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前編

 

 環境破壊によって地上に人が住めなくなってから、早600年。

 人類の大半がこの星を捨て、遥か彼方の惑星へ移住する中、残ったほんの一握りの人間たちは、地下施設へ避難することで生き延びた。


「――著しく文明レベルが下がったこの星の人類が今日まで生き延びてこられたのは、ひとえに旧文明の遺産のお陰だと言われている。自給自足可能な地下施設であるこの建物、ベースもその一つという訳だな。

 この旧文明と呼ばれる前時代の文明レベルは非常に高度なものであり、それは各地で発見されている旧文明の遺跡が600年経った今でも、一部に限りだが正常に稼動している、という事実から窺えることだ」


 野太い声で説明していた壮年の男はそこで声を切り、部屋をぐるりと見回した。幅、奥行きともに10m弱の部屋の中には、机と椅子が12個ほど、3列に分けて並べられ、それぞれに年齢もまばらな子供たちが座っていた。


 人工の明かりで隅々まで見回せる部屋の壁や床は金属質なライトグレー。しかし、子供らが座る椅子、筆記用具が広げられた机は木製であり、風景としてはどことなくアンバランスだ。


 子供たちの視線を一身に受ける男は、浅黒い肌にがっしりした体形、2m近い身長にいかつい顔付きと、大人でさえ目の前に立たれれば萎縮してしまいそうな外見だった。Tシャツから覗く太い腕との対比で、手に持った本がとても小さく見える。


本を片手に一人一人、子供たちの反応を窺っていた男、ネルソンは、ゆっくりと動かしていた視線をある一箇所で止めた。


 迫力のある顔をしかめ、教卓(これも木製)に持っていた本を置いて歩き出す。そしてとある生徒の机の前まで行くと――


「こら! 寝るなウィル!」


 大きな握りこぶしを作り、机に突っ伏して熟睡していた少年にげんこつを食らわせた。

ゴン、とも、ガン、とも聞こえる、いかにも痛そうな鈍い音が部屋に響く。


「いってぇ~……っ! なにすんだよっ!」


 げんこつを食らった少年は後頭部を手で抑え、涙を目の端に浮かべながら、ネルソンを睨みつけた。


「授業中に寝ているからだ馬鹿者」


 恨めしそうに睨む少年をその一言で切って捨て、ネルソンは教卓へと戻っていく。少年、ウィルは机に顎を乗せ、ふてくされたような表情でその後姿を見送った。周りの子供たちは苦笑する者や無関心な者ばかりで、どうやらこの光景はそう珍しいものではないらしい。


 ネルソンが教卓に戻り、生徒たちに向き直ったところで、教卓の端に置いてあった置時計がジリリと鳴いた。


「ん? もうこんな時間か。よぉし、今日はここまで! 皆、また明日会おう」


 よく響く声でネルソンが授業の終了を宣言すると、子供たちは机に広げた筆記用具を各々の鞄にしまい始めた。静かだった部屋がざわざわと騒がしくなる。友達と雑談したり、連れ立って帰る者が多い中、未だに机に筆記用具を広めたまま不機嫌な表情をしている者がいた。


 椅子に背を預け、ウィルは天井を見上げていた。その顔には面白くない、という彼の気持ちがありありと浮かんでいる。


 今年10歳になるウィルは、あちこち跳ねた黒髪と負けん気の強そうな鋭い目付き、健康的な肌色の肌をもつ少年である。同年代の男子に比べてやや小柄だが、元気の良さは折り紙つきだ。


 半袖のシャツに膝丈の短パン、足には身体に比べて少々大きめの黒いブーツという服装は、少年の溌剌とした雰囲気をさらに強めていた。


「ウィル、帰らないの?」


 そんな彼に声をかける少年がいた。柔らかそうな金色の髪の少年だ。痩せっぽちで白い肌は、垂れ目がちな眉や優しげな瞳と相まって、どこか頼りない印象を受ける。七分丈のシャツに長ズボン、茶色の革靴。ウィルと違ってこちらは屋内で本を読んでいそうなイメージがあった。


「なあ、メッツ。俺思うんだけどさ、ネルソンのおっちゃんの手には鉛かなんか仕込まれてんじゃないか?」

「……真剣な顔してそんなこと考えてたの?」


 真面目くさった声音でのたまう親友に、メッツは呆れた声で返した。


「とりあえず教室出ようよ」

「ん、そうだな。ちょっと待ってろ」


 ぐいんと首を元に戻したウィルは、机に散らかっている物を急いで鞄に詰め始める。


「おっしゃ。んじゃ行こうぜ、メッツ」

「うん」


 ほどなくして帰り支度を終えたウィルは、メッツと並んで教室を後にした。






 鈍色のスライド式ドアをくぐった二人は、大人三人分のほどの通路を目的なく歩いていた。この施設は地下にあるため、通路の幅はそれほど広くない。


 壁や天井は先ほどの教室と違って白に近いクリーム色だ。元々はライトグレーだったのだが、それでは味気ないということで、青年団の有志を募って壁、床、天井を塗り替えたのである。おかげで施設内の雰囲気は明るくなった。

 さすがに労力と塗料の関係で、施設内の隅々までとはいかなかったようだが。


「なあなあメッツ。お前、今日は家の手伝いあんの?」


 ウィルはところどころにある落書きを流し見ながら、左を並んで歩くメッツに聞いた。


「今日は多分ないと思うけど。ウィルの方は?」

「ある訳ないじゃん。お前にはまだ無理だって手伝わせてくれねぇんだもん」

「あはは。まあ、しょうがないよ。怪我したら危ないもんね」


 口を尖らせて不満たらたらのウィルに、メッツは苦笑した。メッツの家の仕事は家具屋で、普段からちょくちょく手伝いをさせられている。


 対してウィルの家は鍛冶屋をやっていて、まだ子供で、しかも落ち着きのないウィルは手伝いたくても手伝わせてもらえないのだった。元気が有り余っているウィルにとって、窮屈な地下施設での遊びは暇つぶしにもならない。


「じゃあ、夕飯まで暇?」

「うん」

「ふぅん。そっかぁ」


 それきりウィルは口を噤んでしまった。てっきり、何かやろうとウィルが言い出すと思っていたメッツは、反応の薄い親友の様子を不思議がる。


 やがて、何度か角を曲がって、大人たちや顔見知りたちとすれ違ったり挨拶したりしながら、二人は『いつもの場所』と呼んでいるところへ辿り着いた。ドアと人工灯が壊れてしまって、今は誰も使っていない部屋だ。


 4m四方の小さな部屋はがらんとしていて、中央の床にランプが置かれ、メッツが作った見てくれの悪い椅子が二つ、入り口から見て左右に、向かい合うように配置されていた。使われていない部屋にも関わらず、床や壁が比較的綺麗なのは、たまに二人で掃除しているからだ。


 部屋に足を踏み入れたウィルは椅子に座らず、ランプに火を点け、後から入ってきたメッツへ振り向いた。一直線に結ばれていたその口の端が、にんまりとさも嬉しそうに吊り上がる。


「え、ど、どうしたの……?」


 いきなりの変化に戸惑う、というより気味悪がって一歩後ずさるメッツ。


「知ってるか、メッツ?」


 キラキラと輝くウィルの瞳には、そんなメッツの様子は映っていないようだ。


「何を?」

「聞いて驚け。おとといにさ、このベースの近くに流れ星が落ちたらしいんだよ!」


 きょとんとするメッツの肩をしきりに叩きながら、興奮したようにウィルは語る。


「流れ星って?」

「……お前、流れ星知らないの?」

「うん」


 どこがすごいのか全く分かっていないメッツに、毒気の抜かれてしまったウィルはがっくりと肩を落とした。目をまん丸にしてものすごく驚く、という反応をウィルは期待していたのだが、そもそも流れ星を知らないとは思わなかったのだ。


 しかし、それも仕方がないことだと言えた。自給自足が成り立っているベースにおいては、大人ですら外に出たことがない者もいる。子供にとっては外の世界など想像すらできない別世界という認識なのだから。

 ウィルだって知り合いから聞かなければ、流れ星という存在も知らなかった。


「いいか? 流れ星っていうのはな、天井よりずっとず~っと高いところから降ってくる星のかけらなんだ」

「星のかけら……?」

「そう、星のかけら。すっげー高いところでぴかぴか光ってるんだってよ。昨日大人たちが話してるの聞いたんだけどさ、それがガラクタ山に落ちたらしいぜ」


 ふふんと鼻を鳴らして得意げに説明するウィルの言葉に感じるところがあったのか、興味深そうにメッツは呟いた。それに気を良くしたウィルの顔が再び輝きを取り戻す。


「見てみたくないか?」

「えっ……」

「星のかけらだよ! 見に行こうぜ!」


 がっしりとメッツの肩を掴んでウィルは言う。


「で、でも……」


 メッツはしどろもどろになった。見てみたくないかと言われれば、確かに見てみたい。でも、星のかけらを見に行くということは、ベースの外に出るということだ。

 大人にならないとベースから出てはいけない、という大人たちの言い付けを破るのには躊躇いがあった。何があるか分からない外の世界が怖い、という気持ちも少なからずある。


「あんまり長い間外にいると、病気になるって聞いたよ?」

「そんなの、俺たちが外に出ないようにするための嘘だって」

「子供を食べる動物もいるって聞いたし……」

「それも嘘だぜ。だって俺、一度もそんなやつに襲われたことねぇもん」


 さらりと流れ出たウィルの言葉にメッツは目を剥いた。信じられない、といった表情で聞き返す。


「ウィル、もしかして外に出たことあるの?」

「ああ、もう5回は出たかな」


 腕を組んでウィルはふんぞり返った。


「門番はどうしたのさ」

「簡単だよ。いっつもヤネフがサボって寝てるから」


 メッツは親友の行動力と大胆さに舌を巻いた。門番が睨みを利かせていると知っていたら、諦めてしまうのが普通だというのに。いや、だからこそ門番も子供なぞ来るまいと油断しているのかもしれない。


「大丈夫だって! 外なんて慣れればどうってことないぜ」

「そ、そうかな?」


 先ほどの話や自信満々なウィルの態度を見たり聞いたりしているうちに、なんとなくメッツもその気になってきた。外に対する不安よりも、外の世界への興味が勝ちつつある。


「ほんとに大丈夫、だよね?」

「あったり前だろ! 楽勝だよ、楽勝。な、行こうぜ?」


 にっと笑ってウィルは拳を突き出した。しばらく迷っていたメッツは、やがて観念したのか、おずおずと拳を合わせて小さく頷いた。






 ウィルの言葉通り、門番のヤネフは通路の壁に座り込んで寝こけていた。


「な? 俺の言ったとおりだろ?」

「うん」


 通路の角から顔だけ出して門番の様子を窺っていたウィルは、しゃがみ込んで同じように門番を見ていたメッツに囁いた。


 いくつかある出入り口のうち、今ウィルたちがいる場所はほとんど使われていない。そのため、人の気配など皆無であり、門番がよっぽど真面目な人物でもなければ真剣に仕事をするはずもなかった。


 門番は交代制だ。ウィルの調べたところによると、ヤネフと次の門番が交代するまであと四時間はある。ヤネフは前任と交代したら、すぐにサボって眠ってしまうのだ。


「こっからは音立てるなよ」


 とウィルが言うと、メッツは若干強ばった顔でこくこく頷いた。

 外へ通じるドアまでは5mと少し。音を立てないように慎重に進むには、思ったより時間がかかる。


 壁に背を預けてぐうすか寝ているヤネフの横を通るときが、一番緊張する瞬間だ。しかし、もう慣れてしまったウィルには、ばれるかばれないかというこのスリルを楽しむ余裕すらあった。


 後ろを付いて来ているメッツの様子を肩越しに窺ってみる。相当緊張しているのか、操り人形のような動きをしていたので、危うくウィルは噴出しそうになった。咄嗟に口を押さえてなんとか堪える。危なかった。こんなことで失敗なんて、格好悪すぎる。


 たっぷり時間をかけて、二人はようやくドアの前に立った。スライド式のドアが開閉する際の音は隠しようもなかったが、音がそれほど大きくないのと、ヤネフがドアから少し離れたところにいたこともあって、気付かれずに済んだ。


 ドアをくぐればすぐに外、というわけではない。内部と同じような通路が少しあって、もう一枚ドアをくぐる必要がある。大きく息を吐くメッツを促して、ウィルは先へ進んだ。


 途中、通路の真ん中の右側の壁にドアが据え付けられていたが、ウィルはそれを無視した。このドアは、開閉スイッチをいくら押してもうんともすんとも反応しない。壊れてしまっているのだろうとウィルは考えている。


「ここをくぐれば外だ。準備はいいか?」


 最後のドアの手前で、ウィルはネッツの方へ振り返って訪ねた。ウィルだって最初は死ぬほど緊張したのだ。メッツがやっぱり嫌だと言ったら、無理強いはしないつもりだった。


「う、うん。いいよ」


 かちこちに強ばった表情や竦んだ身体から見るに、全然大丈夫そうじゃなかったが、メッツはやめるとは言わなかった。意外に根性のある親友に、ちょっぴり嬉しくなるウィルだった。


「よし、行くぞ」


 言って、ドア横の開閉スイッチを押す。ライトグレーのドアがすぃっとスライドして、湿気を含んだ空気が流れてきた。地上に出るには、さらに目の前の階段を上っていかなければならない。人工灯もランプもない、薄暗い通路から見上げると、ずっと奥にかすかな光が見えた。

 

 これから始まる冒険への期待に胸を膨らませ、ウィルは地上への階段に足をかけた。






 外に出た二人を出迎えたのは、よく晴れた青空だった。


 前方は見渡す限りに茶色い荒野が続いている。遮るものなど全くなく、上を向けば白と水色のコントラストが視界の隅々までを覆い尽くす。


 この一面の青空を前にして感じるのは、地下では決して感じることの出来ない清々しい開放感。初めて見たときの感動を、ウィルはまだしっかりと覚えていた。


 ウィルに続いて地上に出たメッツは、予想を遥かに上回る光景にひたすら呆然としている。


「すごい……」


 と呟いたきり、声を出すことも忘れているようだった。ウィルは、メッツが自分と同じ感動を抱いている様を見て、思わず顔がにやけてしまった。同じ秘密を持つ仲間が出来た気分だ。


 ウィルの後方には、ちょっと歩いたところに林がある。過去の四回はそこをぶらぶらしていたのだが、今回はそちらには行かない。目的のガラクタ山は、前方に広がる荒野を突っ切ったところにあるのだ。


 未知の領域に足を踏み入れる。そう思うと、胸がどきどきした。ウィルの中に怖いとか、そういった気持ちは全然ない。冒険という言葉に少年は酔っていた。


「ウィル、これからどうするの?」


 一頻り驚いて、落ち着きを取り戻したらしいメッツが尋ねてくる。ガラクタ山への行き方をメッツは知らないから、当たり前だ。


「あそこに看板が立ってるだろ? とりあえずあそこまで行こう」


 ウィルは、階段から真っ直ぐ10mほど進んだところにある看板を指差した。ガラクタ山への行き方は、ウィルの父親から聞いたことがある。酒に酔ったウィルの父親が珍しく外の話をしてくれたことがあって、その中にガラクタ山へどう行くか、という話も含まれていた。


「ほら、ガラクタ山って書いてある」

「ほんとだ」


 看板にはガラクタ山と、他に二つほど地名らしきものが書いてあったが、今はそれはどうでもいい。ガラクタ山と書かれた矢印は、二人の右手側を指していた。そして矢印の先を辿っていくと、10mほど進んだところに一本の棒が立っているのが見える。


「もしかして、あの棒を辿っていくの?」

「その通り。よっしゃ! さっそく行こうぜ」

「うん!」


 ウィルが待ち切れないといった風に張り切った声を上げ、メッツもそれに同意した、その時だった。


「こらァ! 悪ガキども! どこに行くつもりだ!」


 二人の背後から鋭い怒声が投げかけられたのは。


 ウィルもメッツも、突然のことにびっくりして、びしりとまるで石像のように固まった。だらだらと滝のような冷や汗を流す二人。ばれた。やばい。叱られる。何か言った方がいいと思っているのに、何故か一言も喉から言葉が出てこない。


「……なんつってな」


 一拍の間を置いたあと、そんな軽い台詞が聞こえた。その口調と声に覚えがあったウィルは、ばっと勢いよく振り向いて素っ頓狂な声を上げる。


「クリフ兄ぃ!?」

「えっ、クリフさん?」

「おうよ」


 青年、クリフは悪戯っぽい笑みを振り返った二人に向けた。


 切れ長の目にすっと通った鼻筋、赤茶の髪は短く刈り込まれ、青年らしい爽やかさと鋭い雰囲気を併せ持つ。黙っていると怜悧さが際立つが、話したり笑ったりすると途端に親しみやすさや人懐っこさが顔を出す人物でもあった。


 半袖シャツの上に鉄製の胸当てを身に着け、背には彼の身長と同じくらいの長さの槍を備えていた。腰の黒鞘には細身の剣が収まっている。


 彼は青年団のリーダーである。すらっと背が高く、日々の鍛錬によって絞り込まれた体は子供のウィルから見ても格好良い。


 力強さとしなやかさ、そして知的な雰囲気さえもつクリフは、大きくなったら自分もこうなりたい、というウィルにとっての憧れだ。ちなみに、ウィル愛用の黒いブーツは貰い物で、クリフが子供の頃に履いていたやつである。


「外に出ちゃいけないって言われなかったか、お二人さん?」


 ぐっと目に力を込めて、クリフは二人を見下ろした。


「それは……そうだけどさ」

「ごめんなさい……」


 悪いことをしている自覚はあったので、反論しようとして出来ず、ウィルは口ごもった。真面目なメッツに至っては、しゅんとして俯いてしまっている。


「ガラクタ山に行きたいって?」


 二人のしおらしい様子を受けてか、いくぶんか口調を柔らげてクリフは言った。こくんとウィルは頷く。


「どうしてそこに行こうと思ったんだ?」


 しゃがんで目線をウィルたちに合わせ、クリフは優しく尋ねた。


「星のかけらを見に行こうと思って……」

「星のかけら?」

「ガラクタ山に流れ星が落ちたって聞いたから」

「ああ、そういやぁそんなこともあったか。一応見に行ってみたけど、ざっと見た限りじゃ特に変わったことはなかったような……」


 顎に手を当て、記憶を掘り返しながらクリフは独りごちる。それからウィルとメッツの顔を交互に見、ふむ、と一呼吸置いて、


「お前ら、ガラクタ山に行きたいか?」


 にやりと笑った。


 二人はびっくりして眼を瞬き、顔を見合わせた。やがてクリフの言葉の真意に気付いた二人は、弾かれたように首を回し、


「行きたい!!」

「行きたいです!」


 と力一杯に主張した。


 クリフは元気を取り戻した二人に笑みを深めて、すっくと立ち上がる。


「分かった。ちょっと待ってな」


 そう言ってベースに引き返していった。一度は潰えかけた冒険に行けるという火種が、ウィルの中で再びメラメラと燃え始める。


 ほどなくして戻ってきたクリフは、フード付きのマントを着用していた。手にはちゃぷちゃぷと音を立てる水筒を三つと、マントらしき布がある。


「今日は晴れてて日差しが強いから、水とマントが必要だ。冒険するにも準備はちゃんとしないと、目的地に着く前にぶっ倒れるぞ」


 水はともかく、マントなんて歩きづらそうで着たくないなとウィルは思ったが、文句を言ってベースに追い返されてはかなわないので黙っておいた。


「いいか、お前ら。二つ、約束しろよ。ひとつ、俺の指示に従うこと。二つ、俺から離れすぎないこと。分かったか?」


 マントを羽織り、水筒を腰に下げたウィルとメッツに人差し指と中指を立てて見せながら、真剣な声音でクリフは言い聞かせる。


「はい、分かりました」

「分かったっ!」


 冷静に頷くメッツと溌剌とした返事を返すウィル。すっかり元通りになった二人に切れ長の目を細め、クリフは声を張った。


「よぉし。出発!」

「おぉー!」

「お、おぉ~……」


 本日は快晴、実に冒険日和である。



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