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Re verse  作者: さいう らく
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15/43

Novice & Fugitive 15 兆候

 


(……まったく、何でこんなことになったかねぇ)


「うるせえな 俺にもわかんねえよ」


(ま、そりゃそうだろうな)


「というよりか、こりゃ夢か何かか?」


 まただ。

 自宅、イオのものだった、部屋。


 中は薄暗く、俺は相変わらずやつれきって全身鏡の前に立っている。


(まあ、明晰夢?ってやつ)


「わかんねえのかよ」


(どう思うかは勝手さ)


 鏡の向こう。白い仮面を被った俺が、肩をすくめる。


「はー、何はともあれ、酷い目にあった」


(だな)


「そこは同意すんのかよ」


(だってお前は俺、なんだから当然だろ)


「意味がわからん」


(で、なんであんなことした……だっけ?)


「うるせえな」


(おいおい、邪険に扱うなよ)


「知るか」


 夢だとしたら嫌な夢だ。俺はさっさと目を覚まして……。


(覚まして、どうしたいんだ?)


「知るか」


(おいおい、自分の行動には責任持とうよ)


 気のせいか鏡の向こう、仮面の下がにやついてる気がして腹が立つ。


(そうカッカすんなよ 身体の方が治ればこの夢?も終わりさ)


「治れば?何言ってんだ?」


 ミノタウロスの放った一撃を土手っ腹に喰らって、下手すりゃ生きてないこの状況で?


(俺は嬉しかったよ?今の俺ならあのタイミングであの行動は取れなかったと思うからさ)


「なんのことだ」


(庇っただろ、彼女のこと)


「……」


(だんまりか)


「あれは、身体が勝手に」


(ほう、そもそも俺の理屈でいくと俺が今ここにいること自体がおかしいんだけど)


「はあ?」


(別に陸の思惑に乗ってやる必要はなかっただろ?)


「……」


(あんなひよっこ放っておいて好き勝手やりゃあよかったじゃないか)


「それは」


(まあコアのためだしな、あいつの面倒見るのは必須条件としても……護送車に追いついた時点で強奪して連れ帰ればよかったはずだ。なんで第二部隊の面倒まで請け負ってんだよ)


「……」


(だんまり、か)


「俺は」


(まーまー、俺も今すぐ追い詰めるつもりはないって。久しぶりに手応えのある悪魔が出たもんだから、ちょっくら火ぃついちゃっただけだろ?)


「それは…そうだが」


 実際問題そうだ。あいつの言うことは正しい。どんなに俺が取り繕っても、俺が刺激を求めていたことは間違いない。最近は弱い悪魔だらけで、腹いせにすらなってなかった。


(ま、そこはいいさ ある程度は自覚あるみたいだし)


「そこは、というと?」


(第二部隊の連中を庇ったのと、今しがた彼女を庇ったことに関して)


「第二部隊は……的が増えた方がいいだろ」


(あいつらの流れ弾は厄介なんじゃなかったか?」


「……ちっ」


(それにまだまだ見ず知らずレベルの女を庇うって…惚れっぽかったっけ?俺)


「そういうんじゃない」


(じゃあどういう?)


「ただ、俺は」


(目の前で敵ではない人間が死ぬのを)


「見てられなかっただけだ」


(だろうな 結局のとこ、お人好しなんだよ、俺は)


「わかったような口を叩くな」


(わかってるさ 自分のことなんだから)


「……けっ」


(さて、そろそろかな)


「何がだ」


(案外すんなり認めてくれたことだからな、そろそろ治る頃だ)


「?」


 鏡が一瞬光を放つと、意識を失う直前の自分の視界が映る。少し目線が下だが。


「……!」


 ヘレナが戦っている。あいつ、まだ逃げてなかったのか。


「どうやら、お人好しは俺だけじゃなかったようだ」

「の、ようだな」


 いつの間にか鏡から出て来て俺の後ろに浮いている、仮面の自分。


「まー、ある意味彼女には感謝、かな」

「どういう意味だよ」

「いやなに、俺を叩き起こしてくれたわけだしね」

「訳が分からん」

「冷たいねえ……でも、満更でもないんだろ?」

「何がだ」

「何も信じない、誰も寄せ付けない……それもいいさ、悪くない」

「……」

「そろそろ、意地張るのやめちまえよ」



「はっ、やなこった」

「あーあ、駄目か」

「もう二度と、あんな真似はごめんだ」

「ですよねー」

「……だが」


 鏡の奥のヘレナが俺の刀を大きく空振りしてミノタウロスの渾身の一撃を食らった。

 そのまま刀を取り落として吹っ飛んでいく。

 間違いなく致命傷だ。あいつ、また(・・)無茶を……。


「貸しを作るのは趣味じゃない」

「じゃあ、行ってこいよ」

「どうやって?」

「そーい」

「?!」




 蹴飛ばされ、よろけて鏡に突っ込んだ。思わず目を瞑るが、予想していた衝撃は無く、ぐたりとした体の感触が徐々に戻ってくる。


 ……なんで俺、「また」とか言ったんだ?さっき。


「……あ」


 壁にもたれかかっている。戻って、きたのか?


「ゴふッ…ぁ」


 血反吐を吐く。折れた肋骨の数は片手じゃ足りないだろうし、肺もやられて……。


 あれ?


「ない?」


 思わず自分の身体を撫でるとかいう気持ち悪い行動に出る。間違いない。そもそも、傷がない。

 それに、あれほど重かった身体も、火照ってはいるものの非常に軽い。

 血反吐も残った分を吐きだしたという感じで……。


「って、それどころじゃねえな」


 身体を起こして前を見る。あの映像?が正しければ、すぐそこにあいつがいるはずだ。


『フウゥ……手間かけさせやがって』


 背を向けたミノタウロス。その身体はさっき俺の壁を突破してきたときのように赤く鈍く輝いている。周囲の空気がゆらぐほどの高熱だ。


 その向こうには、先ほど吹き飛ばされたであろうヘレナ。土埃でよく見えないが、敵前で動かない所を見るに動けない、というのが正しいだろう。

 負傷の度合いによっては間に合わないかもしれない。だが、今あの牛の注意は完全に俺から外れてる。それとこれとは話は別。あいつが生きようが死のうが、貸しを作るのは嫌いだ。


 さっき吹っ飛んできた車から突剣をありったけ錬成する。できるだけ鋭く、多く。


 じゃらり、とそれらを抱え俺はそれを投げながら走る。


『…ぁア?』


 予想通り、剣は刺さる前に溶けてしまう。べちゃ、べちゃと液体が飛び散る音が何度も響く。


『こいつぁ予想外だな……まだ動けるとは』


 構わず投げ続ける。そろそろストックが尽きるが。


『が、不意打ちならもっとマシなのを頼むぜ、タイミング悪すぎだろォ』

「ま、確かにタイミングは悪い、最悪……だッ!」


 最後に両手を使ってありったけ、4本の剣を投げる。


『だからそんなん効かね……』


 飛来する剣は5本。最後の一本は。




ギぃぁぁぁあぁァッ!(ヴォオオオオオオ)


 4本の突剣が溶解すると同時、俺の刀がミノタウロスの左目に直撃する。

 この刀なら、折れないし、溶けない。数多の経験からこいつの耐久性を俺は信用している。


『がァあ、でめェッ……?!』


 すぐさま相手の左側へ。


「知ってるか?隻眼の草食動物って前にほとんど視界ないんだぜ?」

『ぬかせェッ!』


 すぐさま左腕を俺のいるであろう方へ振り抜くが、屈んでかわす。

 直後、俺の左眼に激痛が走った。


(こんな……時にっ)


 痛みをこらえつつ目を開け、俺は一瞬たじろいだ。


「な、に?」


 視界全体に、光る煙のようなもの。そして、それが固形化したかのように見えるミノタウロス。

 さらに、その振り抜いた腕の中で収束を始めている、赤い粒子。


 なにがなんだかわからないが、とりあえずあの腕の中での収束は多分、爆発の予備動作……。

 だが、間に合わない。今からじゃ。


 と、思ったが俺は自分の身体に裏切られた。

 まずい、と思ったその時には、俺の身体は既にミノタウロスと同じ目線まで跳び上がっていたのだ。


(……は?!)


 予期せぬ出来事の連続に、考えを放棄したくなる。だが、これは好機だ。俺は左手を伸ばす。


 空中とは思えないほどスムーズに手が伸びる。赤熱が義手を加熱し、さらに真っ赤になるほど熱くなった刀を握るとさらに熱さが増す。

 生身の部分が蒸発する前に……!


「……の野郎ッ!」


 眼球に刺さった刀をねじり、もぎ取った。


『ゥおぉぁぐッ!』


 声にならない声を上げ、ミノタウロスが悶える。

 眼下をちらと見ると収束していた赤い粒子は散ってしまっている。阻止できたか。


「って、熱ッ!」


 すぐに刀を鞘に戻す。義手の接合部から嫌な煙があがった。


「もう少しの、辛抱!」


 着地と同時に風のコアを使い、ヘレナのもとへ飛ぶ。

 火傷した左腕をかばいつつ、右手で銃を構えた。


『やって……くれたなぁ』

「お互い様だろ」


 熱い。いくら好機だったとはいえ、やりすぎた。左腕が燃えるように熱い。


『そろそろ、限界か』


 ミノタウロスがぼそりと呟く。限界?


 直後、その身体が炎に包まれた。



 その炎が二回りほど小さくなり、消えた時。



「まさか、お前もだったとはなァ、ボルカノ」


 そこにいたのは俺のよく知る人間だった。

 さっき会った時よりかなり疲れが見えるが、間違いない。


「……ボレロ?!」

「ったく、お前には驚かせられっぱなしだなぁ、オイ」

「それはこっちの台詞だ」

「ちっ…さすがに霊子使い過ぎたかァ」


 気がつくと視界は元に戻っている。煙も見えないし、粒子も見えない。何だったんだ?


「今のは、なんだ」

「なんだ、とはなんだよ、ボルカノ」

「間違いなくお前だったろう、さっきの牛」

「牛言うな」

「うるせえ、質問に答えろ」

「はぁ、まぁ、そうだな」

「なんだ、なんかの魔術か?」

「それはそこでのびてる女の方が詳しいんじゃねェの?」

「……そうかい」

「それに、どうやらお前も俺らと同類らしいしなァ」

「同類?」

「ほれ」


 ボレロがだらしのない前髪をかきあげる。そこには潰れた左眼があるはず……。


「治って、る?」

「お前だって、そうだろう?」


 トントン、と自分の左腕を指差すボレロ。


「……!」


 いつの間にか熱さは引き、痛みもなく、左腕は元通りになっていた。

 というか、全身見回しても、無傷だ。


「まぁそれが憑き者、ってやつらしいぜ?」

「どういうことだ」

「そういやお前、白い悪魔とか呼ばれてたな」

「話を逸らすな」

「くっく、まさか、そいつらも思っちゃいなかっただろうな」

「何を」

「お前が、モノホンの悪魔(・・)だってことを」

「……何を、言っている?」

「ま、そのうちわかるさ。そのうち、なァ!」


 ボレロが後ろ手に隠し持っていたものを投げる。

 あれは……閃光手榴弾?!


「じゃあなァ!次はねえぞォ!」


 すぐさま耳を塞ぎ、目を瞑る。直後に耳を塞いでいてもわかる爆音と瞼ごしでもわかる極光が俺を通り過ぎていった。


 目を開け、まだ残響が残る建物内を見渡す。


「俺が……本物の、悪魔?」


 ボレロの姿はなく、散乱した瓦礫、車。溶解した地面と鎮火しきれていない小さな炎がぽつぽつとあるのみだった。






「おい」

「……ん、んう?」


 壁にもたれかかりぐったりしていたヘレナの肩を揺らす。左肩付近はロングコートはおろか、中に着ていたもの全てを貫通されたようで、覗く肩だけでもこの女がかなり華奢なことがわかる。

 そして火傷などなかったかのような、透き通るように白い肌。まるで陶器のようだ。

 特に他意はないが、俺は右肩を揺する。なんとなく、触れてはいけないような。そんな気がした。


「あれ、ボルカノ?私意識飛んでた?」

「ああ」

「あの人は?……あっ」

「お前もあれが人だと知ってたのか」

「んー、まあねー……」

「色々と聞きたいことはあるが、立てるか?」

「あーちょっと左肩がね……まだ完治してないかな……って」


 ちらと自分の左肩を見て、そこがどういう状態になってるか確認すると。


「っ!」


 隠した。右手を使って。


「あー、別に何かしたとかそういうのは」

「え、いや、別に疑ってるわけじゃなくて、単純に、えーと」


 おお、珍しく焦ってる。もじもじしやがって。



「……見ないで、ください」




 ごめんなさい。負けました。

 俺は背を向けて座る。くそっ……あんな消え入るような声を出すな。調子が狂う。


「で、治るまでどれくらいかかる」

「あと1分くらい?」

「……だいぶ、長いと見ていいのか?」

「あー、なるほど。ようやく目覚めたのかな?」

「目覚めた?」

「憑き者、として」

「……なんなんだよ、それ」

「もう大方予想はついてるんじゃない?」

「予想は、ついてる。だが、認めたくない」

「ふう。まぁ、では教えてあげるとしましょう」

「お願いしたいね」


「憑き者っていうのは、体内に悪魔を飼ってる人のことをいうの」


 ヘレナは、俺が最も認めたくない答えを口にすると、それの説明を始めた。


「まず第一に、まだ世間的に、というかそもそも憑き者の存在自体知られてない。言っても信じる人はいないかな。憑き者という名前も通称に過ぎないし、場所によっては違う名で呼ばれてたりする」

「そりゃな」

「憑き者になる……というか、誰が憑き者として生まれるのか、それとも後天的に憑き者になるかもわからない。でも、まあさっきのミノタウロスの人は後天的のようなことを口にしていたけど」

「で?」

「えーと、人間の頭の中や身体には、霊子記憶領域があるじゃない?」

「へー、何それ」

「……そういう、霊子を蓄積しておくスペースがあるの」

「へい」

「そこを使って霊子を構成して放つのが魔術で身体のその領域に霊子を作用させるのが呪術なの。それに何もしなくてもこの世界にいる限り霊子は身体に蓄積するじゃない?」

「そうだな」

「で、悪魔の身体というのは霊子でできてる」

「……そうなのか?!」

「え、知らなかったの?」

「いや、切ったら普通に血出るし 内臓だとか筋肉とかもあるし」

「灰化霊子を用いて身体を構成しているの。無属性の灰化霊子は有機的な性質を示すから生き物に見えるのもそういうことよ」

「なんかすげえ重大なことをサラッと教わった気がする」

「まぁ、とりあえず悪魔も霊子でできてるわけ」

「ああ」

「だったら、霊子記憶領域を持つ人間の中に入れない道理はないでしょう?」

「え」

「はい、ここから突っ込み禁止」

「お、おう」

「それで、何らかの理由で体内に悪魔を宿して、それと霊子レベルで一体化してるのが、憑き者」

「えらく強引にまとめたな」

「私だって全然わかってないもの。自分のことなのに」

「わかってない、ねえ」

「だから悪魔みたいに傷が治るし、身体能力も上がる。あなたはまだ目覚めたばかりだから慣れないと思うけど霊子も視えるし、私は悪魔の力まで使える」

「ああ、それそれ その視えるってやつ」

「ん?」

「さっきしばらくの間、眼がおかしかったんだがそれか」

「ああ、もう体験したんだ、なら話は早いね」

「あの、もやもやした煙みたいなのと赤い粒子がそれなのか?」

「煙の方も一応ちゃんと見ると粒子なんだけどね。赤いのは炎の霊子」

「ほう、で、俺の中にどんな悪魔がいると?」

「それは本人にしかわからない。あの人みたいに悪魔の姿を取れればわかるんだろうけど」

「お前は無理なのか」

「無理だし、やりたくはないかな」

「だろうな」


 自分の中の悪魔、か。この義手のことも関わってくるのだろうか。元からなのか、それともいつかの時点で滑り込まれたのか。

 正直言ってまだ信じられない、認めたくないが、実際に傷が治ったりしているわけだから認めざるを得ない。

 これで正真正銘、バケモノってわけだ。

 今まで俺をそう扱ってきた奴らも、あながち間違ってなかったということだろう。


「……えらく順応早くない?」

「この手のドッキリは慣れっこっつーか、まあ俺、ガキの頃の記憶ないし……」

「へえ、記憶が」

「6年前からな」

「…6年、前?」

「ん?」


 少し考える素振りをする。何だ?


「あー、その、私も……なんだ」

「は?」

「6年以上前の記憶、なくて」


「マジか」

「大マジ」

「最後に記憶あるの、どこだ?」

「えーと、確か……スノーティアだったかな?」

「ううむ…俺は定かじゃないからなあ、気がついたら北部半島の方にいたし」

「関連性はなさそうだね」

「まあさすがにそこまでの偶然あってたまるか」

「ふふふ、そりゃそうか」


 後ろでスッと服の擦れる音がする。ヘレナが立ち上がったようだ。


「さて、そろそろ平気かな」

「なあ」

「ん?」

「いい加減顔を見せる気はないのか?」

「ないよ」

「……あっそ」

「まあその内その内」

「いつになることやら」

「あ、あと!」

「あん?」


 ヘレナが俺の腰に差している刀を指さす。


「それ!軽すぎだよ!」

「そりゃあ、そういう刀だからな」

「聞いてないよ……あの時触らせてくれれば怪我せずに済んだのに」

「どうせ治るんだからよくね?」

「よくない」


 左肩を強く抱きしめヘレナはぷいっとそっぽを向く。


「形見、って言ってたよね」

「……ん?ああ」

「誰の?」

「言えない。というか、言いたくない」

「そっか」

「シンで鋳造されたものらしい。言わずもがな一級品だ」

「へー、銘とかあるの?」

薄蓮(ハクレン)というそうだ」

「薄い、ね。確かに刀とは思えない薄さよね、それ」

「霊子鋳造の剛性・靱性強化の賜物だな」

「ふうん。面白いこと聞けた、ありがとね」

「お、おお」


 相変わらず、自分のペースで会話を進める奴だ。


「いつもみたいに飛び去っていかないのか?」


 徒歩で剣を回収しに行く背中を追いつつ、俺は尋ねる。


「それもいいんだけど、一応霊子使うからさ、アレ」

「もったいない、と」

「そだね、あとは……」


 ガっ、と地面に刺さった剣を抜き、腰に差した。首を傾けつつ振り返って、ふふ、と笑う。


「もう逃げても追ってこないでしょう?」

「まあな」

「それに、眼が使えれば見えるはず」

「どういうことだ?」

「私たちは普通の人間より霊子濃度高めだから」

「ああ、なるほど」

「私達以外にも憑き者の人はいるみたいだから、探してみるのもいいかもね」

「お前はそうしてるのか?」

「うん。もしかしたら私のこと、知ってる人がいるかもしれないし」

「ボ……あの牛と面識があったのもそれか」

「まあね と、いっても会うたびに戦闘になっちゃってたけど。はは」


 そしていつものように翼を広げると、ふわっと浮き上がる。


「行くのか」

「うん、あなたもここに長居するつもりはないでしょ?」

「そりゃな」

「じゃあ、またね」

「……ああ」


 またね、か。


「それと!」


 浮上しながらヘレナが声を張る。


「助けてくれて、ありがと!」


 そう言い、空中でサッと一礼して、彼女はまた空へと消えて行った。


「……ふう」




 疲れた。久しぶりに死ぬ気で戦ったのもそうだが、らしくないことをしすぎた。


(そろそろ、意地張るのやめちまえよ)


 夢の中、鏡の自分に言われたことを思い出す。意地、ね。

 とりあえず、次の標的は決まった。ボレロだ。憑き者にしろ、炎のコアにせよ、あいつを追う必要がある。そしたら、また彼女に会うことになるのだろうか。

 

「さて、帰るか」


 何か忘れているような気がするが、俺は帰路につく。




 ……自分で思ってるほど上機嫌になっていることに気付かずに。


 

「スーマ・ギルモア間偵察及び威嚇」/+「強襲勢力迎撃」

形式:偵察任務/+迎撃作戦

依頼主:WOJ

結果:達成+戦果

報酬:未払い、未定


・アトラス

 Atomosfere last。アトモスフィア・ラスト。新興企業にして、完全に軍事専門の企業。コストと使い勝手を度外視し、単純に武器として求められる性能を極限まで高めている。またその象徴性かつ実用性にあふれたデザインも人気。そのため玄人には人気があるのだが、武器をどう使おうが自己責任というスタンスのせいで世間的な風当たりはよくない。

・ラトミ

 Latomi。正確には企業ではなく、研究所。だが実験に成功した兵器を一応受注生産してはいるため商売としては成り立っている。日々新技術の開発、解析、データ収集にいそしんでおり、ブルーローズに負けず劣らずの独創的な兵器を研究している。ブルーローズのような兵器カテゴリごとひっくり返すような真似はしないが、それでもカテゴリ内に異端として存在するだけの兵器をまんべんなく作っている。特に大型兵器は搭乗者に殺人的な負荷をかけることで有名。

・霊子鋳造

 鉄の魔術を併用して金属を鋳る行為。霊子結合により非常に強い剛性、靱性、耐摩耗性、環境耐性を金属に付与することができる。また、刀剣類に施すことで悪魔の霊子結合を無力化することも可能。この場合、霊子結合の弱い方が分解されるため、極度に強い結合を持つ悪魔、もしくは雑な鋳造だった場合は押し負ける場合もある。

 シン発祥とされている。

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