案外そうでもないのかな?考えてみれば先輩とも一番仲良さそうだったし。


「んで、いざ支所を始めようとした一年前」

「絡んできた奴らをボコったってやつですか?」

「そうだ。さすがにその時はわきまえていたのか、ただの戦士としての再起不能に抑えていたな」

「わきまえてない……!」

「で、そこでもう散々っぱら嫌われて今に至るってわけさ 一部はあいつの味方だが、それもだいぶ減ったな」

「なるほど」


 まとめると、何か先輩を大いに凹ます出来事があって、それを煽った人がボコボコにされて、逃げた先でも味方をボコって、いざ帰ってきたらまた挑発に乗って味方をボコったと。

 あれ?ただの酷い人にしか聞こえないぞ?


「あ、そういえばやたら陸さんを高く評価してますけど、知り合いかなんかですか?」

「やたらって……あいつは優秀だよ。シンから俺と共に渡ってきたからな」

「シンから、ですか」


 シン。戦争終結あたりから本格的に交流が始まった島国。大陸にはない技術を大量に持ち込んだ存在。


「俺がこうしてやっていけるのも、半ばあいつのおかげみたいなもんだしな」

「へえ、なんかイメージ崩れます」

「君は一体彼に何をされたんだ……」

「あとは……そうだ、わかんないとこが一つ」

「なんだ?」

「僕が訓練生だと知っておきながら、なんで先輩は僕を連れていったんでしょう?」

「訓練生の実戦が禁じられたのは半年前だ」

「あー……知らなかったとかいうオチですか」

「だろうな」


 ふむ。先輩はいいとして、陸さんはこの可能性を考慮しなかったのかな?


「こんなところか?」

「まぁ、そうですね。差し迫ったものは」

「自分の待遇に関してはいいのか?」

「最悪退団もなければ死にもしないでしょうし 矯正も知らなかったわけですから意味を成しませんから別に平気です」

「変なとこで君は肝が座ってるな」

「は、はぁ。まぁ」

「ではこちらからの質問だ」

「はい」


 背筋を伸ばす。何を聞く気だろう。


「まず君、あのレベルの魔術をどこで?」

「一応、ダールの魔術学校で」

「ほう。まぁ、あそこならおかしくはないか」


 嘘はついてない。


「で、君はどうしてここに?」

「昔……守れなかったどころか、その人に守られて生き延びた経験があります」

「ふむ。もう二度とそうはなりたくないと」


 これは先輩や陸さんには言わなかった方の理由だ。鼻で笑われること請負だからね!


「どちらかというと、その人のようになりたいから……ですかね」

「わかった 十分な動機だな」

「は、はい」

「それだけわかれば十分だ」

「え?」

「なんだ、もっと根掘り葉掘り聞かれるとでも思ったか?」

「え、それは、まあ」

「俺は君に期待しているんだ」

「え?」

「最近、優秀な魔術師が次々引退してな。こんな若造が隊長やってるのもそれが理由なんだ」

「はぁ」

「君のような人材は歓迎だ。諮問議会ではできるだけ援護させてもらう」

「あ、ありがとうございます!」


 意外な展開になってきた。てっきり孤立無援で、第二部隊も多少有利な証言をしてくれるくらいのものかと思っていた。


「さて、そろそろ俺も行かねばな。多分、諮問議会は明日になるだろう。それまでここで我慢してくれ」

「はい」

「それと」

「はい?」

「ここから出ようとは思わないことだ。俺みたいな奴だけじゃないからな。ここは」


 ……バレてる。僕が霊子ロックを外せること。


「おとなしくしてればすぐに元に戻れる。じゃあな」


 スーッと、扉が閉まり、僕は一人になった。


「末恐ろしいな……さすが隊長」


 僕があの鍵を開けられるなんて素振り、見せた覚えないんだけどなぁ。

 ごろり、と簡素なベッドに横になる。意外と柔らかい。下手すれば今住んでる家よりいいぞこれ?


 何もない天井を見上げる。


 まだあれから2日しか経ってないのか。家を出てからのトータルは……二週間といったところ。

 まぁ、首尾よくいったのだろう。陸さんから接触してこなかったら、僕はここまで来れていないし、先輩があの時僕を見捨てていたら、やっぱり僕はここにいない。


「まだまだ、助けられっぱなしか」


 今日の出来事が頭をよぎる。血。煙。炎。内臓。

 今だに少し胃の奥に訴えるものがある。でも、だいぶ抑えるのはうまくなった。

 そうだ。僕が今回生き残れたのは、まぐれに過ぎない。


 少しでも立ち回りを間違えていたら……。


 ぶるり、と身体が震える。

 と同時に、震える筋肉がもう休ませてくれと、悲鳴をあげるのも聞こえる。


「そうだな。頑張ったよ、僕」


 そう呟いた瞬間、力がぐったりと抜けるような、眠気が襲ってきた。ここなら安全。その事実が、僕を何より安らげたのだ。


「そういや……先輩は、何……してんだろ」


 そう簡単に死ぬとは思えないし、それくらいならあっさり逃げるだろう。あの人のことだ。心配は余計だろうな。



 眠い。結構嫌な夢を見そうな予感もするけど、そんなことはどうでもいい。今は、もう。





 おやすみ。


タイトルに関しては、今後の話によっては規則性がわかる…かも。


・霊子ロック

 霊子を用いた認証システム。霊子鋳造された兵器もしくはカードキーを用いる。教団でのみ実装されており、これを含め鉄壁のセキュリティを誇る。

 が、一部の魔術師は自力で開けることができる。

・シン

 独自の文化、言語、宗教を持つ国家。交流が始まったのはごく最近。

 国民性として内向的なので大陸の人間とはイマイチ馬が合わない。

 霊子鋳造技術の発祥。

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