表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
91~100

この作品ページにはなろうチアーズプログラム参加に伴う広告が設置されています。詳細はこちら

93/145

因縁の対決 後編

 光がうなり、輪が唸った。

 僕の剣を軸に幾重もの光輪が収束し、父とマハルを中心へと絞り上げる。輪と輪の間を、細い刃のような斬撃が縫い、闇を押し潰すたびに、黒い瘴気が悲鳴を上げて弾けた。


「き、貴様ァァ――!」

 マハルの雷が光輪を裂こうと暴れ、青白い稲光が天井を走る。

 対して父――異形へ堕ちたゴルドールは、肥大化した腕で輪を叩き割りながら前へにじり出た。瘴気が剥がれ落ちるたび、床の紋が脈打って力を補い、傷が瞬きの間に塞がっていく。


「セージ君!」

 リンカの声が飛ぶ。青い髪の下、耳がぴくりと動き、【分析】の光が瞳に走った。

「供給源は玉座下! 床紋が“血脈”みたいに繋がってる! 核を止めないと回復は止まらない!」


「ルミナス、行けるか!」

「行ける。ルミナス、凍らせる――!」

 氷の気配が一気に広間に満ち、《アブソリュート・コキュートス》が紋の走路を凍結していく。床石の間に白い霜の筋が走り、黒い脈動をぎゅっと締め上げた。


 だが、核そのものは鼓動を止めない。凍結した走路を逆流するように、濃密な瘴気がたわんで押し返してくる。


「……聖なる封、もう一枚必要です」

 セレスが祈りの光を編み上げながら、震える吐息を漏らした。その額に汗、掌は白く震えている。

 次の瞬間、胸の奥で神の声が刃のように閃いた。


―――――

『魔素ストック受領。対象:セレスティア。新奇跡【黎明封核(れいめいふうかく)】を発動可能』

―――――


 僕の中の魔素が、ほとんど反射で彼女へ流れ込む。

「セレス――受け取って!」

「……はい!」


 聖女の口元に微笑が灯り、祈りが形を取った。

 床一面に若枝の紋様が生え広がる。光の根が石の隙間へ潜り、凍結したルミナスの氷と絡み合って核へ辿りついた。

 次いで――聖樹の印がぱちん、と音を立てて閉じる。玉座下の鼓動がひゅうっと萎み、父の皮膚を走る黒い血管がみるみる痩せた。


「な……何を、した……!」

 ゴルドールの巨躯がぐらつく。癒えかけた裂傷が止まり、瘴気が剥がれ、ただの傷が残る。

 マハルもまた、雷の奔流が弱まり、息を荒げて膝をついた。


「父上、立て! 俺に力を回せ!」

「黙れ、役立たずが!」

 父の巨腕が、血が滲むほど強くマハルの肩を掴む。

 黒い爪がめり込み、肉を裂いた。


「ぐあっ……!」

 悲鳴。反射的にマハルの剣が父の胸甲へ突き上がる。

 雷光が走り、焦げた匂いが広間に広がった。


 光輪が締まる。僕は剣に更なる“ため”を重ね、輪の速度を一段引き上げた。

「ここまでだ、ゴルドール・タブリンス。これ以上は――誰も救えない」


「救うだと?」

 ゴルドールの口が裂け、歯茎を剥き出しにして笑った。

「救うのは我だ。強い者が、弱いものを“管理”する。それが秩序だ。お前は、その秩序から落ちたのだ、セージ」


 胸の奥で、何かが静かに切れた。

 僕は息をゆっくり吐き、目だけで彼を見た。


「……だから僕は、捨てたんだ。あなたの秩序を。恐怖で縛るだけの家族を」


 父の巨腕が振り下ろされる。

 光輪が砕け、破片が光の火花のように散った。

 その隙を――マハルが突いた。夥しい憎悪の叫びとともに、雷剣が一直線に僕へ。


「やめ――!」

 踏み込み、剣で弾く。火花。腕に痺れ。

 すぐ横、父の爪が風を裂いて通過し、マハルの頬を大きく抉った。


「な、何を――父上!」

「お前の血は薄い。器ではない」

「俺はっ、俺は“タブリンス家の後継”だああああ!」


 二人の怒号が重なった。

 光輪の残滓が弾け、氷と聖封がきしみ、崩れた天井から粉塵が雪のように舞う。

 その渦中で、僕は剣を、彼らではなく――床へ向けた。


 玉座の前、紋の中心に刃を突き立てる。

 【破魔斬光陣】――核だけを選択して断ち切る、微細な多層斬撃。

 輪の演算を極限まで絞り、一本一本を髪の毛より細い解像度に折り重ね、聖封と氷封の隙間へ滑り込ませる。


「――砕けろ」

 静かな囁きの直後、玉座下で何かが壊れる音がした。

 脈動が止まり、黒い血脈がぺたりと床に貼り付く。


 ゴルドールが仰け反る。供給を絶たれた巨躯から、瘴気が煙のように抜け落ちていく。

 マハルの雷剣がふらつき、盾も構えられないほどに膝が震えた。


「父上……っ」

 血に濡れた顔でマハルが縋る。

 ゴルドールは人の眼に戻りかけた視線で息子を見下ろし――次の瞬間、むしろより深く濁った。


「下民の顔を、しているな」

 哄笑と共に、残る魔を息子へ引きずり込もうと腕を伸ばす。

 掌から黒い吸引が鳴り、マハルの体が軋んだ。


「や、やめ――」

 その瞬間、雷剣が反射で胸へ。

 刃が肺を穿ち、父と息子の体が、互いの血で繋がった。


 時間が止まったように静かだった。

 僕は、息を吸い――吐いた。


「……やめろ。これ以上、自分たちで自分たちを壊すな」


 踏み込み、二人の間へ割って入る。

 光輪の残光を“帯”のように伸ばし、ふたりの腕と剣を解く。

 刃をねじり、雷を流し、爪を外す。

 だが傷は、もう深すぎた。


 父は血を吐き、笑い、そして喉の奥で潰れた声を零した。

「地味な……スキル、だと……思っていた。ためて、放つなど……取るに足らんと……」


 僕は首を横に振った。

「地味かどうかを決めたのは、剣でも魔でもない。あなただよ」


「……そうか」

 わずかに、眼差しが揺れた。

 どこか遠いところを見つめるような目だった。

「……遅かったか」

 言葉が落ち、肩が落ちる。

 重たい体が膝をつき――そのまま前へ崩れようとした瞬間、床がうねり、黒い紋が最後の悪あがきのように逆流した。


「来ます!」

 セレスの警告と同時、玉座下の亀裂から黒い棘が噴き上がる。

 核が断たれた反動――封じられた瘴気が、宿主を失って暴れる。

 父とマハルへ、そしてこの広間にいる全員へ向けて。


「ルミナス!」

「任せる!」

 氷壁が幾重にも立ち上がり、棘を鈍らせる。

 セレスの聖幕が重なり、破片を受け止める。

 それでも――足りない。中心がまだ暴れている。


 僕は剣を握り直し、最後の“ため”を刃にかけた。

 胸の奥にわずかに残っていた魔素が、ほとんど反射で満ちる。

 光輪がひとつ、ふたつ、十重に重なり、今度は「捕縛」ではなく「圧縮」の陣型を描く。


「【神滅光輪陣】――最終式」


 輪が核へ落ちた。

 金属音のような軋み。聖と氷の封印に、光の圧搾が加わり、黒の塊が拳大まで縮む。

 やがて、ぱち、と灯が消えるみたいに、瘴気は音もなく弾けて――無になった。


 ふら、と父の体が揺れる。

 マハルも血の海に膝をつき、力が抜けた剣を落とす。


「父上……俺を……見てください……俺は……」

 震える指先が宙を掻き、空しく落ちる。

 父は遅れて、ゆっくりと息子の方へ顔を向けた。

 唇が動き、何かを言いかけ――言葉は出なかった。


 僕は二人に近づき、同じ距離で膝をついた。

 言葉を選び、喉の奥で切り、ようやくひとつだけ出す。


「……さようなら」


 静かだった。

 父の胸の上下が止まり、マハルの指が動かなくなり、広間の風が戻ってきた。

 残響だけが、ずっと遠くで続いているように感じた。


 次の瞬間、光が僕の胸へ雪崩れ込む。

 膨大な魔素――人ひとりが抱えるには過ぎた力が、一気にストックへ注ぎ込まれていく。

 誰にも見えない奔流。誰にも理解できない重さ。

 僕だけが、それを受け取った。


(……終わった)


 剣を納めようとしたとき、リンカが駆け寄ってきて、そっと僕の肩に触れた。

「セージ君……」

 彼女の指が微かに震えている。青い髪の向こうで、銀の尾が静かに揺れた。


「大丈夫」

 言葉に、かすかに掠れが混じった。

 ルミナスが隣でこくりと頷く。

「終わった。ルミナス、見た。もう、悪い脈動はない」


 セレスが祈りを閉じ、胸の前で手をほどく。

「二人の魂に……安らぎがありますように」

 その声は、誰をも責めなかった。

 ただ、終わりを告げる鐘のように澄んでいた。


 広間の柱に亀裂が走り、天井から砂がぱらぱらと落ちる。

「撤退だ」

 僕が立ち上がり声を張ると、冒険者たちが散って避難路を開き、仲間が救援に走る。

 リンカが先導し、ルミナスが氷で簡易の支柱を作り、セレスが後方を守った。


 最後に振り返る。

 玉座は崩れ、血は乾き、闇は消えた。

 父と弟は、互いに距離のあるまま二つの影になって、静かに横たわっている。


 僕は胸の中で、短く言葉を置いた。

(僕は、二度と憎しみで剣を振らない)

(けれど、恐怖で人を縛る世界も――許さない)


 踵を返す。

 広間を出た途端、夜風が肺の底まで冷たく流れ込んだ。

 城壁の向こう、夜の領都はまだ騒がしい。だが、空はもう黒くない。

 東の端に、ごく薄い灰色の線――夜明けの気配が張りついていた。


 背後で、崩落の音が遠雷のように響く。

 僕は仲間たちのもとへ歩き、うなずき合い、短く言った。


「……行こう。ここから、領地を取り戻す」


 青い髪の弓手が笑い、魔族の少女が拳を握り、聖女が静かに頷く。

 僕は剣の重みを確かめる。胸の内で、ため込んだ光が静かに呼吸をしている。


 地味だと思われたこの力で、世界を変える。

 それが、僕の――僕たちの選んだ道だ。
























評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
【ファンタジーです】(全年齢向け)
地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~
★リンクはこちら★


追放された“改造師”、人間社会を再定義する ―《再定義者(リデファイア)》の軌跡―
★リンクはこちら★
神のバグで棄てられた俺、異世界の裏で文明チート国家を築く (11月1日連載開始)

★リンクはこちら★
【絶対俺だけ王様ゲーム】幼馴染み美少女達と男俺1人で始まった王様ゲームがナニかおかしい。ドンドンNGがなくなっていく彼女達とひたすら楽しい事する話(意味深)

★リンクはこちら★
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ