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Re verse  作者: さいう らく
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Novice & Fugitive 1 兆候

 なぜだ。なんで。


 どうして。


 俺は、奴を追っていたんじゃなかったのか?


 それが、なんで、コイツがここにいる?


 ここにいて、どうして俺に斬られてるんだ?


 知らなかった。考えなかった。


 逆、だったなんて……






「……」


……電話がけたたましく鳴っている。時刻は正午。日曜なんだからちょっくら昼寝でもキメようと思ってたんだけどな……。

この仕事(・・)をしている以上は仕方ない、か。

 どうせのんびりしようにもやることがあるわけでもないので、観念して受話器を蹴っ飛ばす。


「おっと」


 決してわざとじゃない。足が滑っただけだ。まあそもそも足で電話を受けようとしてる時点で、足蹴にする気満々だったわけだが。先ほどそこに転がってる電話で注文したピザがそろそろ届くであろうタイミングで依頼なんて持ち込んでくる方が悪い。

 さて、首を長くして待つとしよう、と考えた瞬間また電話が鳴る。随分とお急ぎのようだ。


「こちらカール、ギビング西支所ですが?」


 語尾が少し上がってしまった。いかんいかん。


「あの、カールさんでいいんですよね?!」

「違います」

「あの、本部で問題起こして左遷された挙句ふてくされて仕事が適当になってそれで金欠になってさらにふてて酒に溺れたりして残念な皮肉屋のカールさんですよね?」

「……そうだが」


 なんだか事細かに俺の現状を説明してくれた通話相手に聞き覚えと殺意を抱きつつ、そろそろ説明しておいた方がよろしいと思う。

 ここで自己紹介。名前はカール(偽名だが)、首都ギビングの西郊外スラムに居を構え、腐れ縁でずるずると元同僚から引き受ける仕事で生計を立てていて、お人好しだけど人嫌い。人嫌いになったのはつい最近の話だが、まあその話は俺が


「ってボルカノ……俺からの連絡だとわかって無視しただろう」

「うん」

「……」


 ……と呼ばれていたころの話。曰くふてくされた原因、ってヤツだがふてるなんて生易しいもんじゃなかった。まあこの話はおいおいしないとして。


「んで、何の用だ」

「用って 仕事だよ、仕事の連絡以外すんなって言ったのはどこのどいつだ」

「俺はただ連絡すんなって言ったはずだが」

「酷!」

「冗談冗談。で早く要件をだな」

「……ギビング西区域3番街1丁目付近で目撃情報だ」

「ふーん」

「え」

「いや、受けるとは言ってないし」

「おま……」

「わかってるっての 昼飯食ったら……ん?」

「どうした?」

「いやなに、やけに宅配が遅くてだな」

「ほう」

「これはもしかすると」

「場所的にも近い。可能性は


居ても立っても居られない。我が昼食がピンチとあらばすぐさま行くってもんだ。

ガチャンと乱暴に受話器を下ろすと俺は銃とナイフを身につけ、まだ少し肌寒さが残る外へと飛び出した。




 5分ほど走るとすぐに目撃地点周辺。ここはスラムと住宅街の中間みたいな地域だから、騒ぎがあっても警察の動きはイマイチ鈍い。近隣住民も厄介事はごめんだと知らんぷりを決め込む。

 ということで人の少ない方、少ない方へと進む。


「ひいっ!」


……!

 そんなに嬉しくない悲鳴が聞こえた。カツアゲとかその辺の可能性を肯定したいが、この人気の無さからいってアレが当たりだろう。

 声の聞こえた路地へ踏み込む。すぐに特有の異臭が漂ってくる。肉が腐る臭いだ。

 人影が4つ。1人は奥の袋小路にへたり込んでいる。もう3つの、もはや若干人から離れた形状のそれ(・・)は、痙攣を起こしつつ1人を包囲していた。


「……珍しいな」


 こちらに気付いている様子はない。俺は試しに腰から銃を抜き各個体の足に一発ずつ発砲した。念のためだ。


)<4()?!』


 3人改め3匹がゆっくりとこちらを向く。涎を垂らし顔筋などないような不気味な表情が一斉に俺を捉える。


「こりゃ確定か」


 間違いない。悪魔だ。銃を見て脅威認定したのか、その身体から大振りの刃物が飛び出す。そのまま腐った血肉をぶちまけつつ頭まで両断すると、中から少し小ぶりなマネキンが現れた。


「マリオネット、3匹を確認」

6444(ガアア)


 先ほどとはうって変わった俊敏な動きで1匹が刃物を振りかぶる。俺はそれをサッとかわし再び発砲。銃弾が無機質な身体に吸い込まれていく。が、すぐにその穴は埋まっていく。


「刀持ってくるべきだったな……」


 そうこうしているうちに脱皮(?)を済ませた2匹目が包丁のような腕を振り下ろす。

 俺はそれを左手で難なく受け止めた。路地に金属音が響き渡る。


『……)<4()?』


 奴らに顔はないが、焦りの表情が浮かんだ気がする。俺はそのまま上着の中からからナイフを引き抜くと掴んだ腕の付け根を切りつけ、捻りながら何もない顔を蹴り飛ばす。

 ぶちっと腕がちぎれ、2匹目は壁へと叩きつけられた。


「……せっかくだし使わせてもらうか」


 血がしたたる腕、その先端の刃物に左手をあて、大剣を頭の中に思い浮かべる。

 どぷんという音ともに刃が液状化して、そしてすぐに思い浮かべた形へと固着した。

 よく見慣れた大剣。今は手元にないが。


「ま、元が元だしこんなもん……かねッ」

6)-(`/(_)(がヒュッ)


 壁に大剣を突き刺す。そのまま少し傾けると上に乗っていた2匹目の頭がずるっと落ちた。

 首をはねられたことに気づいてないかのように身体の方が少しこちらに歩いた後、血を吹き出して倒れる。


「さて、残りはどう調理しようか」


 さっきの行動で恐怖を植え付けるのに十分だったのか、3匹目が冷静さを欠いて板のような刃物を突き出してくる。それを大剣で弾き、そのまま柄で顔を殴る。

 バキッという音ともに滑らかな顔にヒビが入り、3匹目が大きくよろめく。そのまま大剣を思いっきり頭に振り下ろす。

 さっき自身がやったようにマリオネットは頭から両断された。


「さて……」


 1匹目がやけにおとなしいなと思い振り向くと、既に姿がない。逃げたのだろう。


「逃げた方は後にするとして」


 奥でブルってる人がこちらを見て縮こまる。まぁ目の前でこんなスプラッタ見せられて漏らさない方が立派だ。


「大丈夫か?」

「は、はい!」

「そう怖がるなよ お前まで両断するつもりはないからさ」


 俺は大剣を2匹目に突き刺すとひらひらと両手を上げる。


「は、はぁ……」

「んで、その制服 あんたピザ屋だよな?」

「は、配達の、途中で……」

「宛先は?」

「カール様……の、とこ……」


 言いかけてハッと配達員が顔を上げる。なかなか職業に忠実だ。


「あまりにも遅いから受け取りにきた」

「も、申し訳ございません!」

「いや、そこはありがとうございますだろ、普通」

「え?いや……」

「立派な配達員なことだな」

「あ、どうも」


 コイツ、以外と順応性が高いな……。


「ほら、2500A(アル)だ」

「毎度あり……って、ここでいいんですかね?」

「さっきのが戻ってくる可能性もあるしな ここで食うさ」

「は、はぁ……」

「さて、と」


 血生臭さを気にすることなくピザを頬張る。うん、美味い。


「いつ、どこで襲われた?」

「ちょいと近道しようと裏道に入って、迷ったと思ってスクーターから降りたらこれですよ」

「何被害者ツラしてんだ、自業自得じゃねえか」

「うっ……そんなことよりアレ、何なんですか?」

「ホント肝据わってんなお前」

「また襲われたら嫌ですもん」

「アレはな……」


 マリオネット。低級の悪魔だ。親が大量の卵を産み、生まれた幼虫が人間に寄生する。宿主を蝕みみつつ成長を続け、最終的には宿主を切り裂いて外に出て人を食べる。

 もっとも、最近は挙動がおかしくなってきたあたりで検査に行くのが通例となっていて、ある程度豊かな街ではほとんど被害はなく、親個体もほとんど駆逐されてるのが現状。なのでこういう、端的に言うと貧しい地域でごく稀に出現するのが常だ。

 珍しい、というのは集団行動をしていたことで、この手の悪魔は自分を守るのが精一杯で群れを形成することは少ない。


「へぇ……詳しいんですね」

「まあな」

「……もしかして、教団の人?」

「半分当たり」

「え?」

「元、だ」

「え、じゃあ守秘義務とかそういうカッコいい言葉を悠然と使うんですね?」

「何かイメージが偏ってないか?世間の教団に対する感覚ってそんななのか?」

「だって悪魔を狩る専門、規律と機密を絶対とする宗教集団でしょ?」

「概ね間違ってないから困るな……」

「へぇ……そういえば、親個体はほとんど駆逐されたって言ってましたけど、これから増えることはあるんですか?」

「幼虫が寄生できずにそのまま成長したのが親だからな……このご時世ほとんどないだろ」

「なるほど」


 このご時世……というのも、説明がめんどくさい。俺も正直あまり理解していない。というか、何故俺はわざわざ説明をしているんだ。


「……ごちそうさま」

「食べるの早いッスね」

「誰のせいでこんな腹空かしてたと思ってんだ」

「すんません」

「とりあえず俺は逃した1匹を探す じゃあな」

「あ!」

「ぁん?」

「クーポン渡すの忘れてました」

「早く言え」

「ちょっと待ってくださいね……」


 スクーターの荷台をゴソゴソと漁り始めた配達員を横目に溜息。

 どーにもめんどくさい。さっさと帰りたいのに。帰って何をするわけでもないが。


「……!」


 足元をヒュッと影が横切った。すぐに目を上に向ける。

 カッ、カッ、と軽快な音が通り過ぎていった。


「どうかしました?」

「いや、鳥だった」

「そういえば完全にスルーしてたんですけど……」

「鳥だったな」

「スルーしないでくださいよ」

「……んだよ、めんどくさい」

「何も言ってないんですが……まぁいいや、その左手、どうなってんすか?」


 興味に満ちた目線が絡みつく。俺は素直に嫌悪感を憶える。


「……説明する義理はない」

「いきなり冷たいなぁ……言いたくないならいいんですが」

「いいからその左手に持ってる紙をよこせ」

「えー……教えてくれれば……」


 大剣に手を伸ばす。


「はい、お客様失礼しましたッ!」

「わかればいい」


 強引に受け取る。調子のいい奴だ、全く。


「多分そろそろ警察様のご到着だろう、面倒なことにしたくなかったらさっさと店に帰れ、っていうかこんなとこで油売ってる場合か?」

「そうですね……働きたくないんでゆっくり帰りますね」


 やる気があるのかないのかよくわからないなコイツ……


「じゃあな せいぜい気をつけろよ」

「はい、ありがとうございましたァ!」


言うが早いか、アクセル全開で配達員はメインストリートに消えていった。教団の外にも面白い奴はいるもんだな……。


「さて気を取り直して……」


 頭上をチラリと見る。さっきの影、明らかに取り逃がしの方に向かったようだが……もしかしたら始末してくれるかもしれない。

 俺は働きたくないのでゆっくり歩くことにした。




 しばらく歩くと発砲音が数回。その直後に悲鳴。男性。

 周囲の人間が一斉にしかめ面をして逆方向にいそいそと歩き始める中、俺は音源に向かって走りだした。


「さすがにのんびりしすぎたか……」


 銃声がしたということは、さっきの影が武装していたか、警察かのどっちかだ。路地に入り、塀の上に登る。


「おっと」


 今まさにマリオネットが新しい宿主の体に入っていくその最中だった。見るのは初めてだ。


「……うわぁ」


 形容しにくい音を立てて口から丁寧に入っている。よく見るとまだ生きているようだ。ついでに制服からして警官。

 こういうのを見慣れてなかったらゲロってんだろうな……。

 うーむ。この場合はさっさと引導を渡した方がいいのか?武器はないがその辺の鉄パイプから調達できるし……

 そうこう考えてるうちにまた屋上からヒュッと影が飛び出した。今度は通り過ぎるのではなく降りてくる。


「?!」


 ゆうに3階。そこから飛び降りた。正気か?

 黒い影から同じく何やら長い物が真下に飛び出す。剣だ。鋭い音を立てて警官……の中のマリオネットを貫通し地面に突き刺さった。

 黒く婉曲した剣。それ目がけて落ちてきた影から何かが一瞬が生え、速度に見合わないトンッ、という軽い音を立てて剣の柄に降り立った。


「あ……」


 スッと立ち上がる影。そう、立ち上がるという行為をしたからには、人だ。

 そろそろ季節外れになりそうな黒いロングコート。シャープな体型がわかる細身なものだ。そして顔が見えないくらいまで被ったフード。

 俺はその風貌、状況を、無意識に2年前(・・・)と重ねていた。


 もしかしたら。せめて。だって。俺は右手を伸ばす。


「……見つけた」


 記憶にあるより幾分高い、囁くような声。俺は現実に引き戻された。

 ありえない。そんなことは。夢でしか、ないんだ。

 ……そうだ。奴がこれから俺を襲う可能性も否定できない。何の力を使ったかはわからないが、3階から無傷でダイブできる人間なんてそうもいない。

 黒いコートの足元で、もはやただの肉塊と化した警官もといマリオネットが痙攣する。奴は大きく後ろに足を振りかぶると剣にもう片足をかけて後ろに宙返りした。一瞬コートの隙間から足が見える。ロングブーツを履いた、綺麗な女性の足だった。

 鋭い金属音と共にマリオネットは両断される。彼女(・・)はスタッと足から手に剣を器用に持ち替えつつ着地。俺もいつまで塀の上に立ち尽くしているわけにもいかなそうなので地面に降りた。


「お前は……」

「なんだこりゃあッ!」


 俺の問いかけは女の向こう側、路地に入ってきた警官にかき消された。

 目の前の惨状に驚いた間もなく、警官の目は女に釘付けになっている。


「お、お前は、まさか黒い女!」


 この女、ちょっとした有名人らしい。あまりよろしくない方向で。そして女性というのも確定。

 少し震えながら銃を構えた警官が奥の死体に目を凝らす。それが同僚だとわかった瞬間、


「貴さm」


 女は自分から目が逸れた瞬間を逃さず、野生動物レベルの加速で飛び出し警官の顔面にその華奢な膝をのめり込ませる。


「……フウっ」


 警官は泡を吹きながら吹っ飛んだ。ありゃあ最低気絶、悪けりゃ首が逝ってるだろうな。


「さて、と」


 女はゆっくりと振り返る。俺はそっと左手を建物の配管に添え、そこから剣を引っ張り出す。


「……!」

「あんたは俺の味方なのかな?」

「……」


 女はさてどうでしょう、とばかりに肩をすくめ、首をかしげてせた。

 遠くからサイレンが聞こえる。ようやく事態の深刻さに警察が……って、


「おい!」

「……ふふっ」


 相変わらず人間とは思えない脚力で女はビルの屋上へと上っていく。


「またね」


 と、言い残し女は再びカッ、カッ、と軽快な音を立てて去って行った。


「またね、か……」


 俺は元警官の死体に近づき、切断面を覗く。


「!!」


 ずっと気になっていた。悪魔は強力な再生能力を備えている。通常の火器はほぼ無効といってもいい。だが彼女は剣の一刺しでこいつの動きを止めた挙句、一振りで息の根を止めてみせたのだ。

 警官の体の中で、マリオネットは首を両断されている。

 人の身体の中、しかも体を捻じ曲げ、ひねっている状態の悪魔の急所を外から一撃……。


「わからないことだらけだな……」


 彼女は何者なのか。あの尋常ではない脚力。透視できるかのごとき正確さ。

 少なくとも一般人ではない。悪魔の急所を知っているということは教団絡みか……?


「とりあえずめんどいが報告、だな」


 俺は逃げるように元来た塀を超え、メインストリートに紛れ込むと、依頼主、(ルゥ)へと電話を掛ける。

 そういえば、血生臭さにまぎれて、一瞬懐かしい香りがしたような。そんな気がした。

とりあえず序章。1から書いてるのではなくベースを元に書き直してるので一部展開に無茶があったり矛盾が生じたりするかもしれません。あとは伏線多すぎ、とか。読みにくいと思いますが、よろしくお願いします。

今後、ここには解説を述べていきます。


・ギビング

 大陸の首都。行政の中心。華やかな観光街、商店街、オフィス街、ブロードウェイを擁するが闇も多く、全体としての治安はあまり良くない。西側にスラム街を抱えており、大陸全体からならず者が流れ込んでくる。

 明暗がはっきりしているが、ここのところの先行きは暗い。

・マリオネット

 低級中型悪魔。ワームと呼ばれる幼虫が人間に寄生し、成長した姿。この形態になると生殖機能は失われ、ただ人を屠るだけのマネキンと化す。

 この不自然な進化は人為的ともいわれるが、詳細は不明。

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