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お出汁の匂いとホルンの裏打ち――24歳結婚・25歳出産が義務の「丁寧な暮らし(国策)」に飼い慣らされる話

掲載日:2026/06/26

レディースのMサイズを試着なしでカゴに入れても、家に帰って袖を通せば、丈も幅も驚くほどぴったりと馴染む。それが私の身体だった。


太ってもいなければ、モデルみたいに目を引くわけでもない。

ドラッグストアの棚で一番安い泡洗顔を流しただけの顔には、自己主張をするようなパーツが一つも見当たらなかった。


格安量販店で買ったプラスチックフレームの眼鏡は、鼻パッドの当たる位置だけ、ファンデーションがいつも薄くヨレて脂を吸っている。


ワイヤレスブラのカップの底は、何をどうしてもスカスカに余った。

異性を惹きつける肉感もなければ、ハイブランドを骨格で着こなすような洗練さもない。


ただ垢抜けないという冷厳な事実だけが、服の上からでもなんとなく滲み出てしまう、そんな不器用な骨格だった。


勉強の成績も、その身体と同じくらい起伏がなかった。


中学校の定期テストの返却日。クラスの派手なグループが

「やばい、赤点確定だわ!」

と声を裏返して笑い、学年トップの秀才が静かに答案を裏返す、あの喧喧囂囂(けんけんごうごう)とした教室の中で、私の手元に置かれる五教科の合計は、いつも判で押したように350点付近だった。


平均点をちょっとだけ上回る。


けれど、職員室で先生たちの話題に上ることもなければ、親が特別にケーキを買って褒めてくれることもない。


通知表に並ぶ3の列と、申し訳程度に混じる4は、私が真面目で、波風を立てない、その他大勢の一人であることを証明する、無機質なIDカードのようだった。


そんな私が中高の吹奏楽部でホルンをあてがわれたのは、今思えば、引き寄せられるような必然だった。


きらびやかな主旋律を浴びるトランペットや、華麗なソロで拍手をかっさらうサックスの後ろで、私たちはベルを後ろに向けて座る。


ひたすらパッ、パッ、パッ、パッと、客席の誰も聴き取っていないような和音の裏打ちを刻み続ける。


「中村さん、ブレスのタイミング、周りと合わせてね」


先輩からの指示はいつも、全体の音を濁らせないための調律だけだった。


地味で、肺活量だけが必要で、主役を引き立てるためだけの歯車。

けれど私は、自分の自意識を押し殺して大きな音の壁の一部になるその感覚に、奇妙な居心地の良さを感じていた。


高校も大学も、学校の指定校推薦という、誰も傷つかない、競争のない裏口を静かに歩いた。


偏差値のグラフのちょうど真ん中にある高校から、少しお堅くて真面目なイメージだけが残った津田塾大学へ。


大きな挫折を知らない代わりに、自分の意志で何かを勝ち取ったという確かな手応えもないまま、私は女子大のキャンパスを歩いていた。


そんな私が、薄暗い講義室で出会ったのが、フェミニズムという名の劇薬だった。


それは、私のこの平坦で冴えない人生に、初めて鮮烈な輪郭を与えてくれる言葉たちだった。


なぜ自分がこれほど息苦しいのか。

なぜ女の子らしくという無言のルッキズムの圧力に、垢抜けない自分がすり減らされなければならないのか。


「私は、構造の被害者だったんだ」


その定義を受け入れた瞬間、私の自意識はパンパンに膨れ上がった。


私はSNSの匿名アカウントを開設し、夜な夜なスマホの青白い光に向かって、社会の不条理や家父長制の欺瞞に対する、刃のような言葉を書き殴った。


ネットの男たちの浅薄なクソリプを、学んだばかりの精緻な論理で徹底的に論破する。

その瞬間だけは、あの平坦な胸の奥が、確かに熱く脈打つのを感じた。


でも、現実に引き戻されれば冷酷だった。


ネットの海でどれほど鋭利な言葉を叫んでも、現実のキャンパスでは、髪を綺麗に巻き、ブランド物のバッグを持った選ばれた女の子たちが、男たちの視線を独占し、次々と就職を決め、絵に描いたような幸せのレールに乗っていく。


私の放つ正論は、ネットの男たちからはブスが僻んでいる、チー牛の女版と冷笑され、大学の友人からは

「なんか、中村さんっていつも怒ってて怖いよね」

と距離を置かれた。


戦いは孤独であり、何より寒かった。


大学を卒業し、都内の小さな事務職として働き始めてからも、私は自立という名の孤塁を守り続けた。

男性を警戒し、制度を疑い、一人で生きていくための薄い給与明細を握りしめて。


そして40代半ばの冬。

エアコンの効きの悪い、1Kの賃貸マンションの床で、私は脳溢血によってあっけなく倒れた。


薄れゆく意識の中で、私のスマホの画面には、自分が投稿した最後の社会批判に対する、冷たい嘲笑の通知が灯っていた。


誰にも看取られない部屋で、私が最後に思い出したのは、かつて部室の隅で凍えながら温めていた、あのホルンの冷たいマウスピースの感触だけだった。



気がつくと、私は再び、あの規格品の骨格の中に収まっていた。


中学のテストは350点。

吹奏楽部でホルン。

JINSの眼鏡。

胸元がスカスカに余るアースのMサイズ。

津田塾大学への推薦入学。


前世のタイムラインを、神様が悪ふざけでコピペしたかのように、「中村さん」として、私は二度目の人生の大学生活を送っていた。


ただ、世界の空気が、前世の記憶とは決定的に違っていた。


スマホの画面を開いても、かつて私の心をすり減らした、あのギスギスした男女論争の応酬がどこにもない。

過激なフェミニズムへのバッシングも、まるで歴史から消去されたかのように見当たらないのだ。


代わりにタイムラインを埋め尽くしていたのは、網膜に直接流れ込んでくるような、過剰なまでに美しいショート動画の山だった。


朝の光が差し込む、リノベーションされた部屋。


シンプルな白い食器に盛り付けられた、色鮮やかな常備菜。


お揃いの無地のシャツを着た若い夫婦が、お互いの髪を整え合いながら笑っている。


「24歳で結婚して、25歳で産んで本当に良かった。派手な生活じゃないけれど、毎日が丁寧で、愛おしい」という、丸っこくて優しいフォントのテロップ。


何、これ。


前世で自意識の牙を研ぎ続けた私の脳内が、激しく拒絶反応を起こした。


大学のラウンジで、友人がスマホを見つめながらため息をついた。


「ねえ、ゆいちゃん可愛すぎない? ほんと憧れる。ガツガツ働いて病むよりさ、24くらいでサラッと結婚して、こういう丁寧な生活送る方が絶対賢い選択だよ。私もう就活やめたいもん」


「何言ってんの」


私は思わず、前世の尖った声で遮った。


「女性が若いうちにキャリア捨てるリスク、ちゃんと考えてる? 経済的に自立してない結婚って、相手に依存するしかないんだよ。もしパートナーが働けなくなったら、その時点で詰むじゃん」


友人は、信じられないものを見るような、あるいは深い憐れみを湛えた目で私を見つめた。


「え……? でも、ゆいちゃんの旦那さん、めっちゃ優しそうだよ? 離婚とか病気とか、そんなばかり考えて生きてたら、何もできなくなっちゃうよ。なんか、中村さんって……いつもピリピリしてて、疲れない?」


その瞬間、全身の血が引くような恐怖を覚えた。


友人の言葉には、悪意も冷笑もなかった。

ただ、私の放った論理的な正論が、美しく消毒され温室に紛れ込んだゴミのように、周囲の空気によって自動的にミュートされたのだ。


一人になり、大学図書館の片隅でスマホの画面を見つめながら、私は冷や汗を流していた。


24歳結婚、25歳出産。

それがこの世界のエモさの標準値。


そのとき、前世のネットの底で、男たちが醜く、けれど嬉々として唱えていたあの言葉が脳裏をよぎった。


――25歳を過ぎた女は売れ残りだという、悪名高きクリスマスケーキ理論。


世界はあれを、撲滅したんじゃない。


もっと狡猾に、ピンク色のリボンと丁寧な暮らしというキラキラしたパッケージで包装し直したんだ。

24日の夜までに滑り込み、25日のうちにすべてを終わらせ、26日という売れ残りの日付を世界から抹消するために。

女たちが自ら進んで、最高の状態でケーキ箱に収まりにいくように。


(シン・クリスマスケーキ理論……。要するにこれ、女の消費期限ってことでしょ。エモい言葉で誤魔化して、25歳で出荷させてるんだ。教科書で読んだ、一番ずるくて、絶対に逃げられない構造の搾取だ……!)


総ガラス張りの広大な開放感が、急に息苦しいものに変わる。


ここはただの図書館じゃない。

お洒落な空気で満たされた、完璧に管理された温室だ。


逃げ出すための死角なんてどこにもない透明な空間で、私はスマホを握りしめたまま、底冷えするような恐怖に震えていた。



大学3年生の秋、世界は相変わらず優しく、そして冷酷だった。


前世の記憶を持つ私は、髪を黒く整え、リクルートスーツを着込んで大企業の総合職にエントリーし続けた。

でも、就職活動の市場は、前世よりもさらにアベレージに対して厳しくなっていた。


WEBテストや書類選考は何なく通過するものの、グループディスカッションや面接の段階になると、私は透明な壁にぶち当たった。


SNSで何万ものフォロワーを持つ華やかなインフルエンサータイプの学生や、帰国子女たちが、企業から次世代のリーダー候補として次々と青田買いされていく。

私のような真面目で、事務処理能力は高いが華がない層は、面接官から

「君、すごく良い子なんだけど、うちのフロントに立つにはちょっと地味かな」

と、優しい笑顔で切り捨てられた。


また、あの平均の檻だ。


誰からも見つけてもらえず、その他大勢の裏打ちとしてすり減っていく、あの孤独な死へのカウントダウンが始まる。


焦りで眼鏡の奥の目が乾き、ドラッグストアで買った安い目薬を何度も差した。


結局、私はどこにも選ばれないまま大学を卒業した。


そして、前世のタイムラインをなぞるように、都内の小さな会社に滑り込み、事務職として働き始めた。

二度目の、自立という名の孤塁だった。


手渡される毎月の給与明細は、前世と変わらず薄く、頼りなかった。


1Kの賃貸アパートの冷え切った床で、一人きりでコンビニのパスタを啜る夜、暗い部屋に響く冷蔵庫の重低音が、私の精神をじわじわと削っていく。


職場で男並みの成果を求められてはすり減り、夜中に一人で、もし今倒れたら誰が救急車を呼んでくれるのだろうかと震える日々。


気がつけば、社会人2年目の秋を迎えていた。

私は24歳になっていた。


消費期限が、すぐ目の前に迫っていた。


前世のあの、誰にも看取られずにスマホの光の中で死んでいった孤独死へと向かう足音が、すぐ後ろまで迫っている。

その恐怖と焦燥感が極限に達していたある日、私はスマホの画面に流れてきた、不自然なほどクリーンな広告に目を留めた。


一般社団法人 日本ライフ・ハーモナイズ・コンソーシアム 主催

『デジタル・ウェルビーイング時代のライフデザイン・ワークショップ』


――就職活動や日々の仕事に疲れたあなたへ。自分らしい、丁寧な生き方の正解を、一緒に見つけませんか?

(※ 参加者には、提携パートナー企業による「完全リモート・残業ゼロ・地域限定職」の特別選考ルートをご案内します)


引き寄せられるように、私はそのワークショップが開催される、郊外のリノベーション古民家へと足を運んだ。


集まっていたのは、驚くほど私と似た空気を持つ、疲れ切った同世代の女たちだった。


眼鏡率が高く、服装はシンプルで主張のないデザイン。

普通のなかの最高峰たち。


ワークショップは、メディア・リテラシーの講習という建前で行われた。


最新のスマホを手渡され、庭の緑や、古い木造の床に落ちる日差しの陰影を、いかに15秒の美しい物語として切り取るか、という技術の習得。


「今の社会は、過剰な競争と承認欲求で、若者の脳が疲弊しています」


フロントに立つ、いかにも育ちの良さそうな、でもどこか無色透明な雰囲気の女性が、不思議と心地よい声で語りかける。


「私たちが提供するのは、環境としてのウェルビーイングです。過度なキャリア競争から降り、身の回りにある素朴な幸福を正しく発信すること。それが、これからの時代を生き抜くスキルです」


私は、スマホ越しに古民家の縁側を覗き込んだ。


画面の中の世界は、西日の光をドラマチックに増幅させ、木造の床の傷や安っぽさを、まるで映画のワンシーンのように美しく塗り替えていた。


ワークショップの帰り際、サポーターとして参加していた、素朴で幸せそうな若い夫婦が、私にそっと近づいてきた。


「中村さん、動画の切り取り方、すごく丁寧で視線が優しいですね。お顔立ちも真面目そうで……もしよかったら、私たちの提携先である大手企業のライフサポート枠の面接、受けてみませんか? 」

「完全在宅勤務、残業は1分もなし。初任給は一律で25万円が保証されています。何より、自分の家庭の時間を一番に大切にできるお仕事です」


それは、戦場で自分の存在価値を否定され、孤独死の恐怖に怯えていた私の耳元で囁かれる、あまりにもお膳立てされた幸福の規格だった。



出来過ぎている。絶対に裏に、何か巨大な仕組みがある。


アパートに帰った私は、ノートパソコンを開き、その組織の背景を調べた。


でも、調べれば調べるほど、その構造の美しさに絶望することになった。


資金源は国の公的な予算。

提携企業は、人手不足に喘ぐ、けれど資本だけはある保守的な大手企業ばかり。


難しい理屈はわからない。

でも、なんとなく察してしまった。


これは、私みたいな真面目で、スキャンダルのリスクがなく、手がかからない女の子をそっとすくい上げて、優しいゆりかごに囲い込むための、国家規模のシステムなんだって。


そこに身を委ねて、24歳結婚、25歳出産のタイムラインに乗ること。

それこそが、この世界が用意した、一番賢くてエモい生き方なのだ。


私は絶対に乗らない。

そんなシステムに飼い慣らされるなんて。


私は、書きかけの職務経歴書をゴミ箱に叩きつけようとした。


窓の外からは、冷たい雨の音が聞こえていた。


批判に人生を捧げて、またあの冷たい床で凍え死ぬか。


それとも、この温室で、優しく飼われるか。


(……もう、疲れた)


私は、ゴミ箱の上で静かに手を止め、書類のシワを、手のひらで何度も、何度も丁寧に伸ばした。


25歳になる手前の冬、24歳の私は婚姻届を提出した。

クリスマスイブの夜に、滑り込むようにして。


相手は、ワークショップの懇親会で紹介された男の人だった。

サンリオピューロランドへ行くときに車窓から見かけた、あの明星大学という私立大学の出身。

学生時代は、吹奏楽部でチューバを吹いていたという。


仕立ての良いスーツなんかより、洗いざらしの無地のシャツが不思議としっくりくる、少し猫背の、真面目で誠実な人。


彼は、私が何を言っても絶対に否定しなかった。


前世でネットの男たちと血を流しながら殴り合っていた私を遠い昔の幻にするかのように、ただ、プログラムされたNPCのような、あるいは菩薩のような、凪いだ優しい微笑みを返すだけの人だった。


派手な結婚式は挙げなかった。

そんな派手な承認欲求は、私たちの丁寧な日常には必要ないから。


私たちは、国の予算で綺麗にリノベーションされた、郊外の美しいデザイナーズ社宅に入居した。

家賃は驚くほど安く、窓からは遮るもののない、静かな街並みが見渡せた。



25歳になった私は、あの理論の計算通り、第一子となる女の子を出産した。


土曜日の午後。


私は、部屋に漂うほのかな柑橘類の香りのなか、生後3ヶ月の娘を胸に抱いて、ソファーに深く身体を預けていた。

キッチンからは、夫が動画で見真似したという、昆布と鰹節から丁寧に取った出汁の、あたたかい匂いが漂ってくる。


私はスマホを持ち上げ、娘の小さな、けれど柔らかな手のひらにレンズを向けた。


15秒の動画を撮影する。


TikTokのフィルターが、床に転がったオムツの袋を綺麗に画面外へ追いやり、西日の光だけを増幅させて、娘の産毛を黄金色に輝かせる。


動画をアップロードする。

テロップには、短い言葉だけを添えた。


『25歳でママになりました。何もない日常だけど、この小さな手が、私の世界のすべてです。#丁寧な暮らし #若い夫婦 #幸せの正解ルート』


投稿ボタンを押して数分。


画面には「いいね」のハートマークが、温室のなかで静かに舞い落ちる花びらのように、またたく間に溢れていった。


画面の奥でハートが灯る。

パッ、パッ、パッ、パッ。


私の人生の裏打ちが、世界の優しさと、心地よく同期していく。


かつて前世で、鋭い社会批判を呟いたときに浴びせられた、あのトゲトゲした罵詈雑言は、ここには1つもない。


もし誰かが何か批判的なことを書き込もうとしても、この優しい空気の前には、ただの「惨めな人の嫉妬」として、世間の側から自動的にミュートされる。


私はスマホを伏せ、娘の温かい体温を、胸全体で受け止めるように優しく抱きしめた。


私は、完全に飼い慣らされている。


前世の記憶を持つ私は、その事実を冷徹に理解していた。


自分が、この世界のどこか裏側にある、恐るべきプロパガンダの、これ以上ないほど従順で美しい成功サンプルとして機能していることを。


15秒の、あの完璧に調律された快感に身を委ね、あらかじめ用意された完璧なゆりかごの中に、自ら進んで囲い込まれた歯車であることを。


思考を奪われ、あらかじめデザインされたアベレージの幸福を、自分の意志だと錯覚させられているだけの、巨大な箱庭。


だけど。


私は、娘の小さな呼吸の規則的なリズムを感じながら、そっと目を閉じた。


前世の、あの冷え切った部屋で、正論という名の乾いた武器を振り回し、社会への怒りに身を焼き尽くしながら孤独に死んでいった私に比べたら。


この、計算し尽くされた温室のなかで、感情を去勢されたように優しい夫の取る出汁の匂いを嗅ぎ、我が子の体温に満たされている今の私は、どれほど、どれほど救われているだろうか。


「……パッ、パッ、パッ、パッ」


私は、口ずさむように、小さくホルンの裏打ちの音を呟いた。


主役になれなくてもいい。

誰も聴いていない和音のままでいい。


それが、この巨大な世界が、持たざる者である私に差し出してくれた、最も賢くて、最もエモい、幸福の規格なのだから。


キッチンから

「お出汁、いい感じに取れたよ。お昼にしようか」

と、夫の穏やかな声が響いた。


「今行くね」


眼鏡をかけ直した私は、満ち足りた微笑みを浮かべ、ソファーから立ち上がった。


私は今、この完璧に管理された世界の底で、間違いなく、世界で一番、しあわせだった。

※この作品はフィクションであり、実在する人物、地名、団体とは一切関係ありません。

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