Novice & Fugitive 13 克己
「誰だ!」
真っ先に我に返った輪がヘレナに杖を向ける。
ちなみに輪の杖は刀の鞘だ。正直そんなのアリかよ、って思う。
「待って待って、とりあえず敵対する意思はないからーっ!」
両手を上げて無抵抗を示している。というか、その態度が既に輪には脅威でないと映ったようだ。
「……後で同行してもらう」
「約束はできかねるかな」
「……」
と、いつもの掴み所のない発言をしつつ、こちらの全員をサッと一瞥する。
「……ん」
ジグを見た瞬間、フードの奥から一瞬青い光が見えた。
「よし、君でいこう」
「え、え?なんです?」
「見たところ、この中で一番量が多いとみた」
「なんのですか!」
「細かいことはいいからいいから、とりあえずあの駅に最大威力で地属性の振動ぶっ放して♪」
可憐な声に似合わない物騒な言動もあいまって、その場にいる全員が戸惑っている。
「そんなことしたら……!」
「(駅が崩れる、でしょ?構わないよ、なんとかするから)」
スッと顔を近づけヘレナがジグに囁く。俺にはしっかり聞こえてるが。
「……信じる根拠がありません」
「信じてくれたら、うーん、さっきの翼の原理、教えてあげる」
「……!」
お、それは俺も気になってた。魔術かなんかだと思ってたが、ジグも知らないとなると一体何なのか。
「おい、勝手に話を進めるな」
輪が口を挟む。そりゃ現場責任者だからね。
「とりあえずはあの人間達をどうにかするのが先決だろう」
「だーかーらー、この子にどうにかしてもらうの」
「どうにかって……」
『いやいや、なんで見習いに?』
『せめて隊長に頼むとこだろうが』
『というかさっきの……翼?何だ?』
『部外者のくせに輪様と会話してるんじゃないわよ』
「めんどくさいなぁ……早くしないと、あの人また襲ってくるよ?」
駅の中からは時折コンクリートが砕ける音がしている。
「……やってみます」
「ジグ君?!」
「失敗してもデメリットはないでしょう?」
「確かに……そうだが」
「えーっと……」
「ヘレナ、でいいよ」
「ヘレナさん、一応確認ですけどあなたもあの牛を倒すのが目的ってことでいいんですよね?」
「まぁ……そうかな それは目的の過程のうちの一つに過ぎないけど」
「じゃ、利害の一致ってことで」
ジグが杖を構え、術式を呟く。
最大威力とご指名があったからか、時間をかけてゆっくりと術式を構成し、力を溜めているかのようだ。
「いきます」
その瞬間、俺は一瞬ジグから何やら粒子のようなものが溢れ出るのが見えた。
が、すぐに左目に走る鋭い痛みに掻き消される。
だが、俺はまた見逃さなかった。ヘレナのフードの奥からさっきより一際強く青い光が漏れたことに。
鈍い音を発して放たれた振動は周囲の景色を歪ませながら駅の建物を通過した。
すぐさま轟音が響き、建物が全壊……
「……え?」
ジグがこんなはずではない、と言いたげな顔をする。
土煙をあげる駅。全体的に一段階高さがなくなっている。
確かに建物は崩れた。だが、それは一階部分だけだったのだ。
「お、おお?」
「よし、成功」
「ヘレナ……お前、なんかしたのか?」
「ん?何かなボルカノくん、私は突っ立ってただけだよ?」
勿論、第二部隊は今日何度目かわからないが大口を開ける羽目になっていた。
『え?え?』
『今の、訓練生?』
『おいおい、振動の魔術の射程ってあんなにないだろ』
『つーかまずなんで1階だけピンポイント……』
『建物が弱っていた……わけではないしな』
「さて、これで中にいる人達も死にはしないとして無事じゃ済まないでしょ ついでにあの牛にも相当なダメージが入ったはず……」
と、ヘレナは背伸びして身体を前に突き出す。目を凝らしてるようだ。
「あちゃー、さすがにこれだけじゃ無理か」
「何が無理なんだ、女」
「えっと、輪さん……だっけ?」
「そうだ」
「まだあの牛生きてるみたい。やっぱタフね……」
「……だが、厄介な人間は大方無力化できた、と」
「そういう……」
『ゴゥルルォォォオオオオアアア!』
会話を遮り凄まじい咆哮が響く。脳を直接揺さぶるような嫌な音だ。
「まずいな……集める気かな」
「集めるって、何をですか」
「そりゃ、重傷の悪魔が全力で叫ぶんだから、仲間でしょう」
「う……それってもしかして」
瓦礫を吹っ飛ばしてミノタウロスの太い腕が突き出されると同時に、視界内にちらほらとリザード、サラマンダーの姿が現れ始める。
「まだいたのかよ……」
「ボルカノ 待て、奴らだけじゃない ……うちの連中もこっちに来てる」
「ほう」
「総力戦ってとこだな」
「じゃあ雑魚は任せますよ、輪隊長っと」
「あっ!おい待て!」
ミノタウロスがもう上半身まで瓦礫から抜け出している。全身にダメージが見られるが、悪魔である以上放っておけば治癒される。今ケリをつけるのが先決だ。
「あ、先輩待ってくださいよ!」
「お前は第二部隊と組め」
「は、はぁ?」
「輪、コイツがいれば心強いだろ?」
「それもそうだな」
「えぇ!輪さん、それでいいんですか!」
「お前の実力は2回も見せてもらった 十全な戦力だ」
「じゃ、そゆことでよろしく」
「お前は一人で平気なのか?」
「多分……もう一人手伝ってくれそうだしな」
ちらとヘレナを見た。大きく頷いている。
「ジグ、ここは任せた」
「……はい!」
「うし」
いよいよミノタウロスは瓦礫から脱出。肩で息をしているところを見ると疲労も溜まっているのだろう。
「……ん?」
「ボルカノ、まずいよ」
そして、ミノタウロスはさらに奥へと跳んでいったのだ。
「あの牛野郎、逃げる気か!」
「先行するわ、ついてきて」
そう言ってヘレナはまた黒い翼を生やすと、うっすら地面から浮かんだ状態でスーッとミノタウロスを追いかける。
「ったく、あいつは楽でいいよな……」
目に関しては相変わらず左目が不調だが、身体の痛みはとれてきた俺は、やれやれと彼女を追いかける。
背後では既に合流した第二部隊と悪魔が交戦を始めている。時たま大規模な爆発やら振動やら雷音がするがジグだろう。結局暴れる羽目になってるな。
……というか、あそこまでなら広域破壊で俺より暴れられんじゃねぇ?
駅を越えたあたりから、無傷の領域が始まっていた。ここらまでが奴らの最終到達点のようだ。
勿論住民の避難は完了している。
「もしもし……陸?」
『あっ!よーやく繋がった!ボルカノ、また電波障害だったのか?』
「まーそうだな、うん」
『なんだよ、その含みのある物言いは』
「セルフ電波障害?みたいな?」
『は?』
「時間もないから簡潔に言うぞ」
『後で覚悟しとけよ』
「まずギルモア南部、駅から北の避難状況は?」
『ギルモア支部が率先して実行中だ。そろそろ完了するだろうな』
「相変わらず自衛に関しては手を抜かないな……」
『で、お前の方は?』
「とりあえずあの後ジグを確保、あいつを連れたまま撤退はできそうにないから第二部隊と合流」
『厄介事は?』
「なんである前提なんだよ……んで、直後にコード付きミノタウロスと接敵」
『……コード付き?』
「ああ、火属性の」
『おい、』
「人語を解するレベルの知能持ち」
『……そんなの、いないぞ』
「未確認か」
『ミノタウロスのコード付きは現在いない、そいつが本当なら初だぞ』
「じゃああれだな、コード付きじゃないわ」
『は?』
「付く前に殺る」
『……そうしてくれ』
「で、黒い女が現れてミノタウロスもどきを追撃中、さらに俺はそれを追ってる」
『またか!……縁でもあんのかねえ』
「さあな とりあえず敵対する意思はないようだが、警戒しつつ協働する」
『君結構器用だよね』
「んで、ジグは第二部隊んとこに置いてきた」
『おい!なんのためにそこまで行ったんだよ!』
「ほう?さっきは疲れて面倒くさかったから聞かなかったが、別に教団に回収されたところでお前には何のデメリットも生じないだろ?」
『……』
「教団に入れるのが目的なんだから問題ないはずだが?」
『……はぁ、迂闊だったな』
「お前が何を企んでるかはわかってた 俺がもう後に引けない状況になったのもついさっきだしな」
『そこまでわかってるなら頼むぜ……』
「知らねえよ、輪が物分りがいいことにでも祈ってろ」
『へいへい……久しぶりとはいえつくづくお前は思い通りに動いてくれないもんだな』
「はっ、ざまあ」
『ぬかせ……というか、随分と楽しそうじゃないか』
「……」
『やっぱ現場が一番、ってか?』
「あー電波障害ガー」
雷のコアを微弱展開して通信を無理矢理拡散する。
『あ……ちょ……おま……』
前方でこちらをチラチラと見ながら先行していたヘレナのペースが落ちた。あの牛の歩みが遅くなってきたということだろう。
「ヘレナ!」
「とりあえずこの先の駐車場棟に入っていった そこで止まってる」
「なんで止まってるとわかる?」
追いついた俺にすーっと降りてくる。
……今は下から見上げてるはずなんだが、やっぱ顔は見えない。どうなってんだ?
「だって、視えるし」
「は?」
「あなたもすぐ視えるようになるって」
「いや、何言ってんだ……?」
「ま、それはいいとして、何か作戦は?」
「突撃して斬り殺す」
「おおう……物騒だね」
「それ以外になんかあるか?」
「相手が普通のミノタウロスなら、ね」
「……実際あいつどんくらい頭回るんだ?」
「少なくとも自分に有利な場所で待ち伏せするくらいの……というか、ベースの頭脳そのままだね」
「ベース?」
聞き捨てならない言葉。ベース。基盤。何のだ?
「だって、あれ憑き者だし」
「は?」
「むー、色々と説明する必要がありそうだね」
「俺はずっと要求してんだけど」
「まーそうがっつかないの、とりあえず今はあいつが人間と比べて遜色ない知能を持ってるってことだけ」
「……今度こそ後で説明してもらうぞ」
「じゃ、そのためにも互いに生き残らないと」
「だな」
……なんだか調子が狂う。何で俺はこの女にここまで甘いんだ?
そして、左眼の痛みはさっきに増して酷くなっている。まだ戦闘に支障をきたすレベルじゃないが、一体何が原因なのやら。帰ったら眼科行こう。
「じゃ、行こっか」
「軽く言うなよ」
「いざ、参る!」
「そういう意味じゃない」
「……えへへー」
「……」
不覚にもかわいいと思ってしまった。駄目だ駄目だ、そういう感情は捨てろ。ろくなことがない。
どうにも締まらない空気と、るんるん気分のヘレナと共に、俺は駐車場へと踏み込んだ。
「第一、第六小隊は後退!第二小隊はあの訓練生の援護をしろ!」
なんだかよくわからないうちに、こと僕、ジグは前線で魔法をぶっ放してます。しょっちゅう輪さんや愉さんが僕の霊子残量を気にしてるけど正直まだまだ余裕ッス。
「よし、ジグ、撃て!」
「はい!」
最初に先輩に置き去りにされた時はどーなることかと思ったけど、輪さんのおかげで第二部隊の人達は一応今は僕を戦力としてカウントしてくれているようだ。
だけど、広域魔法撃つ度にそんな馬鹿な、みたいな顔されるのはちょっと……。
そして、今さりげなーく準備してる設置魔法も、使わずに済みそうだ。
「訓練生!」
「なんでしょう!」
「お前、呪術は使えるのか?」
「え、まあ遜色ないレベルでは」
「怪我人が出た!応急手当できるか?」
声の方向を見る。
「……あなたは!」
腹をざっくりとやられ、息も絶え絶えだ。さっきからの元気っぷりからすると、目を疑うほとだ。
……そう。さっき、僕達と同行してくれた、愉さんである。
「頼む、少しでいいから」
『やめておけ』
懇願するような声は、輪さんの感情のこもっていない声にかき消される。
「……輪!てめえ!」
「その傷じゃどうせ本部まではもたん ギルモア支部にすら間に合う保証がない」
「その訓練生にはやってもらうことがある 延命なら他をあたれ」
「そんな……!」
『ぶふッ……いいんだ……覚悟は……げホッ』
「愉さん!」
血を吐いて気絶したようだ。
思わず駆け寄る。近づくと、より惨状が明らかになり、また胃の奥が押し上げられそうになる。
だけど、さっきまでの死体とは違う。この人は……まだ、生きてる。
「……僕ならなんとかできるかもしれません」
「ジグ君、君の力は俺も認めるところだが、ここは現場の指示に従ってもらおう」
「僕の上司は先輩です」
「その彼が任せる、と言ったから……か!」
諌める口調を崩すことなく、輪さんは背後から飛びかかってきたリザードの半身をばっさり斬って魔法を浴びせる。
「では、勝手にしろ 状況判断、責任所存、情報伝達及びこちらへの指示は任せるが、いいか?」
「……」
そりゃ、僕がおいそれと頷けない質問でしょう。わかってて言うんだからタチが悪いなあ。
「では」
「ん?」
「彼の応急手当をする許可をください」
「……」
「僕なら、ギルモア支部まで保たせられるかもしれません」
「……ふ」
「……?」
「……ふふ、ははは!」
「な、なんです?一刻も争う……」
「同じだ」
「はい?」
「……ボルカノと同じことを言うか、君」
「は……?」
「いいだろう、許可する」
「あ……は……ありがとうございます」
そう言い放つと輪さんは刀で悪魔を切り伏せつつ、味方に指示を出し、魔法を放つ。
「わ、悪い……」
「いえいえ、それに保つかどうかなんて当人次第ですよ?」
結合の呪術式を構築する。範囲、腹部下部。
今のところ、治癒効果を持つ呪術は存在していない。ゲームのようにはいかないのだ。
というか、そもそも魔術は物理現象を強制的に引き起こすだけなので、治癒とかいう抽象的な行為ができない。
今やってる応急手当も、傷口に霊子を充満させ、霊子結合で強制的に塞いでいるに過ぎない。
悪魔はこの霊子の性質である、霊子結合の引力で身体を治せるようにできているけど、悪魔の能力の真似事である魔術で再現はできても人間の身体の構造までは変えることはできない。
さっきから使っている視力補強の呪術も、光属性の魔法との組み合わせで眼球内の光を屈折させているに過ぎない。それこそ、夢のようなことはできないのだ。
『ゲホッ、げほ』
手当が完了したか、咳き込む音で僕は我に帰る。
「これで多分安静にしてれば……できないとは思いますがギルモア支部までは保つはずですよ 無茶はさせないようにしてください」
「すまないな……訓練生」
「ジグ、です できればお礼の方が嬉しいですね」
「あ、ああ!……ありがとう」
「どうも」
周囲を見渡す。先輩の言葉を聞いてから、不思議と落ち着けている。
集まっているとはいえ、やはり先輩のおかげで数を大きく減らしていた悪魔はそろそろ打ち止めになりそうだ。
「僕の加勢はいらないかな?」
「いや、ジグ、お前の力は必要だ。行ってこい」
「そうですか?そういうことなら……」
「……!」
僕と話していた隊員の目が見開かれる。
「どうし……って」
『う……おおオッ』
同じく目を見開いた愉さんがうめき声をあげつつ僕に飛びかかってきた。何だ?混乱しているのか?
そのまま突き飛ばされた僕の視界の隅に、もう見慣れた、リザードの尻尾が映る。
あれ?もしかして……
『ぐあッ……』
再び、狙ったかのように腹部。僕の後ろから忍び寄っていたリザードの尻尾が、僕を突き飛ばした彼に突き刺さっていた。
「……え?」
『ごふッ……ジグ……悪いな……』
どうして。
最初に思ったのはそれだった。
どうして、僕がせっかく応急とはいえ治したのに、また命を捨てるような真似を。
僕ごときを……助けるために?
だけど、その疑問は言葉にならなかった。
今までも何回か先輩に危ないところを救ってもらっている。でも、その時は先輩は危なげなくやってのけた。
そうだ。その余裕っぷりのおかげで、僕もあまり危機感を抱かずに済んでいたのだ。
だから、今、この人が、僕のために致命傷を負ったことが、信じられなかった。
ガクリ、と糸が切れたかのように崩れ落ちる愉さん。それを見て目を細め、涎を垂らすリザード。
なんだ、このトカゲは。お前を満足させるために……この人は、愉さんは死ななきゃいけないのか。
お前の……せいで……。
「お前の、せいで」
無意識のうちに、風属性の切断魔法を選んだのは意趣返しのつもりだったのかもしれない。
「……死ね」
本来広域を対象とした魔法を、目の前だけに集中して放つ。幾重に重なった風圧が、リザードの身体をバラバラにする。
四肢を、臓腑を、目を、脳を、そして、血飛沫を撒き散らしつつ。
なんだ。先輩は地属性の振動がよく効くとか言ってたけど、こっちの方がよっぽと楽じゃないか。さっきまで地属性でやっていたのが馬鹿みたいじゃないか。
……楽な、はずなのに。
僕はへたりとその場に座り込んだ。身体には返り血、足元にはどこの部位かわからない内蔵。
「殺した、のか」
振動で殺した時は、こうはならなかった。こんなに、怖くなかった。
先輩が悪魔を切り裂く度に感じていた嫌悪感。そう、殺すのは嫌だったんだ。
振動で殺すと、外傷はない。多少骨格が歪むだけで、こんなに……
いや、違う。殺していないつもりだったんだ。自分は悪魔を吹っ飛ばしただけ、直接手は下していない……と。
先輩はそのことをわかっていたんだ。僕が、殺したくないと。もしその実感が湧いた時、耐えられない、と。
「……なんだよ」
なんだよ。僕は。これくらい、覚悟して出てきたんじゃないのか。なんで立てないんだ。なんで……
「……泣いてるのか」
いつの間にか後ろに立っていた輪さんが、僕の肩に手を置く。そこで僕は自分が泣いていて、第二部隊の人に囲まれていることに気づく。
「輪さん、戦わなくていいんですか」
「全滅を確認した。今のところ脅威はない」
「あなたの……言うとおりでしたね」
「ん?」
「結局……変わりませんでした」
「何がだ」
「僕が助けたのに……僕が、僕が未熟なせいで……愉さんは……」
「いいや、変わっただろ」
「……はい?」
「結果は変わらなかった。でも、君は生きてるじゃないか」
「それがどうしたというんですか」
不遜な口を叩いたことに一部の人が何か言おうとしたが、輪さんが制止する。
「なら、意義はあった」
「どんな?」
「君があのまま見捨てていれば、君が不意打ちを受けた時誰が守ってくれた?」
「守ってくれない可能性の方が高いですね」
「だろう 君が生き残っただけ、マシだ」
「でも僕のやったことは無駄でした」
「評価されたかったのか?」
「違いますよ!僕は……ただ……」
ただ、死ぬのを見たくなかっただけだ。
「……そう思うなら、立て」
「……」
「立って、鍛えろ。次は、自分がそうできるようにな」
「……!」
「そのために来たのだろう?」
そうだよ。そうだ。僕は、以前もそうできなかったから、ここに来たんじゃないか。
もう二度と、こんな目に遭いたくないから。
「はい」
愉さんを治してほしい、と懇願した隊員が僕に手を差し伸べてくれた。
多分冷たい目線を向けているんだろうな、きっと。
一瞬僕はその手を取る資格はない、と思ったけど。
思ったより暖かい眼差しを見て。
僕は立つことにした。
・霊子結合
霊子同士は半励起状態以降、互いに引力を発するようになる。そうして結合した霊子は非常に強い結合状態になり、それを霊子結合と呼ぶ。
悪魔はこの霊子結合により身体を構成しているために非常に硬く、銃弾くらいは弾くことすらある。仮に通ったとしても硬いのは表皮だけではないので効果は薄く、また細胞同士に霊子結合を働かせすぐに治癒してしまう。
だが、この霊子結合は結合したもの同士が接触すると一瞬緩むという性質がある。
・悪魔の自己治癒能力
上記の通り、悪魔は霊子結合により、どんな傷も瞬時に治すことができる。だが、悪魔に限らず最も多く霊子を含むのは血液であり、霊子に最適化された身体と言えどその身一つだけでは治癒はできず、どうしても血液中の霊子を使うことになる。
つまり、血液が少なくなればなるほど治癒能力は下がっていくということである。悪魔が決して不死とはいわれない理由でもある。