第1話 燃え尽き令嬢と、タブロイド紙。そしてレクター・ギリアム再度の登場
この作品は『理外の公爵令嬢。魔力9999の勇者(仮)と世界を解く』の続編で、第三部にあたります。
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9月末、シャルルの貧民街でーー
「テオ、イラストはまだか!?」
「…うるさい、今描いてる」
カリカリと銅板をニードルで引っ搔く。隣にはスケッチブック。モデルの少女は馬上の姿。
…フランソワであった。
「ああ、早くしてくれよ! 俺のよ、俺の魂が震えてるんだよ! 一刻も、一秒でも早くこの真実を世界に広めたいってよ! もう言葉と文字が溢れてとまらねぇ! ああもう、もう少し、あと一枚、紙が使えりゃ全部埋め尽くすつもりなのによ!」
ハンチング帽を被った青年が一人。もう一人はハーフアップの淑女。青年の名をマルティス、淑女の名をテオフィールと言う。
「…黙ってて」
「お、おう…」
テオフィールの圧に気圧され、流石のマルティスも口をつぐんだ。
「今、良いところだから」
「良いところって、ずっと髪を掘ってないか?」
「…だから良いんじゃん。まだだよ、まだ足りない…彼女の…フランソワと言ったっけ。無垢なあどけない感じを残しているのに、既に瞳は世界の理を見ている…あんな子、あたしも見たことがないよ! ああ、もう少し、あと少し、彼女を表現したい!」
「わかる、分かるぜテオ。俺もあのグランド・ディベートを見てから、魂の叫びがとまらねぇや!」
「それより、マルス」
マルティスの愛称だ。
「紙は、何枚あるの?」
「おう、50用意したぜ。いつもより奮発してな!」
「…足りない」
「え?」
「足りないよ、50じゃ。もっと、もっと世界に彼女を知らせなきゃ…」
「な、なら…70?」
「100だよ」
「ひ、ひゃ、ひゃく!?」
紙と言えば超高級品。しかも粗雑な印刷に耐えうるものとなれば尚。
「は、破産しちまうぜ!」
「なに言ってんだい、もう破産してるようなもんだろ」
「そ、そりゃそうだが…」
「情けないねぇ。それでも男かい?」
「わ、わかった! わかったよ! そこまで言われちゃ男が廃る! 見てろ、テオ! 今すぐ紙の50や100、用意してくるからよ!」
マルティスがそう言って工房を出て行った。
「墨もだよ!」
「わかってら!」
古びた印刷機と、飛び跳ねた墨で黒くべた付く柱。
印刷工房、兼、銅板制作工房である。
彼らが出版するタブロイド版、『オーロール・クロニクル』の、これがすべてであった。
同じく9月の終わりの王立学院。あれだけ蒸し暑かった気候もようやく落ち着き、そろそろ冬物でも…と、衣替えを考える季節。
「なんだか、身が入らないのよねぇ」
いつものセドリック特別研究室。フランソワらは各々好きな研究に打ち込んでいた。
「どうしたんや、フランソワはんらしくもない」
「なんというか…気が抜けたというのかしら?」
「ハーブティーでも淹れやすか?」
研究室の片隅にはマルタが実家で仕込んできた漢方薬の類がわさっ、と積んであるわ。
「そうねぇ…。なんか、こう…シャキッとするやつ」
「ちょいと失敬…」
マルタに額を触られたわ。ちょっとひんやりしていて、気持ちいいわね。
「熱はないでやんすね。失礼でやすが、口を開いてもらっても」
「ん」
風邪とかじゃ無いと思うんだけどなぁ。と、言いつつマルタに任せる。喉を触られて、脈も取られたわ。
「いつから、気分が優れないでやすか?」
「んー、ディベートから?」
「気が抜けたんちゃう?」
そうかも。二ヶ月くらい、休む暇も無かったし。
「そうでやすね、姫さまは特に不眠不休でやすし。夜は寝れてやすか?」
「寝れてるような、寝れてないような…」
「失礼しても?」
「いいわ」
今度は肩と首筋、それから頭。ほわ、マルタって按摩も得意なのね。しばらく揉まれたわ。心地がいいわね。
「ちょいと神経が疲れてるのかもしれねぇでやすね。ラヴェンダーの香り袋を用意しやす。今晩は枕元に置いて、寝る前にカモミールティーを飲んでくだせぇ」
「ん、そうする」
マルタって数学センスだけじゃなくて、薬草知識も豊富ね。そりゃ、薬屋の娘だし、お茶の子さいさい、という奴かしら。
確かに、なんだかこう、芯が入ってない気がするのよね。今日は早めに切り上げて、ゆっくり過ごそうかしら。ディベートの後、翌日は丸一日寝続けて、その次の日はなーんにもやる気が起きなくて珍しくゴロゴロしてたんだけど…。流石に秋学期も始まったし、よし、仕切り直し、なんて思ってはいたのよね。お風呂にもじっくり浸かってみたけれど、どうもぴりっ、としない感じに変わりはないし…。月のものにはまだ早いから、やっぱり気が抜けたのかも。一回、ちゃんとリセットした方がいいかしら。
「それじゃ、今日は切り上げてお茶にしようよ」
エラリーは楽しそうね。
「ん~。お茶と言う気分でもないのよね…」
思い切って武道でもしようかしら。最近、研究続きでおざなりになってるし。丁度いい組み手の相手はいないから、素振りばっかりになるけれど。
そんな風に考えていると。
「や、セドリック特別研究室というのはここかな?」
ひょい、と軽い感じで顔を出した人がいたわ。
「わ、ギリアム様。どうしたんです?」
エラリーがお出迎えしてくれたわ。
「いやぁ、ちょっとね…ところでフランソワ殿はどうしたんだい?」
「いやな、ギリアムはん。ディベートが終わってから、最近こんな調子なんですわ」
もう二週間くらい経つのだけど…私、そんなに酷かった?
「ははは、フランソワ殿は大活躍だったからね。挨拶は今度にした方がいいかな?」
「挨拶ですか?」
立つのも面倒になっちゃって、着座のまま失礼させてもらったわ。
「ああ、そうだよ。今日からセドリック特別研究室にお世話になろうと思ってね」
「…? 私の聞き間違いでなければ、セドリック特別研究室にお世話になる、と聞こえましたけれど」
「まるで聞き間違いじゃないね。というか普段のフランソワ殿はこんな感じなんだね」
「ううん、いつもより酷いよ? 今日は溶けてるもん」
エラリーさん? 最近私に冷たくない? やっぱりクジラのレア オブ レア が良くなかったのかしら?
「ほんで、どういう事やろ?」
「そのままだよ、この前のディベートでロッサム教授に愛想を尽かされてね。それなら卒業までの短い期間だ、自分の好きなことをしようと思ったまでさ」
「…愛想を尽かした、のお間違いではなく?」
「はは、口の鋭さは変わらないね」
「普段通りですわ…そういえば」
ギリアムには聞きたいことがあったのよね。
「ディベートの『オイル』の引っ掛け、気づいてらして?」
「当然」
ほー、とニコラスが感心する。
「ほな、アレはアシストしてくれた、ちゅーことですか。ヴィクトールはんをけしかけたように見えたけど」
「ニコラス君の言う通りさ。第一、オリーブオイルは『オリーブ』と略しても、『オイル』とは略さないだろ」
「流石でやんす、でもどういう心境で?」
マルタも話に乗ってきたわ。私もそこは気になる。
「そうだね、折角だし、今日はディベートの振り返りでもしようか。ところで…」
ギリアムが周りを見渡したわ。
「椅子を使わせてもらっても?」
これは大変な失礼をしたわ。
引き続き、第三部でもよろしくお願いします!
タイトルから何やら不穏な気配…。果たしてどうなるのか。ぜひお楽しみくださいませ!
※明日以降は12時30分投稿に戻ります。
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※この作品は『カクヨム』様、および『アルファポリス』様でも連載しています。




