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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
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市場での日常

 戦いの炎に包まれていた領都の市場は、少しずつ活気を取り戻しつつあった。

 焼け焦げた屋台の残骸を修繕する音。鍋をかき混ぜる音。子供たちの笑い声。

 そのどれもが、あの戦いが確かに終わったことを告げている。


 僕は仲間たちと共に市場を歩きながら、領民の様子を見回っていた。




「これ、食べてみて!」

 シャミーが真っ先に飛びついたのは、新しく立った屋台の甘い焼き菓子だった。

 たっぷりの蜂蜜をかけた小さな焼きパンを、子供たちに分け与える。

「ほら、君のぶんだよ!」

「ありがとー!」

 子供たちが笑顔でかぶりつき、口の周りを蜂蜜まみれにする。

 その様子に、シャミーも嬉しそうに笑っていた。


「……やっぱり、こういう笑顔が一番いいね」



 一方で、アーリアは本屋の露店に立ち寄っていた。

 埃をかぶった古文書を丁寧に開き、真剣にページをめくる。

「古代の儀式……七魔将の記録……こういう断片的な情報でも、必ず役立ちます」

 彼女はそう言いながら、光に透かした紙の文字をじっと読み込んでいる。

 僕が声をかけると、ほんの一瞬だけ笑みを見せた。

「セージ様が守ってくれたから、こうして本を読むことができます。……それだけで十分です」



 市場の中央では、修繕が進んだ屋台で領民たちが互いに物資を分け合っていた。

 戦いで荒れ果てた街が、少しずつ「生活」を取り戻している。

 ミレイユがその中心で、巧みに交渉していた。


「この木材をまとめて買うなら、食料の供給を約束しましょう」

「さすが旦那様の奥方だ……まったく敵わねえな!」


 領民たちが笑い合い、物資が整っていく様子を見て、僕は思わず苦笑する。


 エリスについて商売の最前線にいただけあって、交渉力が素晴らしい。


 ――やっぱり、僕一人じゃどうにもならない。こうして嫁たちが支えてくれるからこそ、今がある。


 ふと顔を上げると、焼け跡の上に子供たちが小さな花を植えていた。

 彼らなりに「街を立て直そう」としているのだろう。


「セージ様!」

 少年の一人が僕に気づき、泥だらけの手を振った。

「ありがとう! もう、怖くないよ!」


 胸の奥がじんと熱くなる。

 僕はその子の頭をそっと撫で、静かに答えた。


「これからも、一緒に守っていこう」


 ――英雄と呼ばれることに慣れる日は来ないかもしれない。

 けれど、彼らの笑顔を見るためなら、何度だって剣を取る。



 昼下がりの市場は、もう戦いの影を忘れたかのように賑やかだった。

 復興の途中とはいえ、人々は笑い声を絶やさず、焼き魚や果実酒の匂いが漂ってくる。


「おいおい、聞いたか! あの化け物みたいな尖兵を斬り裂いたのは、黒髪の剣士らしいぜ!」

「いや、俺は見たぞ! 炎をぶっ放してたのは赤い髪の魔族の姉ちゃんだ!」

「バカ言え、青狐の弓使いだろ! 氷の矢で敵を串刺しにしてたんだ!」


 冒険者たちが酒場の前でわいわい言い合っていた。

 どうやら僕たちの戦いぶりが、もう武勇伝のように語られているらしい。


「――おい、当の本人が来たぞ!」

 誰かが僕を指差し、どっと視線が集まった。


「お前らのおかげで助かったぜ!」

「すげえ剣筋だったな!」

「まさかあんな地獄を退けるとは……本当に英雄だ!」


 口々に浴びせられる言葉に、僕は苦笑しつつ肩を竦めた。

「僕一人の力じゃない。みんなが支えてくれたからだ」


 その瞬間――。


「そのとーり。すべてはルミナスのおかげ」

 ルミナスがどや顔で現れ、腰に手を当てて胸を張った。

「炎でドカン。氷でガチーン。敵も真っ青。隕石雨あられ。ルミナス凄い。ドヤァ」


「はぁ!? 狙撃で弱点を抜いたのは私なんだけど!」

 青髪に変装したリンカが即座に食ってかかる。

「炎なんて派手なだけ。仕留めたのは私の矢でしょ!」


「ふふっ。お二人の功績も素晴らしいですが……皆を癒し守ったのは、私ですよ?」

 セレスが微笑みながら胸に手を当てる。

「光の加護がなければ、とっくに壊滅していたはずです」


「そ、そうだな……みんながいたから勝てたんだ」

 慌てて取りなす僕に、冒険者たちが大笑いした。


「ははは! 英雄様も尻に敷かれてるな!」

「やっぱり女房の力が最強ってわけか!」


 ルミナスとリンカが「とーぜん」「あたしは第一夫人!」とやり合い、場はさらに大盛り上がりになる。


 その少し離れた場所では、ミレイユが商人たちと交渉をしていた。

「この布をまとめて仕入れるなら、麦粉を安く譲ります。どうです?」

「まったく……旦那様に似て商売上手だ!」


 あっという間に物資のやりとりがまとまり、人々が笑顔で頷き合う。

 商人の一人が僕の方を振り返り、大声で叫んだ。


「お前さんは英雄だが――奥方は商売の英雄だな!」

「いや、むしろ本当の切り札は奥方かもしれんぞ!」


 僕は頭を抱えるしかなかった。


 陽が傾き始め、市場の灯がともる。

 瓦礫だらけだった街は、少しずつ元の姿を取り戻しつつある。


 僕はふと立ち止まり、人々の笑顔を見渡した。

 ――戦いのあとに、こんな笑いが戻ってくるなんて。


 胸の奥に温かさが広がり、剣を握る理由がまたひとつ、はっきりと形を取った気がした。


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