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地味スキル「ためて・放つ」が最強すぎた!~出来損ないはいらん!と追い出したくせに英雄に駆け上がってから戻れと言われても手遅れです~  作者: かくろう
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因縁の対決 前編

 重い扉が軋む音とともに、赤い絨毯の先で巨体がこちらを睨んだ。

 領主――ゴルドール・タブリンス。僕を「出来損ない」と切り捨て、追放した実の父だ。


「戻ってきたか、出来損ないが」

 濁った声。玉座の横にはマハル。弟は憎悪を隠さず、剣を抜いた。

「父上、あの男は出来損ないです。ここで斬る」


 胸の奥が一瞬だけ疼く。けれど、迷いはもう置いてきた。

「戻るためじゃない。終わらせるために来た」


 リンカの声が【遠距離念話】で耳に落ちる。

『【分析】完了。床下に異形化儀式の核、玉座周りに封印結界。梁に弓兵、柱影に尖兵。合図で一斉突撃の配置』

 短く息を吐き、剣に手を添える。

「全員、予定通り。――リンカは上、ルミナスは左、セレスは後方の民の避難路を結界で確保」


「吠えるな、廃嫡児」

 ゴルドールが肘掛けを叩く。広間の紋様が黒く反転し、魔力が噴き上がった。


「封印、起動」

 足元に輪が走り、重い圧が空間を蓋する。


「今だ!」

 梁の弓兵が弦を鳴らし、尖兵が影から飛び出す――が、青髪に変装したリンカの矢が先んじて武器だけを撃ち落とした。

「上は抑えたわ!」

 ルミナスが片手を振る。

「凍れ――《アイス・プリズン》」

 床を這う霜が騎士の足を縫い止め、突撃の角度を崩す。

「大丈夫です、ここは私が――《聖障壁》!」

 セレスの光壁が背後の通路を覆い、逃げ惑う召使いたちを守った。


 僕は前へ。

「来い、マハル」

「望むところだ、クズが」


 雷を纏った剣閃が一直線に走る。速い――けれど見える。

 刃を手の甲で弾き、体勢が開いた肘へ柄打ち。マハルが短く呻く。


「まだだっ!」

 炎へ切り替えた水平二連。踏み込みが深い――床の紋様が割れて火花を噛む。

 僕は最小の角度でかわし、【重ね斬り】の起点だけを刻む。畳みかけはしない。冷静さを取り戻せ。


「剣の腕は上がった。けれど、怒りに任せる癖は直っていない」


「減らず口が……!」

 マハルが跳ねる。雷炎の混交。刃が擦れ、火花と稲光が混ざった。


 玉座の上で、父が鼻で笑った。

「下らぬ情けを見せるな、マハル。――儀式を進めろ」

 床下の核が脈動し、血のような魔力が柱を走る。空気が重く粘ついた。


『セージ君、核の座標固定。正面から破壊は危険。儀式が進むとゴルドールの身体に供給が回る』

「了解」

 ゴルドールの腕がぶるりと膨れ、指先が黒角のように硬化する。

「教団の恩寵というやつだ。力こそ正義――貴様に教えてやる」


 尖兵の群れが一度崩れ、また編成を立て直す。

 ルミナスの声が重なる。

「左は抑えた。でも核から瘴気が出てる。長期戦は不利」

「時間を稼ぐ。《聖浄》で瘴気を薄めます!」


 セレスが手を掲げ、光の霧が広間に満ちていく。


 父が立ち上がった。床石が沈み、玉座が祭壇に姿を変える。


「“地味”なスキルごときで、父に刃向かうか」

「地味だと切り捨てたのはあなただ、ゴルドール・タブリンス」

 僕は剣先を下げ、かすかに笑ってみせた。

「その判断が――最悪の間違いだったって、今から証明する」


 マハルが吠え、雷を再点火。父の腕からは黒い脈動。

 前衛二枚が、同時に殺到してくる。

 僕は一歩、深く潜った。


 ――ここから畳む。



 雷鳴と黒き瘴気が交錯する。

 弟と父――血を分けた二人が同時に迫る、その圧力に肺が焼けるようだった。だが僕は退かない。


「はああッ!」

 マハルの雷撃が縦横に走り、床石を砕く。

 僕は【ためる】で一瞬魔力を凝縮し、【重ね斬り】で刃を受け流した。火花が飛び散り、二撃目を半身で外す。


「なぜだッ、なぜ貴様ばかりが……!」

「僕は“捨てられた”からだよ。生きるために足掻くしかなかった!」

 剣戟がぶつかり合い、互いの息が白く散った。


 その背後で――。

「フハハハ……!」

 ゴルドールの体がさらに膨張し、黒い血管のような紋様が皮膚を這った。腕が獣のように肥大化し、爪が床を抉る。

「これが教団の“異形化儀式”。力だ……! 力こそ正義だ!」


「父上、まだ儀式は……!」

 マハルの言葉を遮るように、ゴルドールが巨腕を振り下ろす。

 轟音と共に大理石の床が砕け、衝撃が広間を揺さぶった。


「くっ……!」

 セレスの結界が瞬時に展開され、崩れた瓦礫が人々に降りかかるのを防ぐ。

「持ちこたえてください……!」


 ルミナスが詠唱を紡ぐ。

「凍りつけ――《アブソリュート・コキュートス》!」

 広間の半分が凍り、尖兵たちが氷漬けになる。だがゴルドールの体は凍らず、黒い瘴気を纏いながら歩み出てきた。


「セージ君、儀式の核が……まだ稼働してる!」

 リンカの【分析】が光り、床下を射抜く。

「このままだと、ゴルドールに供給され続ける!」


「じゃあ――止めるしかない」

 僕は深く息を吸い、胸の奥に集中する。

 その瞬間、神の声が響いた。


――――――――

『魔素ストック限界到達。新技【神滅光輪陣】を習得可能』

――――――――


 脳裏に走る機械的な声。

 握った剣が灼熱のように震え、仲間との絆が光の波となって押し寄せる。


「……これが、答えか」

 僕は唇を噛み、魔素ストックを一気に注ぎ込んだ。


 剣を中心に、無数の光輪が空間に浮かび上がる。

 斬撃の軌跡が円環となり、広間を取り囲むように展開していく。


「マハル……父さん……」

 床に構えを落とし、胸の奥で叫ぶ。

「これで――決着をつける!」


 雷を纏った弟と、異形へ堕ちた父。

 二人の影が重なり合い、闇と稲光が迫ってきた。


 僕は剣を振りかざす。

「【神滅光輪陣】――!」


 幾重もの光輪が唸りを上げ、無数の斬撃が敵を拘束する。

 輪が収束し、中心に二人を縛り上げた瞬間――浄化の閃光が爆ぜた。


 闇と雷鳴が掻き消え、広間は白一色に塗り潰された。
















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