光
姫がこけたぁ帰り道
二人は手を繋いで帰り道
「美優。今日の夜は僕達だけだから、夕飯何が食べたい?」
「グスン、グスン……グミ」
「…グミ」
グミが夕飯…
「あ、あは、は…美優。グミはまた別の日が良いなぁ」
「グスン、グスン……じゃあお母さんのオムライス」
「…お母さんのオムライス」
『お母さんの』は無理だけど『他人の』なら何とかなるんだけどなぁ…
でも美優は効きオムライスが上手だから直ぐにばれるしなぁ…
「う、う~ん。お母さん今日は仕事で遅いからオムライスは無理だよ」
「グス…じゃあお兄ちゃんのカレー」
ヴッツ?! 僕の作ったカレーですか姫ッ!?
カレーはオサムが唯一作れる手の込んだ料理だった。
…しかし、それは母や父、大人が傍にいてくれるから作れたのであって、一人で作るとなると不安が爆発しそうだ
「み、美優、カレーはまた今度に―」
と言おうとして何やら視線を感じた
「……美優、カレーがいい」
ウルウルした目で自分を見る純粋無垢な清らかな瞳
「よーしッ!! スーパーに突撃だぁッ!!」
期待されればそれに応えない訳がない!
やってやるぜ!
美優!
美味しいカレーを作ってあげるからね!
「が、頑張るぞっ!」
…ちょっぴり不安だけど
スーパーに突撃したオサムと美優はカレーの材料をカゴに入れていき、後は買うだけになった。
「そうだ美優。お菓子一つ買ってもいいよ」
サイフの中身と相談した結果、二人に一つずつ嗜好品が買うことができそうだった。
「本当!じゃあ美優これっ!」
と言ってカゴに入れたのは、今女の子に人気のアニメのキャラが描かれたお菓子
「じゃあ僕はこれだっ!」
オサムがカゴに入れたのはドラゴンチップスと呼ばれる、今小学生に人気大爆発のカードのオマケが入ったチップス(味はチョコと塩味二種類)
「やったぁー!!」
「ではレジへゴー!!」
ハイな二人はレジへ向かった
カチャ、カチャとスプーンが皿にぶつかる音がする
「美優カレー美味しい?」
「うん! 美優お兄ちゃんの作ったカレー好き!」
口の周りにルーをいっぱい付けた笑顔が弾けた。
オサムは優しく笑うと妹の口をティッシュで拭いてやる。
喜んでもらえて何よりだった。
指に巻いた絆創膏は勲章にすら見えてくる。
夕飯が食べ終え二人でテレビを見る。
手元にはスーパーでかったドラゴンチップス
ご飯の後にお菓子を食べたらダメだけど、今は怒る母さんもいないし気にしない、気にしない
「さてと、何がでるかな?」
ドラゴンチップスの袋には中にカードのオマケが入っており、そのカードに描かれているのは、猛々しく、格好いいドラゴン。
そのカードを集めるのが今小学生の間でブームになっているのである。
オサムもブームにはしっかり乗っており、すっかりカードの虜である。
はやる気持ちを抑えお菓子の袋を開ける
。中に灰色の小さな袋が入っており、その中にカードが入っているのだ。
「レッドドラゴンだといいなぁ」
期待を膨らませ、オサムは灰色の袋を慎重に開けていく。
やがてプラスチック製のカードの外観が現れる。
「こいっレッドドラゴン!」
袋から一気にカードを抜き出し視界へロックオン!
さあ!どんなドラゴンが…
「………ん?」
カードを見たオサムの表情は何とも複雑だ
眉根に皺を寄せ、首を傾げている。
「どうしたのお兄ちゃん?」
美優がオサムの見ているカードを覗き込む。
「これ、お星さまがあるねぇ」
美優の感想にオサムは
「これはね魔方陣っていうんだよ」
カードにはドラゴンではなく魔法陣が描かれていた。
カードの裏には、本来ならドラゴンの説明などが書かれているのだが何も書かれていない。
ただ魔法陣が描かれているだけのシンプルなカードであった。
兎に角この手のカードをオサムは今迄見たことがなかった。
「レアカードかな?」
もしレアカードだとしても、……何ともコレは…所有価値というか何というか…
あんまりヨッシャッ!ってならないっていうか……
…う~ん複雑だ
「ま、まあレアカードっぽいしいいかな!」
がっかりしようとする自分の気持ちを欺き、空喜びするオサム。
…なんだかちょっぴり切ない
取り敢えず床においてじっくり眺めてみよう!
オサムはカードを床に置き、さも興味ありますよ! これレアカードだもん! っといった表情で魔方陣を見つめた。
「…魔法陣だよなぁ」
カードを五分見つめてみたが残念ながらガッカリ感が否めない。
「まあレアなんだし、いっか」
気持ちを切り替えてお風呂にでも入ろう!
うん、そうしよう!そうしよう!
「美優お風呂入ろう」
「うん!」
美優はまだ一人でお風呂に入ることができないので、オサムとよく一緒に入っている。
『五年生にもなって妹とお風呂に入ってるの』なんて言われたこともあるが、別に気にしたことはなかった。
オサムは美優が、仕事が忙しくて母親にあまり甘えられないことで寂しい思いをしているのが分かっていた。
だから、その寂しい思いを自分が補えたらいいなといつも思っている。
自分は平気だった
もうそんなことは慣れっこだった
だって僕はお兄ちゃんなんだ
お兄ちゃんは、泣かないし、強くなくちゃいけないんだ
たとえ学校に馴染めなくても…
一瞬暗い感情が頭の中に渦巻いたが、それを振り払うようにオサムは立ち上がる。
「よし! 行きますか!」
「は~い」
二人仲良くお風呂場へ向かおうとしたその時、
バシュゥゥーーンッッ!!
「うわぁっ!?」
「ふぇっ!?」
烈しい閃光が部屋全体を包み込んだ。
あまりの眩しさにまともに目を開けていられない。
「おっ、お兄ちゃ~ん!」
「美優! こっちに!」
それでも美優を自分の側に抱き寄せると、妹を背に光から守るようにする。
やがて烈しい閃光は徐々に光が和らいでいくのが感じられ、辺りが見渡せるようになってきた。
オサムは目を細めながら光の中心を探す。
見つけた!
どうやら床の一部から光が発せられているようである。
よくよく見るとそれは、さっきまで自分が見ていたカードからであり、長方形のカードから放射状に光が放たれている。
「さっきのレアカードが光ってる!?」
オサムは咄嗟に流石レアカード!只のカードじゃない!
と思った
でも
光ってびっくりさせるカードよりレッドドラゴンが欲しかったなぁ
とも思った。
やがてカードから溢れる光が収まり、目も普通に開けていられるようになったので、オサムはカードに近づき、カードを拾い上げ見てみるとカードが脈動するように明滅していることに気付いた
「すごいなぁ。これどうやって作ったんだろう?」
感心しながらカードを見つめていたその時!
バシュゥゥーーン!!
「うぅわあぁっ!?!?」
カードが一瞬強く瞬き、光の塊がそこから飛び出した!