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東方風雷神

作者: のえ


・オリキャラが登場します。皆様の妄想力でがんばって脳内変換してください。


・東方の設定に詳しくないまま書いてしまったので色々とお察しください。


 かつて、日本では神々の争いが絶えず起こっていた。この話は、その数ある争いの中のひとつである。


 出雲の地に八坂神奈子という神がいた。風と水の神てあり、人間からは農耕や戦の神としても崇められていた。その少女は、芦原中津国をひとつにまとめるために動いている神でもあった。


 血気盛んで好戦的な神奈子は、逆らうものは容赦なく力でねじ伏せていた。神々の戦いは、己の力を示すことが全てだった。


 あるとき、高天原からの使いが来たという報せが届いた。神奈子が向かった先は静かな砂浜だった。力を持つ者がいれば、導かれるようにその者の元へと辿り着く。


 神奈子の目の前に現れたのは、ひとりの少女だった。

 てっきり屈強な男神が待っていると思っていた神奈子は拍子抜けした。


 少女は金色の長い髪を後ろでひとつに結い、陣羽織のような形をした丈の長いワンピースに身を包んでいた。額には赤い鉢巻きが巻かれ、頬には刀で切られたような傷跡があった。


 右手にはかなり使い込まれた古い剣を持ち、挑発するような目で神奈子を見ている。


「遥々高天原から来たというのに、出迎えは小娘ひとりか」


 にやりと笑い、金髪の少女は剣の先を神奈子に向けた。


「簡潔に済ませたい。葦原中津国は我ら天津神が収めることにするが、異存はない――」


 少女が言い終わるより先に神奈子は己の拳で少女の剣を弾き返した。少女は眼を丸くし、一歩引き下がる。

 神奈子は拳を握りしめたまま少女を睨んだ。


「勝手に来て勝手なこと言ってくれるわね。大和は私たち国津神のものよ。今さらあんたたちに返してやる義理はないわ」


「……面白い。私を鹿島の神と知って戦いを挑むか」


 鹿島と名乗った少女は天に向かって剣を立てる。するとみるみるうちに暗雲が立ち込め、太陽は隠れ、雷鳴が轟き始めた。


(鹿島……なるほど、雷神様ってわけね)


 神奈子も負けじと風を呼んだ。雲を裂くように激しい風が起こり、海から荒波が襲いかかる。


「後悔するぞ、八坂神奈子……いや、健御名方命!」


 鹿島の神が剣を降れば、神奈子目掛けて雷が落ちる。神奈子はそれを上手く避けながら反撃する。神奈子の袖口から藤蔓が伸び、鹿島の体に絡み付いた。


 鹿島はすぐにその蔓を切り落とし、大雨を降らせた。雨は神奈子の風に乗り、暴風雨となって空と大地を荒らす。雷によって木々が折れ、雨によって暴れた川や海からの濁流が二人を飲み込もうとしていた。


「国津神の力はこんなものか?」


 水面に立ち、鹿島の神は涼しい顔で神奈子を見下ろす。神奈子はギロリと鹿島を睨み、両手を天に掲げた。

 すると風が一点に集まり、雲が地上に流れているかのような巨大な竜巻が生まれた。複数の竜巻は鹿島を取り囲むようにじわじわと近づいていく。


「……おやおや、こんなに派手にやってしまって。大切な中津国が壊れてもいいのか?」


 鹿島の神は肩をすくめると、両手で剣を握りしめ、竜巻を一気に斬り払ってしまった。


(やはり風くらいじゃ効かないか……!)


 神奈子は焦り始めていた。あの剣がある以上、こちらが自然を武器に変えても勝てそうにはない。かといって黙って言いなりになるのも癪にさわる。何より軍神としての矜侍がそれを許さない。


「こん、のォォー!」


 神奈子はありったけの力を集め、砂浜に一本の巨大な木を生やした。鹿島はすぐにその巨木に雷を落とそうとしたが、神奈子はその巨木をむんずと掴むと、力いっぱい引っこ抜いてしまった。


「なにっ……!?」


 自分より何杯も大きな木を素手で引っこ抜いたことに流石の鹿島も驚いて手が止まる。神だからできないことはないだろうが、あまりにも予想外の行動だった。


「なめんじゃないわよ雷神風情がぁぁぁ!!」


 怒りのままに叫びながら、神奈子は大木を鹿島に投げ付けた。鹿島は慌てて剣を振り、大木を斬る。すると、その切り口からウジャウジャと蔓が伸び、鹿島の首や手足に絡み付いた。


「ちっ……」


 蔓を切ろうとするが、身体中にぐるぐると巻き付いているために身動きが取れない。


 神奈子は留めをさそうとしたが、先に鹿島が剣を手放した。砂浜の上にドサッと剣が落ちる。

 途端に先ほどまで降り続いていた雨は止み、雷鳴も消え、雲の切れ間から日差しが届いた。


 神奈子はゆっくりと鹿島に近付き、剣を拾い上げた。そして切っ先を真っ直ぐ鹿島に向ける。


「中津国から出ていきなさい。私は絶対にあんたに従ったりしないわ」


 ビュウッと強い風が吹いた。二人の少女は互いに動かず、睨み合っていた。


「――と、言いたいところなんだけど」


 神奈子はそのまま剣を降ろし、濡れた砂の上ににザクッと突き立てた。すると鹿島の体に絡み付いた蔓がボロボロと枯れ落ちた。


「久しぶりに強敵と戦えて楽しかったわ。気に入らないけど、あんたが本気で私を潰しに来たら、きっと敵わないでしょうね」


「根っからの軍神だな……」


 鹿島は苦笑しながら剣を抜き、鞘に納めた。


「あのスサノオの子孫ならば、それも当然か」


「あんな荒れくれ者と一緒にされたら困るわ……」


 神奈子はチッと舌打ちをし、鹿島に背を向けた。


「東の神を従えてみてはどうかな。彼処はまだまだ未開の地だ。例えば諏訪……」


「諏訪は洩矢の神が治めてるじゃないの」


 神奈子はフッと微笑み、空を見上げた。


「でも、面白いかもしれないわ」



 この後、諏訪大戦と呼ばれる神々の争いが起こることになるが、遥か東の地に住む神は知るよしもないことであった。






END

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