表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
Re verse  作者: さいう らく
Verse/1 false charge
14/43

Novice & Fugitive 14 超越

 

「さて……この真上かな」

「だからなんでわかんだよ」

「視えるらだって言ってるでしょ それにもうすぐそこなんだし」

「まあ……そりゃそうだけど……」


 ヘレナはいざ知らずといった体で背中に背負っていたケースをゴトン、と地に落とす。


「さて、どれでいこうかな?」

「いつもそれ持ち歩いてるのか……ギターケースか?」

「一応バイオリンケース。形だけだけど」


 ぱかっと開くと確かに。武器が満載だ。

 さっき使っていたスナイパーライフルやサブマシンガン、予備弾倉に補助兵装。そして目に付く黒い剣。


「スタインに……アトラス、ってとこか?」

「お、さすがにわかるか。プロだね」

「そりゃな……」

「ただ、これだけは……」


 と、黒い剣を取り出す。円弧を描く板にグリップがついただけのおおよそ剣とは呼びにくい代物だ。


「ブルーローズ製……らしいよ?」

「らしいって」

「貰い物だから そう言うあなたはリクラスとラトミ御用達って感じだけど?」

「人のことは言えんさ」


 この女、やはりと思ったが銃に関してかなり詳しい。

 スタインは、老舗の狙撃銃専門。アトラスは、玄人向けで癖が強い新参。ブルーローズは、トンデモ兵器ばっか作ってる変態。リクラスは最新鋭を貫く貪欲な企業。んで、ラトミは正確には企業じゃなく実験兵装を貸し出している、といった感じ。


 と、まあミリタリートークに華を咲かせたところで、武器のチョイスが終わったようだ。


「近距離機動戦闘ならやっぱこれよね」


 幾多ものナイフと、フレームに刃が直結したカービンライフル2丁。そして腰に例の剣をぶら下げている。


「おいおい、カタールガンとか片手で扱うもんじゃないだろ」

「私はへーきだから」

「お、おう」


 グリップに対して垂直、つまりカタールの形をとる刃がついた、アトラス製のカービンライフル。この女、さらに自前で改造を加えているようで短い銃身をさらに切り詰め、軽量化を図っている。

 だが、いくら軽量化したとはいえライフル。片手で扱えるはずがないのだが。


「翼といい、運動能力といい、バケモンかお前は……」

「んー、いい線いってるかも」


 そう言いつつカタールガンの素振り。普通の剣を振っているかのようにぶれないところを見ると、本当のようだ。


「まあ、射撃はあんましないんだろ?それ」

「そーだねー、威嚇や牽制くらいにしか使わないかも」


 そして両足へとマウント。準備完了、といった感じだ。


「あ、あとさ」

「ん?」

「その刀……」

「……ああ、これね」

「触ってもいい?」

「駄目だ」

「えー、ケチ」

「形見なんだ、大事な」

「ふーん……そういうことならしょうがないな」


 ふいっと顔をそむけ、翼で宙に浮かぶ。


「そういや結局お前、あの約束はなあなあにするつもりか」

「約束?ああさっきの」

「その様子だと……」

「いつ教えるとは言ってないしー」

「いい根性してんなあ……」

「それに予備知識がないと教えても意味不明だと思うよ」

「試しに言ってみろよ」

「臨海霊子を翼状に固着して通常の霊子との反発力で浮いてる」

「さっぱりわからん」

「でしょう ふふん」


 なぜか得意気。だが不思議と気に食わないわけではない。


「……そろそろくるよ」

「ああ」


 ヘレナの後を追って上の階層へと昇る。




 赤熱を発しつつ、仁王立のミノタウロス。


『遅かったなァ、ボルカノ』

「……さっきと口調が違うな」

『一応、体裁ってもんもあるわけだし?俺も演技うまいもんだろぅ?』


 特徴のある気だるげな話し方。こっちが素か。


『んで、そっちのさっき俺を痛い目に合わせてくれたお嬢ちゃんは……』

「とぼけなくてもいいけど」

『おうおう、話が早くて助かるわ』

「ま、そろそろ仕留めさせてもらうよ 好機だしね」

『へえ……』


「面識あんのか?」

「一応ね ベースの方はないけどこっちには」

「だからベースってなんだよ……」


『なんだボルカノ、知らねえのかよ!はっ!』

「そういうお前は知ってそうな口ぶりだな」

『ま、いい ここまで追ってきたこと……後悔することになるぜ』


 ミノタウロスの蹄が赤く熱を帯びる。コンクリートの表面がじりじりと焦げ始めた。

 さっきの傷は概ね治癒しているようだが、失った血液までは戻らない。本調子は出せないと見ていい……



「……っ!」


 腕及び足から爆炎を噴き出してこちらに直進してきたのを横転してかわす。

 速い!


 さっきまでは演技、ってのはこういう意味も含まれてたのか……!


『さすが、その反射と瞬発といったとこだが……』

「……!」


 いつの間に切り返したか、再び俺の眼前まで迫っている。おいおい……パワータイプじゃねえのかよ。


 刀に手を置く。恐らく炎をブースターのように使ってる、逃げても軌道を変えてまた襲ってくるはず……。


 ギリギリまで引きつけて……



『……!』


 俺はゆらりと倒れると同時に力強く抜刀する。こちらを吹き飛ばそうとした腕に浅く傷が入る。


「……からの」


 即座に切り返してこちらに向かう前に。


「とーうっ!」


 方向転換の隙にヘレナが突っ込む。カタールガン2丁を腕に突き立てた。


 ……が、筋肉の層が厚すぎるかあまり刃が通っていない。


「あら」

『ちっ……うぜえ』

「わっ、と」


 腕を振り回そうとしたミノタウロスを嘲るように後ろに宙返りしながら発砲。雀の涙レベルではあるがダメージを蓄積させる。


「んー……ボルカノはちまちま削って一撃必殺スタイル?」

「まあそうなるな」

「私と同じ 相性抜群だね」

「相性うんぬんの前に……くるぞ」


 苛立ちが顔に出始めたミノタウロスが今度は普通に走ってこちらに来る。


「む…………ボルカノ、あいつの手の先からは十分に距離をとって」

「なんかあるのか」

「見えない爆弾、かな」

「は?」

「ほら、ぼやぼやしてると…………」


 と、言いつつヘレナは高空へ退避。いいよなちくしょう。

 とりあえず障害物を利用して地形戦を挑むしかないか…………?


『…………へっ』


 とりあえず後退して柱を軸に陣取ろうとすると、にへらとしたミノタウロスが何やら何かを掴んでいるような指つきをしている。


「…………?」


 こちらに…………来ない?接近戦があいつのテリトリーじゃ…………。


「ボルカノ!」

「!」


 とっさに伏せる。


 爆発音が響き、駐車してあったであろう車が俺の頭上をかすめた。


「…………マジかよ」


 背後で金属がひしゃげる音を聞きつつ、前方を見やる。地面に拳を打ち付け、その周囲を黒焦げにしつつ、ミノタウロスが片膝ついて悪態をつく。


『今の避けるのかよ』

「いい助言があったからな」

『そうとなれば……』


 足元で爆発を起こし、車を吹っ飛ばしたのだろう。車本体の爆発もあるだろうが、逆に言うとそれに指向性を持たせられるほど強い爆発を起こせるということだ。


 再びこちらに突進してくる。相変わらず速い。さっきのような当身じゃ厳しいなら……。


「同じ方法でいかせてもらう」


 手近な車に左手を当て、ちょうど俺の前方に、滑らかな坂を作る。


『ちっ……』


 左右に避ければ坂の影から刀が。かといってそのまま直進もできない。

 ミノタウロスはやむなし、といった感じで止まり、バックステップで距離を…………。


『?!』

「やあ」


 トンッ、とヘレナが跳び上がったミノタウロスの上に…………乗った。


(どんなバランス感覚してんだよ)


『ってめ……ぇっ!』

「まずは一点」


 相手が空中では自在に動けないのをいいことに、ヘレナは剣を抜く。


 ……?


 鈴虫が鳴くような、高音の振動音が聞こえる。

 ヘレナはその場でミノタウロスを踏み台に宙返りしつつ剣を振り下ろす。


『がッ……』


 ……通った!肩口にしっかりと入っている。


「もういっちょ!」

『させ……っかよ』

「!」


 空中で爆発。相当荒っぽいが、回避のつもりなのだろう。ヘレナの方は…………。


「ヘレナ!」

「あー、私はへーきよー」


 爆発前にスッと後ろに動いたヘレナは概ね無傷。俺の近くでくるりと回るとそのままポン、と降りてくる。


「お前、その剣……」

「ああ、これ?」


 ヴヴン、と振動音と空気を割く音を響かせつつ、剣をちらつかせる。


「高周波振動剣、だったかな?確か研究中の霊子兵装のうちの…………って、危ない!」

「ん?うおぁ!」



 視界が赤く埋まる。


 気温の上昇を肌で感じるほど大きな炎の壁。それが、ぐにゃりと形を変え津波のようにこちらへと流れ込んできた。


 ついぞさっきのデジャヴだ。こんどは逃げ場はない。冷静に。


「対応する暇があるなら、問題なかったんだよなあ」


 展開。範囲、前方、円錐。距離、0〜5。形式、圧力。時間、継続。

 今回大活躍の風のコアで円錐状に空気を集め、強風を起こす。


「おお〜すごーい!」

「油断はするなよ」


 炎の塊が脇を、頭上を流れていく。多分、この間に何か企んで…………。


「…………くるよな!そりゃあ!」


 視界から赤が消えた瞬間、今度は黒く埋まる。目の前まで車がまた吹っ飛ばされてきた。


「まかせて」

「は?おい…………」


 ヘレナはカタールガンを振り上げなら発砲。そしてそのまま回転に任せて剣をぶん投げた。


「…………ッ!」


 耳障りな金属音を立てて両断された車が脇をかすめて飛んでいく。というか、かすった。


 銃弾でミシン目を作って剣でぶった切るって、滅茶苦茶すぎるだろ…………。


「セーフセーフ」

「生きた心地が」


『しないだろう?』


 …………!


 迂闊だった。視界が開けたら、すぐそこに声の主、その巨躯が迫る。

 炎の壁、車飛ばし、からの自身の突撃。三段攻撃とは考えたものだ。

 だが、ヘレナが車の方をなんとかしてくれたおかげで俺の方は幾分余裕がある。この余裕を使って……。




(あれ?)


 なぜか、俺は彼女の前に踏みだしていた。まるで、庇うように。刀のガードが甘かったか、ほぼストレートに拳を打ち込まれる。



(…………!)


 揺れた。

 脳が、内臓が、体液が。



 景色が一瞬で遠のく。

 ヘレナが「なんで」とでも言いたげな顔を向ける。

 聞きたいのはこっちだよ。なんで、こんな真似を…………と、言いたかったが血反吐しか出ない。


 まずい、視界が…………隅の方から黒く…………。


 背後に並々ならぬ衝撃を感じたところで、その黒は俺の視界を埋めた。






「ボルカノ!」


 私を……庇った?

 何か言いたげに血を吐きつつ、背後に吹き飛んだ彼を見やる暇なく、ミノタウロスの追撃がくる。


「っく」


 二丁のカタールガンの刀身で受け止めた。相変わらず重い一撃だ。


『あらあらァ、頼みの綱は案外役立たずだったなァ?』

「そうでもないよ」

『ま、これで心おきなく攻められるってもんよ』


 私が翼で浮上すると同時に、足元を拳がかする。このまま、さっき投げた剣のところまで…………!


『そうはいかねえなあ』

「!」


 すぐさまミノタウロスは追いすがる。足元の爆発で跳び上がって。

 両手の双刃を振りかぶるが、再び分厚い筋肉に阻まれる。


『あらァ?追撃はなしか?』

「今回はね」


 諦めて後退…………って。


『今度はこっちの番だな』

「あはは…………」


 まずいな。刃を挟み込まれて抜けないや。ここで武器を捨てるのはあんまり良策とはいえないし…………。


 思いっきり引き抜こうとした瞬間、ミノタウロスの手中の霊子がキュッとすぼまる。

 炎の霊子を圧縮、一気に負荷をかけて放出することで純粋な熱による…………



「…………ぁッ!」


 爆発。脳が揺れる。全身に不規則に負荷がかかる。

 痛みで翼の制御が外れたのか、地面に打ち付けられた。


「あぐっ……」

『今のはさすがに効いただろう?』


 骨…………やられた。内臓…………軽傷。回復にそれなりにかかるな…………。


「の、ようね…………」


 うずくまる私に追撃を仕掛けるべく、ミノタウロスが一歩を踏み出す。

 私はふと、一瞬背後を見た。彼はまだのびている。というか、致命傷だったわけだからのびてなきゃおかしいわけなんだけど。

 予定からは少しずれたけど、これで目覚めて(・・・・)くれれば…………。


「…………っと」

『む、それで動けるか』


 全身ガタガタだけど、翼で無理矢理身体を起こす。加速に耐えられればいいんだけど。


『ま、やることは変わらねえ 遠慮なくやらせてもらうぜ』


 両手に霊子の塊を携え、私に向かって大股で歩いてくる。あの()はわかっている。自分に現状通用する武装が、向こうに刺さっている剣だけだということを。

 だからその剣を背にして、私を寄せ付けないようしている。

 だけど、武装っていうのは、その持ち主を無力化しても未だその脅威性を失わない…………ってことは、理解してるかな?


 私は無理矢理翼で身体を後退させる。完全に引っ張られる形だ。あちこちが軋みを主張するが、幸い腕は生きてる。なら、なんとかなるはず。


『…………ぁあ?』


 突如後退した私に怪訝な眼差しを一瞬見せ、そして、私が向かった方向に何があるかわかると、すぐに焦りの色を浮かべた。


『てめえッ!』

「残念、時間切れ」


 爆発に乗り、すぐに追いすがるミノタウロス。でも、私は既にボルカノが取り落とした刀のすぐそばにいる。

 彼が振るう薄い刀。さっき、これがミノタウロスの外皮及び筋繊維を切断したことは間違いない。これがあれば、まだ勝負は…………。


『とでも、思ったかよ?』

「なっ!」


 ミノタウロスは私から明らかに逸れたルートをとっていた。行先は、壁際でのびている…………ボルカノ。


(まずい…………っ)


 届く。まだ。今すぐ刀を手にとってあの太い足に傷をつけられれば間に合う。

 迷うことなく、私は刀を手にとって。


『甘いなァ、甘っちょろいなァ……』


 ミノタウロスは目の前に爆発を起こし急停止。その勢いをそのまま生かして裏拳を叩き込んできた。

 勢いが弱い。その腕、もらっ…………


「た…………?」


(嘘、軽…………すぎっ)


 渾身の斬り上げは、タイミングを大きく外して空振りした。軽すぎたのだ。彼の刀が。


「まだっ!」


 再び、身体にかかる負荷を無視して翼で後退する。ボロボロの身体はもう悲鳴というよりか、鈍重な呻きを発している。

 先ほどと同じく、カタールガンを発砲して牽制を…………!


『同じ手は食わねえよ』


 ボコ、ボコっとコンクリートの床が赤黒く泡立っている。

 銃弾はミノタウロスに着弾する前にジュッと音を立てて液化した。


 ミノタウロスが、再び全身から赤熱を発したのだ。さっきのボルカノが作った鉄壁をやすやす溶かすほどの、熱を。


『こりゃ結構消耗するからあんま使いたくないんだけどな…………ここぞの止めにゃ、惜しまねェっ!』


 裏拳をすかした余動をそのまま生かした逆側の拳が、目の前に迫る。まずい、これだけは…………避けなきゃ。


(……あ)


 翼は、反応してくれなかった。もう限界だったのだ。


 身を焦がす灼熱が、私の左肩に直撃した。


今回どっと企業名が出たので分けます。

ちなみに稚拙ながら1話に挿絵追加しました。


・スタイン

 Stain.int。スタイン・インターナショナル。現存する中では最古の軍事産業。「錆」を自称する旧世代であるが、その性能は一級品の一言に尽き、また一つ一つ手作りのため貴重性も高い。主に精密機構や加工精度がウリで、それを生かした長射程、高精度、高弾速の銃器がメイン。

 また一部からは「老獪」と呼ばれ、謙虚ながらも生き残りには手段を選ばない。

・リクラス

 Lycras。最近台頭してきた電子系企業。デザイン、工業にも一定の実績があり、何より政治的手腕によりのし上がってきた側面を持つ。空力適性や新素材、自動生成などの造形と、得意の電子系による補助兵装が特徴。

 一方でここまで来るのに始末した人、組織にはいとまがないとまでもいわれるドス黒い側面もある。

・ブルーローズ

 Blue Rose。青い薔薇。異端の兵器産業。突拍子もない発想とそれを形にする技術力を持った技術屋集団。なんというか、理系のノリである。ピンポイントな発想でトンデモ兵器を作り出すが、そのピンポイントな状況なら他の追随を許さないレベルの性能を発揮する。

 明らかに人が使うことを想定していない危険な武装もいくらかあり、最近は霊子研究にも精を出している。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ