浮気女から裏動画が届いたのでOSINT使ってやり返す R-15版
現代ものの短編です。現代ものです。
元々はミッドナイトノベルズに掲載していた作品ですが、際どい描写を可能な限り削ってギリR-15にしてみました。基本的な内容は変わりません。
若干ですが性加害を想起させる描写があります。苦手な方は本作を読むことはお控え下さい。
彼女から送られてきたメッセージに記載されていたアドレスは海外の怪しい動画投稿サイトのものだった。
リンク先にあった卑猥なタイトルの動画には、俺ではない別の男と痴態に興じる彼女の姿があった。
『あ、彼氏くんー?これから彼女頂くんだけど折角だからお裾分けしようと思って今撮影してまーす。興奮したら高評価チャンネル登録よろー』
ゲラゲラ笑うガタイの良い金髪の男の目元にはぼかしが入っているものの、いかにもチャラ男といった感じの人物だった。
そしてそんな男の前で両手をピースサインにして「いぇ、いぇーい…」と半笑いを浮かべる女性は俺の恋人…だと思っていた女性。こちらは顔に何の加工もしていない。
「フウジ…ご、ごめんね……」
声が震えているのは恥じらいというよりは背徳感に興奮しているのだろう。
そうして彼女が男とベッドで交わる一部始終がモニターの中で繰り広げられた。
不思議なほど動揺しなかった。
俺は辟易した溜め息を漏らして呟く。
「俺、別に寝取られ性癖とかないんだけど…」
*****
俺、平野フウジと二階堂ルカは今年でカップル歴四年目になる。
高校二年の時に同じクラスだった俺とルカは文化祭で同じ作業班だったことから距離を縮め、後夜祭に俺の方から告白して付き合い始めた。
やや垂れ気味の目に丸っこい鼻のおっとりとした雰囲気に反して、喋ってみると中々に勝ち気なところもあるというギャップに惹かれた。
高校を卒業すると俺たちは同じ地元の国立大学に進学することになった。
高校でテニス部だったルカは大学でもテニスサークルに入ると以前から決めていた。
一方、俺はと言えば、3月に同じ大学を卒業した姉から「私が抜ける分バイト先の手が足りなくなるからお前入れ」と半ば強制的にバイト先を斡旋され、春休みから研修に参加していた。4月に入ってからようやくそれが終わり週の半分ほどシフトが入っていた。
初めて違和感を抱いたのはルカがテニスサークルの歓迎コンパとやらに出た日だ。
帰ったら連絡すると言っていたのに日付が変わってもメッセージが届かなかったので、無事に帰宅できたのかこちらから連絡を寄越した。
一時間ほどして『帰ってきてる 眠いのでもう寝ます』と返信があった。
普段であればどんなに疲れていても寝る前のメッセージには「おやすみ」の一言があるのにこの返信にはそれがないのが気になると言えば気になった。ただ、朝になるといつも通りな彼女からの連絡が来たので自分の思い過ごしだと敢えて考えないことにした。
新入生の飲酒は本来禁じられてはいる筈だが、先輩たちは飲んでいるしルカもその場のノリで飲んでしまったのかもしれない、それで悪酔いしてあんな適当な返事になってしまったのだと。
そう思うことにした。
ルカとすれ違うことが増えたのはその頃からだ。
休日どこかに出かけようと誘っても「サークルの予定が入ってるから」と断られることが増えた。
ようやく約束を取り付けることに成功して外食した時もちらちらとスマホを見て、どこか落ち着かない様子だった。
「誰かの連絡待ってるの?」
流石に気になって尋ねると「え?あ…うん、ちょっとサークル関係で先輩とね…」と言葉を濁された。
食事が終わると以前ならしばらく何をするでもなく一緒に過ごしていたが、この時はあっさり別れを告げられた。
進学して破局するカップルが多いというのは知っていたが、何となく同じ大学に進むのだから大丈夫だろうと安心していたが、それにあぐらをかき過ぎていたか。
ちゃんと会う時間は確保していたつもりだが、バイトにかまけ過ぎていたかもしれない。
反省し、シフトを少し減らしてもらうようバイト先の上司にかけ合うことにした。
*****
バイトのシフトがない日を選んでどこか旅行に行かないかとルカに提案したのはゴールデンウィークが始まる数日前のことだった。
バイト先のシフトについて上司に相談すると、逆に学生の身分であることを顧みずに負担をかけ過ぎたことを謝罪され、ボーナスまで貰ってしまったのだ。
彼女曰く「繁忙期で仕事を回し過ぎているのは気付いてたんだが、君もさっさとここのやり方を覚えた方が後々楽になると思って敢えてシフトを弄らなかったのが裏目に出たか。私のミスだ、すまなかった。GW明けからはもう少しスケジュールに余裕ができる筈なので、今はボーナスで勘弁してくれないか」とのこと。
カップルとして初めて2人だけの旅行に誘うのは緊張したが、ルカは大層喜んでくれた。
その時ばかりはまだルカの気持ちは挽回可能だと少し安心した。
前日まで「楽しみだね♪」などとメッセージアプリでやりとりしていた。
*****
当日になってルカは旅行をドタキャンした。
先輩に頼まれてどうしても参加しなければならないサークルのイベントが発生してしまったとのことだった。
俺は一人で温泉に浸かりながら疑念を深め、諦めをつけ、ある決意を固めた。
『少し距離を置こう』
旅行から帰ってくると俺はルカにそうメッセージを送った。
既読マークはついたが、返信がないのはつまりそういうことだろうと納得した。
そして残りのバイトに費やしたゴールデンウィークの最終日、ルカから送られてきた1通のメッセージ。
そこにリンク先として貼られていたのが件の動画だったというわけだ。
ショックじゃないと言えば嘘になる。
ただ、自分のもとから離れたルカの心が誰か別の人のところにあるという可能性には薄々気付いていた。
こんなものを見せられるとは思っていなかったが。
「あれま」
バイト先の上司が俺のスマホを覗き込みながら言う。
「で、平野君。どうするんだい?」
*****
ルカと間男が想定していなかったことが2つある。
1つは俺が別に寝取られマゾではないということ。
寝取られることに興奮しないからルカが間男とくんずほぐれつしているのを見ても股間はぴくりともしない。ひたすら腹が立つだけだ。
そしてこいつらが想定していなかったもう1つは俺がバイト先でこういう事例を山程見ていたということだ。
「彼女にバイト先のこと伝えてなかったのかい?」
「元彼女ですよ」
既に頭を切り替えていた。
上司はそんな俺を見て眼鏡をくい、と上げると「淡白ぅ、今どきの子だねー」と感慨を漏らす。
そうは言うが、雇い主であるこの女性は俺の姉の高校時代の先輩だ。つまり俺とは十も齢が離れていない。
「まあいいや。いい機会だから現時点における平野君の実力を見せてもらおうか。ちょっとくらい法に触れても何とかしてやるから思う存分やるといい」
「…業務の一環としてカウントしてくれるなら特別報酬とか出ます?」
「馬鹿、この間ボーナスくれてやったばかりだろ」
「ケチ臭いっすね」
俺が文句を言うと上司は苦笑した。
「私が出さなくても向こうから和解金を弾んでもらえばいいじゃないかっ」
*****
バイト先は海外に本拠を置く情報解析企業の日本支部の一つで、この事務所ではOSINTを使ったフィールドワークが主な業務だった。
OSINTとはオープンソース・インテリジェンス(Open Source Intelligence)のことだ。
SNSや公的機関のホームページ、あるいは個人ブログといった、誰もがネット上などで閲覧できる公開情報を収集・解析することで有益な情報を得る手法で、ここ最近ジャーナリストや情報機関の間で重用されている。
今の俺は中東の衛星写真とにらめっこして軍事行動の兆候を探す一方、SNSや動画を解析して個人を特定したり、その行動パターンを解析する業務にも携わっていた。
練習用のサンプルとして上司から渡されたものの中には浮気の素行調査みたいなものもたくさん含まれていた。
この手の動画も山ほど見ているし、どう解析すれば良いか、依頼主がどういう情報を欲しがっているかなども把握している。
俺は早速この”案件”に取り掛かることにした。
まずはルカが間男とよろしくやっている動画からメタデータを抽出して、撮影日時やおおよその場所、IPアドレスなどを入手する。
写真や動画をスマホで撮影すると付属するこれらの情報。
一応、簡単に隠す手段はあるにはあるが、そのひと手間をかける者は少数派だ。
大手検索サイトに引っかからない投稿サイトなら拡散しにくいとでも思っているのだろうか。むしろダークウェブだからこそ警戒するべきだと思うのだが。
まあ、馬鹿の思考を読み取ろうとしても時間の無駄か。
次に撮影場所を詰めていく。
大体の場所はメタデータでわかったがこれは撮影機材や電波状況の関係で正確でない場合が多い。
ルカの動画を撮影したのは繁華街らしいがその辺りはラブホテルや風俗店が軒を連ねている。
幸い、以前解析したことのある浮気動画で似た部屋のつくりを見たことがある。風俗店のふりをしたラブホテルだ。多少割高ではあるが、道具や危ない薬の提供もするので金回りのいい連中が好んで利用していた覚えがある。
そういえばルカと最後に会った時、様子が少しおかしかった。落ち着きがないというか。
具合が悪いのか尋ねたら前の日にサークルで酒を飲んでしまい悪酔いしてしまったとかと言い訳していたが、案外ここで危険ドラッグでもキメてたのかもしれない。
既に愛想を尽かしていたが、改めて気持ちが冷めていく。
さて、いよいよ間男くんの素性だが正直これは大体アタリが付いている。度々ルカが口にしていた”テニスサークルの先輩”という人物だろう。
あられもない姿でダブルピースするルカを膝上に乗せて男がにやにや笑っているシーンを静止画として取り出し、その顔だけを画像編集ソフトで切り出す。目元のぼかし加工など今の顔認証技術ならあってないようなものだ。
予想通り、大学のテニスサークル部員の紹介ページがヒットした。
名前がわかったところでさらに所属する学部や出身高校、犯罪歴の有無を割り出していく。
一年ほど前にバイクで事故を起こして捕まってはいるが保釈金を払ってすぐに出ていることがわかった。その後、民事でも訴えられて被害者に和解金を払っている。
実家が太いのかとSNSに投稿された写真を分析していると、家の前と思しき場所で撮影された写真があった。背景などから場所を解析し、市内の高級住宅街であることを特定。
翌日、実際に足を運んでみた結果、全国的に名の知られている地元企業の社長息子であることがわかった。
間男の素性が分かったところで、改めて最初の動画が投稿されていたサイトに戻る。
ルカとの動画と同じアカウントから投稿されている動画は100本近くに上った。
他の動画には同じテニスサークルに所属する女の子や未成年と思しき制服を着た子とのセックス動画もあり、ルカのように相手がノリノリの場合もあれば、同意を得ているか怪しいのも少なからずある。
ルカの相手と同じ男もいれば別の男である場合もあったが、素顔で撮影されている女の子に対し、こいつらは一様に目元にぼかし加工がなされているのが何ともせこい。
俺は動画を一つ一つ解析していく。
「こういうの見てムラムラしないの?」
股間がテントを張っていることを期待でもしていたのか、なだらかな布地を見つめながら上司が残念そうに尋ねる。
「どいつもこいつもプレイ自体は平凡ですからね。過去にサンプルとして渡された他の動画に出てくる男より明らかに下手糞ですし。というか、セクハラですよ」
「やだなー。平野君がムラついてるようなら福利厚生として性病の心配ない嬢を紹介してあげようと思っただけなのに」
「何考えてんだ、あんた…」
他の業務や大学の講義もあるので全て見るのに一週間ほどかかった。
その間にもルカから何度か連絡が来ていたものの全部無視する。
いくつか同じ授業を取っている筈だが彼女はそのどれにも欠席していた。
やがて初期の動画に目を通す中、被写体以外の声が入っていることに気づいた。
高校生と思しき少女と無理やり行為に及ぼうとする中、逃げようとする彼女がカメラの方に向かって来たのでそれを避けたものと思われる『おっ!』という野太い声。
手ブレがないことから三脚を使って撮影していると思っていたので、間男以外の人物がいることに今まで気が付かなかった。
かなり年配の人物を思わせる声質だった。
流石に短すぎるので声紋鑑定などに使えるか怪しかったが一応音声ファイルとして抽出しておく。
改めて動画を見てみると、確かに映像の女の子達がカメラ以外の”誰か”に視線を向けていると思われるシーンがいくつも見つかった。
さらにラブホテルらしい別の場所で撮った動画に窓が映り込んでいたので明度を調節して反射を浮かび上がらせると、確かに撮影機材の後ろに人影らしきものが見えた。
ここまできたら後は実際に撮影現場に足を運んだ方が早い。
動画群から得られたメタデータを解析して、彼らが撮影を行うのはもっぱら金曜から日曜の22時から深夜過ぎだということはわかっている。
今日は金曜日だ。時計は午後10時半を回った頃。
撮影を行っている可能性が高い。
そう思ったところで、ついさっきルカからまたメッセージが届いていたことを思い出した。
中を確認するとまた寝取られ動画。
それもライブ配信。
第三者の姿を確認するには絶好のチャンスだ。
上司に実地調査へ向かいたい旨を告げると「面白い。私が車を出してやろう。この時間では公共交通機関も便が悪くなっているし、見張りをするにも大学生の君は目立つからな」とついてくることになった。
「……もしかして既に何か掴んでます?」
そういや最初から和解金が何とかと言ってたな。
上司は車のキーを引き出しから取り出しながら愉快そうに笑った。
「まあ、通常業務とは別の個人的な小遣い稼ぎでな。君の彼女が関わっていたのは渡りに船といったところだった」
果たして、深夜1時頃に間男と一緒に出てきたのは地元を選挙区とする割と大物の政治家だった。
*****
「今度の選挙で対抗馬になっている候補から何か”市民に有益な判断材料”を探してほしいと個人的に頼まれていてね。例の風俗店に出入りしていることまで掴んだところで、平野君の元カノさんから送られた動画に同じ内装が映っているのを見てもしやとは思ったんだ」
「あそこ、5つくらいしか部屋ないですしね」
最初にルカから動画が送られて既に二ヶ月ほど経過していた。
ひととおり調査を終えた後、俺は間男とルカに直接関わらない調査結果に関する今後の対応を上司に任せることにした。
動画で素顔を晒された少女たちの中には下手に扱うと二次被害を生み出しかねないものもあった。ここは彼女に処理してもらうべきだろう。
ほどなくして例の政治家はまず公用車で夜の繁華街に出かけていることが地元紙に報じられ、その後大手の出版社に風俗店を利用していることをすっぱ抜かれた。最近はそこで行われる多種多様な危険プレイの内容も明るみに出始め、最早選挙どころではないとか。
「これは君の取り分だ」
そう言って寄越された茶封筒の中には縦に立たせられそうなほど分厚い札束が入っていた。上司の足元にはいかにもなアルミ合金のアタッシュケースが置かれている。
「もう未成年淫行で逮捕まで秒読みなのに和解金くれたんですか?」
俺が疑問を呈すると「ちっちっち」と上司は顔の前で指を振った。
あからさまなテンションの上がり具合が鬱陶しい。
「あいつから貰ったのは金じゃなくて”ネタ”だよ。それを元に国政にもう少し近い奴を揺すって、さらにそいつから得られたネタで幹部を揺すって……ってわらしべ長者方式さ。これは遥か上の方にいる”さるお方”から頂いた金だよ」
「なら、起点となった調査に貢献した俺ももう少し貰って良いのでは?」
「ふふ…平野君も自分の価値がわかるようになってきたようだね」
その言葉を待っていましたとばかりに上司は同じ分厚さの札束を更に2つ僕の前に積んだ。
「取り敢えずこれくらいやろう。もう少し積んでもいいが、あまり学生の内から大金を転がすのに慣れても良くないしな。後は他の女の子たちへ対応したことで発生した手数料とでも思っておけ」
上司の言う通り、件の風俗店の実態が報じられるにつれ、その裏ポルノを探そうと少なくない数の変態どもが裏サイトを漁ったらしい。
が、不思議なことにその大半が削除されていた。
警察に押収されている原本を除けば、コピーさえ出回っていないというのだから驚きである。
改めてこの上司の得体の知れなさを実感する。
「安心しろ、今後も私のもとでたんまり稼がせてやる。君達は姉弟揃って優秀だ。姉は逃がしてしまったが君に対して同じ轍を踏むつもりはない。美しぃ関係を築こうじゃないかっ」
そう言って眼鏡の奥で目を細める上司はどこか胡散臭く、だが同時に心惹かれた。
「それに平野君の場合、金はおまけみたいなものじゃないのか?」
彼女の指摘に、俺はバツの悪そうな表情で肩を竦めた。
*****
俺に寝取られ性癖はないので、浮気動画にはきちんとやり返させてもらった。
政治家が職務で都内に出張っており、間男が一人で例の風俗店に足を運ぶ日を狙って警察に通報。
別の女の子と撮影会を始めようとしていたところに踏み込んでもらい、未成年淫行や違法薬物の現行犯で逮捕してもらった。
地元を代表する企業、その社長息子の乱痴気騒ぎは大々的に報じられることとなった。
交通事故なら庇うことができた親も今回は庇いきれず、会社の経営が傾くくらいの悪影響が出ることは避けられないとは地元紙の分析だ。
それでもバカ息子が可愛いのか一時は保釈金を支払ってもらい出所した間男だが、出てきて3日も経たない内に被害者の彼氏を自称する半グレとその仲間たちにタコ殴りされ今は入院している。
ルカと間男の動画は消されることなく投稿サイトに残ったままにされ、テニスサークルの先輩である間男が逮捕されると瞬く間に拡散された。
ルカの素性についても世間の知ることとなり、飲酒、薬物、淫行と白日のもとに晒された結果、サークルからは追放、友人たちからも距離を置かれ、大学からは停学を命じられた。
停学の期間はとうに過ぎているが、そのまま休学して今も大学には来ていない。
実家に連れ戻されたとも、その後勘当されて家を飛び出したとも聞いたが、最早俺には関係のない話だ。
動画の存在が世間に知れ渡ると、寝取られ被害に遭った元彼氏君である俺のもとへも一時、高校時代の友人を始めとした知人友人から大量のメッセージが届いた。しかし、どれも興味本位で細かい事情を聞きたいだけの野次馬ばかりだったので全て無視。
そろそろ夏季休暇だが知り合いに会うのも面倒だし、今年は実家に戻らずバイトに励むことに決めた。
*****
大学に停学を言い渡された頃、一度だけルカが俺の部屋を訪れたことがあった。
バイトに向かう前に余計な荷物を置いていこうと一度学生マンションに戻ってきた、ある日のこと。
「あ、フウジ…」
ルカはバイトから帰ってくる俺を玄関で待ち伏せていたらしい。
足元には空になったチューハイの缶と、食べかけのコンビニ弁当。
久々に見る彼女は俺と最後に会った時とはまるで別人だった。
かつて黒く艶のあった髪の毛は金髪に染まりボサボサ。耳や鼻にはピアスをバチバチに開けており、化粧もけばけばしい。
目が忙しなく動き、夏だと言うのに寒そうに肩を抱いて震えていた。
「ご、ごめんね…本当にごめん…あたし、だ、騙されてたの…先輩に騙されて…も、もう、他に行くところないのっ」
これが禁断症状というやつなのだろうか。やっぱりあの風俗店でクスリをキメていたらしい。
「と、泊めてくれない…?あの、私…何でもするから…っ。フウジ、あたしに、な、何でもしていいからっ」
黙って立ち尽くす俺に縋るような目を向けてルカはさらに。
「あ、え、AV!AV撮ろっ。それでお金稼げるの!せ、先輩とし、してたみたいにっ!」
「いや、ほんと無理」
思わず考えが口に出てしまった。
「悪いけど、これから人と会うんだ」
「へ…?」
ルカが呆然とした顔で俺を見る。
「人って……お、女?」
「……うん」
まあ上司なんだけど。
バイト先のことはあまり言いふらすなと言われているし、勘違いを訂正する義理もないので簡潔に答える。
それにしてもひどい格好だ。何だか妙な臭いもするし。まともに風呂も入っていないのではないか。
ひどい経緯で別れた元カノとはいえ、流石に不憫になってきたので、財布の入っているポケットに手を伸ばしかける。
「タクシー代くらいなら出してやるからそれで病院まで…」
「う、裏切り者っ!」
ルカが叫んだ。
「裏切り者、裏切り者、裏切り者っ!あたしがいるのに、う、浮気とか何様のつ、つもり!?し、信じらんないっ…最低!最低っ!」
まだ俺の彼女のつもりだったとでも言うのか。
驚きを通り越して呆れるしかない。
ヒステリックに髪を振り乱して激昂するルカを前に、俺は彼女に抱いていた感情の最期の一欠片が溶けていくのを感じた。
財布に伸びかけた手が止まる。
荷物を部屋に置くことを諦め、踵を返して歩き始めた。
「ちょ、逃げるなっ、裏切り者のく、クソ野郎!お、お前なんか…お前なんか……っ!」
ルカはずっと俺を詰る言葉を叫んでいるようだったが、もうろれつが回らないようで何を言っているのか聞き取れなかった。
俺はそのまま二度と彼女を振り返らず歩き続けた。
OSINTについては軽くかじっただけなので正確な描写じゃないかもしれません。悪しからず。




